こんな現実受け入れられるはずがないわけで。
ホワイトウォルフから西へ馬車を使い7日程で国境を越える、その後3日北西の方角へ走ると首都へと着いた。
そして、彼女が拉致されたのは1月前、下手したら彼女に手がつけられているかもしれないとレギンは言っていたが、その時はこの国を俺が死んででも潰してやる。
俺とローズの恋路を邪魔する奴は誰であろうがぶち殺す。
レギンは「たぶん大丈夫だよ~」と言っていたが、レギンも不安な表情を浮かべていた。
今回のメンバーは俺とレギン、クック、シャロンの4人だ。
クックというのは俺がギルドで登録した日、俺に声を掛けた鶏人間だった。
顔合わせをした時、クックは俺の事を覚えて無かったがな……
クックの種族はケイ人族と言うらしい、彼はSランクメンバーでギルドでも選り抜きの実力者らしい。
実力は道中見たのでわかるのだが、一つだけ気になった事がある。
それは、普段は人間等と同じ用に喋るのだが、寝言が鶏の鳴き声まんまだった……出来れば緊張感が削がれるのでどうにかしてもらいたい……
そんな事よりも、ローズの事だ。
到着したその日に城下街で新しく入る側室についての情報を聞いて回ると、まだ彼女はシューベランド王国の妾にはなっていないらしい、時間の問題ではあるのだけど。
どうやら彼女のドレス等の準備のためまだ儀式は行っていないと言っていた。
ならばまだ間に合う。
そして、1秒でも早く彼女を救い出すのだ! この手で!
「ラフィ、ちょっと自分の世界から出てきてもらっていいかなぁ?」
「え? 何?」
「はぁ~……とりあえず、まずは国に彼女の返還の要請を出すよ~。
まぁ、それで駄目だった場合は少々手荒ではあるけれど、彼女を返してもらう。
その時はラフィが救い出してあげてね、それで僕達3人は彼女とラフィの護衛ねぇ~」
「ふむ、わかった……だが、断る」
俺がそれに異議を立てるなんて予想出来なかったのだろう、レギンは微笑を浮かべたまま固まる。
クックは興味深げにこちらを眺め。
「そんな事してる暇があるのなら俺が彼女の場所まで行き、助けた方が遥かに早いし簡単だ。
ローズがこの国に居る事なんて、1秒だって我慢できないというのに!」
「いやいや、ラフィ何言ってるの~。そんな事したらギルドとシューベランド王国の全面戦争になっちゃうかもしれないんだよ?」
「知った事じゃないな、この国は戦争するのなら、俺1人で全て蹴散らす。問題ないだろう」
俺が物騒な事を言っている時、シャロンが手を胸の前で結び熱っぽい視線を送っていたが無視する。
10日の間で寝込みを襲われる事14回、馬車の荷台に居る時に抱きつかれた回数52回。
無視して、なるべく距離を置いた方が、安全だとようやく気付いた。
「血気盛んな坊主だ、俺ら3人は予定通り交渉に当たろう、その隙に坊主が依頼の嬢ちゃんを助ければいいだろう!
