本気であせったわけで。
どうやら俺は眠っていたようだ。
腹部に何か細長い物が載っているのか軽い息苦しさに目が覚める。
目を開くと、見慣れない木目の天井が目に入った。
「んー……ここ…はっ!?」
上半身を起こして周囲を眺めると、隣に居る存在に悲鳴が漏れる。
俺の横には夜着を纏ったシャロンが寝ていたのだ。
「え……? 俺なんかやっちゃった? いや! そんな事はないはずだ、俺がローズ以外と……いや、いや……ありえねぇえぇぇぇぇぇぇ!!」
腰のあたりに巻きついている腕を力一杯振り解き、急いで部屋を出る。
そして部屋を出た瞬間更に追い討ちの如く驚愕した。
「俺なんで真っ裸なの……」
え、まじでやっちゃったの俺?
いやいや、おかしいでしょ……俺まだ13歳ですよ?
この世界の人間はそれなりに早熟だと思うけど……そうじゃなくて。
あの後なんでこうなったの!?
いや、おかしいって絶対おかしい! これは夢だ…そうだ悪い夢なのだ!
早く夢から覚めろ俺! 冷めないと俺は…俺は……うわああああぁぁぁ何故壁が壊れるんだああああ!!
これは夢なんだから痛みで俺が起きなきゃダメでしょうが!
「んぅ~……セラフィくんどうしたの?」
部屋を出て、目の前の壁に向かって何度も頭をぶつけていた音で起きたのだろう。
まだ眠たげに目を擦りながらシャロンが部屋から出てくる。
「ひっ!」
夜着から透ける裸体に俺は女性があげるような悲鳴をあげていた、何処か嬉しそうな表情を浮かべているシャロン
「悲鳴あげるなんて、ちょっとだけお姉さん傷つくなぁ……ねね、昨日の続きでもする?」
昨日の……続き?
それって……それって……
俺やっちまったああああああ!?
膝を落とし、両手を地面について俯く俺。
それをニヤニヤと表情を崩しながら見ているシャロン。
傍から見ればなんとも不可思議な光景がそこには映っている事だろう。
「シャロンくん、あんまりラフィを虐めないでほしいんだけどなぁ」
その不思議な光景に何処か気の抜けた声が響いて、俺はそちらの方へと顔を向ける。
「レギン……俺やっちまったみたいなんだ……もう死ぬしかない、そうするしかない……」
見っとも無く涙を流している俺をレギンはどんな表情で見ているんだろうか。
ああ、もしかしたら軽蔑しているのかもしれない。
彼女に会えないからとシャロンの誘惑なんかに負けたのか昨日の俺は。
昨日の俺何があった……どう考えても恐いだろこの人。
「えーっと……ラフィ? 何を言っているの?」
「だって、俺はローズという最愛の人が居ながらこの人と……」
「いやいや、君は昨日、シャロンに気絶させられてそのまま今まで起きなかったよ?」
「そんな訳があるか!? 俺が受付嬢に負けるはずなんて。
それに起きたら横にはこの人が居たんだぞ! 証拠なんてそれだけで……くぅっ」
「シャロン、僕が離れている間に何をしたんだい?」
「え……えーと……添い寝してました?」
「うん、そうだよね~、だって昨夜は僕がずっと彼についていたんだから~」
「そう、ずっとレギンが俺に……つい…ていた?」
「うん、そうだよ彼女とは何もないよ。
僕が用を足しに行っている間に忍び込んだんだろうね。
まぁ、なんでラフィが全裸なのかわからないんだけどねぇ~」
「そ、そうだったのか……嘘じゃないよな?」
「うん、嘘じゃないよ~それに気絶していたって君がローズさんを裏切る訳ないじゃないか」
そうか、シャロンとは何も無かったのか……
ん? けれど、何故彼女がそんな事をしたんだ?
そう思い、シャロンへと顔を向ける。
「え、え~と……夜這い?」
駄目だこの人、危険すぎる。
いっそ消してしまうか……いや今後を憂いは断っておかなければ。
「ラフィ~、なんか不穏な気配を感じるんだけど気のせいかなぁ?
いくらラフィでもそれはいけないよー、依頼上ではないメンバー同士の戦闘はご法度だからね?」
そうだった……そういえばそんなのが追加されていたな。
あれ、けどこの人メンバーなの?
