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魔女の果実

作者: 籐仙日々人
掲載日:2014/12/17

僕の名前は、クリフォード・サイアネイト。

魔女の果実だ。

つまりは、魔女に作られたものということ。

僕の魔女サマは、世にも稀なるゴーレムとして僕を創造した。

ゴーレムについては、悪名高きクラウム博士の魔神兵器、幻想戯士の月世界旅行やトゥルムモニカの永続劇団、レスナ国の木人兵団にムグラーの獅子鋼鉄。一般的に有名なものとしては、乗り合い馬車を牽引するグラムートだろう、これなどは改良され続けてオリジナルのまま使用されている事のほうが少ないぐらいだ。

そういった魔法使いや魔女の残した作品は枚挙に暇がない。

それら傑作ゴーレムに並ぶゴーレム。

生命ゴーレム。

それがクリフォード・サイアネイト。

十六歳で死んだ僕だ。


そのとき、たまたま王城への使いにでていて、銃壁のある外側をひょいひょいと跳んで露天商の後ろを抜けていくところだった。

城の外郭と内郭の連絡係がよく使う道だ。

煉瓦が三つ並んだ幅しかないけどね。

そして、運悪く夫婦喧嘩の絶えない露天商の裏に差し掛かったとき、クッションの大きなヤツに直撃されて、までは憶えている。

菖蒲のつづく沼に落ちた筈だ。

そして、気付いたときにはゴーレムでした。

目覚めたとき、『自分は助かったんだ』と思いましたよ。『危なかったなぁ』『死んでたらどうすんだよ、まったく』なんて考えてたので、そこが、何処かまで気が回りませんでした。

でも、何か変でした。

怪我をしているのなら、ここは魔女院か、王家城下医院の筈。

魔女院なら、子供たちの騒がしい声や、魔女見習いの怒鳴り声がするはずで、『それ』はない。ということは畏れ多くも王家城下医院。『げげ、いったい幾らかかるのか』とか思ってしまった。

人間、命の心配の後は金の心配なのだなと、十六にして悟りました。

しかし、それも僅かのこと。

魔女サマが入ってらっしゃいました。

カーテンを潜るように、小指の長い繊手で持ち上げながら...

もう、言葉がなかったです。

それほどの美貌。

もう十六になって、いっぱしの大人気分で、下町小町とか、夜窓の佳人なんかも、見ていたし知ってもいたので、女の貌に見惚れるなんて考えられなかった。

それが、形無し。

いや、誰に知られるってわけでもないのだけどね。恥ずかしくて身悶えした。

「ふむ、エーテルが騒めくと思ったら、目覚めたか」

「はい、で、あの、......」

『幾らですか』と訊ねようとして、自分の手首に嵌っている金属の輪に気が付いた。

「うむ、ちゃんと動くようだな」

「はい?」

間抜けな声だったと思う。

「お前は、私のゴーレムとなった」

「は、ゴ、ゴーレム!?」

「そうだ、多分、世界で唯独りの『生命ゴーレム』だ」

魔女サマは長い髪を、解きながら妖艶に嗤った。少なくとも、当時の僕としては、そう映った。


ゴーレムを示すプレートには、魂の換わりである魔力薇がある。

ここにいる僕は、脳に記憶された幻影で、実は魂が失われているらしい。だから、クリフォード・サイアネイトと刻まれた魔力薇がなくなると死んでしまうらしい。

だいたい、魂が魔力薇で代用できるなんて、どうなっているんでしょう。

どうもウチの魔女サマ、とんでもないらしい。

世界に三人しかいない『時代の魔女』らしいです。

その魔女サマの『ゴーレム』としての役目は記憶をすること。

膨大な魔術式、複雑な魔法体系、星辰図、貴族大観、世界地図などなどを網羅し、ウチの魔女サマをサポートするのです。あれから、随分と学んだものです。学校では、どちらかと云えば要領よく立ちまわって、必要最小限のことしか憶えなかった、この僕が!!

