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滅亡世界の果てで  作者: 漆之黒褐
第2章
29/52

空間魔法

徐々にお色気シーンをば……。

 今日中にキロスへ着くと言っていたのに、その日は野宿となった。

 道に迷ったらしい。


「ま、そういう事もあるさ」


 一本しかない道から外れ、方角も確認せず相棒のラバ任せに進んでいた事をレベッカは悪びれずに言う。


 夜の荒野に目印の如く聳え立つ木に縛られた俺の前には、踊り狂う焚き火の炎と艶めかしい肢体を惜しげもなく晒した戦士風の女性。

 日に焼けた褐色の肌を持つ美貌の持ち主は、防具を外し一見無防備そうに見えるも、腰に下げた剣だけは外していなかった。

 ラバの身体に括り付けていた大剣2本も、今は俺のすぐ側で大地に突き立てられている。

 どちらがこの賞金稼ぎの本命か。


 羞恥も無く美女が裸体をさらけだし布で身体を拭くレベッカ。


「あんたと殺り合うのにそっちの2本を使っても仕方ないだろう?」


 直視を避けるため良く研かれた大剣の鏡面越しに眺めていると、それに気付いたレベッカが悪戯顔の笑みを浮かべてそう言ってくる。

 先に大剣を研いていたのは、死角を減らすためと俺を間接的に監視するためだったらしい。

 本来の用途とは別の目的で使われた大剣越しにレベッカと目が合い視線をそらす。

 が、もう一本あった大剣越しにレベッカの豊満な胸が鮮明な角度で瞳に入ってくる。

 随分とけしからん胸だった。


「大物用だな」


 小物な俺に大剣は御免被るが、胸の方ならば相手をして欲しい。


 もとい、あの大剣が何の為にあるのか何となく想像付く。

 この世界のモンスターは兎に角巨大。

 それを相手取るには腰に下げられる程度の剣では心許無さ過ぎる。


「徒党を組んでいない私には必要な物さ。その分、身軽だから好き勝手に旅が出来る」


「旅の理由は?」


「そりゃ楽しいからだよ。色んなモンスターと戦える」


 戦士風の容姿をしていた事から予想していたが、レベッカは戦闘狂だった。

 俺に裸を見られても平気な事からして性的な方も経験者だろう。

 死闘を繰り広げた後の夜は身体の火照りを沈める為に何度となく肌を交わしているに違いない。

 モンスター……現れないかな。

 死のピンチが訪れるが、レベッカが勝利した後にはご褒美が待っているかもしれない。


 思春期真っ盛りと成人期中頃が合体した所為か、淡い恋心と性欲が織り混ざり複雑な心模様を作り出していた。

 レベッカの裸体を直視する事が出来ないのに、リアルな妄想は加速度的に進んでいく。


「明日には首をちょん切られるかもしれないからね」


 最後の思い出サービスだった。

 俺が賞金首である事を、レベッカはもはや確信の境地。

 証拠を提示出来ない限りこれ以上の問答は意味を成さないため、反論を呑み込む。

 尚、裸体と言っても、下着も胸のみを覆うインナーも身に着けていた。


 静かに夜が更けていく。


 焚き火に揺れる仄かな灯りが防具を身に着けたレベッカを妖艶に照らしている。

 膝下まであったブーツや肘上まで覆う指貫のアームカバーが無いため、全解放状態の滑らかな四肢と装備に守られた胴とのギャップが非常にグッド。

 ギャップ萌え、いや戦いに疲れた美女戦士の哀愁漂う雰囲気による純情路線か。

 男なら誰でもコロッといってしまいそうになる。

 下手したら腰に下げている剣でコロッと逝かされてしまうが。


「反応無し、か……」


 レベッカが退屈そうな表情で呟く。


「何か待っていたのか?」


「ん? ああ、まだ起きてたんだ。静かだったから、てっきりもう寝たのかと思ったよ」


「やる事は無いが、目の保養は出来るからな」


 裏ではどうにかして拘束が外れないか悪戦苦闘していた。

 美女と二人きり、周りには誰も助けてくれる者はいないとくれば、悪い事は幾らでも思い付く。

 レベッカが眠りに落ちた後が勝負の時。

 とはいえ殺される覚悟で襲い掛かる勇気は微塵も無い。

 が、妄想と可能性を追求するのは意外と楽しかった。

 つまり興奮して眠れない。


「言っておくけど、死体でも換金は出来るからね」


