表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
滅亡世界の果てで  作者: 漆之黒褐
第1章
20/52

狩り

 翌朝、モンスター狩りに向かう。

 メンバーはビックスとミントちゃん、カリーちゃん、マリンちゃん、ユキさん、そして俺の6人。

 ユキさんは言わずと知れた保護者だ。

 危なくなったら助けてもらうために連れてきた。


 カリーちゃんとマリンちゃんに両手を塞がれ、頭の上をミントちゃんに占領されたまま穂北西へと向かう。

 狩ったモンスターを運搬するための荷車はビックスが元気に引いている。

 その荷車の上にはみんなの武器防具と、その他諸々。

 装備しなくて良いのかと聞くと、教会の付近には何故かモンスターが出ないそうなので、もう暫くは大丈夫なのだとか。

 何かモンスター除けの結界でも張られているのだろうか?


「にーちゃん! フォーメーションどうする? おれ、前衛な!」


 とビックス。

 このメンバーの中で唯一、教会を出る前から背中に棍棒を装備している、超やる気満々の少年。

 今回の狩りの言い出しっぺ。

 頼もしい限りだ。


「俺が盾になるから、ビックスが右、ミントちゃんが左から攻めてくれ。カリーちゃんとマリンちゃんはその後ろから弓で攻撃だ」


「まほーちゅかう?」


 マリンちゃんは水魔法が使える。

 水弾を作り出してぶつける魔法だが、修行中らしくまだまだ勢いが足りない。

 牽制にはなるだろうが、攻撃力はあまり期待出来ないので今は温存しておこう。

 魔法を使うと精神的にかなり疲れるみたいだし。


「最初は無しでいこう……そろそろモンスターが出てくるかな?」


 頭上からにゃーという猫の鳴き声が。

 今のは危険を報せてくれたのか、子猫が頭の上から降りてきて変身し始める。


「ざんねん。ねずみじゃないにゃ」


 バージョン2の半獣半人姿になったミントちゃんが猫特有の伸びをしながら言う。

 明らかに体形が異なるバージョン1の完全獣型姿から別のバージョンに変身すると、服を着ていないので当然のように産まれたままの姿となる。

 だがバージョン2は身体中をふさふさした毛が覆っているので何も問題無い。


 プロポーションが良すぎて、猫人間状態だと何もしなくてもかなり艶めかしく見えるが問題無い。

 ぴょんとジャンプして俺の肩に座り、肩車状態になるが問題無い。

 いや、問題あるか……流石にその姿だと重い、ミントちゃん。


「よし、戦闘準備だ」


 マリンちゃんとカリーちゃんは、木の弓と石の矢を装備する。

 背中に背負った矢筒には10本の矢。

 残りの矢は持ちきれないので荷車にて保管。

 それと、弦を引く時に手が痛くならないように、三ツカケと呼ばれる手袋をはめる。

 三ツカケは親指、人差し指、中指の3本だけを保護する手袋である。

 薬指も保護する四ツカケという手袋もあるが、そちらは強弓用らしいのでまだ作っていない。

 安全のため胸当ても欲しかったので、不要な布を集めて重ねた物で代用する。

 モンスターの毛皮が取れれば、レザー装備を作る時に一緒に作る予定だ。

 職種で言えば、狩人もしくは弓術士といった所か。

 マリンちゃんは魔法使いにもなれる。


 ミントちゃんの装備は、分厚いグローブのみ。

 ビックス同様、ミントちゃんも獣人なのでとてつもなくすばしっこい。

 そのため重い武器や防具を嫌う。

 爪装備ぐらいは用意しておきたかったが、石製の爪で裂くくらいなら殴る方が良いと言われたので、素材の問題で見送っている。