でも、仕方ありません。

この方に、今いる僕は、すべてを握られているのですから。


ウチの魔女サマは、グルトネイヤの『星の魔女』。

偉大なるグルトネイヤの星辰に生まれた、地上に顕現せし御使い。

爛熟せし『魔女の時代』の最期に現れた星の子。

叡智と船守のグルトネイヤ。その証である漆黒の髪、藍黒の瞳、長い小指、生まれて直ぐに『グルトネイヤの魔女』であると知れ渡り、参拝が一年に渡って続いたとか。

これらは、舌足らずの使い魔、ララセルのお話。

ララセルは牡の三毛猫だ。

話しが出来る以外に、影を縫って移動が出来る優れものであり、魔女院や魔女街の連絡係を務めている。

使い魔とゴーレムの違いは何か?たぶん、魔術が使えるか否かによる。

つまり、ゴーレムは使えない。

影縫いの魔術は、ウチの魔女サマが掛けている仕掛けによって、魔術代行をさせている。しかし、ゴーレムの僕に、魔術代行の仕掛けは出来ないのだ。

頭の中には、膨大な魔術が渦巻いていて、見ただけで魔法の行方すら解るというのに......


まあ、だいたい、『星の魔女』と、しがない官僚の息子である『クリフォード・サイアネイト』には縁もゆかりもない筈だった・・・

それが死んでから繋がるなんて。

なんで僕だったのか、何度も尋ねたのだけれども、軽く含むように笑うと、いつも、ひらひらと手を振られるのです。

あまりウチの魔女サマは説明をなさいません。する必要がないらしいのですが、質問をしにきた者からすれば明快な答えを求めているのですよね。

・・・が、そんなことには頓着しないのがウチの魔女サマなのです。

しかし、そんな魔女サマの活計は『占い』なのですから、世の中が分らなくなります。

今日のお客様は、今、風雲の商人グルベスタ・ルディーア様。

風雲といいますのは、全財産を一点に集中して商うからです。まだお若く、魔女サマと同じぐらいかとお見受けします。

きっと、また魔女サマを質問攻めでしょうね。

なにしろ、次の商材を見極めるのが、目的なのですから。


魔女サマは一日に二人までの占いをなさいます。

占いというモノは、幸運で悩む人には殆ど必要ないものです。格言に『岐路に気付く者に助言は容易く』というのがあります。ですからどうしても、占いというのは大きく力をつかいますから数はこなせません。エーテルを操る魔力だけではありませんよ、気力、体力を消耗するのです。

おっと、これはウチの魔女サマに教わったのではなく、占って貰いに来た魔女院の魔女見習いに教わったのですけどね。


ここに、ルディーア様が最初に来た時は、もちろん偶然でした。

ここは、魔女院でも魔女街でもありません。

誰でもが辿り着けるような場所ではないのです。駆け出しの旅の商人が、狼から命からがら逃げていると、迷い込むような場所なのです。

ここは、貴族でさえ知らない者のほうが多いと囁かれる、帳の下りぬ帝国の秘密の書棚にある最後のページ。そこに辿り着いたのだから、強運なのでしょう。

ん、では僕も強運なのでしょうか?

まあ、それは運命というヤツなのかもしれません。

ここは狼や熊はもちろん、蛇なども油断できない深い森の庵。街に住むものには決死の覚悟でくる必要がある魔女の森。

鹿だって舐めてはいけません、牡の角は勿論、牝鹿でも仔を背負えば引かないことがあるのですから。

あやふやな気持ちは野生には見抜かれてしまうのです。

人のように自然界と距離を置くと、その野生の掟を軽んじてしまう。

つまり、命が最優先であるということ。

それを忘れてはいけません。

しかし、このルディーア様は別です。

どういう伝手なのか、この森の庵まで、何度もいらっしゃいます。

帝国の家臣団だって、そんなに頻繁にはやって来ません。勿論、それは最近の電話ってヤツのおかげかもしれませんが、......



