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貧弱のユニット使い  作者: 幻舟斎
はじまりの海
2/3

蛮族現る

 乱暴に床に投げ出された衝撃で、意識が戻ってきた。


「っう、ここは」

「お前の寝床だよ」


 声の方に視線をやると、俺を見下ろすニックが居た。どうやら気絶した俺をここまで運んできてくれたらしかった。乱暴であったのは否めないが。

 落ち着いてくると、殴られた場所がジンジンと痛みを訴えてくる。今頃ウンドのやつも俺のグルグルパンチの痛みに呻いていれば嬉しい、と頬が緩んだ。


「なぁ、イエロー。さっきの奥義ってなんだよ。いつの間にそんなの身につけたんだ」

「あぁ……そんなこと言ったか?」

「ちっ、忘れたってのか? たしかこうだろ? ヤクザキックッヤクザキック!」


 とぼけてみたが、それに腹が立った様子のニックは俺にヤクザキックを浴びせかけてくる。やめろ、お前はどこを見てたんだ。足の甲で蹴るんじゃねぇ!

 嵐が過ぎるのを、体を丸くして耐えているといい加減飽きたのか、俺に唾を吐きかけて部屋を出て行った。


 ニックが出て行った後、そこには、汚いぼろ布の様な物が落ちていた、なんだこれはと思ったが、拾い上げてみると先程まで俺が着ていた服だった。そう、今俺は全裸だ。


「いつつ」


 体を起こして怪我の具合を確認する。幸い軽い打撲ですんでいる様だ。

 視界の端のメニューが点滅していることに気がつき意識を向けると、レベルが上がった事を知らせていた。


「何々……。レベルが上がったことによって、新しい能力が解放されたみたいだな」


 解放された新しい能力は、食材ページに【水】と書かれたペットボトルのアイコンが一つと戦闘ページにユニットページが追加され、中には筋肉ムキムキのハゲ、所謂蛮族が笑顔でポージングしている上半身のアイコンがあった。きめぇ!


「なんなんだこれは、こっちを見るな。まぁ、自分で飲み水の確保が出来る様になったのは普通に有り難いよ」


 さっそくとばかりに、【水】と書かれたアイコンをタップすると、手の平の中に500mlサイズのペットボトルが現れた。飲んでみたがうまい。前世では当たり前だった飲み水だが、こちらの世界では貴重だ。特に海の上では正に命の水、大切にせねばならない。


 喉が渇いていたので一本をあっという間に飲み干し、空になったボトルは倉庫ページに放り込んだ。いつか何かを入れる事が出来るだろうからとっておく。


「さて、ここまでは順調だが、問題はここからだ」


 俺の視線の先には、蛮族のアイコン。能力によれば、このアイコンをタップする、もしくは意識することによって一度に最高三人までの、蛮族を召喚することが出来るらしい。うん、きめぇ。


 悩んだ挙句に、一人だけ召喚してみることにする。

 俺の意識に反応して、目の前に光の粒子が集まり、蛮族がポージングした状態で現れた。そして、俺は絶句する。


「なんでお前、股間の葉っぱ以外何も身につけてないんだ!」


 股間の葉っぱは特に紐などで固定されているわけではないが、蛮族が別のポージングをしても剥がれて落ちる様なことは無かった。ちなみに葉っぱは青々としている。


「ん?」

「……お前歳は?」

「ん?」


 やめろ、小首をかしげるな。自分が欠片も可愛くないのをもっと自覚しろ。

 しかし、やっぱりダメだったか。頭の中に流れ込んできた能力の説明によると、生まれたて蛮族はレベル1だ。知能はかなり低い。こいつが今ちゃんと理解できることは三つだけ。突撃と撤退と待機だ。寂しい時の話し相手にはなってもらえそうもない。これからコツコツと時間をかけて知識を教えていくしかないか。


 今は、特に用がないのでその場で待機させてみたのだが、数秒毎にポージングを変えるために動くので暑苦しい。ポージングをやめろと命令してみたが、小首をかしげるばかりで理解してもらえなかったので、エナジーに返す。


