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滅亡世界の果てで  作者: 漆之黒褐
第3章
41/52

不運に続く不運

 新しく始まる俺の一日に、憂鬱の影が差す。

 素材を集めに森へと狩りに出かけた先で待っていたのは、マインエルダーゴブリンと呼ばれる亜人達の暗黒の瞳だった。


 種族特有の能力(アビリティ)で〈暗視〉でも持っているのか、光の無い洞窟の中で敵意の籠もった幾十もの瞳が俺を見上げている。

 時折にギラッと煌めく光は、鉱物資源を掘る事を生き甲斐としている彼等の仕事道具か、それとも手に入れた鉱物を加工した武器の類か。

 少なくとも対応を間違えば凶器として使われる事は間違いないだろう。


 人間にこの暗闇は見難い事この上無い。

 彼等が彼等の言葉で何かを俺に語りかけている様だったが、とても落ち着いて話していられる状況ではない。

 それでなくとも手足を縛られ吊されているのだから尚更話難い。


 アクアはどうなったんだろうか。

 背後から近寄ってきた何者かに鈍器で殴られた時、アクアは俺に身を寄せていた。

 俺が前倒れになったとすれば、アクアは俺に押し潰されて身動きが取れなくなっただろう。


 抵抗してはいないだろうか。

 ゴブリンは人との間にも子供を作る事が出来る種族だと聞いているので、手荒な真似はされていないだろうか。

 捕まったのが性欲の権化であるオークで無かった事は救いではあるが、例え相手が人であったとしても女性が捕まれば先にある未来は悲惨なものとなる可能性が高い。


 彼等は普通のゴブリンではなく、より人に近いエルダーゴブリン。

 寿命の短い普通のゴブリンよりも長命の種族。

 ゴブリンよりも知能が高く、他種族とも交流を行う亜人達。

 しかも鉱物資源を掘る事が好きなマインエルダーゴブリンなので、彼等にその気が無くても周囲が放っておかないだろう。


 故に、言葉さえ通じれば彼等とは話し合える筈だ。

 そう信じ、俺は待ち続ける。

 それしか俺には出来る事が無いため。


「ヒトのコよ……」


 無数の敵意に曝される中、兎に角待ち続けていると、ようやく俺にも理解出来る人の言葉が耳に入ってきた。

 随分としゃがれた声だが、聞き取れない事はない。

 声の質からして、この種族の長老だろうか。


「ヒトのコよ。コタえよ。オマエがハンニンか」


「……何の事だ?」


「ナンのコトだと? しらばっくれるな。ワシのマゴをサラってイったのは、オマエだろう?」


「俺は人攫いをした事は無い。濡れ衣だ」


 どうやら彼等が敵意剥き出しに俺を見ているのは、何者かによって大切な仲間が攫われた事によるものらしかった。


「もうイチド、キく。オマエがハンニンか?」


「違う。俺は犯人ではない」


「ならばナゼ、モリにヒソんでワカいムスメをミていた。またサラってドレイとしてウるタメではナいのか?」


 なるほど、そういう理屈か。

 たまたま俺とアクアが発見したゴブリンが若い娘だった。

 人攫いの事件があり、周囲を警戒していた所に怪しい人物がその女性を影からコッソリ見ていれば、そりゃ手荒な真似をしてでも捕まえようとするか。


「たまたまだ。森で狩りをしていたら偶然見つけた。これといって話し掛ける理由も無いので、やり過ごそうとしただけだ」


「ウソをツけ。こんなモリのオクフカくでカりをするリユウがナい」


「俺達は湖から流れ出る川の少し先に少し前から住んでいる。それでは理由にならないか?」


「そうか、ワレラのナカマをサラうタメに、スみハジめたのか」


「だから違うと言っている。この森に住み始めたのはたまたまだ。御前達の仲間を誘拐して金に換える為じゃない」


「シンじられない」


「信じてくれ」


「シンじられない。ヒトのコは、すぐにウソをツく」


「どうしたら信じてくれる?」


「ヒトのコのコトバは、シンじられない。それがドレイをツれたヒトのコのコトバならば、ナオサラだ」


 どうやらアクアを連れていた事が逆効果となっている様だった。


「俺の連れは……アクアは無事なのか?」


「ウソをツくオマエにコタえるキはナい」


「嘘を吐いた覚えは無いんだがな」


 その日の会話はそれで終わった。


