追い討ちを掛けられてるわけで。
「という事で、獅子の死体を確認できない状況になった」
「……まぁ、ラフィが嘘つくとは思えないし問題ないかなぁ…ただ、気をつけてねぇ? 万一魔法を知らない人が居たら驚く所の騒ぎじゃないんだから。
カリブス国やエルドマド帝国に見つかったりしたら大変だよ?」
「何、その時はその時だ」
「まぁ、ギルドマスターとしては、メンバーには手を出させないけどねぇ。
ギルドマスターがメンバーを守るのは当然だからぁ~」
エルドマド帝国から南西に向かった未開拓の森での獅子討伐を終わらせてから、3日程でホワイトウォルフへと戻ってきた俺達は、ギルドマスターであるレギンに報告してSランクへとランクアップした。
まぁ、といっても、俺の場合魔法を隠しておきたいのでおいそれと言い回しはしないが。
ホワイトウォルフの中ではミコスとシャロンがSランクに上がったという事でお祭り騒ぎの真っ最中だ。
新たなSランクメンバーの誕生に都市全体で盛り上がっている。
ギルド本部の最深部である、マスタールームの中でさえ外の連中の声が聞こえてくる程だ。
「これで現在Sランクメンバーは10人になったねぇ」
「俺としては多すぎる気もするけどな」
「しょうがないんだよ~、製鉄技術が上がったせいか、ジャイアントアント達はCランクでもそれなりに倒せる様になってるし、新しい討伐対象だって獅子ぐらいなんだよ?
それこそ、今まで以上に強力な生物が出てこない限りSランクメンバーは増えていくと思うなぁ」
「ギルドマスターとしてその発言はどうなんだ……」
「まぁ、それもそうなんだけどねぇ~。
今はまだ他の場所にもSランクメンバーが分かれてるからいいけど~、色々と大変に警戒されそうなんだよねぇ。
国を乗っ取るんじゃないかとかさ~。
こっちはそんな気全く無いのに困ったもんだよねぇ~」
国というのは本当に面倒だなと思う。
こちらが何もする気はないというのに、襲われると考えて強行へ走るのだから。
「これじゃあ、何時滅ぶかわからんな……」
「そうだねぇ、ま…その時はその時でいいよね。
とりあえずはラフィ達のSランク昇進をお祝いしよ~」
レギンは俺の腕を引っ張りながら、外へと歩きだした。
外へ出ると、祭りの参加者に飲み物等を配っていたんだろう、
手に木製の御盆を持ち、その上には数個の10個以上の木製のジョッキが置かれていた。
ここから見える限りでは全てに並々と中身が入っている為、普通の人にとってはかなりの重さだとわかる。
「ローズさん、女性には重いと思いますし、俺「結構です」…はい」
半月ぶりに再会したが、なんというか3年前から全く対応が変わっている気がしない。
やはり、俺は嫌われてしまったんだろうか。
1人落ち込んでいると、ローズは他の祭り参加者達へと飲み物を配りに何処かへと行っていた。
うん……軽く泣きたい。
「あー……レギン、ちょっと先に皆の所へ向かってて~」
「ん…わかった……」
落ち込んだ状態でミコス達に会うのも悪いと思い、上辺だけでもと表情を変えて、彼女達の居る場所へと向かった。
「あ、セラフィさんこっちですニャー!」
ギルド本部のある中央広場より少し南東側にある大通りを歩いていると、ミコス達が俺に声をかけてきた。
彼女達の方へ歩いていくと、彼女達を囲んでいたメンバーの大半が俺へと視線を向けてきた。
というか、どう見ても敵意が混ざっている。
まぁ、気持ちはわからなくはないが。
僅か16という年齢でSランクへのランクアップ、尚且つギルドマスターを初め、セレーア、シャロンやミコス、ローグウッド等の実力者が一目置いているのだ。
レギン等、俺がローグウッドよりも遥かに強いと言ってしまったし。
それに、俺が戦った姿を見た事も無く、尚且つシューベランド王国を滅ぼした男。
眉唾物だと思わない方がおかしい噂話だと俺でも思う。
ただ、俺より後にメンバーとなった若い連中からは羨望の眼差しを受けてはいるが。
噂の真偽がどうあれ、16歳という若さでSランクへと上がったのだ、実力は保障されていると言ってもいいからな。
たまに俺を兄貴とか呼ぶ奴まで居る始末だった。
まぁ、俺をどう呼ぶかはどうでもいい、シャロンみたいな行動に走らなければ。
「遅れて申し訳ない。レギ……ギルドマスターはもうすぐ来ると思う」
それに、敵意を向けているメンバーは基本的にBランク以下のメンバーばかりだ。
Aランクのメンバーはどちらかというと恐れが多いと感じた。
さすがに3年も居ると、この都市へ襲撃に来る魔物と戦った事もあるわけだ。
戦う人数が多い時は派手な魔法を使わず、殴った相手が破裂する程度に抑えていた為、その光景を見たAランクメンバーは俺に恐れをいだいたんだろうと思う。
というかだ……硬いといわれている、ジャイアントアントを素手で殴った際に、ジャイアントアントが木っ端微塵に破裂したらそれは恐ろしいと俺も使用後に思った。
「いよう、最年少Sランクメンバー様、今日はどんな武勇伝を聞かせてくれるんだ?」
ミコス達と合流して何気ない会話をしていると、後ろから肩を叩かれた為、叩いた主へと顔を向けた。
そこには、人間と鶏の顔を足して割った様な顔立ちの男──クックが笑顔で立っていた。
「そうそう武勇伝なんてありませんよ、クックさん。
それに、年齢なんて些細なものだと俺は思いますよ」
「あの時の坊主が気がつけばトップメンバーの1人なんてなぁ。
3年も経てば生意気な言葉の1つや2つでるようになるわな。それにしてもだ、メンバーってのは本当面白い人間達が集まるな!」
「いえ、ギルドメンバーが面白いとかそういう物ではなく、セラフィくんが特殊過ぎるんだと私は思いますが?」
クックの後ろから、別の人の声が聞こえたと思えば、クックの影からレーナルも現れた。
この3年の間でレーナルやクックとはそれなりに仲良くしてもらっていた。
頻度こそ多くはなかったが、魔物の襲来の際によくレーナルと一緒に戦ったものだ。
メンバー以外で、俺の魔法を知っているのはローズの家族とレーナルぐらいだろう。
「セラフィくん、Sランクへのランクアップおめでとう。
出会った当時は右も左も解らない様な人だったのに、今ではこの都市を代表するメンバーの1人とはね……」
「まったくだな、この間メンバーになったかと思えば、何時の間にかSランクだってんだから……確かに、異常だわな」
「まぁ、当然といえば当然かもしれないけれど、ギルドマスターのお墨付きだったんだしね」
「そういえば、聞いた話では3年前まで続いていたメンバー登録時の用紙は、セラフィが入ってから無くなっていたな……つまりそういう事か」
なにやら、クックとレーナルが2人の世界へと入ってしまったようだ。
まぁ、あのアンケートのような物は俺を探し出す為だったんだろうと思う。
というか、どう考えてもローズとか爺さんに対する質問だったしな……
その後、クックとレーネル、シャロンとミコスの5人を中心に他愛の無い話を肴に、宴は盛り上がっていった。
「所で、セラフィよ。ローズ嬢ちゃんとは進展あったのかい?」
盛り上がっている最中ではあったけれど、クックの一言で確実に俺を初めとしたクック以外のSランクメンバー全員の時間が止まった気がした。