ホワイトウォルフに戻ってきたわけで。
ホワイトウォルフに着いたのは行きの時より2日程遅れての到着だった。
そして、道中で腹部の怪我は治ったけれど、どうやら10日近く飲まず食わずだったらしく、精神的に持ち直してはいたが、体力は戻っていなく、安静にしろとシャロン監視の下、俺はレギン宅の一室に監禁されていた。
まぁ、大丈夫だとは言ったのだが、レギンは納得のいかないようで療養する間、監視をつけさせていた。
ただ、監視されるのはいいのだが……なんでシャロンが監視なんだよ……全然休まらないんだが。
頼むからもう少しマシな奴を当ててくれ。
シャロンだとまったく休めないというか、俺の貞操が危ない。
わずか3日で、俺の寝台に素っ裸で入ろうとした回数は2桁に届いてると思う。
消化に優しい水分多めの野菜スープの時だって口移しで食わされそうになったしな……本当勘弁してほしい。
レギンに監視する奴を変えろと言ったのだが。
「いやぁ、他の人が絶対にやりたくないって言うんだよねぇ……僕かセレニアが出来ればいいんだけどねぇ、一応さギルドの代表だしぃ? こう見えても忙しいんだよ~。
君を迎えに行ったおかげで今はとっても忙しいから、ごめんね?
早く元気になるんだよ~」
とか満面の笑顔で言われた。
そして、俺の制止の声を聞かずにあいつは逃亡……
確かに嘘ではないのかもしれないが、何か遊ばれてる気がしてならない、癪だが今の俺では何も抵抗できないしなぁ。
「あ~…暇だ……」
ホワイトウォルフで休み始めて早10日。
飲まず食わずで弱った身体はちゃんとした食事を取った事で、それなりに快復はしてきた。
けれど子供の身体で無理な旅をしたツケが来たのか、風邪をひいたっぽい……
さすがに死にはしないと思うがしんどい。
風邪を引くとネガティブになると言うが本当かもしれない。
気付けばローズの事を考え、そして拒絶されたシーンが頭の中で回想され落ち込むを繰り返す日々が続いている。
そういえば、あの日からローズがどうなったのかまったくわからないのだけど、両親と一緒に居るのだろうか。
悶々とローズの事を考えていると、来客をつげる扉を叩く音が響いた。
レギン達はホワイトウォルフから東へ向かった森でAランク以上のメンバー達を連れて襲撃してきた怪物達の迎撃に出ているはずだし。
それ以外だと考えられるのは……いないなぁ。
「……どうぞ」
誰かわからないけれど、ここにはシャロンも居るし、万一にあの滅ぼした国の住民が調べて復讐の為に来たとも思えないし。
というか、誰が来たとしても俺の対応は変わらないか。
「失礼しますニャ~」
来客の姿は、まだ歳の若い女性だった。
薄い赤茶色の頭髪からは猫耳が覗いており、身長は俺より一回り程大きいぐらいと思える、この世界の成人女性の平均程だろう。
また、腰より少し下側からは頭髪と同じ色をした猫の尻尾の様なものがふるふると揺れているのが見える。
服装は何かの動物の毛皮を鞣して作られた皮鎧と両腰には2本のそれぞれ異なった剣がかけてある。
顔を見れば、人とほとんど変わらない容貌だった。
「お久しぶりですニャ、あの時は助けてくれましてありがとうございましたニャ」
お礼を言われ、何のことだろうと思案すると、すぐにあの日侍女服を着て逃げていたミコスの姿と目の前の彼女の姿が一致した。
「ああ、ミコスさんですか」
「そうですニャ、おかげさまで先日Aランクに上がる事ができましたニャ」
「あれ? この都市に居るAランク以上は東の森で戦闘をしているはずでは?」
「それが、今回襲撃をかけてきたのは少数でギルドマスターが少数で大丈夫と言っておりまして、私はお留守番する事になりましたニャ」
何処か照れた様な表情を浮かべて、頬を人差し指で掻いていると、それを見ていたシャロンが大きな音を立てて立ち上がった。
「このっ泥棒猫! 私のセラフィ君に色目使うんじゃないわよ!」
何処を見てそんな発言が飛び出すのかと呆れて眺める俺。