 集まっていたゴブリン達が三々五々散り散りになり、次第に数が減っていく。

 ある程度気配が無くなった所で、俺と会話をしていたと思わしきゴブリンがゴブリン語で何か指示を飛ばす。

 その途端、身体が揺れ、宙吊りにされたまま何処かへと移動させられる。

 吊り下げているだけかと思ったら可動式のレールか何かに固定されているらしく、引っ張られるままにズルズルと俺は別の部屋へと連れて行かれた。


 元々は掘った鉱物を輸送するための手段なのだろう。

 恐らく滑車とクレーンも付いたものもある筈だ。

 案外モノレールなのかもしれない。

 身近に材料があるからか、意外と高い技術を持っている様だ。










 次の日。

 宙吊りにされたまま寝るという貴重な体験を……させられる事はどうやら無くてほっと一安心。


 ――と思いきや。

 蓑虫よろしく縛られた状態で地面に横になって寝ていると、お腹を蹴られて起こされるという貴重な体験をさせられた。

 食事は無い。

 水もくれない。

 捕虜という扱いを思い切り受けていた。


 アクアも同じ待遇を受けているのだろうかと考えていると、また宙吊りにされて何処かへと連れて行かれる。

 何となく死刑執行の予感がしたが、幸いにしてまだ(ヽヽ)そういう訳では無かった。


「ヒトのコよ。コタえよ。オマエがハンニンか」


 昨日と同じ様に多くの敵意に曝されながら、同じしゃがれた声で同じ質問を浴びせかけられる。

 だが昨日とは異なっている点もあった。


 部屋には松明が灯されゴブリン達の顔がうっすらとだが見る事が出来た。

 先の尖った暗黒の瞳に怒りを灯した人に似た緑色の顔が並び、俺の事を見上げている。

 その手にはピッケルやシャベルが握られ、彼等がマインゴブリンに連なる種である事を強く象徴していた。

 エルダーかどうかはゴブリンを見たのが初めてなので俺には判別出来ない。

 若干、鎧を着て棍棒を持っているゴブリンもいた。


 ただそれらよりも決定的に違ったのは、俺の真下にある光景だった。

 大きな五右衛門風呂があった。

 煮る気満々である。

 場合によってはこのまま釜茹での刑に処する気満々である。

 煮た後、俺を食す気満々である。


 五右衛門風呂には色んな野菜がプカプカと浮かんでいた。

 後は肉を入れれば完成だ。

 メニューはサイ・サリスのシチューか何かか。

 グツグツと煮えている風呂は若干とろみがあり、濃厚なスープを思わせる。


「俺は犯人ではない」


「ヒトのコよ。オマエがハンニンか」


 誘導尋問かよ。

 あくまでも俺が犯人だと言わせたいらしい。

 例え無実でも無理矢理言質を取って犯人に仕立て上げる気か。


 攫われた仲間を助け出す事が不可能なら、誰でも良いので犯人に仕立て上げた後で殺す。

 そうする事で恨みを晴らし、終わった事だとして処理してしまう。

 人の言葉を正しく理解出来るゴブリンが少数しかいなければ、事前に示し合わせていけば十分に可能だろう。

 下手に敵意を残したままでは、大多数の関係ない他種族との交流に支障をきたす。

 人の種との交流であれば尚更だ。


 必要悪……彼等は恐らくそれを知っている。

 何とも、とんでもない状況に陥ってしまったものだ。


「もう一度言う。俺は犯人ではない」


 身体がガクッと下がり、少しだけ罪人の気持ちが分かった。

 これ、本当に怖いな。


 ゴブリン達が手に持ったピッケルやシャベルの柄を地面に打ち付け、催促し始める。

 それほど俺が美味そうに見えるのだろうか。

 俺は美味しく調理するのは得意だが、美味しく調理されるのは苦手だ。

 得意な奴などいないと思うが。

 もしそんな奴がいれば、どれだけMなんだと問いたい。


「では、ダレがハンニンだ」


「誰と聞かれてもな……答えようがない」


 一瞬の浮遊感の後、重力が元に戻る。

 また一歩、本日のメインディッシュに近づいた。


 下から立ち上がる湯気がちょっと熱い。

 気分はサウナ、まるで蒸気風呂に入っている様な状況だった。

 全身から溢れ出る汗が雫となってグツグツ煮込まれている五右衛門風呂の中へと落ちていく。

 隠し味の塩がききすぎて塩辛くならなければ良いが。


 ――本当に食べる気なのか?


