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転生ルーレット  作者: 秋葉 節子
転生五回目
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色々と聞くのを忘れてたわけで。

 「これが最近見つけた薬草で作った茶です。口に合うといいのですが」


研究の息抜きにと作ったお茶を彼女へ出し、彼女が座る席の反対側へと腰を降ろした。

いかん、一体何を話せばいいんだ? えーと……前世の事? 態度が変わった事?

ああ、茶葉の事とか教えた方がいいだろうか!?

ちなみに、この茶葉は森を調査している時に見つけた香草で、香りがとても良かったので茶葉にできたらうまいのではないかと考えて作ってみた。

それが予想以上に良くできたのだ。

ただ、量が少ないので自分と身近な数人にしかだせないのが残念だなぁと思う。

まぁ、無いものはしょうがない、このハーブの育成方法や、魔法を使わずに茶葉を作れる方法を模索しよう。


「あ……いい香りですね、それにとても綺麗な赤色……なんていう薬草なんですか?」


「いえ、それは偶然見つけた物でして、ホワイトウォルフ内にも情報が無かった為、私達が知らない薬草だと思います。

 調べた限りでは毒はありませんでしたので」


「こんないい香りなのですから、毒なんてあるとは思いませんよ。

 ……それに、味もいままで味わった事のない味わいでおいしいですし、それに飲むと心が落ち着くような気がします

 仄かにする甘味と酸味もいいですね……」


「元々はもっと酸味が強いんですけどね、蜂の蜜を混ぜて飲むとかなり飲みやすくておいしかったんですよ。

 今ローズさんが飲んでいるのにも蜂の蜜を入れてあります」


「へぇ……そうなのですか、とてもおいしいです」


カップを両手で持ちながら、優しげな笑みを浮かべているローズを見ていると、色々な欲が湧き上がってくる。

しかしだ、距離がいまいち掴めない今、彼女に近づいていこうとすればどうなるか考えると二の足を踏んでしまう。

いや、逆にがっつきすぎな気も……


 それから何か話すか悩んでいる間に時間は経っていき、彼女はそろそろ戻る事を俺に告げてきた。

ヘタれすぎる自分に自己嫌悪しながらも、笑顔で了承の意を告げて、席を立ち、家の扉を開ける。


「何か忘れ物等はありませんか?」


彼女に問うと、静かに首を横に振り、大丈夫だと告げた。


「では、行きましょうか」


手荷物はほとんど無い為、そのままホワイトウォルフへと向かう。

彼女は俺の数歩後ろを静かに歩いて着いてくるのを確認して、前に視線を向けながら彼女の態度が何故こうも緩和したのかを考えていた。


 彼女の態度が変わったとわかったのは、俺がホワイトウォルフを出た日だ。

ならば、彼女が俺への態度を変えたのはその日かそれ以前という事になる。

一体いつだろうか、それ以前の日の記憶を思い出そうとした時、どうやら邪魔者が現れたようだった。

右手側の森から、草を掻き分ける音と何かを引き摺ったかの様な音が聞こえてきたからだ。


「な、なに?」


ローズも音に気付いたようで、そちらへと意識を向けている。

ふむ……新種のモンスターは知識も発達しているのかもしれない。

森から出てきたのは、足を引き摺りながら歩いている3匹のゾンビだった。

それと、後方から酸を吐く蟲型のモンスターの気配もあった。

故意が偶然かわからないが、挟撃に近い襲撃となったな。


 後方にもモンスターが入るのに気付けば無駄に脅えさせると考え、先に後方の蟻を魔法で消す、視認はしていない為倒せたかわからないが、気配がその場から動くことが無い為無力化には成功したようだ。