ミコスに到ってはいきなり叫ばれた事に驚いたのか、耳や髪を逆立てて警戒していた。
やっぱり尻尾にも神経あるんだなぁと関心したのは内緒だ。
出来れば触ってみたい……
「ニャ、ニャんですかいきニャり!」
「あざといのよ! 何がニャよ、コ人族はそんな言葉使わない事ぐらいわかってるのよ!」
「ワザと使っている訳じゃニャいのです! 言い掛かりも程々にしてほしいニャ!」
「言い訳なんて聞きたくないわ! 私のセラフィ君は誰にも渡さないんだから!」
「……いつ俺がアンタの物になったんだよ……」
しかし、俺の発言を見事に無視して1人声を張り上げていくシャロン。
なんだろう、こういう話を聞かずに自分の妄想を撒き散らす人ってすごい既視感を覚える。
「はぁ……」
溜息を一つついて、気分転換に散歩に行こうと寝台から降りる。
「ニャ!? セラフィさん、何処に行くつもりですかニャ?」
「何処って散歩にでも行こうかと」
「セラフィくん散歩に行くの? じゃあ、私も着いていくわ」
着いてきてほしくないなぁ……
「残念ながら、外出はギルドマスターから禁止されていますのでご遠慮してほしいニャ」
「は?」
「ニャー先ほどアプローズさんのご家族もこの都市に到着しまして、アプローズさんのご両親が、是非お礼を言いたいと言ってましたのニャ」
あの場所から助けたのは俺という事を誰かが告げたからだろうか?
「けれど、アプローズさんがお礼を言うのに難色を示してまして……」
ミコスさんもう止めて……俺の心が致命的な音を立ててるから。
「けれど、アプローズさんのご両親は是非お礼を言いたいと言ってまして」
「いえ、そういうのは気にしないでくださいとお伝えいただければいいです。
それと、俺が外出できない理由とどういった理由が?」
「実は既に連れて来てますのニャ。
外出できない理由は、どっかでアプローズさんと出会った時にセラフィさんが傷つかニャいようにとのギルドマスターの方針でですニャ」
ミコスさんの言う理由で俺は立ち上がれそうにないです。
ローズは今でも俺の事毛嫌いしてるって事でしょ。
ああ、なんなの今回、なんでこんなに拒絶されてるの俺。
「はぁ……」
「ニャアアア!? ど、どうしましたニャ、顔色が途端に悪くニャってますが!」
「セラフィくん、可哀想に…ここは私が心身共に癒してあげるわ!」
「シャロンさんは服を脱がないでください……
ミコスさん、アプローズさんのご両親をお待たせするのも悪いので、どうぞ連れてきてください」
頭を振りミコスにアプローズの両親を部屋に招くように伝える。
「シャロンさんは早く服を着て、5人分の飲み物を適当にお願いします」
「あん! セラフィくんのお願いならなんでも聞くわ、少し待っててね!」
シャロンとの温度差が若干苦痛に感じる……
2人が部屋を出て行き、1人の時、窓の外を眺めていると、ローズの姿が見えた。
『貴方にだけは助けられたくありません』
ズキンと胸に痛みが走る。
外に居るローズは異種族の誰かと笑顔で会話をしていて、俺には向けてくれない様な笑顔を相手へと向けていた。
何故彼女は俺に笑顔を向けてくれないのだろうか。
彼女の嫌なものを見るような視線が頭から離れていかない。
俺という存在が彼女は嫌になってしまったんだろうか……。
考え事をしていると、意識の端で視線を感じた。
どこからだろうと視線を動かすと、ローズがこちらへ顔を向けたのが見えた。
それなりに距離や窓の透明度の為細かい表情はわからないけれど、たぶん眉間に皺を寄せて嫌なものを見る様な表情を浮かべているのだろうか。
窓越しに数秒だけ彼女との視線が合わさると、ローズは会話をしていた人と別れてどこかへ行ってしまった。
「なんで嫌われてるんだ……」
1人で落ち込んでいると、扉を叩く音が響いた。
返事をすれば、ミコスと見慣れぬ男女が1人ずる、最後に飲み物を御盆に載せたシャロンの準に部屋へと入ってきた。
見慣れぬ男女がローズの両親なんだろう。