「エルデをサラったのはダレだ。コタえよ」


 攫われたのはエルデというらしい。

 男だろうか。

 ゴブリンだから名前の最初か最後にゴブという言葉が付くという訳ではないらしい。


「タノむ……エルデをカエしてくれ。ワシのカワイイいエルデを、カエしてくれ。タノむ。おネガいだ」


 問い掛けがお願いに変わる。

 お願いをしているのに、どんどんと高度が下がっていくのは此如何に。


 もはや事実を伝え続けても彼等の耳には入らなそうだった。

 俺が攫った訳では無いというのに。


「この森の東にキロスという街があるのを知っているか?」


 ならば可能性を示して交渉に持ち込むしかない。


「……シっている。だがイったコトはナい。このクニのヒトのコは、ワレラをヒドくキラっている。ワレラはカトウなゴブリンではナいというのに」


 食いついた。

 普通のゴブリンを下等だと言うとは思っていなかったが。


「キロスでは多くの奴隷が集められ売り買いされている。もしかしたらそのエルデという者もキロスに連れて行かれているかもしれない」


「ホントウか!?」


 ゴブリン達が一斉にざわめき始める。

 なんだ、一応ほとんどのゴブリンが俺の言葉を理解出来るのか。


「……だが、ワレラはキロスにはハイれない。ヒトのコにデアえば、ワレラはコロされる」


「俺に御前達を殺す気は無い。敵対する気もない。それは一人で歩いていた若い娘を恐れてやり過ごそうとしていた事から分かると思う」


 嘘は言っていない。

 恐れていたのもやり過ごそうとしていたのも真実だ。


「俺の濡れ衣を晴らす為に、エルデを人攫いの手から救出するのに協力させてくれ。同じ森に住む者として見過ごせない」


 俺の命だけでなくアクアの命を守る為にも、俺は彼等に救出作戦の提案と協力の申し出を行うしかなかった。

 それ以外に俺の道は無い。

 偶然通り掛かった誰かによって助けられるとか、俺を殺す事に異を唱えてくれるようなゴブリンの子供が現れてくれるとか、そんな奇跡が起こるとは思わない。


「おお……エルデをスクいダしてくれるのか。そのコトバにウソイツワりはナいか?」


 よし、いける。


「嘘偽り無い」


「ヒトのコのコトバはシンじられない」


 おい!