 エナジーとは、この蛮族を召喚するのに必要なエネルギーの様なもので、これがないと蛮族を召喚することが出来ない。逆にエナジーがある内は既定の人数までなら何回でも召喚することが可能だ。


 エナジーに返された蛮族は、光の粒子になって目の前から消えていった。

 ちなみに、敵に倒されてしまった場合はエナジーは散って消えてしまうが。俺の指示で送還することが出来れば、いくらかはエナジーに還元できるようで、まるまる損をするということはない様だ。


「ふぅ、暑苦しい奴だったな。でも非力な俺の武器でもあるし、これから世話になるよ」


 誰もいない空間に、それとなく話しかけ、体を横にし服だったものを腹に掛けて眠る事にする。明日からはまた海の上での作業が待っている。


 部屋の外でかすかに、蹴りの練習をするニックの気配がしたような気がした。




 目覚めはさわやかとは言い難かった、怒鳴り声や罵声が船内から響いていたからだ。聞き耳を立ててみるとどうやら、敵対する海賊による攻撃を受けているらしい。


 今までも何度かあったが、その度に俺は隠れて乗り切ってきた。だがそれも今日からは違う! 俺の非力さは変わってないが、俺には能力がある! この力で打って出る!


 光の粒子が三人分の人型を作っていく。ここで俺は大きな失敗をしてしまったことに気づいた。こんな狭い室内で蛮族を三人も召喚したらどうなるか。


「やめろ! 近づくな! 狭い! そして汗臭い!」


 呼び出したばかりで汗臭いってどうなってんだ! この怒り誰にぶつければいい!

 結局、蛮族達は小首をかしげるばかりで何も解決しなかったので、さっさと突撃させることにした。

 蛮族達は、内開きのドアを外開きにして部屋から飛び出していった。


「最悪だ。今晩からドア無しの生活か……。まぁそれも生き残れたらの心配だな」


 ある意味、贅沢な心配をしつつ、蛮族達が出て行った後を、そろりそろりと追いかけて行く。ここで敵対する海賊に出会ってしまったらと考えると一人ぐらい傍に残しておけば良かったと思ったが。あまりにも汗臭かったから全員突撃させてしまったのだ。


 甲板の争う声がより激しくなって来た。俺の葉っぱ一枚蛮族達がいきなり現れた為に、敵味方双方に多大な混乱を引き起こしているらしい。


「いいぞやれやれ! この船に俺に優しくしてくれる奴なんて一人もいやしねぇんだ。どいつもこいつもやっちまぇ!」


 甲板へと繋がる階段の下から見上げるようにして、様子を窺いつつ指示を飛ばす。その結果、突如現れた葉っぱの第三勢力が俺の指示通り、無差別攻撃を仕掛け始めたらしくあちこちで悲鳴が上がり出した。

 こうなれば俺が出て行っていいことなんか一つもない事に気がついて、寝床になっている食糧庫に戻り、奥の方にある木箱の中に身を隠した。


「ひと眠りするか」


 起きたらすべてが終わってる事を祈りながら、意識を沈めた。




 あれからどれぐらいの時間が経ったのか、なんだか汗臭くなって目が覚めると、俺が眠っていた木箱を守る様に返り血に濡れる蛮族の三人が居た。誰一人として欠けることは無かった様で、三人共かなりの実力を持っているらしい。


 そろりと甲板を覗くと、敵味方が倒れ伏していた。

 さて、ここから俺の新たな人生を始めるとしようか。手始めに足元でお昼寝タイムを決め込んでいる奴らに立場と言うものをわからせて、誰がお前らのボスかはっきりさせとこう。


 それから俺は三人の蛮族達に「これはねロープって言うんだ、こうして身体に巻き付けて身動き出来なくさせるんだよ」と優しく教え、手当たり次第に捕縛させていった。


 初めての捕縛だったので、ロープゆるゆるで結び目ガッチガチとか、そもそも結べてない巻き付けただけなど多々あったが、根気よく教えていく事で何とか蛮族に捕縛をマスターさせた。息子よ、お父さんは疲れたよ。


 結果的に俺達は、既に手遅れだった人達を除き、元味方元敵併せて43人を捕縛した。

 さて、そろそろ始めますよ。


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