彼女を送った帰りにまだ身体があるなら持ち帰って研究でもしたいものだ。

 次に、森から出てきたゾンビを見る、肉体の損傷はそこまで酷くはないが、所々肉体が腐っており、引き摺っている足は膝から下がほぼ白骨となっていた。

そのおかげかゾンビの動きは恐ろしく緩慢で彼女でも逃げるのは楽だと思われた。

まぁ、そんな事はどうでもいい、今は彼女を早く安心させる事だ。

爆散とかの方が核だけを狙うより楽だが、そうなると彼女の精神が苦痛を感じるだろうと考え、なるべくショックを受けないよう、ゾンビの身体にある核だけを破壊した。

魔法が使える為か、ゾンビの核がどこにあるのかが目に見える様にわかった。


「よし、もう大丈夫ですよ。

 無事倒す事ができましたね、立ち止まっているとまた別のモンスターが寄って来る前に行きましょう」


「え? ……あ、いつのまに……」


時間としては5秒も掛かっていなかったため、いつ倒したのかもわからないといった風の表情で彼女は俺を見つめてきた。

それだけで、俺の身体が歓喜に騒ぐのだから、末期だなと1人苦笑が漏れた。


「ええ、ローズさんをあまり脅えさせないようにすばやく済ませていただきました」


「はい、あの……ありがとうございます」


「いえいえ、当然の事ですよ」


「あの! 今回の事だけじゃないんです……今まで酷い態度を取っていましたし……それに、初めて会った日もあんな酷い事言いました……」


まさか今の彼女からそんな言葉が返ってくるなんて思いもしなかった。

呆けていると、ローズは俺が悪感情を持っているのかと勘違いしたのか、立ち止まり俯いてしまった。


「あ~いえ、怒ってる訳じゃないんです、ローズさんにも何か事情があったのでしょうし」


「で、ですがそれは私の身勝手な事でしたし……まるで手の平を引っ繰り返すような態度で、自分でも最低だなって思います……」


え、えーとこんな時ってどうすればいいの?

仕舞いには彼女が泣き出してしまい、俺が一人あたふたと慌てていた。

傍から見れば俺がローズを泣かしているような図だ……

どう返せばいいのか混乱していると、ゾンビ達に引き寄せられたのか、モンスターが数匹近寄ってくる気配がした。

次から次に問題が向かってきてそろそろ俺の頭も許容範囲外になりそうだったので、彼女に謝りながら横抱きさせてもらう。

ローズが軽く悲鳴を上げていたが、お構い無しに魔法で飛び、ホワイトウォルフへと目指した。

道中、彼女が状況を理解して顔を真っ赤にしながら暴れたのは蛇足だろう。

普通に男性嫌いと公言しているし、それで横抱きにさせられてるんだ嫌なのは我慢してもらおう。




 ホワイトウォルフの城壁へと到着し、彼女を地面に立たせる。

よっぽど嫌だったのだろう、彼女の腰が抜けたように、立つ事ができず地面へと座り込んでしまった。

いくらあの状況でモンスターの相手をするのが面倒だったからといって、彼女には酷だったのだろうと反省していると、レーナルがやや慌てたようにこちらへと駆けてきた。


「どうしたんだ!? 彼女はギルドの職員だったよな、あっちで何か問題でもあったのか?」


「んにゃ、ミコス達は依頼後ギルドマスターに呼ばれていたらしくてな、俺が彼女を送るからと先に帰らせたんだ。

 で、ローズさんは俺が飛んで送ったというわけだな」


「問題ないのなら良かった、しかしまだミコス達のメンバーは到着してないぞ?」


「ああ、そりゃそうだ、道中モンスターと戦っているのが見えたからな」


俺が笑ってそう言うと、レーナルは呆れた様に「手伝ってやれよ……」と聞こえたが、彼女が泣いてたし急いでいたのだからしょうがない。

それに、一応数匹は俺が倒しておいたし、ちゃんと手伝ってはいたさ!