「だが、ワレラはもはやオマエにスがるしかナいのだろう。どうかエルデをタスけてくれ。オナじモリにスむドウホウとしておネガいする」


 うまくいったと思った瞬間。

 俺は五右衛門風呂の中へと落ちた。


 どうやら俺を吊していたロープを持っていた者が、誤って手を離してしまったらしい。


「カサねてオマエにおネガいする。どうかエルデをタスけてくれ」


 間一髪、煮え死ぬ前に助け出された俺は、全身火傷にドロドロの液体塗れになった状態で村長らしきゴブリンからまたその言葉を聞く。

 但し、全身を縛られ目隠しに猿轡をされたアクアの姿を見せつけられながら。


「……分かった。その依頼、受けよう」


 ゴブリン達は本当に俺の言葉を信じていないらしかった。











 ゴブリン達に治癒魔法をかけてもらった後、彼等の住処から一人で出る。

 本当に魔法があって良かったと思う。


 アクアも治癒魔法は使えるが、それほど効果は高くない。

 精々がちょっとした掠り傷を癒す程度。

 エルデというゴブリンを助けてゴブリン達から無事に解放されたら、少し修行をしてもらおう。

 思い掛けず治癒魔法の大切さを身を以て知った日だった。


「エドガー!」


 襲い掛かってくる魚類モンスターを片付けながら川沿いに走り下る事、小一時間。

 我が家の姿が目に入ると同時に、馬のエドガーを呼ぶ。


 俺に呼び出されたエドガーは、まるで何だ何だと言わんばかりに窓から顔を出す。

 ちゃんとエドガー専用の厩舎を作ってあるというのに、また家の中で寛いでたか。


「街に行く。来い!」


 嫌だと言わんばかりにエドガーがぷいっと横を向く。

 アクアの言葉なら素直に聞くというのに、主人である俺の言葉をエドガーはあまり聞かない。


 面倒なので隷属化させた。


「アクアがゴブリン達に捕まった。ゴブリン達は仲間を人に攫われたらしい。アクアを救い出すために、その攫われたゴブリンを助け出す」


 道無き道をエドガーに乗って進みながら主旨を説明すると、エドガーのやる気が少しアップしたのか速度があがる。

 乗馬経験は無いため我流で馬に乗っていた俺だが、隷属化した事でエドガーの手綱を握る事が楽になり、ある程度思うように行きたい場所へと進める様になった。

 だがここは森の中。

 エドガーに任せた方がより早く森を抜け出せるだろうと思い、エドガーの好きにさせる。


 そもそもどっちに向かえば良いのかが俺には分からない。

 川沿いに進めばいつかは森の外に出られるだろうが、湖から流れ出ている川は一つではなく、しかも途中で別れている。

 我が家は森を彷徨った事で見つけた場所。

 湖と我が家の位置関係は分かっても、森の中での我が家もしくは湖の位置関係は分からない。


「頼んだぞ、エドガー。行き先はキロスだ」


 野生の勘を頼りに道無き道を進んでいく。

 途中、エドガーの鬣の中に潜んでいた子栗鼠が姿を現し、降ろそうかどうか迷った。

 だがこんな所で降ろされても子栗鼠は困るだけだと思ったので、そのまま連れていく事にする。


 胸ポケットに子栗鼠が入り込む。

 同じ屋根の下で暮らしていたというのにそんな事は一度もなかったので、少しだけ感動した。


 と思ったら、急に上からグレートハイドバロックが大量に降ってきた。

 どうやらいち早く身の危険を感じて俺の胸ポケに逃げたらしい。


「邪魔だ」


 〈アイテム空間〉から凶剣(まがつるぎ)を引き抜き、進路上に躍り出てきたグレートハイドバロックを斬り裂く。

 凶剣はレベッカが持っていた大剣の一本、手に持つと見た目以上の重さが掛かるという呪われた剣。

 但しその呪いは、素手で持たなければ発動しないという欠陥呪だった。


 つまり、グローブを填めていれば凶剣は見た目通りの重さしか無い。

 まぁそれでも十分に重たいわけだが。

 何しろ全長は俺の身長を超えているからな。


 そんな巨大な剣を振るうには、重力を利用するしかない。

 つまり、上の方で〈アイテム空間〉の出口を作って凶剣を取り出し、振り終わった所に〈アイテム空間〉の入口を作って収納する。

 そうする事で、腕を振り上げる時の重さを丸々キャンセル出来る様になる。


 〈アイテム空間〉の中は重力方向が無いので、上下左右も存在しない。

 〈アイテム空間〉の壁は謎空間そのものなので傷付く必要も無い上に弾力性も無い。

 そして何より、〈アイテム空間〉の出入口は〈アイテム空間〉の何処のどの方向にも作り出せる。

 つまり、俺の意思一つでアイテムの収納も取り出しもどうとでもなる。


 ……失敗したら〈アイテム空間〉の中に収納している他のアイテムが出てきたり壊れたりしてしまう訳だが。

 便利なスキルだが、それなりに空間把握能力と頭を使う。

 アイテム一覧ウィンドウがあって自由にアイテムを出し入れ出来るゲーム仕様であって欲しかった。


 今も間違って、殺して収納したばかりのグレートハイドバロックの尻尾が頭上に作った〈アイテム空間〉の入口から出てきてしまい、凶剣の柄だと勘違いしたままグレートハイドバロックの死体を振り降ろして敵を殴るというコントじみた事をしてしまった。