 防具の方は、バージョン2になっている事から察してほしい。

 そのまんま武闘家と言ったところ。


 ビックスの武器は先程も述べたように棍棒である。

 分厚い棍棒である。

 トゲトゲしていないし釘も刺さってない、何の変哲もない棍棒だ。

 本当は剣を持たせたかったが、木剣や石剣だとビックスの攻撃に耐えられないので、頑丈な方を選んだ結果である。

 ビザンテの町で買った青銅の剣(ブロンズソード)がグラチュエイター戦で壊れなければビックスにあげたのに、残念でならない。

 ビックスはもう戦士でいいな。

 武闘家よりも狂戦士よりに成長しそうな気もするし。


 そして俺の装備だが、荷車の後ろに括り付けてあった大きな盾が武器であり防具となる。

 薄くした木の板を何枚も重ね合わせた盾の下側には地面に刺して固定するための突起。

 タワーシールドをイメージして作った。

 折角、才能:盾防御があるのだから、こじんまりしたバックラーよりも防御の高そうなタワーシールドの方が良いだろうと思っての事。

 守るための盾なのに何故か攻撃的な戦技(アーツ)ばかり覚えているしな。

 盾の重量は重要だ。


 それと、盾の裏側には一応の武器として木刀も用意している。

 剣を使っていたのに何をどう間違ったのか才能:刀技を覚えたので、作ってみた。

 本当はモノホンの刀が欲しかったが、言わずとも知れよう。

 ちなみに、同時に覚えた戦技(アーツ)〈零の太刀〉は、何かを斬る時に高い補正が入るのでとても重宝している。

 主に活躍しているのは料理する時ばかりだが。


 そんな俺の職種は、さて何だろうか。

 盾を持っているので騎士(ナイト)もしくは盾騎士(シールドナイト)と言いたい所だが、持っているのが刀系の武器なので(サムライ)だとも言える。

 間を取って、盾侍(シールドサムライ)とでもしておくか。


「けんにぃ、かっこいい」


 ポーズを決めてみたら褒められた。

 やる気アップ。


 最後にユキさんだが、愛用の石斧を持って荷車の近くで待機である。

 無骨な石斧を持ってのほほんと笑んでいる姿がやたらと不気味に見えてしまうが、そこはスルーしておく。

 蛮族……。


「にーちゃん、きたぞ!」


 いち早く土煙に気付いたビックスが叫ぶ。

 どうやら敵さんも臭いか何かでこちらを発見したようで、勢いよく走り向かっていた。

 あの姿形からすると、猪か?


「来たか。俺が前に出て攻撃を止めるから、打ち合わせ通りに頼むぞ」


 盾、戦、武、狩、狩(魔)+ユキさんというパーティ構成。

 対する敵は、猪モンスター一匹。

 普通に考えれば勝てない道理はない。

 しかしここは異世界。

 俺のスケールで物事を考えてはいけない。

 慎重にいこう。


「さくせんは、がんがんいこうぜにゃー」


「わかった。がんばる」


 あ、ミントちゃんが余計な事を言ったから、早速カリーちゃんとマリンちゃんが矢を射始めてしまった。

 全然届いてないから良いけど、もし当たったらヘイト管理が難しくなるだろうに。

 ファーストアタックのヘイトが高いのは、ゲームも現実もたぶん同じだ。


「さあ、来い! ……なんか随分とでかいな」


 四足歩行なのに、猪はビックスの身長よりも高かった。

 さっきは遠くにいたのでよく分からなかったが、近くまで来た猪は俺の胸ぐらいの大きさがある。

 ……しまった、この世界の規格は俺が元いた世界とは全然違うんだった。


「お、ウリ坊か! 肉が柔らかくて甘いらしいぜ、にーちゃん!」


 しかもこれで子供かよ!

