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滅亡世界の果てで  作者: 漆之黒褐
第1章
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   裏話 選択の結果 【地図画像】

 欲望の町カターゴより西へ半日ほど進んだ先に、一際大きな町がある。

 町の四方を石壁で覆い、外敵からの攻撃を常に警戒し続けるその町の名は、アディカ。

 南東のティード、東のカターゴとビザンテの町を支配下に置いている領主ヤザのいる町だった。


挿絵(By みてみん)


 そのアディカの町の中心にある領主ヤザの屋敷の一室に、唇に傷のある若い男が二度ノックした後、暫くして入室する。


「失礼します。ヤザ様、今月の報告書をお持ち致しました」


 返事を返して来なかった部屋の主の姿を見つけて、男は口元をにやけさせながら言う。


「見ての通り、取り込み中だ。書類はそこの机の上に置いておけ」


「はっ。……新しい奴隷ですか?」


「暫くはやらんぞ。まだまだ楽しみ足りぬからな」


「楽しみにしておきます。北の砦より援軍の要請がありましたが、いかが致しましょう」


「なに? ゼゼルの奴が飽きもせずまた攻めてきたのか?」


 ゼゼルというのは、領主ヤザが支配下に置いている土地の北で接している隣の領主の名前である。

 半年前からヤザにちょっかいをかけている地方領主の一人だった。


「いえ。どうやら前回の戦で捕虜にした敵の数が思っていた以上に多く、捕虜をこちらへ輸送するための人員が足りないとのことでして」


 名目上はゼゼルもヤザも同じ国に所属している一領主だったが、中央が政争で混沌の極みにあるため、狭い領地とはいえもはや一国の主と言っても差し支えがなかった。

 戦という言葉も訓練という言葉に言い換えて報告している。

 多少の賄賂さえ送っておけば、中央にいる貴族達は互いの小さな縄張り争いと日々の娯楽快楽に夢中で、外の事にはほとんど興味を示しさない。

 中央より遠く離れた土地の情勢など、噂の一つにものぼらなかった。


「まともに動けぬ捕虜は後回しにしろと伝えろ。奴隷紋を書き換えた後、補充の奴隷と一緒に治療士を送ってやれ。追加の物資も忘れるな」


「そのように。それともう一つ、お耳に入れておきたい事が」


「後にしろ」


 楽しんでいる最中だというのに、いつまでも下卑た瞳を奴隷へと向けている部下にヤザが苛立ったように言う。

 その怒りの矛先は奴隷へと向かう事が分かっているので、男は何とも思わない。


「ウルス出身という嘘を語った者が、ビザンテのギルドに現れました」


「なに? あの蛮勇を排出した村出身だと? どこの馬鹿だ、そいつは」


 その言葉を聞いた瞬間、ヤザの動きが唐突に止まる。


「ギルド登録報告書に記載されていただけですので、詳しい事は何も」


「ようやく平和になったというのに魔王にたてついた馬鹿を排出した村の名をそいつは知らんのか」


「いかが致しましょう。調査致しますか?」


「いや、いい。それより、儂の近衛騎士団を招集しろ。直接出向く」


「ヤザ様自ら動くのですか?」


「なに、たまには点数稼ぎをしておかぬとな。中央にも御前のように目敏い奴はいる。いらぬちょっかいをかけられるよりは儂が動いて安心させた方が良かろう」


「西で不穏な動きがある今、ヤザ様自ら近衛を率いてこの町を離れてはいかがなものかと。攻め入ってくる可能性が非常に高くなります」


「それならば好都合。奴等は鈍重だ。敵の軍を発見次第、早馬を飛ばせば一両日中には戻ってこれる。被害は出るだろうが、儂の近衛騎士団の機動力を以てすれば、うまくいけば壊滅的な打撃を与える事が出来るだろう。戦とは電光石火の機動力で決まる。如何に馬を揃えられるかだ。その点をウィゾックの奴は勘違いしておる。重装兵団など何の役に立つか」


 その重装兵団の守りを突破出来ず前回の攻め戦では大敗に終わったのでは、とまでは男は指摘しない。

 そんな負け戦の話をして領主ヤザの機嫌を損ねる意味はない。


「そんな詰まらぬ事を心配する前に、儂の道中を如何にして快適にするか考えろ」


「はっ。出発は三日後、経路はカターゴ、ビザンテで宜しいでしょうか」


「それでいい。カターゴには二泊する。たまには部下に羽目を外させるのも良いだろう。貴様もついてくるか?」


「いえ。それだとこの町を守る者がいなくなりますので」


「そうか。ならば、儂が留守にしている間、儂が飼っている奴隷達を自由に使うがいい。別に殺しても構わん。折角の旅だからな、久しぶりにこの足で新しい奴隷を買ってくるとしよう」


「ありがとうございます」


 舌なめずりしながら奴隷を見た後、男は退出する。


「ウルスか……どこの馬鹿か知らんが、厄介な名を出しおって。下手をすればこの国が消されかねんというのに」


 部下が退室した後、ヤザは喉を潤してから再び楽しみを再開する。


「いっそ壊してしまうか」


 奴隷の瞳には、既に光は無かった。

第14話『ビザンテのギルド』にて、

ケントが出身をウルスだと選択した事による結果です。

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