何よりも優先するわけで。
「父さん、母さんは大丈夫だよね?」
開口一番にそう言ったのは、俺の子供の長男だった。
息子は不安気にこちらを眺めている。
俺も内心不安だった…いや、その不安もほぼ限界に達しそうになっていたが、それを表に出さない様に笑顔でソレに答える
「大丈夫だ、母さんは強いからな……大丈夫だ」
俺とローズの間に最初の子供が生まれてから5年が経っている。
俺の顔立ちは幼さ等無く、身体にも性別特有な肉の着き方になっている。
ちなみに俺はローグウッド程とは言わないが、筋肉質な身体つきになっており、シャロンとリリー的に言うと小さい時も良かったけれど、今の方がいいらしい。
リリーとは、シャロンの夫であるリーベルの愛称だ。
俺より年上なのだが、5年前と変わらずどこか幼さを持っている。
グラスランナーという種族は総じてそういう種族で、小さいらしい。
レギン達はあれから変わらずギルドマスターをやりながらメンバーの質を高めようと動いているようだ。
ホワイトウォルフ周辺といっても俺達が住んでいる東側だが、は討伐依頼は基本的にBランク以上のメンバーが活動している。
ジャイアントアメーバやゾンビ等は魔素の濃いこちら側にしか生息しないからだ。
その為ホワイトウォルフでは他所の土地よりも報酬の多いここへ来る人間が多い。
といっても、他の土地……カリブス王国等は人間至上主義の為、亜人種等はよりつかないので、あそこはあそこで独自のランクになっているみたいだが。
勝手にギルドの規定を弄ったりしてるせいで、レギンが苦言を漏らしていたのを覚えている。
シャロンはリリーとの子供が出来、そのままメンバーを引退今では主婦をしている。
ただ、子供も生まれ手隙な事が多くなったためか、ホワイトウォルフでの新人ギルドメンバーの講師等をやっているみたいだ。
一度だけ、彼女が新人に教えている所を見たが、俺を崇拝する様な事を言っていた為止めた事がある。
俺の力は基本的に秘密の為止めてもらいたい……
ローズは…半年ぐらい前から体調を崩し始め、今では立ち上がる事も出来ないぐらいに弱っている。
魔法で調べた所、内臓が弱っており、魔法で治そうとしても、まったく回復しなかった。
ただ、他の人間と比べても異常な程体内に魔素があり、原因は魔素を内包しすぎなのではないかと思っている。
だが、俺や子供達は魔石があるおかげで過剰分の魔素を追い出せるが、彼女にはそれがない。
どうすれば治るのかはわかるのに、彼女には治すための器官がないのだ。
それに、どうやら彼女がこうなってしまったのは俺のせいでもあるみたいで、俺の魔素を大量に含んだ精を幾度も受けた為こうなってしまった様なのだ。
その事を彼女に伝えた時、彼女はただ笑顔を浮かべただけで、俺は泣き崩れたのを今でも昨日の様に思い出す。
だが、解決する術がないからと諦めた訳じゃない。
魔石が彼女にあれば治るのだ。
彼女に魔石を埋め込む事が出来るかがわかれば、彼女の苦しみは無くなる。
その為、息子がローズを守りながら暮らせる様になれば旅に出ようと思っている。
そう、魔石を身体に作る方法……俺はソレを1つしか知らない。
爺さんが言っていた魔王を食べればいいのだ。
ただ、今魔王が何処にいるかはわからない。
一応レギンに強い魔物や人間や亜人を無差別に殺しまわってる奴は居ないか2ヶ月前ぐらいから探してもらってはいるが、情報は今の所皆無だ。
日々が過ぎていく毎にローズの体調は悪くなっていく。
そして、今に到る訳だが……
今の彼女の顔色は青紫に変色し、呼吸も弱い。
既に水さえ受け付けない程に弱ってしまっていた。
「ローラン、悪いが母さんを頼むぞ」
「え? と、父さん!?」
俺の我慢が限界に達し、情報が無くとも魔王を見つけ出すため、家を飛び出した瞬間、爺さんの声が聞こえた。
ここ数年は呼んでも返事が無かった奴が、今目の前に居た。
「久しぶりじゃのー……っと、どうやらまずい事になってるみたいだのう」
「まずい所じゃねーよ! 爺さん、魔王は何処にいる!? 俺みたいにあいつを食べればローズは助かるんだろ」
「……うん、それは無理じゃの。
まず、彼女にあ奴を食べる程もう体力は残されておらん、持って3日じゃ。
それと、魔王が転生してもう殺されておる手遅れじゃ」
