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才能とスキル

 この世界には、才能と呼ばれる力が存在する。


 本来、才能というものは自由に取れるものではない。

 誰かから与えられるものでもない。

 どちらかというと、努力した結果に付きまとってくるものだろう。


 才能を持っている者を羨む者が多いが、才能を得るには努力が必要である。

 本人にとっては努力ではなかったかもしれないが、それでも何かしらの頑張りの結果が才能という形で現れる。


 例えば、手先が異常に器用な者がいたとする。

 実はピアノを引く事をその者は出来た。

 ピアノを引けるようになるためには、練習が必要だ。

 手先が器用になったのは、ピアノを引く際に指を動かし続けていたからに他ならない。

 その努力を評価せずに……ピアノを引けるという事を知らずに、手先が器用である事を才能の一言で片付けるのは愚の骨頂だろう。


 もちろん、才能を得るためには恵まれた環境が関係している事も否めない。

 だが、才能というのは後付けで手に入れる事が出来るもの。

 毎日だらけているばかりのぐーたらな大人が、他人の才能を羨んでも誰も納得するわけがない。


 ……が。

 どうもこの世界では、それは一部において適用されないらしかった。


 それは、最初に俺が手に入れた才能:隠密Lv1からよく分かった。


「おにーちゃん、じゅるい! マリンちゃんじゃないとじぇったいにみちゅけられない!」


「そうだ、ずるい! かくれんぼーであびりてつかうのはるーるーいはん!」


「別にアビリティ使った訳じゃないんだが……」


 ある日のこと。

 いつものように子供達とともに隠れん坊で遊んでいると、なかなか見つからない俺に業を煮やした子供達がそんな批難の声を浴びせかけてきた。


 最初に子供達と出会った時に俺が所持していた才能:隠密の事はばれている。

 その才能と一緒に覚えた能力(アビリティ)〈気配隠し〉をこっそり使って隠れているのだと子供達は主張していた。


 ちなみに、隠れん坊の遊びを教えたのは俺である。

 まさか知らないとは思わなかったが……。


「御前ら、自分より上の方を全然探してないだろう?」


「うえ?」


「ほら、あそことか、あそことか」


 隠れん坊の範囲は、教会の周囲に限定されている。

 教会以外には周りには大きな岩のないため、必然的に隠れる場所も探す場所も教会に限られる。

 ただ、それが却って思わぬ穴を子供達に与えていた。


 つまり、屋根の上にいると何故か見つからない。

 子供達は自分の視線よりも上に注意をあまり向けない事が多い。

 加えて、教会から離れた所には隠れる場所はない。

 ハッキリ言って、屋根の上は死角もいいところだった。


「やっぱりるーるいはん! やねのうえはあぶないからきんしって、ゆきねぇがいってた!」


「いや、それ知らないし……」


 余談だが、マリンちゃんが俺の事を見つけられるのは、たぶんずるしているからなのだろう。

 俺がずるしているから、自分もずるをするという理屈。

 とはいえ、いつも一番最後に俺を見つけているので俺以外にはたぶん使っていない。

 才能およびアビリティの詳細はまだ不明。

 マリンちゃん曰く、きみちゅじこー、だそうです。


「とにかく! つぎやったら、おにーちゃんははりつけごくもんのけいだからね!」


「はいはい」


「はりちゅけー♪」


「ごくもーん♪」


「へんしつしゃー」


 いったいどこからそんな物騒な言葉を仕入れてくるのやら。

 分かってて使っているか微妙な所だ。


 話を戻す。


 この才能:隠密Lv1だが、知っての通り努力の結果得たものではない。

 まぁ一応は努力の結果ともいえないことはないのだが、気配を消すための努力を何かしたのかと聞かれれば否と答えるしかないだろう。

 ただ単に、神様クエストなるものを達成しただけである。

 その報酬が、才能:隠密Lv1だった。


 この辺の所を子供達に聞いてみた所、クエストを達成して才能を得るというのは初耳らしかった。

 逆を言えば、あの謎のクエスト自体は否定していない。

 時折に謎のクエストが発生するというのは、共通する認識らしかった。


 但し。

 『クエスト』の前に『神様』なる言葉がつくという事は、どうやらまずないようだった。


 よくあるのは、前に何もついていないただの『クエスト』。

 次に多いのが、急を要する場合に発生する『緊急クエスト』。

 『特別クエスト』や『種族限定クエスト』というのもあるらしい。

 そして一様にして、そのどれもが達成した際の報酬に才能が与えられるという事はないらしかった。


 では何が貰えるのかと聞けば、色々と言う。

 例えば、使い道のない《徳》。

 使った時点で疲労などを回復してくれる《ポイント》。

 才能に付随する形で覚える事のある戦技(アーツ、)能力(アビリティ)技術(テクニック)――総称してスキルと呼ばれる力の効果をあげる《スキル経験値》。

 達成した時点でほんのちょっとだけ体力や魔力などのステータスがあがる場合もあるらしい。


 何となく推察すると、《徳》というのはたぶんただの評価だろう。

 神様の評価といった所か。

