【智也たち】藤堂トオル
「ここが智也さんのご自宅ですか。すごく広いですね」
「そうかなあ。ほら、あそこに茶室が見えるだろ? あそこに住んでいるよ」
智也とタマオ、それとあまりに落ち込む姿を見かねて、騒がない事を条件に悟を加えた3人で会うことになった。茶室独特の背の低い引き戸を開けて中に入ると、狭い部屋の中で山積みの書物に囲まれた藤堂トオルが、一心不乱に原稿を描いていた。藤堂は彼らが戸を閉めたのを確認し、ゆっくりペンを置いて一瞬眉をひそめた後、満面の笑みを浮かべて顔を上げた。
「やあ智也君、久しぶりだね」
ボサボサの髪も、無精ひげも含めて顔を覆う全てが白髪で、柔和な笑顔からは、とても若者向けの漫画を描いているようには見えなかった。
「うわ、本当だ! 藤堂トオルはおじいさんだったんだ!」
「こら悟、失礼だろ! トオルさん、ごめんなさい」
「いや大丈夫だよ。いい年をして漫画を描いている事は世間に公表しづらいから、年齢不詳にしているのさ。ところで智也くん、お父さんの件は本当に残念だったね。あまりに急だったから、僕でさえかなりのショックを受けたのに、君は大丈夫なのかい? 僕はそれが心配だよ」
「……色々とあったけど、でも、いなくなるとやっぱり寂しいね」
「無理もないよ。だけど、これからは君が家族を守っていく立場になる。それにはあまりに若く、過酷だとは思うけれど、今となっては君が頑張るしかない。僕に出来る事なら何でも言ってくれ。君のお父さんには余りあるご恩があるからね」
「お話し中のところ失礼します。藤堂さん、始めまして。僕はタマオと言います。ところで、今後はどうなされるおつもりですか?」
「ご家族も今は大変な時期だから、藤沢家のために出来る事は何でも協力するつもりだ。だけど藤沢さんが無くなられた今、いつまでもご好意に甘えるわけにはいかない。だから、落ち着いたら出ていこうと思っている。漫画も、近いうちに描き終えるつもりだ。もちろん離れていても、ずっと藤沢家のために力を尽くすつもりだけどね」
「そうか、やっぱり出て行くんだね」
「それより、ミゼラブル・ヒューマニティはもうすぐ終わっちゃうの!?」
「お、君は僕の漫画を読んでくれているのかい?」
「もちろん! 大ファンです! あの、サインください!」
藤堂はにっこりと微笑みながら悟のTシャツにサインをした後、智也の両手を握りしめた。
「智也くん、落ち着いたら近いうちに君に連絡をするから、君たちの仲間と必ず訪ねて来てほしい。今は詳しく言えないけれど、きっと君たちの活動に協力できることがあると思うんだ」
「あなたは、私たちがどのような活動をしているのか、ご存知なのですか?」
タマオは無意識のうちに半歩ほど後ずさりをしていた。温和な表情を浮かべている藤堂が眉を、皆が部屋に入ってきた時に垣間見せたのと同じ様に、少しひそめたからだ。
「詳しくはわからないけど、審判の日に召集されたはずの智也くんがここにいる。それだけで、何かしらの事情がある事くらいはわかるよ」
「良かったら、どのようにご協力頂けるのか、お聞かせ願えませんか?」
「話したいのは山々だけど、今、この場では話せない。何故かは、是非汲み取って欲しいね」
「わかりました、それではご連絡をお待ちしています」
三人はそのまま部屋を去り、アジトへ向かって歩いていた。
「智也さん、失礼ですけど、彼は信用できる人なのですか?」
「うーん、気がついたら家にいたからなぁ。しかもあの人はほとんど部屋にこもっていたから、何をしているのかもよく知らなかったんだ。最近だよ、漫画家だってわかったのは」
「でもさあ、人の良さそうな爺さんだったよ。サインもくれたし」
「いずれにしろ、彼は私たちの知らない重要な何かを知っている事は間違いなさそうですし、今後も接触しないわけには行かないですね」




