犬と俺、探索記録
おもむろに鞄の中からぬるいサイダーが入ったペットボトルを出した。
ゴク…ゴクゴク…
炭酸が抜けているのでどんどん飲める、甘い、とにかく甘ったるい。
あまりに勢い良く口に運んだために、液体はボトボトと地面に落ちた。
俺は真夜中の公園で日中に購入したサイダーを飲んでいた。
空になったペットボトルを自動販売機の端にあるゴミ箱に投げた。
ペットボトルは“カコン”と音を立て、ゴミ箱に吸い込まれた。
束の間の幸福、しかし俺の苛立ちは止まなかった。
その感情には相応の経緯が存在する。
それはある意味ありがちだが、俺にとっては一大事だった。
今朝、散歩の途中に飼い犬が脱走した。
昨日奴にひどいことをした罰が当たったからだろうか。
俺は一日中、飼い犬を探しに街中を走り回っていた。
しかし、見つからないのだ!
早く見つけなければ!アイツは寂しさと虚無感で死んでしまう!!
アイツは俺がいなけりゃただ生きていくことさえ出来ないのだ!!!
俺は通りかかった奴らに、次々と“飼い犬を見なかったかどうか”を尋ね続けた。
彼らは俺に”種類、大きさ、色…”といった飼い犬の特徴を要求した。
俺は必死に飼い犬の特徴を洗い出し、彼らにそれを伝えた。
彼らはその特徴からイメージするものを、自らの記憶データベースと照合した。
そしてその結果を俺に返答した。
しかし、俺が尋ねた奴ら全員が、口を揃えてこう答えるのだ。
「それはあなたです」
唖然とした。
それはあなたです、つまり彼らは飼い主である俺の事を飼い犬だと言うのだ。
馬鹿にするな、こっちは飼い犬と出会ってからずっと飼い主をやっているのだ。
冗談のつもりなら、俺と飼い犬に全力で謝れ。
俺が彼らに伝えた飼い犬の特徴を確かめてみよう。
”雑種、小型、そして茶色い毛並み”
【確かに俺はハーフだし、身長低いし、茶髪だから、これら特徴には該当する】
しかし開口一番に”飼い犬を探している”、と言っているのだ!
今にも泣きそうな真剣な眼差しで話しかけているのだ!
憤怒し疲れきった俺は人に尋ねることを辞め、自分の足で走り回って、飼い犬を探し続けた。
誰にも関わらず、一つの目的に向かって本能の赴くまま走り回る姿はまるで犬のようだった。
しかし、その努力も報われることはなかった。
気がつけば、午後11時。
炭酸の抜けたぬるいサイダーはまずい。
覇気のない表情で公園の中央で立ちつくしていると、“カコン”という音が隅の方から聞こえた。
俺は無心でその場所へと走った。
そこにいたのは ”飼い犬” だった。
俺は飼い犬の胸に向かってダッシュした。
飼い犬はそれを受け止めるように、俺を抱き抱えた。
飼い犬も俺も目を充血させて泣いた。
そして互いが大きな存在であることを確認し合った。
俺は自身の傲慢さを反省した。
だからこれからは対等な関係でいようじゃないか、似た者同士として。
唯一無二の“友達同士”として。