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滅亡世界の果てで  作者: 漆之黒褐
第1章
22/52

食事効果

 この世界に来て、はや数ヶ月。

 最初はのんびり暮らせば良いと思っていたが、どうやら俺の持つ才能がそれを許さないようだった。


「にーちゃん、またモンスター狩ってきたぜ。毛皮まだ必要か?」


「いや、もう十分だ。毛皮は後で剥ぎ取るから、モンスターは外に置いといてくれ」


「にぃに、いとがもうない。ぬの、つくれない」


「わかった。新しく産まれた蚕はまだ繭になってないから、布作りは一端それで終了だな」


「つぎ、なにする?」


「そうだな……マリンちゃんと一緒に、そろそろ簡単な服でも作ってみるか?」


「うん! まりんちゃん、よんでくる」


「その前に一度休憩しよう。オヤツの時間だ」


「にーちゃん、今日のオヤツは何だ?」


「動物型のモンスターからゼラチンが取れたからな。今日はプリンを作ってみた」


「ぷりん! なんかすっげーうまそうな名前だな! 早く食いてぇ!」


 モンスターが狩れると分かったその日から、ビックスは勇士を募って毎日のようにモンスター狩りを行う様になった。

 あの日、教会に帰ってから一人一人事情聴取をしていった所、ビックスに限らず教会にいる子供達は各々が持っていた才能が大幅に成長している事が確認された。

 基本的に子供達は遊ぶ事が仕事。

 そのためか、子供達のほとんどは体力や腕力、脚力といった運動系の才能を多く持ち合わせていた。


 それに加えて、更に判明した事実。

 俺が作る料理には、どうやら一時的に様々な能力をあげる効果があるらしかった。

 塩分の取れるワカブという草を煮て作る塩のスープにはスタミナアップの効果が、穂月草や黒月草といった草のサラダには身体が頑丈になる効果が、川魚を食べると集中力が増し、伯爵イモから作る各種イモ料理には疲れにくくなると同時に成長補正までついていそうである。

 そう言えば伯爵イモを見つけた頃から目に見えてみんながやたら活動的になってきた事を思い出す。

 ちなみに、猪モンスターの肉は予想通り筋力アップだった。


 才能Lv1があるだけで、人よりも早い成長が望める。

 それに加えて、俺の持つ才能:支援効果Lv1と、伯爵イモを使った料理で更に成長補正がつく。

 あまり考えたくないが、才能:効率Lv5という異常能力ももしかしたら関係しているのかもしれない。

 兎も角、子供達の才能はこれを機に一斉に開花していった。

 子供達自身も不思議に思っていたのが事実だと判明した事で、一気に歯止めがきかなくなったからだ。


「うんめー! プリン、めっちゃうんめーっ!」


 才能:脚力Lv1とその能力(アビリティ)〈駿足〉を持つビックスは、同じ才能とスキルを持つ子供2人と一緒に、毎日モンスター狩りにせいを出していた。

 彼等3人は、戦闘系の才能を持ち合わせた他3人を乗せた荷車を引いて、教会から北北西に向かった先で猪の子供や芋虫といったモンスターを狩って、その亡骸を教会まで運んできてくれる。


 猪の肉は偏った食事を続けていた子供達に新たな栄養を提供し、痩せがちだった身体に少しずつ肉を付けていた。

 猪の皮膚や骨、腱などからはゼラチンも作る事が出来たので、鶏もどきのポッポが毎日産んでくれる卵と、狩りをしているエリアで新たに見つかったサトウキビのような巨大植物から抽出した砂糖とを混ぜ合わせることで、本日のオヤツでもあるプリンも作れるようにもなった。

