表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/35

ぷろろーぐ

 /0




 白い闇を切り裂いて、長く尾を引く星が流れていた。

 月明かりはとっくに雲に飲まれ、星の明かりも当然ない。

 なのに彗星は雲さえも貫いてその存在を世界に知らしめる。

 吹雪の夜に吐息が凍えた。

「――……」

 ぽつりと落ちる言葉は粉雪のように。

 風の音に飲まれて飛ばされて、もう既に何を言っているのか聞き取れない。

 腕の中の温もりはとても弱弱しい。今にも消えてしまいそうだ。この吹雪の中で蝋燭を立てるようなもの。冷たい風に容赦なく掻き消されてしまう。

 彼女が何を言ったのかは上手く聞き取れなかった。風の音がうるさいのもそうだったが、俺自身が白い息と共に吐き出す声もまた妨げになっていたのだ。口の動きだけは鮮明。だからこそその動きが少しずつ力を失くしていくのが解る。

「…………」

 そっ、と伸びた手が頬に触れた。驚くほどに冷たい。風に奪われてしまいそうな彼女の手を握る。そうしていないと直ぐに落ちてしまいそうだったからだ。とっくにこの環境で命を維持できるほどの体温が残っていない。

 終わりを、白い闇の中で理解した。

「――――」

 そうして。

 白くて深遠な闇が包む屋上に大きな光が降りてくる。

 彗星が、ちょうど頭上を飛来していく。雲を割って、煌々と世界を照らす。

 ずっとずっと遠い、眩い光の中――終わりは夢の始まりへ繋がって、フェンスで囲われたこの場所を、この街を、あらゆる思いを巻き込んで巡り出す。




 *



 彼女は街を愛した。

 街は彼女を愛した。

 だからこれは、小さな願いの物語。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