今日も快晴。

占いも昼からの一人だけ。

退屈だけど、緊張しないですむのは、いいことだし。

『クリフ、飛入りのお客様がお見えになるわ』

頭の中にフワリと囁きが浮かび上がりました。

『え、』

『用意なさい』

これは、大変です。

今日の予定が狂いました。悪いことでなければよいのですが。




正午を前に、四人の一行がお見えになりました。

お迎えした空気が、恐ろしく緊迫しています。小さな庵の一室には四人もの人は座ることは出来ませんので、家来らしき三人は立ったままです。

豪奢なゴーレムの馬車、家紋は隠されていますが伯爵位はある装備と見受けました。

ゴーレム馬が、実に馬らしく振舞うので、なんだか本気で正体を隠す気があるのかないのか。

こういう時は、偉い方が座るもので初老の押しの強い感じの方。白髪交じりの髪を後ろに撫で付けており、眼光鋭い相貌は人を怯ませます。家老というところでしょうか。

家来とみられる、若年、壮年の騎士殿二人も切れ者のようです。

しかし、なぜか一人だけ普通の人が混じっていますが、不思議ですね。

その方も、居心地が悪そうです。

「魔女殿は、よく、この星読みを受けて下さった」

僕に話しかけているのでしょうか。

ゴーレムなんですけど。

どうやら、そういうのには頓着なさらないみたいですね。

「電話が繋がっていたのは幸いであった。順番を何故か急いておいたは正解といえるわ」

やはり、僕に話しかけている様です。

この世界はやがて、魔法ではなく『物理』というものの世界になり、電信、電話、蒸気機関はその先駆けだそうです。

「私はゴーレムですので、無視していただいて構いませんよ」

「っ、・・・ほう、お前があの『生命ゴーレム』か」

「そうです」

「人と変わらんな」

「もともと、人から造られましたので」

「死人使いとは何が違う?」

「さあ、魔女サマは、私には何も教えてはくれないのですよ。理解が出来るとも思えませんが」

僕のぞんざいな口利きにも、何も気にした様子がありません。偉い人に特有の鷹揚さです。

「ふむ、そうか」

丁度、魔女サマがお見えになりました。

漆黒の短く切り揃えられた髪に白く小さな相貌、紅い紅い耳飾り、藍黒の瞳を飾る長い睫毛、溜息が出るような美しさです。

凍てついた空気が緩んで熱を孕んだものに。

それほどに、美しい方なのです。

ウチの魔女サマは、魔女のなかでも特別な魔女。


根本的な問い。

魔女とは何か?

魔法とは何か?

それは、エーテルに端を発した技術を扱うもの。

男は主に、魔の法体系を解き明かし、真理の淵まで知ろうとした。知識の体系を大きく見て技術を使うのが良い例で街の設計、建設を施して繁栄を操る。

魔法使いは思考。

それが、今の時代の前『魔法使いの時代』。

今、爛熟する『魔女の時代』は感情で使う魔法。

魔女術は人の心が動かすエーテルの揺れを利用し世界を変えていく。人が言う世界とは『人の世』、世界を示す中でも狭い小さな世界。

魔女術は感情。

同じエーテルを扱いながら、その扱い方はまるで違う。

魔法はお伽噺ではなく技術なのです。

優れたる魔女は、非才なる魔法使いより人に近く、それゆえ人を遠ざけねばならない。


「さて、何を訊きたい」

独り掛けのソファに優雅に座ると、魔女サマが初老の男性に尋ねました。

「わが主の後継者問題についてだ、勿論。それは電話でも確認していただいたと思ったが」

「だからこそ、尋ねている。『何を訊きたい』」

藍黒の瞳が静かに見つめています。

思わず引き込まれてしまった初老の男性は、気まずそうに言いつのりました。

「儂は、次男のクレイティ様が相応しいと考えておる。しかし、ガディウース様の支持する者が多いのも事実、だが、あまりにも粗野が過ぎる」

彼は一息吐くと続けました。

「長兄であるし、武芸も優れたるは、よくわかるのだが、金銭感覚というものがまるでない」

そりゃ、そうです、貴族だって霞を喰って生きているわけではないですからね。

なんだか、更に、いろいろ細かい事をグダグダと言っています。

おっと、これは失礼を。

「もう、いいわ」

魔女サマが手をひらりと振りました。

「私は、帝国の行く末に関与する。よりよき未来のため」

振った手のひらから人差し指で、四人の男達を撫でていきました。

「一貴族の行く末に関心はない」

ひたと、藍黒の瞳をすえて、男達を射ます。

魔女の庵に於いては、地位や名誉は役に立ちません。武芸もあまり役に立たないようです。独りは武芸の素養が高いせいか、柄に手が伸びています。緊張感がそれを強いるのでしょう。