何事も無く救出できるならそれでいいし、戦争になるのなら戦えばいい。
国如きに負ける程ギルドの戦力は低くないだろう、なぁギルドマスター」
クックがそう言うと、レギンは困ったと苦笑を浮かべながらも頷き、俺もクックに同意と頷いた。
ただ、シャロンは俺と離れるのは嫌だと言っていたが無視する。
この中で1番偉いのはレギンで時点でクックだ、2人が決めたのだからシャロンが反対しても意味はない。
というか、シャロンの反対理由は我侭なだけなので無視でいい。
「うん、じゃあ日が暮れる直前に行こうか、ソレの方がラフィもばれずに探せるだろうし。
あ、そうだ……ラフィ、城の中で女の子のメンバー見つけたらその子も保護してあげてね?」
「覚えてたらな」
それから数時間程が経過して、そろそろ日が暮れるかという頃、俺を除いた3人が門番へと話かけた。
俺はその間に魔法で周囲の色に溶け込む様にカモフラージュして城の中へと侵入する、魔法で光学迷彩を掛けている為、そうそうばれる事はないだろう。
彼女の居る場所はわからないので、近くを通りかかった侍女さんに魔法を掛けて記憶を覗かせてもらう。
どうやら彼女は城に隣接する北側の塔に監禁されているらしい。
この侍女は彼女と関わりがあるわけではないので詳しい状況はわからないが、彼女は断固としてこの国の王の愛人になるつもりはないらしい。
もしかしたら、今回も彼女を俺を待っていてくれているのかもしれないと期待に心が膨らむ。
ローズと再会してどういう生活を過ごそうかと妄想──想像していると、廊下の奥から「ニャーーーーー!」という女性の叫び声とかなり早いと思える足音が聞こえてきた。
前方の曲がり角から見えてきたのは、頭に猫耳を生やした侍女服を纏った女性だった。
もしかしたら女装した猫耳男かもしれないが、胸のサイズからして女性だろう。
「フニャーーーーニャんでニャんでニャんでえええ!」
よく分からない事を叫びながら此方へと駆けて来るため、邪魔にならないように壁際に寄る。
彼女が俺が来た方向へ向かうのを待っていると。あと少しで通り過ぎるという場所で急に立ち止まった。
鼻をスンスンと聞こえる程にならし、俺の方へと顔を向けた。
彼女の目を見ると潤っており、どう見ても半泣きの状態だろう。
光学迷彩にミスでもあったのかと自分の身体を眺めてみるがそうは見えない。
光学迷彩は相手に見え難くなるというのはありがたいのだけど、自分の姿も見えないからな……
「こ、この匂いは……マ、マスター! 助けてください、何故か私が潜入した事がばれちゃって!!」
猫耳侍女がそう叫ぶやいなや俺へと飛びついてくる。
マスターって事はレギンと勘違いしているのか!? というか、明らかに身長に差が有り過ぎる為押し倒された……なんというか、身長は彼女の方が頭一つ分程大きいけれど、早く大人になりたいと切実に思う。
「あれ!? この触感はマスターじゃニャい……えーと……どニャたですか?」
フンフンと俺の身体があるであろう部分を嗅いで、肉球のついた手のひらで俺の身体を撫で回すと、ようやく俺がレギンではないと気付いてくれたようだ。
「一応、メンバーの者なんですが……どいてもらえません?」
「フミャアア! し、失礼しました!」
彼女は慌てて俺の上から離れて、一息つくというか、こんだけ大きい叫び声をあげてしまえば、俺はともかく彼女はバレてしまうだろう。
そう思った矢先、彼女が駆けて来た方角と俺が歩いて来た方角から複数人が走ってくる音が聞こえてくる。
「どどどうしましょう! ここれじゃあ依頼失敗ニャああああ」
とりあえず落ち着いてもらいたいので、彼女の口を塞ぎ、彼女に光学迷彩の魔法を掛ける
「静かに」
俺の身体へと彼女を寄せて、なるべく響かない様に伝える。
彼女はビクンと身体を振るわせるが、足音が近づいてくるのがわかり、俺へと抱きついて静かになった。
抱き付くのは遠慮してほしいものだが、この状況では仕方がないか。
それから30秒もすると、両方面から走ってきた10人近くの兵士達が周辺に異変がないか調べていたが、俺達2人の存在に気付く事もなくどこかへと歩いて消えていった。
兵士達が消えて更に30秒程待ってから。彼女の口を塞いでいた手を開く。
途端に彼女の緊張が解けたのか「フミィ~」と猫の様な鳴き声を上げてから脱力したのかペタンと座ってしまった。
「何でバレニャかったんだろう……」
「まぁ、俺にはそういう力がありますから。
なんとなく貴女の状況には予想が着くので、本題を簡潔に聞きます……ローズは何処ですか?」
「そういう力ってニャんですか!?」
「シッー! 声を小さくしてください、力については秘密です
後日、ギルドへ戻ってから説明しますから」
「ニャ! わかりました。 私はこの国の動向を調べる依頼を受けて居たんですニャ。この城の事ニャらわかりますので、私が案内します、着いて来てくださいニャ!」
彼女の案内の元、静かに目的地まで送ってもらう事にした。
道中、なるべく小声でお互いの自己紹介をした。
彼女の名前は、ミコス=マタービという名でコ人族という人種だという。
ランクはBランクでこの依頼が無事成功した場合Aランクに上がれるという条件だったらしいのだが、失敗したと考えて落ち込んでいた。
「ニャぜバレてしまったんだろうニャァ……」
もしかして彼女は気付いていないのだろうか?