爺さんの何時も通りの気が抜けてるような声を聞き、頭が真っ白になった。
「ふ…ふざけるなぁ! 今まで呼んでも返事寄越さなかった癖にもう魔王は殺されていない!? 手遅れだとっ!」
「ワシも何時も暇人って訳じゃあないんじゃ、タイミングが悪かったと諦めろ」
「諦められないからアンタの協力を請うたんだろうが!!」
「数回しか転生してない子供が調子のいい言ってんじゃない、いくらワシだって全知全能じゃないのだからの。
それに、その娘には事情があってワシでは手出しできんのじゃよ」
「その理由を言えよ! 何も知らされず手前ぇの気まぐれに付き合わされるのももうごめんだ!」
俺が叫ぶと、爺さんの顔つきが変わり爺さんの周囲から黒い闇が広がっていく。
その闇は禍々しい程に暗く、俺の身体が震えていくのがわかる。
少しでも気を抜けば簡単に俺は存在ごと消されてしまう……そう思えた。
「ほう……ならばどうする? お主如きでワシをどうにかできると思っておるのガハァッ!?」
爺さんが右手を俺に向けた瞬間、何時の間にか爺さんの隣に居た赤いナイトドレスを着た女性がハリセンを持ち、爺さんに向け振りぬいていた。
「ハイハーイストップストーップ。
ったく、ウチの馬鹿息子がごめんなさいね。
本当言葉を選ばない馬鹿で嫌になっちゃうわねぇ……
あ、私は貴方の祖母に当たる存在だと思ってくれればいいから」
爺さんにハリセンを叩いた後、俺へと身体を向けると女性はそう俺に告げた。
祖母にあたる存在……?
「……は?」
「うん、理解できてないかぁ……まぁ、簡単に言うとねぇ、血こそ繋がってないけど、この馬鹿息子は私の眷属で、貴方は馬鹿息子の眷属なのよ。
ちなみに、貴方の可愛い奥さんは私の眷属ね、まぁ、眷属と言っても、ほとんど力を上げてないから、貴方には遥かに劣るんだけどねぇ」
「な、なんで着いてきてるんですか!? 貴方は一応離れちゃいけない事になってるんですよ!」
あ、これ爺さんの素だ……
「私の可愛い眷属が馬鹿息子の眷属の性で命の危機に瀕してるし、アンタの眷属は助けてくれって騒いでいるんだもの、助けてあげようと思うのは当然の事でしょう?
それに、アンタだって助ける方法知ってるじゃない」
その言葉を聞き、爺さんへと顔を向けると、バツの悪そうな表情になる爺さんが居た。
「あ、えっと……ローズを助ける方法知っているんですか!?
お願いします!! 彼女が助かるなら何でもします! この命だって惜しみません!」
「その言葉に偽りは無いわね?」
その言葉に偽りなんてあるはずがない、ローズが助かるのならば、俺の命なんて塵芥みたいな物だ。
「はい!」
「……うん、いい返事ね。
簡単よ~、貴方の魔石を彼女の何処でもいい身体の何処かに乗せればいいだけ。
あ、触れさせるんじゃなくて、貴方の魔石を取り出して乗せないと駄目よ?」
自分の耳を疑う様な言葉を聞き、頭の中で反芻する。
俺の胸にある魔石を取り出し、彼女へと乗せる。
そんな簡単な事で彼女が助かるのかと。
「ただし、これをやると貴方は確実に死にます。
と言っても、貴方はまた転生できるのだからいいけどねぇ。
まったく……あの娘の魂をボロボロにするぐらいなんだからどんな阿呆かと思えば、とっても献身的でいい男じゃない。
どっかの馬鹿息子とは違って……ね」
「どう聞いてもワシの事じゃな……
ハァ……まぁ、どうするかはお主が決めるが良い、やった後に後悔してもワシは知らんぞ。
たまにはお主が置いていかれる身にもなってみるのもいいとはワシは思うがの」
爺さんはそう言っていたが、俺はもう既にどうするかを決めていた。
いや、元から選択肢なんて無かったのだ。
「ああ、爺さん突っかかって悪かった。
それと、えっと……」
「そうね、バルドベルドとでも呼んで頂戴」
「はい、バルドベルド様ありがとうございました」
「うんうん、あんないい娘離しちゃ駄目よ?」
無言で二人に頷く。
そして顔を上げて少しした後、自宅の扉を勢いよく開ける音が聞こえた。
「お、お父さん! お母さんが…」
悲痛な表情を浮かべたローランを見て、もう時間が無いことを悟る。
「ああ、もう大丈夫だ、母さんは助かるよ」
そう伝え、胸にある魔石を掴みながら彼女を助ける為に家の中へと入った。