「今、帝国の星が荒れることはない」

魔女サマは決然としています。

しかし、そこは譲れないのでしょう、家老の男性も頑張ります。

「それでも、イスターシェ家が乱れるのを帝国は良しとしない筈」

「帝国法務局は無能ではない」

「しかし、」

「長兄も無能ではないだろう、何が不満だ、足りないのであれば家臣が補えばよい」

魔女サマは、五人を見据えました。

普通は、そんなことは出来ないのですけれどね。

「帝国はそうやって、続いてきた」

そして続けます。

「繁栄もしよう、衰退もしよう、永劫などない。人は死ぬ、移ろう、惑う、迷う、すべての人にあり得る権利だ」

「...ガディウース様の勘気を知らぬ様子、それでは、済まぬのです」

「お前たちは、私に望むべき言葉を口にするのが怖いのだろう」

魔女サマは、人差し指をクルリと描き、星を呼びました。

そう、星としか呼べない光。

星の魔女術。

記憶された記録に記されています。

確か、安全を祈願する術の筈です。

「イスターシェ家の名誉は、出来る限り守ってやろう」

そういって、魔女サマは一番冴えない男に星を与えました。

彼も吃驚しています。

「あ、えっ、その」

タダでさえ、居心地の悪い中で、さらに魔女に術まで掛けてもらったのです。

まあ、魔女術はタダではありませんからね。

「お前の『馬の星』に光を与えた。迷い道でも容易く抜ける事ができる」

「魔女殿、」

「電話では、私の事を信じられないであろうから、ここまで御出で願った」

「それでは、我らは道化ではないか」

若い騎士様が、柄に手をかけました。

先ほどの騎士様は、逆に柄から手を放します。

「魔女といえど、斬るのを躊躇わんぞ」

「ふん、勇ましいな」

「......」

騎士殿が抜こうとした刹那、エーテルの密度が揺れて凍りました。

エーテルは万物に備わる『何か』です。

誰も正確なことは解りません。

ただ、魔法や魔女術は、それを意のままに出来るのです。

「家臣の教育が足りぬな」

魔女サマ、ばっさりです。

お伽噺であれば、きっと『なぜだか剣が抜けなくなり』右往左往って感じですかね。現実はもう少し厳しい事が起こりました。エーテルは魔法の媒体で、万物はエーテルを宿しています。ですから、魔女サマはエーテルを法に則り、感情に依って世界を凍らせたのです。

「嘆かわしい」

その若い騎士だけが凍ったまま、世界は解けました。

顔というのはエーテルの渦巻くもので、必死に自身の自由を取り戻そうとしてらっしゃいますが、びくともしません。

「も、申し訳ありません、なにとぞ、この件は」

「伝えはせぬよ、まだ僅かも刃が出ているわけでもなし」

エーテルに干渉するには、心と物。

魔女術は心によって魔法を術化する。

もう少し、詳しくいうのならば、エーテルを操るには法を知らなければなりません。法を知れば術化が出来ます。術は感情によって組み立てられます。

きっと、彼は腕自慢で忠臣なのでしょう。

いまは、彫像のように動けずにいます。

きっと、全身が氷のように感じているはずです。

僕も、同じことをやられたので。

そのへんのことは、よぉーく解るのですよ。

なにしろ、僕はそのために造られたのですから......

