なんか態度が激変しているわけで。
俺がホワイトウォルフを出て2ヶ月程が経った。
その間、この周辺に出るようになった新種のモンスターの研究と、俺が生まれた村で起こっていた毒についての疫病の調査をしていた。
この2ヶ月でわかった事は。
ジャイアントアメーバの生態と対策、動く死体の生まれ方と対策ぐらいだろうか。
まず、ジャイアントアメーバについてだが。
魔素が結晶化した核と中心にゲル状の液体を纏った姿をしており。
川の水を吸収した場合は青色をしている。
また、極稀に赤い色をしたジャイアントアメーバも確認した、というか、動物や人間の血液を吸収したジャイアントアメーバが赤い固体だった。
強弱の差はないのだが赤い固体の方が何故か酸が強力だった。
それと、彼らは一度色を変えると液体の色を変えることはできないようだ。
それと食料も違うようで、青い固体は水等の純粋な水分なのだが、赤い固体は血液しか吸収しない事がわかった。
区別するため、青い固体を『ジャイアントアメーバ』、赤い固体を『ブラッディアメーバ』と名づけた。
対策としては、素早く体内にある核を素早く割る事だろう。
ブラッディアメーバの酸はゆっくりではあるけれど、鉄を溶かす程の強力な酸の為、脆い武器だったりすると簡単に溶けてしまうかもしれない。
それだけでなく、ジャイアントアメーバよりも液体が粘着質な為スピードの乗らない攻撃を繰り出した場合、武器を絡め取られる可能性もある為ジャイアントアメーバよりも遥かに強力だと思われる。。
それと、それなりの大きさの火も苦手な様に思える、これについては要検証だろう。
次に動く死体についての考察だ。
動く死体は、人間の死体に魔素が結晶化した核を体に埋め込まれていた。
どういう経緯でこうなったのかはわからないが、俺の予想ではこの動く死体達は今世の生まれ故郷やその周辺地域から生まれたんだろう。
こいつらは脳のリミッターが外れてるのか、普通の人間よりも遥かに強い力を持っていた。
ただ、バランス感覚がおかしいのか、走ろうとすると転倒をしていたので、逃げるのはそこまで難しくないだろう。
感染等は起きないのかと実験したくもなったが、この周辺は生きている人間はホワイトウォルフよりも西側じゃないといないので盗賊達や依頼に出るような人間がいないので、今のところは諦めている。
この動く死体の倒し方だが、核を壊さない限り腕が飛ぼうが首が飛ぼうが動き続ける。
その為、動く死体を倒すには核を発見して壊す必要がある。
それと、ゲームの様に火に弱いと思ったのだが、火を纏いながら動いており、危険度が増したのには少々あせった。
ただ火が核を壊すだけの火力ならば問題なく倒せるようだ。
それと、動く死体の肉が腐り落ちて骨だけになると動く人骨になっていた。
人骨の場合は動く死体と違いどこに核があるかがわかりやすいので倒すのは動く死体よりは楽だろう。
それに筋肉が無い為か力も成人男性よりも基本的に劣っていたので、核さえ見つけてしまえば新人メンバーでも苦労はしないと思われる。
ギルドには動く死体を『ゾンビ』、動く人骨を『スケルトン』と名づけて提出する事にした。
この新種のモンスター達の発生は魔素に関係があるのは、ほぼ間違いないと思う。
つまりだ、原因は爺さんにあるという事で間違いないだろう。
今後は別の新種の虫型モンスターと火を噴く大きなトカゲの研究を進めようと思う。
ただ、この2体は個体数が少ないのか、あの襲撃の日以来見かけないのが残念である。
まぁ、そんな事よりも、俺は今とても面倒な事態に巻き込まれかけている。
ホワイトウォルフを出たときは今回はローズと恋仲になれないだけでなく、滅茶苦茶拒否されるわで落ち込みまくっていたわけだったのだが。
なにがどうしてこうなったのかわからないが、今俺の目の前ではローズとシャロンがキャットファイトよろしく肉体言語を混ぜながら大口論している。
いや、さすがにシャロンは本気で手を出している訳ではないけれど……髪の毛を引っ張ったり服を引っ張るのは良くないと思うんだけどなぁ……
どうしてこうなった? 誰かわかる人いたら教えてください!!
確か今日は半月に一度の食料をギルドが配達してくれる日のはずだった。
前回まではシャロンとミコス達が指揮しながらギルドの職員を伴って牛車で届けてくれた。
そんでもって、次にくる時は新種モンスターについての報告書等を出すとギルド職員に伝えたのだ。
そして今日、来たのがなぜか一般人であるローズとシャロンとミコス、残りは数名のメンバーだった。
若干慌てながらもミコスへと話を聞いてみた所、ローズは何故かギルドの職員として今は働いているらしい。
尚且つ、ここへの配達する物資を纏めた書類の作成等の責任者で、主にここへの配達関係が仕事らしい。
つまりはだ、彼女は俺専用の配達員兼連絡員みたいなものらしい。
彼女が俺を嫌ってないならいいのだけれど、今回は俺への拒絶っぷりが半端ない訳だし。
嫌われているというのに彼女へのこの仕打ち……レギンは俺に嫌われてほしいのか?