 このプリンがいったいどんな食事効果を出してくれるのかは、この後みんなの話を聞くことですぐに判明するだろう。


 なお、最初の頃は引率としてユキさんも同行してもらっていたが、まったく問題なさそうなので、ユキさんには以前のように南のグラント山付近で木材採集をしてもらっている。

 たまに木を一本まるごと持ってくるのはちょっとやめて欲しいが。

 才能:腕力Lv1を持っている男の子達と行く時は要警戒だ。


「けんにぃ、これのちゅくりかた、あたしにもおしえて!」


「にぃに、わたしも!」


 ほとんどいつも俺にくっついているマリンちゃんとカリーちゃんには、主に俺のお手伝いをしてもらっている。

 マイナスの才能でも持ち合わせているのかほとんど料理の出来ないユキさんの代わりに毎日の食事の準備をしてもらったり、蚕の繭から糸や布を作ってもらったりしている。

 その成果も徐々に実り始め、少し前に2人とも才能:調理Lv1、裁縫Lv1を手に入れた。

 今ではただ布を織るだけじゃなくて四苦八苦しながらレース柄の布作りに精を出したり、巨大な猪の解体にも張り切ってチャレンジしている。

 前途有望な女の子達だった。


 ただ、2人がその才能を取得した事で、また一つ疑問が生まれた。

 それは、俺が持つ才能と、2人が持つ才能との違い。


 例えば俺の場合、料理関係は技術(テクニック)しか持ち合わせていない。

 2人のように才能:調理Lv1は無く、しかし〈料理・基礎〉〈料理・初級〉といったスキルは持っている。

 この違いを少し考えてみた結果、俺が作る料理にだけ食べた時に食事効果がつく理由にも行き着いた。


 何の事はない、俺は料理もしくは調理をしているのではなく、製造/細工/加工/錬成といった別の事をしていたのだ。

 特に一番怪しいのが、才能:錬成Lv1か。

 確かこの才能:錬成Lv1を覚えた時に、俺は〈料理・基礎〉というスキルを手に入れた。

 そしてこの考えは、2人の話を聞いた時、更に確信へと変わる。

 マリンちゃんとカリーちゃんが才能:調理Lv1から得たスキルは、〈ワカブ出汁のスープ〉〈混沌のサラダ〉といった、作る食事そのもの名がついた技術(テクニック)だった。


 才能:裁縫Lv1に関しても同様。

 俺は製造/細工/加工/錬成といった才能から技術(テクニック)〈裁縫・基礎〉〈裁縫・初級〉を得て、しかも裁縫に関わる経験値を一括りで手に入れている。

 しかし2人の場合は〈絹糸作り〉〈機織り・絹布〉〈機織り・レース柄の絹布〉といった個々の技術(テクニック)を取得し、それぞれで経験値を得ている。

 この違いはかなり大きい。

 ゲームの世界ならば前者が普通だが、現実的に考えて全く違う作業をしているのに別の作業の経験まで得られるというのはズルも良い所である。


 一番最初に作った爪楊枝と、その後作った石包丁の例を思い返してみる。

 爪楊枝は木片を適当な石で削って作成した。

 このとき、〈木工製造・基礎〉以外に〈研磨〉の経験値も手に入れた。

 その後に石包丁を作った際、石を適当な形に割る作業は大変だったが、刃を研ぐ作業は意外に簡単だったのだ。

 初めての試みだった筈なのに、1本目の爪楊枝を作った時の苦労よりも楽だったというのはおかしな話である。

 恐らく普通なら〈○○木材・切削〉〈○○木材・刪削〉や〈○○石・切削〉〈○○石・琢磨〉もしくは〈○○石による○○石・研磨〉などの、もっと細かい名前のついたスキルでの作業となるのだろう。

 それを俺は全て〈研磨〉という一括りされたスキルで経験値を得ている。

 チートも良い所だ。


 流石に戦闘系能力や魔法関係はこの世界にいる人達と条件は同じ様だが、それもどこまで普通かは分からない。

 才能:刀技Lv1で得た戦技(アーツ)〈零の太刀〉の例もあるしな。

 これを使えば、切る/斬るに関係する作業全般が更に楽になっている。

 断面がつるっつるになるように切れたり、まるで紙のように色々切れたり。


 一度こっそり木刀を持って南の森に行き、誰もいない事を入念に確認した後で一刀両断出来ないか試してみた事がある。

 結果は成功。

 〈零の太刀〉を使うには目標に木刀を当てた状態で意識をかなり集中させる必要があるので戦闘中にはなかなか使えないが、斬った大木が断面にそって徐々にずれていく様は圧巻の一言だった。


