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【智也たち】瀬戸 刃

「さてお嬢さん、星崎綾音さんでしたかね? 私の提案は受け入れて頂けそうですか?」

 いつもの様に瀬戸は、柔和な笑顔を浮かべていた。


「そんな一方的な要望、受け入れられるわけないでしょ」

 タマオや智也など主要メンバーが不在の中、足の震えを必死に抑えながら、彩音が皆の先頭に立っていた。


「出来ることなら話し合いで解決したかったのですが、仕方ありません。では、連行します」

「あなた一人で来たの? 一人でこれだけの人数を連れて行くつもり?」

 竹やぶに集まった人々の中には、腕に自信のある屈強な男たちも何人かいた。


「うちは少人数なので、人使いが荒くて困ります。でも、私一人ではありませんよ。後ろからパク・チョンスというスナイパーがあなたを狙っています。ほら、額に赤い光が灯っているのがわかりますか? どんなに逃げても数ミリも狂わず眉間を打ち抜きますよ」


 後ろにいたスタッフのうち、特に体の大きな男が歩み寄ってきた。

「よお、大人しく帰ったらどうだ?」

「そういう訳にはいきません。任務ですので」

 瀬戸はにこやかなまま全く表情を変えず、手は後ろで組んだままだった。


「そうか、仕方ない。なら力ずくで帰ってもらうぜ!」

 男が殴りかかろうと拳を振り上げると、ほぼ同時に銃弾が命中し、人差し指から小指までの第2関節から下の指が無くなっていて、手のひらには穴が開いていた。


「ぐああ!」

「無駄な事はよしましょう。出来るだけ犠牲は少なくしろとの命令ですし。パク・チョンス、大事な人質にあまり怪我をさせてはいけませんよ」


 指がなくなった手を、膝をついて呆然と見ていた男が、錯乱して瀬戸に襲いかかってきた。

「てめえ、ぶっ殺してやる!」


 それからの瀬戸がどう動いたのかが見えたのはパク・チョンスだけで、一瞬のうちにその男の首が地面に転がった。体はまだ離れる前の脳が出した指令に従い、瀬戸に襲いかかろうとしていたが、1、2歩進んだところでズシンッと倒れこんだ。


「やれやれ。パク・チョンスに注意したばかりなのに、反射的に斬ってしまった。皆さん、なるべく殺生は避けたいと思っていますが、今のように襲ってこられたら反射的に動いてしまいますので、出来るだけ私の言う事には従って下さい」

 重苦しい空気が漂い、皆は呆然と立ち尽くしていた。


「では、行きましょうか。私についてきてください」

 瀬戸の言う通りに、皆が後について歩き出した。綾音も肩を抱き抱えられながら、涙をこらえて後に続いた。しばらく進んだところで瀬戸の足が止まった。


 綾音が顔を上げると、前から3人の男がこちらに向かって歩いてきているのが見えた。


「ミゲルさん! 修一! 龍次!」


 綾音は堪えていた涙が一気に溢れ出てきた。

「……見ない顔だな。そいつらをどこに連れて行く?」

 立ち止まり腕組みをするミゲルに対し、表情は相変わらず微笑みながらも、瀬戸は少しだけ足を開いて、腰を落とした。


「あなた方も彼らの仲間ですか? では、大人しく私についてきてください」

「なんスか、あなたは! なんでみんな従ってるんスか?」

「綾音! おめえ、大丈夫か?」

 出発前に比べると1回り大きく、鍛え抜かれた体になった修二と龍次が、1歩前に出た。


「さっき、須藤さんがそいつに殺されたの」

「なんだと!?」

 修一と龍次が声を揃えた。


「待て、お前たちの敵う相手じゃない。俺に任せろ」

 ミゲルは二人の肩に手を置いた。


「あなたも、並の人ではなさそうですね」

 瀬戸は更に少し足を開いて、腰を据えて右手を軽く柄に添えた。ミゲルは腕を組んで立ったまま微動だにしなかった。


 少しの間が流れた後、口から少し息を吸った瀬戸の姿が消えた。ミゲルは腕組みを解き、とっさに左へ身をかわしたが、わき腹にほんの少し血が滲んだ。


「チッ!」


 刀を鞘に納めて振り返り、また少し腰を落として、瀬戸は微笑んだ。

「あなたも相当なスピードがあるようですね。何をやっていらしたのですか?」

「ルチャ・リブレだ。お前は、日本の抜刀術だな」

「いかにも。よく避けられましたね。では、もう少し本気を出してみます」

「いや、いい。こちらから仕掛ける」

 ミゲルは一瞬で間合いを詰め、フライングクロスチョップを見舞った。


「ぐっ!」

 瀬戸は屈みこんで何とか交わしたが、ミゲルの両足が首に絡み、そのまま体を捻って首四の字固めの体制になった。しかし、瀬戸もすぐさま体を捻りそれをほどいた。瀬戸がまた踏み込み刀を抜こうとした時、ミゲルは既にフライングネックブリーカーを仕掛けてきており、首にあたる瞬間、バック転をして受け流した。瀬戸は少し距離を取り、ミゲルは軽くステップを踏んでいた。


「ルチャ・リブレというと日本のプロレスのような格闘技ですよね? それでそのスピード、信じられません」

「俺以外にも何人かいるぜ」

「そうだ! 俺たち二人がな!」

 修一と龍次の声がまた揃った。


「……武瑠とゲイリー、そしてジルだ。お前たちはまだまだだ」

 二人とも肩を落とした。


「面白いですね。ちょっと興奮してきました。それじゃあ、次はかわせるかな?」


 いつの間にか、瀬戸の背後に一人の男が立っていた。

「どうした? パク・チョンス。邪魔する気か?」

「撤退命令がでました」

「なんだって? これから面白くなろうって時に! 本当か?」

 先ほどの柔和な笑顔が一変し、鬼のような形相で瀬戸はチョンスを睨みつけた。


「はい」

「チッ、わかったよ」

 瀬戸の表情が、また笑顔に戻った。


「皆さん、命拾いしましたね。でもまた近いうちにお会いすると思います。ミゲルさん、でしたかね? それまで勝負はお預けしておきます」


 次の瞬間、二人の姿は消えていた。追いかけようとした修一と龍次をミゲルが制止した。


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