 レーナルと俺が世間話をしていると、ようやくローズも落ち着いたのか立ち上がったのが見えた。


「あ、ローズさんもう大丈夫ですか? 先ほどは返答を聞かずに運んでしまってすいません。

 他のモンスターが近づいて居た為、申し訳ありませんが自己判断であの様にさせていただきました」


「へ? あ!! いえ……だ、大丈夫です……」


ローズが先ほどの事を思い出して俯いてしまった、やはり嫌だったんだろうか。


「ほう……セラフィは彼女にどんな魔法を使ったんだ?」


レーナルが彼女を見た後、俺に視線を向けニヤニヤしながらそんな事を聞いてきた。


「人聞きの悪いこと言うなよ……俺は何もしてねーよ、むしろ俺が教えてほしいぐらいだ。

 前みたいに拒絶はされてないから嬉しいけどな……」


レーナルに向けてそう言うと、レーナルは「本人の前で言うことじゃねーだろ」とカラカラと笑いながら俺の背中を叩いてきた。

確かにレーナルの言うとおりだと彼女の姿を見ると、視線が腹に言っているんじゃないかと思うぐらいの角度で俯いていた、ついでに見える範囲の肌が真っ赤になっている。

照れているんだろうか? 照れているのか怒ってるのかわからないけれど、こういう彼女の姿を見ているとニヤニヤしてくるのだから困る。


「セラフィ……お前は変態みたいだな……」


「んな!? レーナルなんて事を言うんだ、俺は変態なんかじゃないぞ! むしろ変態は……」


「セエエエラアアアアフィイイイサアアアアマアアアアアア!!」


「……あいつの事を言うと思うんだ……」


「ああ、うん……すまん……」


土埃を立てながらシャロンが走ってくるのが見える。

本来ならばミコスの方がスピード面で見ても速いというのに、シャロンがそのスピードを軽く凌駕して走っている。


「なんだあのスピードは……俺の全速力よりはえーぞ……」


「まぁ……うん、セラフィ頑張れ……」


数秒前まで地平線のあたりにしか見えなかったというのに俺とレーナルが呆気に取られている間に城門をくぐり、俺の足元まで来ていた。


「ゼー・・・・・・セ、ハァー……セラフィ…ゼェ……さま…先ほどは、ゼェ…ゼェー…助けていただ…き……ありが、ゼェ…とうござい……ハァ、ました。

 

まるで戦場帰りの様に顔や衣服が土に汚れ、恐ろしいスピードで駆けたせいか、髪の毛は所々で跳ね返り、酸欠の為頭から血の気が引いており、まるで幽鬼のような表情でこちらを見ているシャロンが足元に居た。