 釘を刺された。


「待ってたのはモンスターだよ」


 末恐ろしい事を言う。

 やはり戦闘好きの狂戦士か。


「普通は火を恐れて寄ってこないんじゃないのか?」


「普通はね。だから、焚き火の中にモンスター寄せの特殊な匂い袋を投げ込んである」


「ちょっと待て。今、耳を疑う様な言葉を聞いた気がする。何を入れたって?」


「匂い袋だよ。寝る前に少し運動がしたいからね。それに町が近いんだ。だから、そろそろ売り物を仕入れたい」


 褐色の女戦士は欠伸をしながら言う。

 確実に巻き添えを食う俺の事などお構い無しに、レベッカは猫が顔を洗う様に眠たい目を擦ってから膝を抱いて揺らめく炎をまた見つめ続ける。


 暫く絶句していると、夜の闇と淡い炎の所為でまだ色の判別が付かない短い髪が揺れ、風が出てきた事を報せる。

 今まで無風だった為、焚き火の炎で上昇気流が発生し匂いが上空へと逃れていた。

 だが、これからは……。

 

「冗談だよな?」


「ふわぁ……流石に眠くなってきたね。今回はハズレだったとして諦めるか」


 その俺の問いは耳には届かず、涙を浮かばせて妖艶さが一割増したレベッカが立ち上がり可愛い桃尻を俺へと向ける。

 足先から股の付け根まで続く柔らかくも引き締まった筋肉を交互に動かし彼女が向かった先には、一足早く夢の世界へと旅立ったラバの姿。

 野宿用のテントや寝袋もしくは雑魚寝用のシートも引いていない事からして、きっとラバに寄り添って寝るつもりなのだろう。


 モンスターに襲われる可能性がある状況で壁の如く巨大なラバに身を寄せるのは退路を狭める危険があると思うのだが。

 肝心の対モンスター戦用の大剣2本からも少し距離がある。

 あのラバが就寝中でもモンスター察知に優れているならば多少は納得出来るが、不用心と言わざるを得なかった。


「んじゃ、サイ。モンスターが襲ってきたら悲鳴よろしくね」


 今日は俺という餌がいるからか!?


「おやすみ」


 そう言ってレベッカはラバのお腹の毛を掴んで持ち上げ、その先にぽっかり空いていた謎空間へと潜っていった。

 おおぉ……あんな所に隠れた寝所が。

 やば、あのラバ急に欲しくなった。


 まあそれはどうでも良い事だとして切り捨てて。

 とりあえず今は一刻も早く俺が置かれている状況を改善したい。

 レベッカに夜這いする為に……ではなく。


「ゴホッ、ゴホッ……」


 風が出てきた事でモンスター襲撃率アップした事もそうだが、焚き火から俺の方へと風向きが向いているため非常に煙たかった。











 カップラーメンが出来るぐらいの間、苦しんだ後。

 ――久しぶりにジャンク食いたい。

 そう言えば、結局今日は何も食ってないな。

 ……ではなく、一先ず風のピンポイント攻撃が反れて落ち着きを取り戻す。


「この拘束から自力で抜け出すのはやはり厳しいか」


 岩の様に硬くて頑丈な背後の木と背中の間に押し付けられている両手を動かしても痛みが発生するばかりで碌に事態は改善してくれない。

 両膝は折り曲げられ胴体と一緒にロープで木に巻き付けられている。

 身体をよじればロープが徐々に膝上へとずれてくれる事も無く、ほぼ丸裸の為に肉へ食い込みやはり痛いだけ。

 閉鎖空間内で男の象徴が元気になった時は少し焦った。


「となれば、頼みの綱はこっちか……」


 瞼を閉じ死角の闇で世界を染め上げる。

 更に瞼を眼球側へと引っ張る様に軽く力を込める。

 そうする事で、視界の外にあって随分と見難い才能やスキル等の情報を表示しているウィンドウが、ほぼ真正面へと移動してくれる。


 この世界の人々は視界外に情報欄があっても生まれた時から慣れ親しんでいる為まるで苦では無いが、外から来た人間である俺には見難い事この上無い。

 故に、各種情報を落ち着いてゆっくり閲覧したい時には、四苦八苦してようやく見つけたこの方法を使う。

 眼球が圧迫され微妙に目が痛くなるのでもう一工夫必要だが、それは追々。


「鍵となる才能は空間操作、および魔力と魔法。それと……」




『神様クエストが発生しています。

 クリアすると、と~っても嬉しいプレゼントがあります』


 ・空間魔法を使えるようになろう!

