やってしまったわけで。
昨日、ローグウッドがギルド職員の女性と婚約、セリーア《レーナ》の妊娠がホワイトウォルフ内で発表された。
というか、宴をやるので来れる人達は全員出席しろとレギンから召集を受けて、その際に発表された。
久しぶりにホワイトウォルフの人達と話をしてた時にそんな事を発表されたので、滅茶苦茶驚いた……
じゃあ、お祝いを渡そうにも何もないので、それも悪いと思い、研究所兼自宅にある、新種の果実から作った果実酒をレギンとローグウッドに贈呈する事にしたんだ。
まぁ、贈呈したといっても、直径1メートルにも満たない位の小さめの樽を1つずつとかだったが。
それ以外にもかなりの量を作ってあったので、それは村人全員に寄付というか、その場で飲み明かした……所までは記憶にあるんだ。
今現在、俺はローズの寝室に全裸で土下座している。
勿論ローズが居るベッドに向けてだ、蛇足だが彼女はシーツで体を隠してはいるが全裸である。
事実だけを述べるならば、間違いなく俺は彼女を襲ったという事なんだろう、物理的な意味ではなく、性的な意味で……
自分自身で思う最低だ……と、最近の彼女は俺の事を憎らしく思ってはいなかっただろう。けれど、これは最低だ。
覚醒後、彼女に向けた第一声は「申し訳ありませんでした!」と言ったが、そんな言葉で許してもらえるとは到底思ってもいないし、償う方法も全く思いつかない。
ギルドメンバーが犯罪を犯した場合、基本的には腕一本切り落とすか、被害者が求めるならば死罪、被害者が既に居ない場合は問答無用で死罪と決められている。
だからなんだと言う訳ではない…というか、俺はこの後レギンに罪を告発して死罪にしてもらおうという事しか頭に無い。
「あ、あの…ラフィさん、顔を上げてください」
「酒に酔ったせいとは言え、貴女に向けた仕打ち、到底償う事等できません、この後ギルドマスターにこの事を告げて、自分は死罪にしてもらう様伝えます。
勿論、それが他の者に伝わらない様にギルドマスターには伝えますし、貴女の醜聞には成らぬ様にします故!」
「死!? そ、そんな事しなくても構いません、確かに最初は驚きましたけど、私も覚悟していましたから」
「いえ、例えそうだとしても罪は罪、自分が貴女に行った事は事実であり、それ相応の償いはしなくては……」
「そ、それでしたら! 私を……守ってください、私が死ぬまで私と共に居てください」
「……わかりました、自分は貴女を一生見守る事を命に変えて誓います」
俺が彼女を見守る事を誓う事を告げると、彼女から嘆息が一つ零れた。
「しかし、自分が罪を犯した事は事実です、これはギルドマスターへ告げ…」
「そ、それはもういいですから! それに、もらうならば、償いなんかより、皆からの祝福がいいです……」
ローズが照れた様な声色でそう告げると、反射で顔を上げた。
彼女の表情は戸惑いもあるが、それは何処か嬉しそうに顔を赤らめ笑顔をこちらを見ていた。
その表情に見惚れ、しかし…と自分自身が行った事を思い出して自己嫌悪に陥る。
「ラフィさん」
「は、はい!」
「……貴女が助けに来てくれた時はあんな態度を取っていて、今更こんな事を言うのもなんですが……貴方をお慕いしております。
これからもずっと貴方の一番近くで愛してもよろしいですか?」
彼女の言葉に俺の心は歓喜に沸いたが、告白までも彼女にさせてしまい、軽く自己嫌悪に陥った。
けれど、それもこれまでの事だ。
すぐに、頭の中を切り替える。
「自分も、貴女をずっと愛しておりました……情け無い自分ですが……それでも良いと言うのならば、自分の隣に居てください」
彼女の目を見て、告げると…彼女は嬉しそうに目を細め、満面の笑顔で「はい」と答えてくれた。
俺とローズが朝の支度を終え、彼女の両親と共に朝食を済ました後、彼女の両親に婚約する事を告げた。
さすがに、少し真実を隠したが、二人は俺たちの事を祝福してくれた。
軽く罪悪感を感じたが、自業自得な事なのだが。
その後、彼女と共にギルドへと送り届けると。
中では、レギンとレーナがニコニコと笑顔で俺たちを出迎えた。
何か不穏な空気を感じ、警戒し始めたとほぼ同時に。
「昨夜はお楽しみでしたね」
と、レギンが俺達二人へと告げた。
ローズは咽たが、俺はというと……気が付けば何故か土下座をしていた。
レギンは「ほーらね? 僕の言ったとおりでしょ?」と周囲に聞こえる様に言い。
セリーアは「ローズさんおめでとうございます」と彼女へ祝福の言葉を送っていた。
他の場所では阿鼻叫喚の絵図で笑いながら金を受け取ってる者、悲鳴を上げながら金を投げつけている者達が居る。
「おい……」
「ん? どうしたのラフィ」
「なんだこれは……」
「えーとねぇ、昨日ラフィとローズさんが結ばれるか賭けをしてたんだー。
ちなみに、神様は実況していたから僕とレーナは全部知ってます」
前半は皆に聞こえるように、後半は俺にだけ聞こえる様に喋ったレギンの言葉に、顔をギョッとさせ、レギンの顔を見た。
「まぁ、彼女は納得してる訳だし~ 何かを言うつもりはないけど……今回だけだよ?」
その時のレギンの表情を俺は死んでも忘れないだろう……笑顔なのに目が笑ってなく、背後には鬼が立っている様に見えたのだから。
頭だけをカクカクと揺らして、レギンに伝えると。
「うん、わかったならいいんだ~」
と、さっきの雰囲気が嘘の様な笑顔に変わった。
「ラフィ、ローズさんとお幸せにね、おめでとう」
「あ、ああ…ありがとう」
ちなみに、シャロンは絶叫しながらお金をバラマキ、その横でお金を受け取りながら、笑顔で踊っているミコスも居た。
シャロンは幾ら賭けていたんだろうか……少しだけ気になった。