なんか戦闘になってるわけで。
予想はしていたが……既に村の中に動く人は居ないように見えた。
獣に食べられたのか、身体の至る所が欠損している死体。
骨だけとなっているが、死体の周りには血の跡さえない白骨死体。
何故かミイラと化してしまっている変死体。
それが村の至る所にあり、この村の中で生存者が居るとは到底思えない場所だった。
これでは、依頼の人物を見つける事さえ難しそうだった。
村の規模は小さい為全体を見て回るのに対した時間はかからなかった。
手当たり次第に家屋の中へと足を運ぶが見つかるのは腐り蛆の沸いた食物や死体。
それと、魔法が使える俺だから気付いた事だと思うが、魔樹が群生しているこの地帯は魔素の濃度が異常に濃かった。
俺としては気持ちが悪くなるという事は無いが、もしかしたらこの村人達には苦痛だったのかもしれない。
ほとんどが腐っているが、比較的進行の遅い死体の表情はどれも苦痛で歪んだ表情を浮かべていたからだ。
「誰か居ないかー!?」
家屋を調べながら、生存者が居ないか、確かめる為に声を出すが、返答は無い。
1時間弱程村中探してみたが、生存者は居ないようだった。
しかし、依頼人から聞いた男性の姿は無い。
もしかしたら入れ違いになったのかもしれない。そんな考えが過ぎったが、探してない場所がまだ有る為そこを探してから考える事にした。
それから数十分程探したのだが、生存者の姿はなかった。
そして、今目の前にある建物が最後の建物だ、他の建物よりも一回りほどの大きさをしており、この村の村長とかが住んでいる家じゃないかと感じた。
家の中に入ると、他の家と同様に埃が溜まっており、強烈な肉の腐った臭いと黴臭さが鼻に残った。
他の建物の状態や腐乱死体等の状態を見た限りこの状態になってから数ヶ月は経過してると見て間違いないだろう。
まず二階から探してみる事にしたが、二階には人が居た気配も痕跡もなかった。
ただ、生き残りでも居たのか、随分と前に服等の衣類を持ち出した形跡はあったが。
次に一階を探してみる事にした、一階は他の建物同様にこの家の人だったような男性の腐乱死体とそれに寄り添う様に転がっている女性の腐乱死体が一つずつ。
既に腐っている為、性別以外の事はわからないが、たぶん村長とその夫人の死体だろうか。
こうなる前に村を出ていればと思いもしたが、彼等は望んだ事かもしれないと考えて他に何か無いか調べる事にした。
結果だけを言うと、この村に生存者の姿は無かった。
それと、依頼人の言っていた青年の姿も無かった。
もしかしたら、道中で遭遇した怪物に襲われたのかもしれないな……
とりあえず、調べる事は粗方調べたと考えて、依頼人の彼女には悪いがさっさとホワイトウォルフに戻る事にした。
しかし、帰り道の途中でまたゲル状の怪物と遭遇した。
倒す事は俺としては難しくもないので問題は無いのだが、問題は現在ゲル状の怪物の体内に居る人物だった。
青年の髪や肌の色はわからないが、見目形は依頼人のヘルミナが言っていた青年と酷似していた。
魔法を使い、ゲル状の生物を四散させると、ゲル状の怪物……いやもうジャイアントアメーバと呼称しよう、スライムという名前にすると、どうにも某ゲームのモンスターのイメージが崩れる。
体内に居た青年を傷つけないように、魔法でジャイアントアメーバを倒す。
しかし、青年はどうやら既に事切れていた、目立った外傷もなく、餓死かと思えば肉付きも悪い訳ではなかった。
もしかしたら毒か何かだろうかと考えて、青年の身体をくまなく捜してみたが、コレといったものを見つける事はできなかった。
青年の表情を見ても眠っているかのように事切れている為、苦しんで死んだわけではないのは確かだろう。
なので、眠っている最中にジャアントアメーバの体内に巻き込まれて事切れたのだと予想をつけた。
死体をそのまま依頼人のヘルミナに所へ連れて行くのは拙いだろうと考え、何か証明できる物は無いかと探したが、めぼしい物も見つからず、髪の毛を少々拝借させてもらい、纏めてからしまい、ホワイトウォルフへと歩いた。
後は戻るだけだったので、魔法でホワイトウォルフへと飛んでいると、ホワイトウォルフの城壁で戦闘が行われているのが見えた。
どうやら、何者かの襲撃を受けているようで、数はざっと見て100匹前後と行った所か?