 体に沿って縦に生えている縞模様の体毛は、生後4ヶ月程度で消えるという。

 この世界の猪の子供が同様なのかは知らないが、そんな情報は何の慰めにもならない。


「あたった!」


 僅か一瞬の間だったが呆然としていると、後ろからひゅ~っと矢が飛んで行って、巨大ウリ坊の背中にプスッと刺さった。

 瞬間、ウリ坊の瞳がギロっと動く。

 もしかしなくても、ファーストアタックの影響だった。


 もはや躊躇っている暇はなかった。

 ここで動かなければ、矢をあてたマリンちゃんがあの猛烈な突進をその身に受ける事になる。

 どう考えても死亡事故の未来しか待っていない。

 覚悟を決めて、俺は猛進するウリ坊の進路上に立ちはだかった。


 盾の下についている突起はまだ地面に刺さず、膝を少し曲げて重心低く構える。

 あの巨体から繰り出される攻撃をまともに受けたら身が持たない。

 突進は完全に受け止めるのではなく、ある程度持っていかれる事を前提に足の踏ん張りを若干柔らかにする。


「ぐっ……!?」


 ゴスっという鈍い音と共に、強烈な衝撃が両手で構えた盾から伝わってきた。

 その衝撃を両肘で柔らかく受け止め、前のめりに倒した身体を盾に預け、勢いを殺すために両足の爪先辺りで地面を踏んで耐える。

 1秒もしないうちに、ゆうに2メートルは後ろに押し込まれた。


 しかしその御陰で、勢いは随分と減衰した。

 頃合いを見て盾の戦技(アーツ)〈シールドバッシュ〉を使い、残った勢いを一気に削る。

 零距離から繰り出された弾けるような盾の強撃に、ウリ坊の動きが一瞬止まる。

 すかさず〈シールドブロウ〉を叩き込み、更にお返しとばかりに〈シールドタックル〉を使用して今度はこちらからウリ坊に突進攻撃。

 3連続の強打に、ウリ坊が短い悲鳴をあげてよろける。


「いくにゃーっ! ボコボコするにゃーっ!」


「うりゃ~っ!」


 その後は、あっと言う間に決着が着いた。

 脳震盪を起こしかけていた所にケモケモ2人の怒涛の攻撃を受けたウリ坊は、ほとんど反撃する事叶わず。

 再度突進攻撃をしようにも助走が足りないので、地面に盾を突き刺した俺の防御を突破する事は出来なかった。


 最初はどうなるかと思ったが、流石は才能:盾防御。

 前回のグラチュエイター戦でかなりの経験値を稼いでいた事もあり、自分の事ながらなかなかのナイトっぷりを発揮してくれたようだ。

 ビバ、盾。


 ただ、棍棒と素手の攻撃だけではウリ坊の息の根を止める事は出来ず、ドサッといって地面に倒れた後もウリ坊は瀕死の状態にも関わらず俺達の事を睨み付けていた。

 解体用の石包丁も一応持ってきているので、トドメをさせないこともない。

 だが、これほど大きな命を奪うのは初めてである。


「けんにぃ、まほーちゅかってみてもいい?」


 踏ん切りがつかないまま逡巡していると、マリンちゃんがくいくいっと袖を引っ張ってきた。

 マリンちゃんの魔法は、水弾ならぬ水玉をぶつける程度の威力しかない。

 実際にそれを見た事はないが、本人の口からはそう聞いている。

 そんな事をしてもただの虐めにしかならないと思うのだが、何やらマリンちゃんは思う所があるらしく、使ってみたいと言う。


「くえすと、はっせいした」


 ああ、そういう理由か。


「一度だけだぞ?」


「うん」


 念のためタワーシールドで護りながら、マリンちゃんの魔法を見守る。


「みじゅのせいれいちゃま、あたしにちからをかしてくだちゃい。うぉーたーばれっと!」


 マリンちゃんの目の前に小さな水弾が出来上がる。

 詠唱が可愛い。

 そう思った次の瞬間。

 水弾は突然に消え、気が付いた時にはウリ坊の頭に小さな穴を空けていた。


 ――えっ?