 ・信仰神に貢ぎ物を献上しよう! 早ければ早いほどグッドです。




 いつの間にか一つ増えているが、そっちも追々考える。

 今は以前発生したクエストにも記載されている空間魔法の取得に的を絞る。


「魔法制御の才能が無い上に、詠唱省略も高速詠唱も出来ない。つまり、以前の様に使用したい魔法の言葉をただ叫んでも発動しない。ネックはやはりここか」


 魔法を使うために必要なもの。

 それは主に以下の三つだというのは分かっていた。


 一つ、魔法を発動させる為の対価である、魔力。

 それは俺自身の中にあるものでも、この世界に満ちているものでもどちらでも良い。

 但し、自分の中にある魔力を扱う事が出来なければ、自分の外にある魔力を使用する事など出来ない。

 自分の外にある魔力を使用する為に、自分の中にある魔力を使う――つまり、魔力操作という魔法を使うからである。

 ちなみに魔力操作の魔法は難しい為、魔方陣等で補助する事が多い。


 一つ、どの様な魔法を発動させたいのかという、強いイメージ力。

 具体的であればあるほど良い。

 逆に漠然としたものほど成功率が下がり、危険を伴う可能性も高くなる。

 火の魔法一つとっても、ただの火を思い浮かべるだけだと下手すれば周囲一帯が火の海と化し自分も巻き込まれる。

 火力、規模、持続時間などなど考える事は多い。

 慣れれば無意識にイメージを構築出来る様になり、詠唱省略や高速詠唱と組み合わさればほぼゼロタイムで魔法を発動出来る様になる。

 単純な魔法ほどイメージしやすく、複雑な魔法ほどイメージが難しくなり魔法の発動に時間が掛かるというのは理に適っていると言えよう。


 一つ、伝える力。

 魔法がどの様なメカニズムで発動するのか……それを深く考えると頭が痛くなるが、要は精霊や神に語りかけてほんの少し力を貸してもらうというのが魔法である。

 呪文をブツブツ呟く必要があるのもそれが理由。

 精霊や神へお願いするための言葉が呪文だった。

 お願いの言葉は何でも良いが、基本的に精霊や神が分かりやすい言葉、もしくは気を良くする様な言葉が望ましい。

 呪文でなくとも呪符や魔方陣でも良い。

 兎に角、何をして欲しいのか伝える事が出来れば……その強い思いが伝われば、精霊や神は力を貸してくれる。


 つまり魔法を発動させる為には、強くイメージし、それを伝え、代償に魔力を支払う、この三つの事を行えば良い。

 その逆を言えば……。

 イメージが貧弱だと望んだ事象は引き起こされない。

 上手に伝える事が出来ないと曲解されてしまい、意図した事象とは異なる結果をもたらす。

 代償に支払う魔力が足りないと、そもそも発動しない。

 反対に魔力を支払い過ぎると、想定以上の事態を引き起こしかねない。


「集中力が必要なのは当たり前だな。気軽に使える力ではやはりない、か」


 才能:魔法がある事で原理は分かった。

 実際に魔法を発動させる為の必須条件である魔力は、才能:魔力を取得した事で十分に足りていると思う。

 加えて、才能:空間操作を持っている事で、呪文を詠唱すれば歪の神アズリに俺の言葉が届く。

 信仰神と魔法が繋がっているのは、恐らくそういう理屈だろう。


「……さて、火の魔法なら兎も角、ぶっつけ本番でほとんど未知の系統魔法を使う事になる訳だが」


 もし以前の様に才能:魔法制御があれば、イメージが楽になり、また支払う魔力も適正量がだいたい分かった。

 才能:詠唱省略は、伝える言葉の簡略化。

 才能:高速詠唱は、全体的な短縮と言えば良いか。

 ただの早口言葉ではなく、魔力支払い効率の向上とイメージ力の強化もセットとなった才能である。


 正直言って、初心者にはそれらの才能もやはり欲しかった。

 が、無い物強請りは言っても仕方が無い。


「ええい、ままよ!」


 思い切って魔法を使ってみた。


「此の世界と、彼の世界を繋ぐ門……」


 イメージは、自分の周囲にある空間を丸ごと切り取る感じに。

 本当は身体を木に拘束しているロープだけをピンポイントで異空間に追いやる事でロープを空間切断したかったが、失敗すると俺の身体が部分的にバッサリ削り取られるので、その案は却下。

