プッシュされてるわけで。
今、俺の目の前には中肉中世の40台ぐらいのやや草臥れた印象を受ける男性と、頭髪こそ茶色だが、ローズの面影を残した20代と言われても信じられる程の若さを保つ女性。
2人は間違いなく今世のローズの両親だろう。
「こちらの男性はギレニア=ジェネマスさん、色々ニャ地域で物品の売買をおこニャっている商家の主様ですニャ。
その隣に居ますのが、奥様のヤナキュ=ジェネマスさんですニャ」
「始めまして、えーっと……シャロン、俺のギルドって幾つだっけ?」
「えっと、特例でBに上がっていたはずです」
「あ~、ギルドランクBのセラフィ=ブルームです」
「ギルドマスター様からお話はお伺っております!
この度は、娘を助けていただき誠にありがとうございました……他になんと言えばよいのか……」
ローズの父親だと紹介されたギレニアさんは、目に涙を浮かべて大きく頭を下げると、大きな声で感謝を伝えてきた。
それに倣い、ローズの母親であるヤナキュさんも丁寧に頭を下げて感謝の言葉を述べていく。
正直な話、喜んでいいのかはわからない。
だって、俺は彼女に助けてもらいたくないと言っていたし……
「そ、それと、娘のアプローズがセラフィ様に対し大変失礼な態度を取った事を、謝罪いたします。
ただ、娘の命だけはお助けいただきたく……」
謝罪すると言っても、何故あんな拒絶されたのかもわからないから、その謝罪を受ける訳にもいかないし。
謝罪を受け取れば、それは彼女らが依頼を出しておいて、依頼を受けたメンバーに非礼を行ったと噂でも立てば、彼女達は白い目で見られると思う。
下手をしたら迫害を受けるし、彼等の家族は商売等できなくもなる可能性もある。
「アプローズは何故か、男性が苦手でして……それでも根はとても優しいよい娘なのです!」
うん、彼女がとても良い女性である事は、身をもって知っているから熱弁されても何も驚かないです。
にしても、彼女が男嫌い? 何故? 彼女が男嫌いだから俺を拒絶したとして、何故俺はあんなに激しい拒絶受けたんだろう。
それほど男が嫌いという事か?
果たしてそれは信じていいものなんだろうか。ローズの父親を信用しないという訳ではないけれど、やはり何かが引っかかる気がするんだよなぁ。
「えーと、お気持ちはわかりましたが、謝罪はお受け取りできません」
俺がそう言うと、何故か絶望感を前面に浮かばせ、固まったギレニアさん。
「あ、いえ。それでどうこうする訳ではないです。
ジェネマス夫妻を初め、アプローズさんも気にしない様にお伝えください。自分に落ち度があった可能性もございますから
」
俺が何も気にしないようにと、笑顔で返すと、ギレニアさんは地面に崩れ去り、大声で感謝の言葉を述べながら、泣き始めた。
たぶん、ギレニアさんは俺があの国を滅ぼした事を聞いたんだろう、だから謝罪しその力が自分達家族に振るわれないかと気が気で無かったんだと思う。
しかし、そんな中。
「あらぁ、なんて出来た子なんでしょうか、セラフィさんでしたか?」
「…? はい」
「良かったわぁ、貴方みたいな素敵な男の人ならば、娘を安心して渡せますから」
「……は?」
「だから、ウチの娘を安心して預けられるという事ですわ」
いやいや、この人なに言ってるの!?
ローズは俺の事毛嫌いしてるのに、それを俺に預かるって話おかしいだろ!
「アプローズさんは私の事を毛嫌いしてると記憶しているんですが……それに、彼女の意思も尊重させてあげてほしいと思います」
いきなり平手を打つほど嫌いな人間の下に居るなんて、彼女は精神的にまずい事になると思うんだけど……
「確かに、あの娘は男性が苦手ですわ、けど…セラフィさんへの態度は何処か違う気がします。
そう……戸惑いという感情が多いかしら?
あの娘は親である夫にも幼い頃から近寄りませんでしたから。
身体に触れる事さえ嫌がるほどでしたわ」
「うぐっ……」
ヤナキュさんの言葉で、ローズに拒否された思い出が掘り起こされたのだろう、ギレニアさんは泣きながら胸を押さえているのが目の入った。
「少なくとも、セラフィさんの事は特別な目で見てると、私は思いましたわ」
「しかし、それは嫌悪ではないのですか……」
彼女の俺を見る目を思い出し、顔が歪む……胸にズキンと痛みが入る。
「ですけど、今回の依頼の報酬として、セラフィさんには娘を渡すというのもあったと思うのですが?」
「……は?」
「あら? 聞いておりませんの?」
「確か報酬はカリブス金貨5枚だったと記憶してますが」
依頼報酬に関してはほとんど聞いてない。
というか、前世とは貨幣の価値が多く変わっているという話をレギンから聞いている。
「ええ、そしてその依頼を一番貢献し、尚且つギルドマスターと私達が良しと思う者ならば、娘のアプローズをその方に嫁がせるという話でもありました」
全く聞いてねぇ……というか、良しと思う者って、どう考えてもレギンは俺が来る事わかった上でそうしたんだろう。
というか、そんなんで嫁がされるローズが可哀想だ。
「お気持ちはありがたいですが、お断りします。
そこに彼女の意思はありませんし、あまりにもアプローズさんが可哀想に思います」
「そうです! セラフィくんは私の下に嫁ぐのですから!」
いや、それはおかしい。
というか、なんで俺がシャロンに嫁ぐんだよ、逆じゃないか普通。
「あらぁ、それじゃあ愛人ではどうでしょう?」
ヤナキュさんどんだけ押すんだよ!
「いえ、ですから…彼女の意思を尊重してあげてください。
それに、自分はまだ子供ですから、誰かを養うという事にはまだ早いと思いますし……
シャロンも変な冗談はやめてくれ」
「確かに、娘の意思はありませんけど、あの娘じゃ嫁ぎ遅れるのは目に見えてますから。
あのままでは、今回のように何処かの変態に匿われるのが目に見えてますわ。
それならば、私達やギルドマスターが認めた方ならばと思ったのだけれど……残念ですわ」
「本気です! どれぐらい本気かは後ほどわからせましょうか!?」
気持ちはとても嬉しいけれど、あの時の彼女の表情を浮かべると、辛い。
俺と番いになったとして、彼女の心が壊れてしまうのが恐い。
彼女が望めば俺は喜んで彼女と添い遂げるつもりだけれど、今回はそれも無理な話だろう。
今はまだ子供だという理由で逃げられるが、ヤナキュさんを見る限り、完全に俺が狙われてる……
頼むから、親として彼女の意思を尊重してあげてほしい。
俺は今回の人生は1人で生きていくと思いながら、ローズの意志で選べる幸せを願った。
ジェネマス夫妻とミコスが退室してからは、シャロンの暴走に拍車がかかり大変だった。
さすがに目に余ったから魔法で立ち入り禁止にしたが。