「すっげーっ! マリンちゃん、すっげーっ! 魔法つえ~っ!」


「すごいにゃ、マリン。いつのまにまほうをそこまできわめたにゃ」


「まりんちゃん、ぐっじょぶ」


「あらあら~」


 マリンちゃんの放った魔法水弾(ウォーターバレット)に脳を貫かれたウリ坊は即死していた。

 その現実に、俺は絶句する。

 これまでで一番の驚きだった。


「やっぱり。あたしのまほーもちゅよくなってる」


「マリンちゃん、それはどういう……」


 この世界で見てきた中で、今のは間違いなく最強の攻撃だった。

 それが僅か7歳の女の子の手から放たれた事に、俺は驚愕を禁じ得ない。

 ゲームの世界を知っているので魔法とはそういうものだと頭では理解していても、現実に見るとなると話は違う。


「けんにぃがきてから、みんなすこしじゅちゅ、ちゅよくなってる」


「俺が来てから、みんな少しずつ強くなっている?」


 そう言われて、俺ははたと思い出した。

 そういえば、そんな才能も持っていたな、と。

 比較対象がなかったのでよく分からなかったが、俺が来る以前の自分達の力を知っているマリンちゃん達には一目瞭然のようだった。


 この世界、才能次第で人は化ける。

 レベルやステータスといったハッキリした情報が存在していればもっと分かりやすいのだろうが、そういうものはこの世界にはない。

 あるのは才能と、その下位にあたるスキル、そしてクエスト。

 俺はクエスト発生の指標ともなっている《徳》の値が低いせいで滅多な事では発生しないクエストはまだよく分からないが、他の2つはいつでも見れるのでよく分かる。

 才能は、持っているだけで大きな力だった。


 例えLv1でも、才能はあるだけで一流に近い実力をいつか身に着ける事が出来る。

 経験が無ければ宝の持ち腐れではあるが、努力すれば才能を持っていない者よりも遙かに力の伸びがよく、メキメキと成長していく。

 それは俺が持つ数多の才能からしてもよく分かった。

 たった数ヶ月なのに、クラフト系の技術が恐ろしい事になっているため。

 以前いた世界ではまずあり得ない成長の仕方である。

 Lv2だと一流、Lv3だと超人だと言う。

 Lv5は?と聞くと、思い切り首を傾げられた。

 効率Lv5という才能を俺は持っているが、この言葉は封印しておこう。

 俺の成長の早さは間違いなくこれの影響だと思うので。


 問題は、そこにはない。

 異世界から来た人間である俺が異常な成長力を持っているのは別に不思議でも何でもない。

 そういう仕様だ。

 問題は、マリンちゃん達の成長が何故か著しいという件である。

 思い当たる節は一つ。


 才能:支援効果Lv1。


 何となく面白い効果を出してくれるかなと思って最後に取得した才能。

 それが、どうやら予想以上の効果を出している様だった。

 支援効果には、成長補正もあるということか。


「にくっ! にくっ!」


 新しい不思議(チート)発見を噛みしめていると、ビックスがウリ坊を棍棒でバシバシ殴りながら催促してきた。


「……ここで食うのか?」


「あったりまえだろ! にーちゃん、そのためにゆきねぇ連れてきたんだろ?」


「いや、そういう訳じゃ……」


「ようやく私の出番ですね~。お料理は久しぶりです~」


 ユキさんが待ってましたとばかりに前へと出てくる。

いくら新鮮とはいえ、生のまま猪の肉を食べる訳にもいかない。

 故に、ユキさんの魔法で焼く。

 その理屈は理解していたが、この時俺は失念していた。


「では~、いきますね~。ごにょごにょごにょごにょ……えいっ!」


 ユキさんは魔法制御の才能がないこと。

 ユキさんはお料理が下手なこと。

 ユキさんにも、きっちり支援効果の影響が出ていること。


「「「「「……あっ」」」」」


 結果、狩ったばかりの猪の子供は、一瞬で黒こげとなった。

 それは、まるでフレアという魔法を体現しているかのような灼熱の業火だった。


「あら~。ちょっと火が強すぎました~」


 ユキさんはただの火の玉(ファイアーボール)を出しただけなのに。

 猪は、体内に発生した業火に内側から焼き尽くされ、あっと言う間に灰と化した。

 咄嗟にタワーシールドの後ろに全員が隠れたのは言うまでもない。


「おれの、にく……」


 せめて猪の体内ではなく、少し離れた所に魔法を放ってくれれば無事な部分もあっただろうに。

 マリンちゃんの水弾(ウォーターバレット)が可愛いと思えるような威力の魔法だった。

 ユキさん……全力で魔法使ったら、戦術級もしくは戦略級の威力が出せるのでは……。

 怖いのでそれ以上は考えないようにする。


「ま、まぁ次を狩れば大丈夫だろう。気を取り直して次だ」


「にぃに、かえんせきもってきた?」


「……いや、ない。先に石取りするか」


「そのほーがいい。ねぇねのまほー、きけん。ごはんなくなる」


 むしろ俺が持っている才能:支援効果の方が遙かに危険な気もするが。

 マリンちゃんの水弾も、そのうちカノン砲みたいな超威力になってしまうのだろうか。

 この才能、超ヤバイ……。









 その後、何匹か巨大ウリ坊や巨大芋虫を狩った。

 流石にどのモンスターも大きすぎて持ち帰り不可能だったので、ウリ坊を一匹解体して荷車に乗せられるだけのせて運ぶ。

 放置した死体はすぐに他のモンスター達や動物達が臭いを嗅ぎつけて処理してくれるので問題ない。

 むしろ解体中にドバドバと溢れ出てくる血の臭いに引かれて集まってくる動物達の姿に、モンスターまで現れないか気が気ではなかったぐらいである。


 なお、モンスターというのは、やっぱりモンスターらしい。

 普通サイズの動物や虫もちゃんといるので、明らかにサイズが異なっていたらモンスター。

 遠目にこっちを眺めている小柄な動物達の中にヒョウっぽい獰猛な野獣も含まれていたが、モンスターではない。

 というか、ヒョウのモンスターとかって普通に死ねる。

 この辺りには出ないらしいのでちょっと安心。

 普通サイズのヒョウがいるだけで普通はかなり怖いと思うのに、巨大ウリ坊や巨大芋虫を見た後では随分と霞んで見える。

 すぐ側に同じネコ科であるミントちゃんがいるのも一役かっているだろう。


 ……いったい、どっちの足が速いんだろうな。

 この世界はまだまだ広そうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