 代わりに木を削り倒す事で移動可能となる道を模索する。


「陰より来たりて陽へと還る道……」


 支払うというよりごっそりと奪われていく魔力に、精神が急速に疲弊していく。

 だが同時に、焚き火の炎の揺らめきとは異なる三次元的な世界の歪みが俺を中心に広がり、目眩よりもきつい不愉快な歪曲空間へと変化していた。


「亜空、是空、虚空、始界、絶界、虚界、其の先に在る地……」


 徐々に浸蝕されていく世界。

 あまりに歪なその光景は俺の脆弱な三半規管を酷く混乱させ、摩耗した心を更に締め上げていく。

 しかし中途半端に失敗すれば何が起こるか分かったものでは無い為、何とか気合いで乗り切る。


 その願いと頑張りが通じたのか、ある程度世界が歪曲してくると逆に引っ張られる様な感覚が訪れた。

 精霊か、それとも神か。

 空と大地と炎とが二次元三次元的に混ざり合い混沌化した世界が急速に色を失っていく。


 成功か。

 ……その手応えを感じ、最後の言葉を詠い終えた時。


「ほぉ……意外と早かったな」


 一面灰色の荒野、橙と朱と黒にヒビ割れた空、光と闇に明滅する歪曲世界。

 その異空間らしき場所に初めからいたと思われる不気味な存在が、そんな言葉を俺に語りかけていた。


「貢ぎ物はそいつか。なかなかの大物だな」


 全身ローブ姿の、何故か直視出来ない謎の人物。

 声の質からして青年男性か。

 顔がある場所には不気味な闇の渦だけが存在していた。


 小柄なのに圧倒的な存在感を放つその化け物に、あり得ない可能性が脳裏に浮かぶ。

 卒倒しそうな程に心が萎縮し戦慄した俺は、何も言葉を返す事は出来なかった。


「何をしている、さっさと向こうに戻れ。此処の時は向こうとは違う。あまり長居すると寿命を一気に削り取られるぞ」


 腕を一振り。

 認識出来たのはそこまでだった。


 強制退界、と言えば良いだろうか。

 気が付けば元いた場所に俺は戻っていた。


「はは、は……」


 それはあっと言う間の出来事だった。

 時間にして僅か数秒足らず。


 これは予想でしか無いが、あれが歪の神アズリなのでは……と思う。

 もしくは、その従者の一人か。

 まるで次元の違う存在だった。


 それは別に良い。

 空間魔法の発動に失敗し、命を落とさなかったのは行幸だった。

 が、困った事態が2つ起きていた。


 ラバが、いない。


「巻き込んじゃった……かな?」


 一つは、空間魔法の範囲をミスった事。

 それにより、近くで寝ていたラバも異空間へと連れ込んでしまい、貢ぎ物と勘違いされた。

 だが本当に問題なのはそこでは無い。

 ラバのお腹に寝ていたレベッカも一緒に貢ぎ物としてあの異空間に残ってしまった。

 あまりにも予想外の展開だった。


 そして、もう一つは……


「グルルゥ……」


 目の前に、ジャガーがいた。

▼ちょっとここで主人公の現在能力整理

(アップ中の情報のみ)


盾防御Lv1  戦技〈シールドバッシュ〉〈シールドブロウ〉〈シールドタックル〉〈シールドストライク〉

刀技Lv1  戦技〈零の太刀〉

魔法Lv1

魔力Lv1

隠密Lv1  能力〈気配隠し〉

効率Lv5

製造Lv1  技術〈鍛治製造・基礎〉〈彫金製造・基礎〉〈木工製造・基礎〉

細工Lv1  技術〈石細工・基礎〉〈革細工・基礎〉〈研磨〉

加工Lv1  技術〈裁縫・基礎〉〈裁縫・初級〉

錬成Lv1  技術〈錬金術・基礎〉〈薬草学・基礎〉〈料理・基礎〉〈料理・初級〉

空間操作Lv1

体力Lv1

脚力Lv1

不屈Lv1

支援効果Lv1

魔王Lv1


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