街から出たわけで。
「これが……彼の…ですか……?」
「ええ、貴女の仰った特徴に間違いが無ければほぼ間違いなく」
「そう…ですか……」
襲撃から明けた翌日、依頼人であるヘルミナさんに元村の現状、帰り道の際に遭遇した怪物、それと……怪物の中で死んでいた青年の事を伝え、その遺髪を渡した。
彼女が言っていた青年があの死体が絶対だとは言えないにしても確率はかなり高いだろう。
今の彼女に何かを言ったとしても、たぶん無駄な事だろうと考え、彼女と別れる事にした。
ホワイトウォルフが襲撃されたあの後、レギンと合流した頃にはレギン達も粗方倒し終わっていたので、俺が何かをする事は無かった。
まぁ、あったとしてもすぐに終わっていたと思うが。
その後ギルド本部でレーナルを初めとした守備隊の隊長達、ホワイトウォルフの町長等の幹部が集まり話し合いが行われた。
まず、ホワイトウォルフ内での被害はほぼゼロと言っても良い程だったが、人の被害は大きかった。
Sランクメンバーの被害こそ無かったが、Aランク以下のメンバー約半数、東門守備隊の4割が負傷、別に約3割が死亡らしかった。
また、負傷者の内7割は再起不能な程の怪我を受けており、実質ホワイトウォルフの東門守備隊の戦力は激減してしまった。
それに、守備隊だけでなくギルドメンバーの戦力も激減してしまった。
戦場に出たCランクメンバーに至っては全滅と言っても良いほどだった。
話し合いの結果、再起不能となった守備隊、メンバーの一部は村とギルドで援助を行うことになった。
それと、ギルドランクの見直しや守備隊とメンバーでの伝達をスムーズにする為のシステムの作成等行った。
一部の人間はメンバーの発言力が大きくなる事にいい顔をしない者も居たが、それ以上に外敵の脅威を感じた者達が居た為、そこまでの問題になる事は無かったが。
メンバーランクの見直しは現メンバーのランクはそのまま据え置きとし、新しくランクを上げる場合は以前よりもかなり厳しくする事となった。
それと、守備隊とメンバーの戦力が復旧するまでの東門の戦力をどうするか等の話し合いも行った。
結果だけを言うと、俺の住む場所がホワイトウォルフから出て、東門から1時間程歩いた先にある森の入り口付近で暮らしながら警戒する事となった。
これについては俺自身が提案した事なので、対して問題にもならなかったし、レギンはいい顔をしなかったが、他のAランク以下の俺の力を知らないメンバーや街の幹部達は喜んで賛成していた。
ローズとも距離を置いた方がいいのではと思っていたので、これで好かったと思うことにした。
ヘルミナと別れ、ギルドから報酬を受け取った後、済んでいた家から家具を魔法で引越し先へと運んでから東門へと歩いていく。
川を渡たり、ゴンドラを降りると、住民達が居る中で、正面にローズの姿が居る事に気付いた。
彼女は珍しく俺の方を見つめていて、何か用なのかと考えたが、話しかけた場合のダメージを考えて軽く挨拶だけ済ませて、門を抜けようと考えた。
「こんにちわ、ローズさん」
「……こんにちわ」
ぎこちない挨拶だったけれど、初めてまともな返答をくれた事に内心途惑ったが、表に出さない様に気をつけて彼女の横を通り過ぎる。
「あ、あの!」
彼女が俺に声を掛けてきたのは初めての事だった。
嬉しい気持ちが表に出ない様に抑えながら彼女の方へと振り向いた。
「……なんでしょうか?」
「……ここを出て行くって本当ですか?」
彼女が何を言いたいのかわからないが、その通りだと伝えると、傍から見てわかる様に戸惑いだした。
「私の…せいですか?」
「いえ、違いますよ、これは私の希望ですから」
たぶんレギン辺りが何か変な箏を彼女に伝えたんだろう、そのせいで彼女が罪悪感に悩む必要はない。
できる事ならば彼女の隣に立ちたいと思いはするが、今世の彼女との仲ではそれも到底無理な話だろう。
彼女は俯いて何も言わなくなってしまい、なんとなく漂う空気に居心地の悪さを感じた。
「では、私は行きますね。
……どうかお元気で」
それだけを伝え、門を目指す。
後ろから彼女が何か言っている気はしたけれど、回りの喧騒のせいでよく聞こえなかった。
東門でレーナルと軽く挨拶を済ませた後、ホワイトウォルフを出て徒歩で1時間程歩くと、森の入り口に俺が使っていた家具が置いてある地点があった。
家具を魔法でずらし、魔法で家を建てていく。
大きな家にしようかとも考えたが、1人暮らしをするのに大きすぎるのも面倒だったので、ホワイトウォルフで暮らしていた時とほぼ同じに作る。
そして、魔法で家具を家へと運んだ。
家を建ててから1時間もしないうちに引越しは終了、魔法の便利さに脱帽だ。
レギンとの話し合いで食糧等は定期的にこちらへ配達する事を聞いていたので食糧に困る事もないし、1人で暮らす分にはお金もいらない、衣服等も食糧配達の際に言って置けば届けてくれるだろう。
「今世はこのまま死ぬまで同じ……かな」
なんとなく口に出した独り言が、ローズが誰かの隣で笑っている映像が過ぎり胸に痛みが走ったが、その気持ちを払拭し、この森から出てくるであろう怪物を警戒する事にした。