戦況はがんばしくない様に見えた。
状況を教えてもらう為、石壁へと飛びレギンか、レーナルの姿を探すと、レーナルの姿が見えた。
「レーナル、状況を!」
彼の元へ急ぎ、声を掛けるとレーナルも俺の姿を確認してから若干焦った様に状況を伝えてきた。
どうやら、昨日の夜に怪物達の襲撃を受けたらしい。
数は対したこと無かったのだが、1匹1匹の強さは恐ろしい程高く、Sランクメンバーならば戦えるのだが、Aランクメンバーではかなり厳しいらしい。
既にAランクメンバーの半数は戦闘不能になり、その内の半分は戦死とレーナルは言っていた。
それを聞いてから戦場を見てみると、ジャイアントアメーバの姿や腐った人間がメンバーに襲い掛かっているのが見える。
「液体状の魔物と腐った人型のがほとんどだが、それ以外にも少数だが火を吐くものやアシッドアントの 酸のような物を吐き出す人型の怪物も居た。
液体状の魔物は体内にある核を壊せばすぐに倒せるが、腐った人方のは頭を飛ばしても動くから厄介だ……
ったく、ここに来て新種の怪物が溢れてきて面倒な事この上ないぞ」
レーナルは表情にこそ出しては居ないが、かなり焦っている様に見える。
「わかった、とりあえず俺も戦闘に参加してくるわ」
「ああ、すまないが頼む、ギルドマスター様とレーナさんが中央で戦線を維持、ローグウッドさんとシャロンさんが左手側をクックさんとミコスさんが右手側で戦ってます、報告では右手側が若干押され気味と報告を受けてます」
「了解……じゃ、クック達の所に行ってくる、終わったら下がらせるから、門をすぐに開けられるように準備だけしといてくれ」
「わかった、帰った直後で大変だと思うが頼む」
「気にしないでいいから、じゃっ行ってくる!」
石壁から飛び降り、魔法で滑空しながら前線へと飛ぶ。
ジャイアントアメーバや腐った人型はAランクでも抑えられてはいるが、二足歩行で歩き四本腕で戦っている蟲の顔をした怪物や大きな蜥蜴の様な怪物が数匹ほど居るのが見えた。
蟲面が酸を吐いて、トカゲか火を吐く奴で間違いないだろう。
目に映ったトカゲと蟲面の怪物を魔法で爆発させながら前線へと飛んでいく。
しかし、爆発させる事に後悔したのは直後だった。
蟲面の怪物が爆発するのと同時に体内に入っている酸が周囲に居たメンバーにあたり悲鳴をあげているし、トカゲの方では魔法の爆発と体内にあった油か火が合わさり、巨大な火柱があがった。
即座に水球を出して鎮火と酸を洗い流したが、被害は少なくないだろう。
もっと慎重にやるべきだったと後悔しても、もう遅いが、若干尾を引きそうだった。
それから少し進むと、クックの雄叫びが聞こえてきた。
クックが先頭に、そのすぐ後ろでミコスがその周りで他のメンバーが戦っているのが見えたが、かなり劣勢に映った。
ミコスの真横へと着地すると、ミコスが俺の姿を確認し、目を見開くのが視界の端に映った。
「セラフィ様あああああああ!! よ、良かったニャアアア! 噂でホワイトウォルフを出てったと聞いて……その直後にこの襲撃で、私はもう駄目かと思いましたニャアアアアアア!!」
叫びながら俺の右肩へと抱きつきながら彼女が叫び、その声でクックも俺に気付いたようだった。
他のメンバーは俺の事をあまり詳しくない為、今の状況についていけないような困惑の表情を浮かべていた。
「おうっ、セラフィか!? すまんが、手伝ってくれ、俺達だけじゃかなり厳しいんでな!」
「ああ、すぐに終わらせる。
『怪物達は死ね』 ……じゃあ、余力のある奴は他の場所の援護に、ない奴は無理せずにホワイトウォルフに戻れ。
俺はこのままローグウッド達の援護に向かう」
俺が魔法を発動させるのと同時に目の前に居た怪物達がバタバタと倒れ、数秒後には動く者はひとつも居なくなっていた。
「はぁ……本当に、セラフィの能力は反則だと思うんだが……まぁ、今はただ感謝する。
おっし! ホワイトウォルフに帰るぞ!!」
周囲に居たメンバー達は呆気に取られていたが、クックの掛け声でゆっくりとした動作であったが、ホワイトウォルフへと戻っていった。
「ニャ、セラフィ様、私はどうしましょう?」
「ん? ああ、疲れてるだろうし、戻っていいぞ?」
そう言うと、彼女は尻尾と耳を立てると。
「いえ! 良かったら私も連れていってください!!」
彼女の表情を見ても疲労が蓄積されているのが見えたが、それよりもシャロンが心配なのだろう。
なんだかんだで、彼女達2人はかなり仲がいい。
「わかった、じゃあ行こう『飛べ』……ミコス、疲れてるんだし、無理だけはするなよ」
「了解ですニャ!」
疲労が溜まっている時は咄嗟の判断が遅れる場合がある、それで死んでしまったらどうしようもないからな……
ローグウッド達の方は、到着する頃にはほとんど怪物の姿はなくなっていた。
どうやら、俺の力は必要なかったようだ。
俺とミコスが地面に着地するとほぼ同時に最後の1匹がローグウッドの戦斧で両断される所だった。
それと同時にシャロンが俺へと抱きついてきた。
「セラフィさまあああああ!!」
シャロンに抱きつかれると、まず話してくれないのでミコスを間へと引き入れる。
「秘技ミコスシールド」
「ニャ!? フギャアアアアア!!!」
「アア! セラフィ様、絶対助けに来てくれると私信じておりました!
私はもう貴方を離しません、何時如何なる時だって私は貴方と共に……そう! 下の世話だって私は喜んで致します! ですから……ですから、私と結婚って……あれ?」
ローグウッドに最低限の事だけ伝え、シャロンに気付かれる前にレギン達の居る場所へと飛ぶ。
「セ、セラフィ様お待ちになって! わ、私も……あ、もう駄目……」
「ニャ、ニャアア!? シャロンさん!? だ、誰か助けてくださいニャアアアア!!」
うん、彼女を盾にして本当に良かった。