 ならばと思い、教会の東にある川にいって大きな石も斬れないか試してみたが、結果は惨敗。

 巨石に木刀を当てて腕を動かした瞬間、木刀が砕け散った。

 どうやら強度不足のようだ。

 流石に石は斬れないだろうと思っていたので、少し安心したものである。


 ちなみに、森で木を斬った後に呟いた台詞は「また詰まらぬものを斬ってしまった……」だったのはお約束。


「おにーちゃん、ちょっといい?」


 オヤツのプリン(バケツサイズ)を食べ終えて、白湯を飲みながらほっと一息吐いていると、ダルマティカ姿のクリスが俺の膝に飛び込んできた。

 ダルマティカは、布2枚を十字に重ね合わせ中央に頭を通す穴を開けた後、二つ折りにして脇と袖下を縫い合わせただけの簡単な服。

 洗濯しても問題無いように改良した絹布をふんだんに使用している。

 遊び盛りの5歳の男の子が普段着として着るようなものでは決してないが、マリンちゃんとカリーちゃんが絹糸/絹布作りを手伝ってくれるようになってからは絹布があまりがちなので問題ない。

 今も土やら何やらがクリスの服に付着しまくっているが、洗濯がちょっと大変ではあるが、俺も含めて誰も気にしていなかった。


「どうした、クリス」


「ぽっぽがいつもとちがうたまご、うんでる」


「ふむ……他に何か変わった事は?」


「どんなにおねがいしても、だれにもさわらせてくれない」


「なるほど」


 この教会で一緒に暮らしている鶏もどきのポッポは、人の言葉を理解している。

 それなのに、一番仲の良いクリスの言葉でも拒否するという事は、そこには何らかの理由があるのだろう。


「ミントちゃんに通訳してもらうか。さて、今日は何処で寝ているのか」


 人の言葉を理解出来でも、ポッポは人の言葉を喋る事は出来ない。

 そこで活躍するのが、ミントちゃん。

 子猫の獣人であるミントちゃんは、大抵の動物の言葉を理解する事が出来た。

 そういう才能を持っていた。


「にーちゃん。ミントならさっき聖堂の隅で見かけたぜ。何か食ってたみたいだけど」


 と、ビックス。

 む……また絹糸を取った後に残る蚕の蛹を盗み食いしているのか。

 随分と気に入ったものだな。


「みんねぇ、いない」


 聖堂に行ってみるも、クリスの言う通りミントちゃんはいなかった。


「仕方ない。ミントちゃんなしで理由を聞いてみるか」


 ポッポ専用の卵部屋に行くと、部屋の隅でポッポが草のベッドの上でウツラウツラしていた。

 しかし俺達が近づくと気配を察したのか、はっと目を覚ます。

 いつもならそこで立ち上がり、俺の隣にいるクリスの所に寄ってくるのだが、今日は座ったままだった。


「ちょっと邪魔するぞ、ポッポ」


 邪魔するんなら帰ってんかー、という妙な言葉が頭の中で浮かび上がる。

 何となく関西風な顔立ちをしているポッポなので、たまにそんな妄想が。

 まったく関係のない話である。


「クリス、例の卵はどこにある?」


「ぽっぽのした」


 俺達の言葉に反応して、ポッポがちょっとだけ立ち上がる。

 するとそこにはいつもの白い卵ではなく、赤身を帯びた卵があった。


 その後、ポッポに事情聴取をすると、どうやら無精卵ではなく有精卵を産んだらしい。

 有精卵……つまり、ポッポは新しい命を産んだ。

 故に、その卵を守るために、そして暖めて孵すために動かないのだという。


「雛はどれぐらいで孵るんだ? 今日か明日か?」


 ポッポが首を横に振る。

 人の言葉を理解しているので、ミントちゃんの通訳が無くてもYES・NOで事足りる。

 先程の質問に関しては、流石にポッポも初めての子供なので分からないという事だった。