「さて、すべては終わった、帰るがよいわ。 金貨一枚だ」

「・・・」

占いの代金は、依頼の内容と魔女サマの気分でかわりますが、今回は上限一杯ですね。

誰も動かない中、家老の代わりに『馬の星』の男が巾着から、一枚の帝国金貨を出しました。

「あの、ウォルフォン様の術を解いては頂けませんか」

「ふふ、お前は、思ったより豪胆な男だな」

「馬の男は、臆病極まりないものです」

魔女サマは楽しそう笑われました。

「うむ、星の光は効いてるようだな、うまくすれば、生きて帰れるであろう」

「魔女殿、それは」

「ここを、何処だと思っている? 帝国の最期のページだぞ」

「っ、・・・」

家老は何かに思い当たったように、ハッとし、ガックリと肩を落としました。

「そやつに任せて、帰ればなんとかなるかもしれん」

「何もかも・・・


結局、最後に家老の方が何を言いたかったのかは判りませんでしたが、一応、魔女の庵は静寂を取り戻しました。

まあ、それでいいでしょう。

ゴーレムが悩むことではありません。


さて、今日はまだ、グルベスタ・ルディーア様がいらっしゃいます。

お土産のお菓子が楽しみなんですよね。

深い森と都会を繋ぐ細い細い線です、これ切れたら、ここを逃げ出すかも。

一応、これでも首都グリベリウスで生まれた都会っ子なんで、辛気臭い森の中なんて耐えられません。

に、逃げられないのは理解しているんですけど、時々、こう、なんていうか衝動に駆られるんです。

カッカッとノッカーが鳴りました。

噂をすれば、現れたようです。

「はい、少々お待ちを」

ここは魔女の庵ですから、招かざる者は入れません。

その点、すごく安全なので、不用心に扉を開けます。

「よお、クリフ、久しぶりだな」

「ルディーア様も、お元気そうで、なにより」

なんだか、不信そうな顔で顰めています。

「今日、なんか、あったか?」

「あ、判りますか」

ルディーア様は、魔女のように勘が鋭いのです。いや、普通に魔法使いと云えばよいのか。

すこし、思案顔をなされたあと

「で、今日は占って貰えるのか?」

「多分、中でお待ちくださいませ」


魔女サマを呼びに、奥の部屋へノック。

「ルディーア様がおいでになりました」

「わかった」

魔女サマの部屋の前は非常に馨しいです。

そりゃ、僕も男ですから、死んでるとはいえ本能はあるわけですよ。

忍んでいきたいのは、やまやまですけど、そういう風に近づくと動けなくなるのです。なまじ、生命を疑似的にとはいえ模しているのですから、正直、拷問です。

その日は、夕暮れまで、なんやかんやと、帝都の様子やら、流行のファッション、スキャンダルを話し合っておられました。


で、ルディーア様、お泊りになります。

この庵に、客間なんかあったっけ!?

いつもなら、こんな時間でも、平然とお帰りになったのですけど、今日は、魔女サマがお引止めなさいました。昼間のイスターシェ家の一件のせいでしょうか。迷い道の魔法を強くしてあるのかもしれません。魔女サマは、意外と気使いも出来ます。あんなに、適当な占いしかしないのに、何故なんでしょう。


「で、クリフが料理を作るのか?」

「まさか、無茶を云わないでください。二年経ちますけど、この庵の何処に厨房があるのやら」

「ん、何っ、引っ掛かるのは色々だが、魔女の手料理をずっと喰っていたのか、お前は」

その時、初めてそれに思い当たりました。

「い、いえ、・・・え、そうなんですか、えっ」

「なんだ、その様子では、魔女とはまだなんだな」

ルディーア様がニヤリと嗤います。

「魔女の創った『生命ゴーレム』だというから、てっきり女性だと思えば、男だったから、魔女も女だったんだと思ったんだが」

「いえ、魔女サマの部屋の前に行くと、そういう気を持つたびに凹みますよ」

「ふん、お前も男だもんな」

「ええ、拷問です」

実際、ひどい拷問なんですよ。ある程度は馴れましたけれど。


その日、夕食はいつにもまして、豪勢でした。

あまり、深くは考えなかったんですけど、魔女サマに食事など作っている時間なんてないはず。

本の部屋も、個人のものとしては、充実しすぎですし、いったいどうなっているのか。

「魔女、こんな豪勢なもの、どうやって作ったんだ」

「ふん、なに、魔法だ」

「たしかに、魔女が魔法を使うか、・・・間違いではないが、 はぐらかしにも程があるぞ」

「そこのゴーレムに聞けばよかろう」

「あのう、僕も知らないんですけど」

魔女サマ、驚いた顔をなさいました。

そんな顔をされても、知らないものは知らないんですけど。

その日は、庵について、色々と教えてもらいました。

今更ですが。



僕の名前はクリフォード・サイアネイト。

魔女の果実だ。

魔女の名前は、エルマナイト・グルトネイヤ・エグヌィカン。


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― 新着の感想 ―
[良い点] こういうの大好きです。 色々と散りばめられた“香り”が素晴らしい。 連作短編でも連載でも構わないので、是非ともシリーズ化を御検討ください。 [一言] ゴーレムなのに記憶(記録係?)とか不…
2014/12/17 22:14 退会済み
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