折角断腸の思いで関係を断ち切ろうとしたというのに!
気付けば目の前にローズさんが居たとか、俺はどうしろと言うんじゃあああ!!
あ、それと人間って心の底から吃驚すると本当にフリーズするんだとわかりました。
話を戻そう。
それが何故、ローズとシャロンが喧嘩しているのかと言うとだ。
まぁ、これが一番驚いた事なんだけれど……何故か俺への対応が劇的に緩和されたローズさんにシャロンが噛み付いた。と言うのが一番正しい表現ではないかと思った。
だって、第一声が「お久しぶりです、ホワイトウォルフに住む皆を守ってくれていつもありがとうございます」とか言ってきたんですよ!
俺じゃなくてもこの態度の変化は吃驚するわ!
んでまぁ、緊張しているのか所々どもったり、噛んだりしてはいたが、俺と仲良くしたい様な雰囲気を感じられて自然と俺の表情が緩んでいく訳だ。
そして、その俺の表情とぎこちなくも弾む会話を聞いたシャロンが「この泥棒猫!!」と叫んで喧嘩が始まった。
喧嘩を何故止めないかって? 止めようとしたぞ! けど、女性二人の迫力に負けましたはい。
情けないって思うだろうけど、男ってこんな時オロオロするもんじゃない?
「ミコス……これ、どうしよう」
「ニャーこまりました。このあとシャロンさんはギルドマスターによばれているというのにー」
どうしてだろう、全然困った風に聞こえない……
レギンがシャロンを呼んでいる? ふむ……ミコスはわざと情報を提供したんだろう。
本人が言わないのは、俺が言った方が効率的だからだと思われる。
「あー…シャロン……」
「ちょっと!離しなさいよ! ……はい、ラフィさんなんでしょうか!?」
「ギルドマスターから呼ばれてるらしいな、ローズさんは俺が責任を持って送るから急いで行くといい」
「そんなっ!? そ、それならば今から帰るので問題ありません、ラフィさんにお手を煩わせる訳には行きません!!」
「いやいや、前回は少なくとも1時間の休憩は入れていただろう。
シャロン達には大丈夫でも、体を鍛えていないアプローズさんでは大変だと思うぞ。
それに、俺も久しぶりにホワイトウォルフに行きたいしな」
「で、ですが! 二人なんかにしたら……この泥棒猫が何をしでかすか……ぁっ……」
若干慌てた風にシャロンは異議を唱えているが、その直後失言したと思ったのだろう、顔を顰めてそれから顔を俯けてしまった。
「いくら顔見知りだとしてもだ、護衛対象に対してそのような言動は見過ごせないな。
例え、それが知り合いだからと行ってもだ、君はまだ仕事中でそこに私事を入れるのは良いとは言えないね。
シャロンは確かに実力は優秀だけれど、俺の事になった途端冷静さを失うのは良くないと思うよ。
一応その事も含めてギルドマスターへ俺が伝えておく、君はミコスと一緒に戻りなさい。
ローズさん、申し訳ないがそれでも構わないでしょうか?」
「え? え? あ、はい! そ、それで構いません……」
顔をキョロキョロを見渡した後、顔を俯けて尻すぼみになりながらもそう答えた彼女を見て、悶絶しそうになるのを抑えた。
シャロンはまだ何か言いたそうな顔をしていたが、ミコスに引きづられるように帰っていった。
ついでに、食料等を乗せていた牛車と一緒に。
食料は既に俺が魔法で倉庫へと転移済みだ。
シャロン達を見送った後、ローズへと体を向ける。
「さて、ここまで来るのも大変だったでしょう。
良ければ中でお茶でもどうですか? 最近見つけた香りの良い薬草で作ったお茶もありますので」
いまだに俯いたままの彼女を放っておく事もできなかったので、なるべく了承しやすいように対応して声をかけると。
「……え? あ、はい! そうさせていただきます」
家の扉を開けて、彼女を誘導して家へと招待する、少し間が空いたが、彼女はゆっくりとした足取りで俺の家へと入ってきた。
少し前ではまったく想像もできなかった事だ。
一体何があって彼女の態度は激変したというのだろう?
気にはなるが、万が一それが地雷で修復不可能なまでに嫌われたと思うと聞くに聞けなかった。
というかだ……俺ここまで臆病だったか……?
まぁ、本人に聞くのが一番なんだろうけど、レギン辺りに聞いてみるのもいいかもしれないか。