思った以上に危険地帯だったわけで。
自分の身体の異変を感じて目が覚めた。
意識を失う前までの痛みは無く、何処か頭が冴えている感覚を覚えた。
それと、胸の中心部分に何かが嵌っているという感覚。
咄嗟に上着を脱いで胸に視線を送ると、胸の中心部分に漆黒というべき色をした石が埋まっていた。
「な、なんじゃこりゃああああああ!!」
なんだこの石!? なんで俺の胸にこんなのあるんだ!?
『やっと起きたかぁ~』
起きたかじゃねええええ! 爺さんなんだこれは!
『簡単に説明すると、魔法が使えるようになるための石?』
なんでそんなもんが俺の中に埋まってるんだよおおおお!!
『魔王の肉を食べたからのう……』
魔王食べたから石が生えたと言われたって納得できるか!
全て爺さんのせいだろ!
『いやいや、食べなければそんな事にはならんぞ?』
狼の肉の一番上に置いて食わせといて、何を言いやがるこの糞爺……
俺がどんなに怒っても爺さんはのらくりらりと避けていき、俺がいい加減泣きたくなってくると、魔法について教えてくれた。
どうやら、この世界にはいままで魔法なんというのはなかったらしいのだが、爺さんの知り合いにの神様が、爺さんに自分の世界を見せた所大変興味を持ったらしい。
そしてこの世界に魔法という存在を作ったらしい。
それで、この世界には今魔素という物が溢れていて、その魔素はこの周辺に群生している魔樹という植物から分泌されているらしい。
魔樹は毒々しい色をした樹なのが特徴で辺りを見てみると最近良く目にするようになった樹の事だろうと思う。
簡単に言ってしまえば魔素は酸素や窒素みたいな気体らしい。
それで、魔法使い──というか俺の胸にある石は魔素を吸収し、念じれば魔法が使えるとの事。
ちなみに、魔樹が群生する地帯には基本的に植物は毒物しか育たないらしい。
つまりだ……あの村があんなになったのは爺さんのせいという事か。
よし殺す!
殺すと言って、殺せた試しが無いんだけどな……
現在、自分の無力さに沈んではいるが、ただ黙々と歩いているのも気が滅入るので魔法の制御の練習をしながら、南へ歩き続けていた。
魔法の制御は思った以上に大変で、指先に火を灯す練習をしているのだが、気を抜くと数メートルの火柱が立って、危うく火事になる所だった……
ただ、魔法で作った炎やら水というのは本来の火や水ではないらしい。
火の場合等は熱自体は発生しているので発火する可能性はあるので注意は必要らしいが、調理等の場合は使っても問題ないとの事。
水の場合、魔素と水分が混ざると普通の人間には毒になるかもしれないと爺さんに言われた。
そのため食用には出来ないので、間違っても身体に入れてはいけないらしい、俺の場合は魔素を吸い込む器官が出来ている為問題ないらしいが。
それって軽く人間じゃなくなってないか俺……
また呪文も要らないので使用自体は楽だ、魔素を吸い込みながら強く念じるだけで使えるため注意が必要だが。
例えばだが、魔素を吸い込みながら、相手に対して強い殺意を向けるだけで殺せるかもしれないぐらい強力だと言っていた。
なんか今回俺チート入ってない?
まぁ、前世も軽くチート入ってる気がするけど。
あの時は周りの奴等が更に酷かったからなぁ。
そんなこんなで魔法の練習をしながら南にずっと進んで行き、そろそろ狼の肉も無くなりそうになる頃には森を抜ける事が出来た。
そして、南西の方角を見た所、カリブス国の北にある山が見えた。
西には巨大な石壁、たぶんコボルトの集落だった場所だろうか? 確かあそこには巨大な川があった気がするのだが、その川の手前に巨大な壁が出来ていた。
疑問は色々沸いてくるが、とりあえずあそこに向かおうと思い歩き始めた。
「で、でけぇ……」
石壁の前に到着して、巨大いとは思っていたが、その巨大さにただただ驚く。
少なく見ても石壁の高さは10メートル以上あり、鉄門の真上には更に数段高くなっているため、物見台として使われているんだろう。
しかし、これ何処から入るんだろうか?
門は硬く閉じられているし、壁の上の方にも人影は見えなかったんだが。
鉄門の前でウンウンとうねっていると門の奥から物音が聞こえ始める。
どうやら俺の存在に気付いてくれたようだ。
それから数分程待つと、上の方から、俺を呼ぶ声が聞こえてきたのでそちらの方へ向く。
「この都市に何か用でもあるのか?」
そこには犬の頭をした人間──コボルトと思わしき人達が数名こちらを覗いていた。
「あちらの森を抜けて旅をしてきた者なのですが、この都市に入る事は可能ですか?」
東の方角に広がる森を指差しながら、なるべく丁寧になるように話かける。
それにしても、コボルトは普通に人間の言葉を喋る程に時代は進んだんだな。
「それはご苦労様です、ただ今門を開けますので、もう少々お待ちください」
そうコボルトが言うと、ゆっくりと門が開き始めた。
そして、中の様子を見て驚く。
門の奥には多くの武装したコボルトや人間、それと見た事の無い種族が大勢居たのだ。
何事かと警戒して身構えるが、相手に敵意が感じられなかったので警戒を解く事にした。
そこに、先ほど話しかけてきたコボルトが降りてきたのだろう、目の前まで歩いてきた。
「驚かせて申し訳ありません、何分此方側の平野はよく魔物の襲撃に会いますので……
申し送れました、私はレーナル=フォレンスと申しまして、ここ中立都市ホワイトウォルフの東城門守備隊隊長をしております。
以後お見知りおきを」
レーナルと名乗ったコボルトは礼儀正しくお辞儀をして、自己紹介をしてきた。
聞く話によると、川を越えた此方には多くの危険な獣が存在し、巨大な人食い蟲から人間種を襲う人間に良く似た怪物が良く現れるらしい。
それで俺もその怪物の一つと思われていたみたいで警戒していたとの事らしい。
ただ、今まで怪物の中に人語を喋る者が居なかったため、俺が喋るのと同時に警戒は解かれたみたいだが。
まぁ、魔法なんて訳の分らない物が仕えてしまう俺は怪物と言われても否定できないのだがな。
苦笑を浮かべながらコボルトへ、「ご苦労様です」と伝えて、ギルドへと向かう事にしたのだが。
レーナルは丁寧な性格なのだろう、「それならば案内します」と申し出てくれたので、それに肖る事にした。