「……ッチ、わかったよ……所でこの人メンバーなの?」
「13歳とは思えない冷静さと切り替えの早さ……素敵……」
シャロンを育てた奴ちょっと前に出て来い、修正してやるから。
「ラフィ、悪いんだけどさぁ、昨日話せなかった事があるし、ついて来てくれるかな?
ちなみに、シャロンはああ見えてもAランクなんだよねぇ」
レギンは俺に言うと、踵を返し「ついてきて」とだけ言い歩き始める。
俺としても、1秒でも早く彼女から離れたいので急ぎ足で着いていく事にした。
勿論部屋の中にあった服を回収して着た後にだが。
「ああ、私の理想の人……いつか絶対私の物にします……そう、多少強引だとしても!」
聞こえない聞こえない。
「はぁ~、シャロンには困ったものだねぇ……」
「なんでレギンはあんなのを受付にしているんだ、というかメンバーが何故受付なんてしてる……それにあの性格じゃ、遠くない未来に被害者が出るぞ」
昨日顔を会わせたギルドの一室につくなりレギンは嘆息しながら困った表情を浮かべている。
「いやぁ……彼女は昨日までは本当に真面目ないい娘だったんだけどねぇ……」
あれが真面目ないい娘? まったく想像できないのだが……
今朝の事や先日の事を思い浮かべても、まったくと言っていいほどイメージにそぐわない。
「彼女に悩むのは後回しにして~、本題に入ろうか?
えーとね、簡潔に言うと、ローズさんは既に見つかってます」
レギンの言葉を聞いて、身体を目の前にある机に乗り出しレギンに詰め寄る。
「本当か!? 何処だ、彼女は何処にいる!」
「ちょ、ちょっと落ちついてよラフィ~全部話すからさぁ。
彼女はある商家の次女として生まれたみたいだね、名前はアプローズ=ジェネマス。
髪の色は真紅、顔立ちは若干気の強さを思わせるけれど、基本的に穏やかで家族の為ならばとても強い意思を持つ素晴らしい女性だよ。
その見目麗しい容姿にそれに奢らない人格者だとかなりの有名人だよ~。
まぁ、それはいいんだけどね、今現在彼女はエルドマド帝国の南西に位置する数十年前に発見された国、シューベランド王国の国王に拉致されました」
「っは!? 拉致されただと! レギンどういう事だ!!」
「だから落ちついてってば~、彼女はそれはもう国中だけじゃなく、世界中でも有名な美女だよ?
ちなみに、シューベランド王国はカリブス王国を初め、他国とは何処とも友好国にはなっていないね。
国力は他の国よりは頭一つ抜き出ているから他国は彼女を助け出す事もできない。
仮にカリブス国が彼女を助けようとしてもエルドマド帝国がその隙をついて攻め入る可能性があるしね。
それで今回、そのシューベランド王国の人が、彼女の美しさと真紅の髪という珍しさを欲したらしいんだよ~。
彼女を妾にしたいと父親に言っていたらしいんだけど~、父親も彼女もそれを断ったんだけどねぇ」
其処まで聞けば事情はわかった。
彼女はシューベランド王国とかいう国に拉致られ、妾に──愛人にしたいと言い、それを断ったが為に強引に拉致られた。
「それでね、その父親の人から彼女を助けてほしいと依頼があったんだよ。
相手は国一つ、ちなみに依頼のランクはSだねぇ」
「出発は何時だ」
「ん、本当なら今にも向かいたいけどラフィにも準備があるでしょ?」
そんな物を準備している暇等ない。
俺の考えている事をレギンは察したんだろう、俺とほぼ同時に立ち上がり、普段から浮かべている微笑を更に深くし頷く。
「じゃあ、行こっかぁ~。
ラフィには期待しているからねぇ」
「ああ、任せろ。 ……所でレギン」
「ん?」
「シューベランドだがシュークリームだが知らんが、滅ぼしても構わんよな?」
「あはは……やり過ぎないようにねぇ……」
少し深くなった微笑を苦笑に変えて、レギンは俺についてきた。
今の俺ならば不可能な事なんて事はない。
爺さんが妨害しなければの話だがな……