「えーと、その口調と頭から生えている耳でバレたと思うんですが」
俺がそう聞くと。
「え? み、耳?」
と俺に聞き返して、自分の頭部を触り始める。
「ニャ、ニャアア!? ニャんで頭の帽子がニャいんだニャアアアア!!」
と突然騒ぎ出す始末。
更に大声を上げそうになったのを予測して、彼女の口を塞ぐ。
というか、言動はスルーなのか……何時も思うんだがレギンの人選って絶対おかしいだろ。
シャロン連れてくるならローグウッドにしろよ! 今言っても無駄な話ではあるんだけど。
「ニャニャニを……ガボガボ」
とりあえず、黙ってもらいたい……むしろ魔法で黙らせた方がいいかもしれないが。
説明もなしに魔法で黙らせたら彼女は余計混乱するだろうな。
そんなこんなでなるべく会話をしない様に歩き続けて、ようやく彼女が捕らわれている部屋の前に到着する。
その場所には10人近い衛兵が立っており、魔法で周辺を索敵すると更に十数人居るようだ。
随分と厳重に隔離している。
ここでこいつらを倒してもいいが、後々面倒になるか。
この部屋に着くまでに何個か窓があったのでそこから壁伝いに彼女の部屋へと行く事にしよう。
「着いて来てください」
とボディランゲージでミコスに伝える、伝わったかは不明だけれど。
彼等にばれない距離まで離れた窓へと歩き、そして、懐に仕舞っておいた、兵士を縛る時の為に持ってきていたロープを2つだけ魔法で黒く染めて、外の屋根へと伸ばして固定する。
彼女は驚いていたが、声はあげないでいてくれたので助かった。
俺と彼女はそれを身体から俺の意思でないと外れない用に固定し、壁伝いにローズの居る部屋へと身長に進む。
地面の方を見てみると、1メートル感覚ぐらいで兵士が立っていた。
本当に厳重な警備体制だ。
ゆっくりと進んで彼女の居る場所へと進み、彼女が捕らわれているという部屋に到着する。
窓は鉄格子で閉められていて、容易に出られないようにしてある始末。
彼女をこんな所に監禁していると考えると、この国を滅ぼしてもいいのではないかと物騒な事を考えるが、今は彼女を助ける事が先決だと思い、魔法で鉄格子を消滅というなの撤去を行った。
その異変に気付いたのはローズだけのようだった、部屋の扉が開かれる事はなくて安堵する。
俺が全ての鉄格子を撤去し終わり、窓をあけると彼女は若干脅えた表情を俺を眺めていた。
そして、ローズと視線がぶつかる。
ああ、彼女はローズだと俺は直感的に感じた。
この感覚は3回目なので間違いないだろう。
早く彼女と話がしたい。
「アプローズさん! 私はギルドの者です。貴女を助けに来ました!」
ローズへと駆け寄り、ここへ来た理由を告げると、彼女の顔が嬉しさの余り破顔した。
気がしたのだが、それは俺の想像の中でだけだったようだ。
左頬へと痺れる痛みと、パチンと小気味のいい音が室内で響く。
そして、俺は呆気に取られて何が起きたのかわからなかった。
「助けに来てくれた事は感謝します……けれど、貴方にだけは助けられたくありません!」
その言葉が彼女から出たという現実を俺は受け入れる事なんて出来るはずがなかった。