審判の日
会場に到着すると、既に大勢の人で賑わっていた。
「えーっと、15歳のブロックはここだな。60歳はーと……」
ゲイリーは辺りを見渡し、近くにいた少し小太りの警備員を見つけると、背後に回っていきなりスリーパーホールドで絞めあげた。
「おい! 60歳の場所はどこだ!?」
「こ、今回、60歳の参加者はお客様を含め二名だけです。最後尾となりますので、あの45歳のブロックの先でお待ち頂けますか」
警備員は朦朧とする意識の中、必死に伝えた。
「そうか、この州で60歳は二人だけか。ま、しゃあねえな」
最後にキュッと絞め上げ、ゲイリーがスリーパーホールドを解くと、警備員はその場で膝から崩れ落ち、意味がわからず少しだけ涙が出た。
「じゃあな、ケンジ。俺は行くけど、お前、逃げんじゃねえぞ」
そう言い残すと、ゲイリーは自分の場所に向かって歩いていった。30歳のブロックではゲイリーを知る人がおらず素通りできたが、45歳のブロックに差し掛かると、大半が圧倒的な強さで活躍した現役時代を目の当たりにした世代だったので、皆その姿に驚き、沸き立った。
「うわ、ゲイリー・ユングだ!」
「アメリカに帰ったんじゃなかったのか? なぜ日本にいるんだ?」
「すげぇな、ガタイは昔と変わらないぜ」
「ゲイリー! ゲイリー!」
いつしかゲイリーコールまで巻き起こり、会場は大いに盛り上がった。
「邪魔だ、どけ!」
ゲイリーは少し照れくさそうに、寄ってくる人々を次々となぎ倒しながら45歳のブロックの最後尾まで歩いて行き、その横にドカッと胡坐をかいた。隣を見ると、自分よりもかなり老けて見える細身の老人がゴザの上で正座をし、持参したほうじ茶をすすっていた。
一方、15歳のゾーンに置いていかれたケンジは帰ろうかと思ったが、この人だかりを押しのけてまでは面倒だからと、仕方なくその場に佇んでいた。
「よおケンジ」
後ろから声をかけられ、振り返ると同級生の智也が笑顔でこちらを見ていた。他人には見えない心の壁を常に隔てているケンジに対し、気兼ねなく話しかけてくれる、数少ない存在だ。その大らかな性格からいつも智也の周りには大勢の友達が集まっており、ケンジはなぜ智也が自分に良く話しかけてくるのか理解できず、いつも不思議に思っていた。
「お前の爺さん、すごい人気だな。昔は有名なプロレスラーだったんだって? 何で今まで言わなかったんだよ。すごいじゃん」
「関係ねえよ」
「でも、やっぱり15歳は少ないな。45歳はあんなにいるのに」
いつも通りケンジの言葉数は少ないが、智也は全く気にしていない。
「そうだ智也、お前の親はまだいるのか?」
「ああ。二人ともな。親父は来年で45歳、お袋は再来年だ。お前の親は二人とも30歳の時に行ったんだったよな、確か。うちの親が羨ましがっていたぜ。まあ45歳になればほとんど行けるみたいだし、今回は大丈夫だろうって言っていたけど」
ケンジと話している間にも、智也はたくさんの友達から声をかけられていた。
「……良いことなんかあるかよ」
その小さな声は、他の友達と楽しそうに話す智也には届かなかった。
「まぁ15歳で選ばれるのは奇跡みたいなものらしいし、素直に喜んだらいいんじゃねぇの? じゃあな、ケンジ。また後で」
いつしか智也は大勢の友達に囲まれ、楽しそうに会話をしていた。