 評価が高ければ、それだけ神様が目をかけてくれるとか、何か良いことがあるとかそんな感じか。


 《ポイント》は、使いどころに悩むサービスだ。

 ここぞという場合に使えば結構な効果が期待出来る。

 頻繁に使うものではないが、だからといって温存ばかりしていて腐らせるのも勿体ない。

 自由に使える分、その人の性格に大きく左右される。

 まぁ、大抵の人は使わないでとっておく事を選ぶらしいが。

 一種の保険だろう。


 《スキル経験値》を語る前に、才能を説明する必要がある。

 才能にはLvという数値も存在した。

 例えば俺が最初に手に入れた才能:隠密Lv1。

 このLvがいったいどういう風に関わっているかというと、どうもこのLvによって覚えられるスキルが決まっているらしかった。


 隠密Lv1を取得した瞬間、俺は〈気配隠し〉というアビリティが使えるようになった。

 完全に気配を消せるようなものではないが、このアビリティを使えば子供達の背後に立っても気が付かれない。

 ユキさんの背後に立っても気付かれない。

 ユキさんにちょっとした悪戯をしても、すぐ近くに子供達がいれば罪をなすりつける事が出来る。

 もちろん、エッチな事はしてないのであしからず。

 そんな事をしなくても、ユキさんかなり無防備だし……。

 却ってこっちが気を使うぐらいだった。


 脱線した。

 とにかく、才能を持つ事で戦技(アーツ、)能力(アビリティ)技術(テクニック)といったスキルを覚えられるようになる。

 〈気配隠し〉のように自動的に覚えるものもあれば、努力して覚えられるものもある。

 俺の場合、以前にいた世界でたまに気配を消す努力をこっそりしていたので、たぶんそれが反映されたのだろう。

 気配もしくは気を消すというのはアニメでお馴染みだったからな。

 前で誰か知り合いが階段をあがっていたら、足音を消して後ろにくっついてみたり。

 相手を驚かすために、3X歳になってもたまにそんな事をして遊んでた。

 俺は意外とお茶目なのだ。


 また脱線した。

 才能は、ただLvという数値だけで表現された大雑把な現在の可能性。

 Lvがただ高くても凄いスキルを覚える訳ではないが、覚える可能性はあるという事。

 例えば、メテオという隕石魔法を覚えるには、才能:隕石魔法Lv5以上が必要であり、Lv4ではいくら努力してもメテオは覚えられない。

 努力し続ければ才能Lvが5にあがってメテオを覚えられるかもしれないが、Lv4の間は覚えられない。

 そういう事である。


 逆にスキルは、経験値のみで強さが表現されていた。

 熟練度と言い換えても良いのかも知れないが、使い続ける事で経験値がたまっていく。

 そして恐らく、経験値が高ければ高いほどスキル効果も高くなっていく。

 つまりクエストを達成して得られる《スキル経験値》というのは、字を読んで如し。

 単純にそのスキルの効果をあげるものと考えて良い。


 ちなみに、俺の〈気配隠し〉の経験値はまだ3である。

 ただ使っただけでは経験値は溜まらないらしい。

 使用した時間なのか、それとも目を欺いた相手の数なのか。

 とりあえずまだ検証中である。


 最後に、クエストをクリアした時点で貰える各種ステータスアップだが。

 予想通り、かなりレアだった。

 そりゃ頻繁にもらえたなら、超人がポンポンとうまれるからな。

 子供達の中でもまだその報酬を貰えた子はいないらしかった。


 クエストの話はここまで。

 では、才能はいったいどうやれば手に入るのか。

 ここは俺が以前いた世界と同じである。


 努力しろ。

 努力すれば才能が身につき、更に努力すればLvがあがる。

 スキルの方も努力すれば覚える事が出来る。

 但し勿論、才能がなければスキルは覚える事が出来ない。

 なかには複数の才能が必要なものもあるのだとか。


 ただこの世界で違うのは、それが本人には分かるということだろう。

 マリンちゃんが〈気配隠し〉を使った俺を見つける事が出来る才能もしくはスキルも、マリンちゃん本人がそれを知っているからである。

 但しその才能もしくはスキルは、親から受け継いでいるらしかった。

 見た目には分からないが、マリンちゃんの種族はツァイラーグとのこと。

 星読み一族の血を引いているらしい。

 聞いてもよく分からないが。


 ちなみに、子供達の中には獣人の子も何人か混じっていた。

 しかも動物化する事も出来る。

 時々、鶏もどきのポッポの事を涎を垂れ流しながら見ている猫や狐を見かける事がある。

 絶対に食べちゃだめだからな!?


「それじゃ、次はにーちゃんが鬼な!」


 閑話休題。

 子供達との共同生活は順調だ。

 今日はその子供達に捕まってしまったが、明日こそはギルドに行こう。


 では、心を鬼にして子供達を片っ端から捕まえてしまおうか。

 目標は5分。


「もーいーかい?」


「まーだなのよー」


「あたちはもういーのでちゅ」


「おれおっけー!」


 声がした方角から、始まる前から何人か見当がついちゃった。

 流石、お子ちゃま達……気付かないのかなぁ?

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