 ならば、いったいどこの鶏もどきに子供の種をもらったというのか。

 どうやら、旅から旅をしている変わり種の雄鶏が突然コッソリ夜這いをかけてきたらしく、抵抗虚しく押し倒されたのだという。

 いやいや、どこの世界に雌鶏を見つけたら夜這いを仕掛ける旅鶏がいるというのだ。

 ちなみに、なかなかのイケメンだったという。

 そんな情報はいらない。


 兎も角、子供が出来てしまったのならば仕方ない。

 ポッポは新しい命を孵す事にしたという。

 子供に罪はないため。

 泣かせる話だな。


「という訳だから、クリスも何かと協力してやってくれ」


「うん! ぼく、頑張る!」


「雛が孵った後も守ってくれな」


「?」


 この教会には魔物が住んでいる。

 子犬のビックス、子猫のミントちゃん、それに子狐や子栗鼠などの獣人達は、みんな肉食系。

 最近は猪の肉が手に入ったのでポッポを食べたいという危ない衝動は沈静化しつつあるが、それでもいつガブリといくか分かったものではない。

 よくポッポの横で寄り添って寝ている子狐ちゃんは大丈夫だと思うが、ビックスやミントちゃんは今でも要警戒。

 成長補正の効果で、既にポッポとビックスの力関係は逆転している筈である。

 守護神クリスの活躍に期待するとしよう。


 3時のオヤツを食べた後なので、時間も微妙。

 マリンちゃんとカリーちゃんへの服とプリン作成の手解きは明日以降に回すとして、優先的に解決すべき事もない。

 季節はこれから夏に向かうらしいので、冬支度も必要なし。

 敢えて言うなら涼を取る場所の確保や、団扇などの用意ぐらいか。

 緊急性がないので、もう少し後回しでも良いだろう。


 その他で気になる事といえば、聖堂の中央にある謎の魔方陣ぐらいか。

 あんな夢オチを女神に見せられたぐらいなので、その危険性を考慮し、今は俺が工房として占拠して各種素材の山を置いて隠している。

 才能:魔力をまだ覚えていないため、あそこに何があるのかもまだ分かっていない。

 魔法を使えるユキさんやマリンちゃんに協力を願い出れば開ける事はたぶん可能だろうが、何が起こるか分かったものではないので今はパス。


 あの夢の中でマリンちゃんが死んだ理由は、恐らく密閉空間に閉じ込められた事による衣酸素欠乏症。

 つまり地下の広さはほとんど無いと俺は考えている。

 だからといって、転送装置などが仕掛けられていないとも言えない。

 教会の地下にあるというだけで、何かしらが封印されているというのも全く否めない。


 触らぬ神に祟り無し。

 何もない限り、あそこは永久封印だ。


「さて、次は何を作るかな……ん?」


 そんな訳で、久しく暇を持て余し始めた所で、これまた久しぶりにクエストが発生した。




『クエストが発生しました』




 クエストは《徳》と呼ばれる数値が低いとほとんど発生しなくなるというので、その《徳》をたった99しか持っていない俺にはクエストが全然発生しない。

 ユキさんに良い所を見せようクエスト以来だ。


「報酬が書かれてないのは初めてだな。今度は簡単な奴だと良いが……なに?」




●選択肢A

 ・明日の昼までに、教会の周囲に堅牢な壁を作れ!

 ・明日の昼までに、落とし穴を十個以上掘ろう!


●選択肢B

 ・明日の昼までに、持っている素材を全部荷車に乗せておこう!

 ・明日の朝までに睡眠薬を作り、昼前になったら全員に飲ませよう!




「なんだ、これ」

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