爺さんのウザさも絶好調なわけで。
爺さんウザイ警報発令
『おーい、起きろー』
あれからどれぐらい経ったのか、何処からか爺さんの声が聞こえてきた。
爺さんの声が聞こえるという事は俺は死んだのかな?
それにしても今回は早くに死んでしまった……
ローズにも会えてないし、軽くへこむ……
『いやいや、お主はまだ死んでないから。
それにこれただの夢の中だから安心しろい』
ああ……ローズに会いたい、ローズに会うまで死ぬに死に切れない。
俺来世ではローズと気ままに暮らすんだ……
『聞いてる~? お主まだ死んでないよ~?』
次は何に転生するのかなぁ……
また人間だといいんだけど……
出来れば比較的楽に生きられる環境に生まれたいなぁ。
『お主わざとかー? いい加減無視されるのワシ辛いのだけどー』
ッチ……なんだ爺さん、まだ俺に用でもあるのか? 俺死んでないんだろ。
『この扱いは酷い……だけどそこに痺れる憧れるぅぅぅぅ』
ウザい……よくレギンはこんな爺さんと仲良くできるな……
で、なんで死んでもいない俺の前に爺さんが現れるんだ? 余命短いのか?
『んにゃ、お主はまだ10年以上は生きれるから安心していいぞい。
ワシが居ない間に転生しているのに今気付いてな、何もしないとお主は……いやなんでもない、お主の前にあった食い物は調理しといたから適当に扱うといい』
ソレは助かるが、爺さん何言いかけた?
『気にするな、お主は何も心配せず生きるんだー』
怪しいけど俺には何も出来ないし、目の前の事だけ集中する事にするか。
それにしても今回は酷い場所に生まれついたもんだよな。
まぁ、前世までは結構楽に生きる事が出来たからなのかもしれないが。
『いやいや、今回は異常だとワシは思うが?
お主が居た場所は既に人が人として生きておらんからのう』
まじか……あの村もう駄目なのか……
ところで……どうやって俺は起きればいいんだろう?
『うむ、もう間もなく目も覚めるだろうよ、頑張って生きろ~』
そう爺さんが言うと、俺の身体が覚醒したんだろう、身体の至る所に痛みが返ってきた。
「いってぇ……」
重たい瞼を上げて、周囲を確認してみる。
木々の間からは日の光が入ってこないし、辺りはまだ暗いという事は夜なんだろうか?
それと、あの牛人間はどうなったのかと思って、探してみるが、あったのは血痕と、狼のと思われる大量の干し肉、それと狼の毛皮かな?。
どうやって火をつけるか考えてなかったのでコレには助かるな……
それと、近くには何かで出来た巨大な皮袋が一つ蓋をされて置いてあった。
なんとなく動物の胃の形に見えるが気のせいだろうか?
蓋を開けて、臭いで嗅いで見る。軽い果実の酸味が鼻腔をつき、どうやら果実で作ったジュースのようだ。
喉も空いていたので喉に流し込む。
今までどれぐらい体が欲していたのかと思うぐらいに飲む。
味は葡萄の様だけど渋い風味が口に広がり、少々顔を顰めたが美味しかった。
そ皮袋の中身が半分ぐらいになるぐらいにはそれなりに喉が潤ったので、蓋を絞めて我慢する事にする。
まだ飲み足りないと感じるが、いまだ森を抜けてないし、ここで全て飲んでしまうのは危険だと思ったからだ。
そして、その後は、山積みになった干し肉の一番上の肉を手に取り齧り付く。
数日何も食べてないので、消化能力が落ちているだろうと考えて、飲み込みたい欲求を我慢して噛み続ける。
噛めば噛むほど味が口の中に広がって感動の余り涙が出てくる。
けど、味は思ったのと違う。
なんといえばいいんだ、予想ではもうちょっと犬臭いというのか? 獣臭い味かなと思ったのだけど……うん、牛肉のような味だ……
牛人間の姿が頭に浮かんでくると、頭を振り忘れる事にした。
まさか、あの牛人間じゃないよなこれ……
そういえばあの牛人間何処に行った?
もしかして俺が寝てる間に何処かへ行ったんだろうか。
『正解で~す、お主が食べてるのは、一緒に戦った牛頭人身の頭部にあたる肉だのう』
ぶふぉっ!!
口に含んでいた分は吐き出し爺さんが言った言葉を反芻して意味を理解した。
塊の大半は既に胃の中だったが、吐き出そうと思い喉に指を突っ込み吐き出すが、出てくるのは胃液ばかり。
『残念ながら既に消化されました~♪』
爺さん、てめぇ俺になんて物を食わせやがった!
人間が人間を食べるのはいけないと言う癖に牛人間を食わせたら意味は変わらないだろうが!
『え、牛人間じゃなくて魔王を食わせましたが何か?』
魔王なんて食い物じゃ!? ……え? 魔王……?
『そう魔王、人類を根絶やしにしようとする世界の悪玉菌の魔王です』
もっとおかしいだろ! 魔王は狼に負けるレベルじゃないだろ常識的に考えて!
『いやいや、これでも強くなったもんなんだよ?
前世の魔王なんてようやく歩けるようになった子供に踏み潰されて死んだしのう……』
それは魔王と言わないと思うんだが……
『いやいや、魔王だよ~だって、彼はこの世界を滅ぼそうと考えているんだから。
あと数百年か数千年すれば世界を滅ぼせるぐらいには強くなると思うよ?』
それなら逆に殺さない様に保護をしろ!
それに、なんで俺に食わせやがった……
『気分?』
気分? じゃねええええ! ふざけた物食わせやがって!
『ちなみに、先ほどの正解の賞品として~』
無視すんな爺!
『魔法を使える様になりました~やったね!』
だから無視するなと……え? 魔法?
『そう魔法』
いらねぇよ糞爺! むしろ俺が牛人間の肉を食べたという事実を無かった事にしろ!
『だが断る!』
なんとか爺に牛人間を食べた事を無かった事にしろと念じた瞬間。
心臓が一際刎ね、身体全体に激痛が走った。
激痛のあまり、口からは音にならない悲鳴が吐き出されていく。
痛みのあまり、脳が焼き切れるのではないかと不安に思いながらも、激痛は胸の中心部分と脳に集中しだす。
レキの時だってこんな激痛は感じなかったとどこか冷静に考えながら、次第に強くなっていく痛みに、限界を感じて意識を失った。
爺……この怨みはらさでおくべきか……