9 坂の上のロリババア 2
「その、『なんでも願いを叶えてくれる女子』とやらの話なら、わしも聞いたことがあるぞ。」
用意された朝食をいただきながら、例の『銀の少女』の件と、伯爵から聞いた『謎の少女』の事を一通り説明し終わると、カグヤヒコの神はそう答えた。
「にゃ! 本当か、カグヤヒコ様!?」
「それは、いつ、誰から聞かれましたか?」
カグヤヒコの予想外の返答に驚いた私とロッコは、口の中に入っていた米粒を飛ばしてしまった。
「ちょ汚っ!! おぬし等、そう急くでない!! 今から思い出すから、今しばし待ってくれんかのぉ? ・・・まったく若いもんはせっかちでいかん。」
「あ、すみません・・・。」
いや、アンタは若いどころか身体的にはまだ成長しきってないだろう、と心の中で突っ込んでしまった。
この神様、見た目は伯爵の城のシンと同世代くらいだが、実年齢はなんと2千歳くらいで、このアマテリアの国々の中でも最も高齢の神々の部類らしい。
カグヤヒコは、頭の後ろのほうをポリポリと掻きながら、「うーーーーん」と唸っていた。
そして、しばらくの後。
「そうそう、確か、『アイツ』から話を聞いたんじゃ。確かこの神社の宿場町の茶屋の倅で・・・、わしが趣味で運営している『学校』の卒業生じゃったな。」
「・・・がっこー?」
ロッコが首を傾げた。
「人間の子供が勉強を教えてもらうところだよ。読み書きとか、計算とか・・・。」
ふぅん、とロッコがうなずくと、カグヤヒコは話を続けた。
「・・・その倅は学校を卒業した後、リュウトの街で仕事に就いたらしいんじゃが、10日くらい前にふらっと帰ってきてのぉ。女をはべらせ、羽振りのよさそうな格好で、わしのところに来たんじゃ。」
「神の前で失礼な奴だ。私だったら、その女ごと食い殺してたぞ。」
ロッコの鋭い八重歯がキラリと光った。本当に殺しはしないだろうが、ロッコも同じ神として、人間に対して妥協できないぎりぎりのラインみたいなものがあるのだろうか。
「・・・そいつの話によると、リュウトの浜を夜中に歩いていたら、見知らぬ少女に話しかけられたそうじゃ。『願いごとはなぁに?何でも叶えてあげる』とな・・・。」
「!」
ロッコの両ミミが、ピクリと動いた。
「伯爵から聞いた話と同じだ・・・。」