 一緒に幾つかアイテムも出てきてしまい、回収が間に合わずそのまま森の中に置き去りにするという愚を犯してしまう。

 あまり欲はかかない方が良いという事例だった。

 グレートハイドバロックの素材回収は止めよう。


「待ってろ、アクア。すぐに助け出す」


 背中越しに聞こえる凶剣に斬り裂かれたグレートハイドバロック達の悲鳴と苦鳴は、森のざわめきによって掻き消されていった。









 薄汚れた建物、不景気な通行人が行き交い、急ぎ足の俺が歩く。

 キロスの街中に、エドガーの姿は無い。

 街の入口にある馬屋に預けた。


 街に入るのに大銅貨1枚、エドガーを預かってもらうのに一日銀貨3枚。

 時間が掛かれば掛かるほど出費は嵩む。

 その分、アクアの命の保証も刻一刻と無くなっていく。

 当面の目的であるマインエルダーゴブリン族のエルデという人物を捜し出せる可能性も低くなっていく。


 キロスの街に着くまでにエドガーを走らせても丸一日が掛かった。

 エルデが攫われたのは少なく見積もっても5日以上は前だろう。

 このキロスにいるとは限らないが、捜してみない事にはまずもって始まらない。


 まずは情報を求めてギルドの中へと入る。

 夜ならば酒場だが、今はまだ日が高くギルドの方が情報収集しやすい筈だ。

 ギルドに情報が無ければ、情報屋を捜す事になる。

 いきなり真正面から奴隷屋の門を叩いても良いのだが、この街には奴隷屋が多数有り、しかも当然の様に縄張り争いを繰り広げている。

 ある程度絞ってから訪れた方が良いだろう。

 出来れば勢力状況も知りたい所だ。


「……ん?」


 ギルドに入ってすぐ、誰に話を聞こうか迷って周囲を見渡していると壁に貼られていた似顔絵が目に入った。

 その中には見知った顔もあったが、それはいい。


 ……そこで見てはいけないものを見てしまった。

 いや、早い内に見る事が出来て良かったかも知れない。


 すぐに俺はギルドを出る。

 やばい……俺の似顔絵が賞金首一覧の中に混じっていた。

 しかも、デッド・オア・アライブという文字まで書いてあった。

 つまり、生死を問わず、その紙に描かれている者を連れてくれば賞金を払うという意味。


 俺の賞金額は、金貨100枚。

 日本円にして約3000万円。

 他に貼られてあった賞金首達の賞金額はざっと見た限りでは金貨1枚~20枚程度だったので、頭一つどころか三つ分ぐらい飛び抜けていた。


 俺がいったい何をしたというのか。

 ……いや、したな。

 この町で一月以上前に奴隷商人を一人殺している。

 恐らくあの場にいた少女達も何とか逃げ果せたのだろう。


「この仮面をくれ」


「あいよ……へへ、旦那。この仮面は銀貨で5枚になりやすぜ」


 仮面屋を見つけたので買おうとしたら、とても分かりやすくふっかけられた。

 しかも、この仮面屋の主人の顔には何となく見覚えがあった。

 アクアが思い切り値切り通したあの主人だ。


 ここにきてグレードハイドバロック戦でやらかしたポカがじわじわと効いてくる。

 あの時、運悪く〈アイテム空間〉から落としたアイテムの中に仮面が入っていた。


「……これで良いか?」


 口止めも兼ねて倍の大銀貨1枚を支払う。

 俺の顔を知っているという事は、この仮面屋の主人は間違いなく俺が賞金首だという事を知っているだろう。

 口止めした所ですぐに口が開く可能性は非常に高かったが、少しぐらいは時間が稼げると思い、仮面の代金に色を付けておく。


「へへ、まいどあり。何をやらかしたか知らないが、まぁ頑張りな。この街は賞金首にも寛容だからな。金払いが良い限りはこの街に見放される事は無いだろうぜ」


 そう言いながら男はまた手を出してくる。

 今の押しつけがましい情報にも金を払えという事なのだろう。

 追加で銀貨1枚を支払う。


 求めてもいない情報をまた話され金を要求されても困るので、すぐに踵を返して裏通りへと向かおうとする。

 が、どうやら俺の運は既に尽きていたらしい。

 今、最も会いたくなかった女性がそこにはいた。


「……あん? あんた、もしかしてサイかい?」


 賞金首との相性が最悪の存在の一人……賞金稼ぎのレベッカと俺は偶然にも再開した。

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