【智也たち】S.I.SとS.O.T
「それで、どうだった?」
「やはり確実でした。脱走者の一人が接触した事は想定外でしたが、彼の息子のようですね。しかし、彼らの中に、うちのパク・チョンスに劣らない腕前のスナイパーがいるとは……」
瀬戸の報告をアーロンはいつもの様に無表情で肘をつき、黒革の椅子に座って聞いていた。
「チョンス、お前はどう思う?」
「……俺と同じか、それ以上か」
「ええーっ!? チョンスより? そんな人、いるの?」
「こらユンファ、隊長の前だぞ」
「でも瀬戸っち、チョンスが……」
「もういい。俺は直重に報告するから、お前たちは席を外せ」
「隊長、失礼ですがS.I.Sは我々の上位組織です。その長官を下の名前で呼ぶのは、部下の手前、そろそろご遠慮頂いたほうがよろしいのでは?」
「ユンファの瀬戸っちよりマシだと思うが? それにヤツは同期だし、ずっとそう呼んでいる。今さら他の呼び方ではやりづらい」
「わかりました。では、失礼します」
「それより瀬戸、もう少し動きやすい服装にしたらどうだ?」
藍色の着物に袴という時代物の格好をした幼顔の瀬戸は、穏やかな笑顔を浮かべた。
「これは私なりの正装です。それに、見た目よりも意外と動きやいんですよ」
「わかった、わかった。席を外してくれ」
「もー、瀬戸っちも隊長も頑固なんだから」
「こら、ユンファ。口を慎め」
小声で話しながら3人が退室すると、モニターにS.I.S長官の沢村直重が映し出された。
「よお、アーロン。どうした?」
「藤沢真三暗殺の件、ほぼ間違いなさそうだ」
「そうか、やはりな。マスコミ対策や情報操作、および人物の特定はこちらでやっておく」
「で、あいつらはどうするんだ?」
「竹やぶの連中か? 当面は泳がすよ。その方が我々にとっても都合が良いだろう。但し、そのメンバーの中にいる藤沢智也と三島ケンジが気になる。まあ、まだ若すぎるが」
「じゃあ、今のうちに始末しようか?」
「もう少し情報が必要だ。当面は我々に任せてもらおう」
「わかった。では、篠宮武瑠の方はどうだ?」
「ああ、彼らと接触したようだが、行動は共にしていない。立場的にも無理だろう」
「しかし藤沢真三事件の時には現場に居合せ、脱走者である彼の息子を助け出したじゃないか。これは立派な協力者じゃないのか」
「例えそうだとしても、首相のご子息だ。我々が迂闊には手を出せんよ」
「ふん、相変わらずの堅物だな。だから未だに女の一人も出来ないんだぞ」
「なっ!? こら! それはいま関係ないだろ! 政治的な事もある、簡単にはいかんよ!」
「冗談だよ。俺たちは首相直属の機関だし、十分理解していますよ、沢村長官殿」
「ちょっと待て……」
モニターの電源を切り、アーロンは仲間の待つミーティングルームに向かった。
――「僕が送れるのはここまでだ。智也くん、今日起こった事はとても悲しいが、それでも前を向くしかない。僕に出来ることがあれば何でも言ってくれ」
「有難う、武瑠さん」
智也は車のドアを閉めて、トボトボと歩き出した。先ほど目の前で起こった光景を理解しようとしていたが、頭の中には昔の父や母との楽しかった思い出が連なるように浮かびあがり、そこに血を流して倒れる父の映像がフラッシュバックして、混乱していた。
――「あ! 智也!? お帰りなさい、無事だったんだね。良かった……」
綾音の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「お帰りなさい、智也さん。お父さんの事件はニュースでも大きく取り上げられていたので、皆で心配していました。綾音さんが飛び出そうとしたので、止めるのが大変でしたけれど」
「すまない、みんな。俺は大丈夫だよ。ただちょっと疲れたから、少し休ませてくれ」
力のない笑みを浮かべた智也の目は虚ろで、足を引きずるように歩き始めるとすぐによろけ、悟と綾音に支えられながらベッドに横たわると、すぐに深い眠りについた。
「誰があんなひでえ事をしやがったんだっ!?」
珍しく悟が怒りをあらわにしていた。
「若干の懸念は残りますが、手口を見る限り、おそらくS.O.Tの仕業でしょうね」
智也の様子を心配で見に来たタマオが答えた。
「おそらくって、どういうこと?」
綾音は智也のことを心配そうに見守りながら、力ない声を振り絞った。
「技術的な面を見る限り疑う余地はないのですが、問題は動機です。智也くんのお父さんがどんな秘密を持っていて、何を伝えたかったのか。今となっては、知る由もないですが」
綾音はそっと智也に毛布をかけた。その姿を悟は心配そうに見つめていたが、タマオに促され、部屋を後にした。




