こういうの、実は好き!
日が経つのは早い。
騒がしい毎日だと、尚更早い。
「おにーちゃん、いつもおうちにいてたのしい?」
「ああ、楽しいよ。何しろ、改善すべき事が多いからな」
「かいぜんって、なぁに?」
「今よりも良くする事だ。例えば……」
話し掛けてきた小さな男の子を抱き上げて部屋を移動する。
ほんと、軽いな。
ただ、その軽さは満足な食事を取る事が出来ていないからに過ぎない。
服を着ているためぱっと見では分からなかったが、全体的にこの教会で暮らしている子供達は痩せていた。
教会に子供達が住んでいる。
それはつまり、彼等彼女達は孤児であるということ。
詮索するまでもなく分かりきった事なので誰にも聞いていないが、恐らく確かだろう。
「あらー、ケントさんに抱っこされて~、とても羨ましいですね~」
移動中に、この教会で最年長の女性と遭遇する。
最年長と言っても、どう考えても20歳は越えていない。
それだけで問題のレベルが上がる。
ちなみに、俺は永遠の若さを手に入れたので、外見的には22歳の頃になっているようだった。
肉体的にも精神的にも全盛期だった頃の容姿。
もっと若くしてくれるのかと思ったが……。
まぁ、この教会にいる孤児達と同じぐらいの年齢にされなかっただけマシというものか。
永遠の若さ……漠然とした願いなので、実は意外と危険だった事に気が付いたのは後の祭りである。
もし5歳とかで固定されたらいったいどうなっていたんだろうな。
「ユキねぇもだっこしてもらうー?」
「はい~。その機会があれば、是非~」
彼女の名は、ユキ・ホワイトスノウ。
水色のセミロングヘアーに細めの穏やかな瞳が乗った、おっとり系の女性。
この教会で子供達の世話をしている、お姉さん(お母さん?)気質の面倒見の良い少女だった。
年齢は推定で15歳といった所か。
180センチある俺ほど身長がある訳ではないがその俺とは頭一つ分も違わないので、子供達に囲まれるとその背丈が際立つ。
その彼女だったが、たまに危ない発言を行う事がある。
聞く者によっては絶対に勘違いしてしまいそうな発言も多々。
年頃の男女間で抱っこって……お姫様抱っこでもしたら、まんま結婚式の様相になるだろうに。
ちなみに、教会に住んでいるけどシスターではないらしい。
先に子供達がこの教会に住んでいて、彼女も後から俺のようにこの教会へ住み着いたらしかった。
「ケントさん~、お夕飯の支度は終わりました~?」
「まだ少し時間かかる。今日は川釣り組の帰りがちょっと遅かったからな」
「火が必要な場合は言ってくださいねー。わたし、がんばっちゃいますから~」
「はい」
頑張っちゃった結果を知っているので、たぶんそれはないだろうけど。
ユキさんは、名前に反して【火】属性の魔法が得意だった。
得意すぎて、たまに食材をダメにしてしまう事もしばしば。
子供達に十分な御飯が行き渡らない原因の一つが彼女にあったというのは、流石に俺も驚いた。
そして更に困った事に、料理下手だという。
この教会に住んでいる子供達は皆、推定年齢10歳未満。
つまり小さい子ばかりなので、まず料理が出来ない。
ユキさんが来る前はどうしていたのかと聞くと、その頃にはまだ今のユキさんぐらいの年齢で料理の出来る人が何人かいたらしかった。
だが、彼等彼女達は今はもういない。
何故?と聞くと、皆一様にしてその口を閉ざした。
やはり色々と死亡フラグの多い世界らしい。
まぁそんな訳で。
自然と、俺は自らの食生活を守るために炊事係へと就任していた。
「到着」
ユキさんと別れて、目的の部屋へと辿り着く。
そして、左腕に座らせた少年――クリスに、その部屋の端っこで座っている者を見せる。
「あ、ぽっぽ!」
「そう、ポッポだ。前よりも卵を産んでくれるようになっただろう?」
「おいしくもなった!」
「なんでだと思う?」
「うー」
「なんでだろー♪ なんでだろー♪ ななななんで……」
「わかった! おにーちゃんのあいがふえたから!」
「せいか……いや、まぁ俺の愛が増えた事は確かなんだが」
ちなみに、その鳥の性別はメスだった。
鶏……と言いたい所だが、異世界なので全く別の種らしい。
オスでも卵を産むらしいし、長命種だったり休産期がなかったりと異世界クオリティ。
その分、買うとなれば結構な額で取引される。
何故そんな高価な鳥をこの教会で飼っているのだと聞けば、今は亡き神父の忘れ形見という解答が返ってきた。
この事は極秘事項らしいです。
マリンちゃんの目もどうだけど、意外と秘密が多いね。
「俺が来る前と来た後で、この部屋の見た目が変わっている事に気が付かないか?」
「え? ……あ、きたなくない!」
「正解! まぁこまめな掃除だけじゃなくて、生活環境も整えたんだけどな」
「それがかいぜん?」
「そうだ。この鳥さんが暮らしやすくなった事で、卵を良く産むようになった。美味しくもなった。その結果、クリスは前よりも美味しい御飯を多く食べれるようになった」
「え……おにーちゃんがごはんつくってくれるようになったから、りょうもふえて、おいしくなったんじゃないの?」
「いや、まぁそれもあるんだが……」
ちょいとばかり例が悪かったかな?
「とりあえず、この卵を拾うのを手伝ってもらえるか?」
「うん!」
とまぁ、そんなこんなで俺の仕事は順調だ。
最初はどうなる事かと思ったけど、住む場所も出来たし、とりあえず御飯にはありつけたし。
どうにかこうにか暮らしていけそうだった。
まぁ子供達の年齢が低すぎる上に数が多いので、振り回される事も多々ある。
子供達は皆やんちゃなので教会の中は恐ろしい速度で汚れていくし、ユキさん一人ではどうにも手が回らない様子。
それに仕方がない事とはいえ、ほとんど全員が無知にも等しい。
卵を産んでくれるポッポの世話をきちんとすれば、貴重な食糧でもありタンパク源でもある卵の数が増える事にも気が付かなかった。
まぁ俺も知っていた訳じゃないが。
増えてくれると嬉しいな~的なノリで世話したら、結果オーライだっただけの事。
「ただ、こういう改善はそろそろ限界だな。物を作っていく方にシフトしないと、これ以上はきついか」
そうなると、必然的に材料も必要になってくる。
場合によってはお金も必要だろう。
「ギルド、行ってみるか」
出不精な俺は、半月も経っているのに未だに例のギルドには顔を出していなかった。
ちなみに余談だが、未だに『最初に出会った人に、絶対に優しくする』というクエストは達成出来ていない。
こっちに躍起になっていたという理由も付け加えておく。