「っ……!」


あ、あぶねぇ……今一瞬魔法で殺しかけたぞ……

俺を見るシャロンの視線が滅茶苦茶怖かった! いや本当に。


「ふぁ……今のセラフィさまの表情が……た、堪らない……グハァッ」


シャロンが恍惚とした表情を浮かべた瞬間、盛大に血を口と鼻から噴出し、倒れた……

数秒程、時間が止まった気がしたのは気のせいじゃないと思うんだ。


「コレどうする……?」


「セラフィが来る前はこんなんじゃなかったのになぁ……」


「レーナルそんな遠い目をしないでくれ、俺のせいじゃないというのに罪悪感に襲われるから……」


レーナルは原因はあるだろうと突っ込んできたが、ローズがこの状況に対して大丈夫が心配になりそちらに視線を向けると。


「え、えーと……彼女、だ、大丈夫でしょうか……?」


状況を飲み込めてはいないが、ただたんにシャロンの心配をしていた。

俺達3人が、シャロンをどうするか途方に暮れていると、息を切らしてミコスが追いついてきた。


「ニャ、ニャニ事ですか!? も、もしかして……セラフィさん……」


「俺じゃねーよ、勝手に吐血して倒れたんだよ……」


額に手を当てて、ミコスへと弁明する、いやまぁ、こんなのは初めてだが、シャロンの行動を常に見てきた彼女だから信じてくれるだろう……

これがシャロンを知らない人だったならばわからなかったが。

俺の片足に縋り付く様に倒れ付して血溜りができているんだからな……


「ニャーそうですよねぇ……じゃあ、シャロンさんは私が責任をもってギルドにお送りしますニャ」


頭の猫耳と胸を張り、そういう彼女がシャロンの脇を持ち引き摺っていくのを確認し、見えなくなった頃、俺も彼女をギルドに送らねばと気付き、彼女へと視線を向けた。


「じゃあ、私達もギルドへ行きましょうか?」


「あ、はい……あ、けどもう一人でも帰れますから大丈夫ですよ?」


彼女が善意でそう言ってるとは思うのだが、やはり頼られないというのは悲しいものがある。


「まぁ、レギンに会いに行くし気にしないでください、じゃあ、ネーナル俺達も行くから、仕事終わったら酒でも飲もうぜ」


「お、いいな! じゃあ仕事終わればギルドに向かうわ」


レーナルの言葉に相槌を打ち、彼女と共にギルドへと向かった。

道中はやはり会話らしい会話もなく、とても奇妙な雰囲気が流れていた。

その微妙な空気のままギルドの中へと入り、レギンに俺が来ている事を伝える様に彼女へと伝言を頼み、別れた。




 30分程待っていると、レギンがこちらへと来て、俺の向かい側へと席を降ろす。

待っている間にシャロンが来たり、2ヶ月前の襲撃の際に俺を見た奴等が陰でコソコソと言っていたりと若干邪魔臭かったが。


「やぁ、ラフィ直接会うのは2ヶ月ぶりぐらいかな?」


「ああ、それぐらいだな」


俺とレギンが笑顔で挨拶していると、陰でコソコソ囁いていた奴等が若干ざわついた気配がこちらにまで流れてきた。

その気配に嘆息を漏らし、とりあえず研究内容の報告書についての補足や主観等を伝えていく。


「ふむ……聞いたかぎりだと、現時点でのメンバーの強さを考えると、スケルトンがCランク、ゾンビとジャイアントアメーバがBランク、ブラッディアメーバがAランクといった感じかな?

 ただ、ゾンビとスケルトンは群れている事が多そうだね、依頼としてはBとAランク辺りかなぁ……

 それと酸を吐く蟲型のと大きな火を吐くトカゲはどうしようか?」


「んー……蟲型とトカゲはブラッディアメーバ以上に注意が必要だと思うぞ。

 蟲型は胸より少し下のあたりに強力な酸が詰まっている内臓があったし、トカゲはわからないが、胴体のどこかに強力な発火性のある油が詰まっているのを確認済みだ。

 蟲型は腕が四本ある上に普通の人間よりも遥かに強靭な筋力を持っていて、動きも素早いし、尚且つ身体も硬くできている。

 あの皮膚は皮鎧みたいに使えるかもしれないな、見かけたら調べてみるよ。

 トカゲの方も動きこそ遅いが、顎の力が強いだろう、身体も2メートル近い、地面に這い蹲っているように動くから倒すのも大変だと思うぞ。

 ランク的にはAからSの間ぐらいじゃないか?」


「そうかぁ……やっぱり全体的なランクの見直しが必要かもしれないね、既に高ランクのメンバー達には現ランクを落とすかは自己申告してもらうとして。

 低ランクのメンバーのランクアップの難易度をあげてバランスを取ろうと思う」


「それじゃあ、自己意識の高いやつは実力を見誤ってギルドの信頼が落ちるんじゃないか?」


「んー……そうなんだよねぇ……ただ、この2ヶ月の間新種のモンスターが見つかっているのはここから東の場所だけだし。

 たぶん大丈夫じゃないかな? まぁ、なるようにしかならないだろうし」


「ふむ、どっちにしろもっと研究が必要だな」


「そうだね、じゃあ仕事の話はこれぐらいにして、再開を祝して乾杯でもしよっか?」


普段から浮かべている笑顔を一層深めて嬉しそうにレギンがそう言うが。


「お前まだ仕事中だろうが……」


「大丈夫だよぉ、セレニアに任せてあるから!」


呆れて嘆息が漏れるが、レギンは既に飲む気のようで、というかだ、俺が嘆息漏らすのと同時にコトンとシャロンが4人分の酒をテーブルへと置いていた。

テーブルを挟んだシャロンの反対側からはつまみを大皿に載せて運びテーブルの中央へと置いている。


「ったく……用意の良いことで……」


「いいじゃないいじゃない、久しぶりなんだしぃ、楽しもうよ~」


2ヶ月の殆どを1人で居た為、こうやって囲んで食事をするのは楽しいんだがな……

時刻はまだ昼下がり頃なのだ、飲む時間ではまだ無いだろうと、1人つぶやいた。


夕方が過ぎた頃レーナルや依頼を終えて帰ってきたクック達も合流して宴会のように騒ぎ倒した。




 家に帰り、レギンにローズの態度について聞こうとしたのを思い出したのは寝台の上に横になってからだった。

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