レギンの策にはまったわけで。
俺の予想通り、国は集落に干渉してくる事はなくなった。
ついでに、コボルトと人間が殺される事件も同時になくなった。
やはりと言うべきか…一連の事件はやはりカリブス国だったという事だろう。
それと驚いた事にギルドはコボルトとの共存を望んでいるという事。
カリブス国の者達が逃げてから20日もすると、ギルドマスターを名乗る人間と数名のメンバーが、この集落に現れた。
ローズの対応を見れば、それが事実なのだというのはすぐにわかった。
そして、ギルドマスターが言うには俺達の許可さえあれば、今後この集落をギルドの本拠地に据えたいという事だった。
俺としては問題ないと思った。
中には人間を信じるべきではないと騒ぐコボルトも居るには居た。
けれど、俺とローズが人間と戦った日、コボルトとメンバーはともに戦った。
そこに信頼が生まれたんだろう、あの後、コボルトと人間達は共に笑いあっていたのを確かに見たのだ。
このギルドマスターの申し出は有難いと思った。
その申し出を受けたギルドマスターは満面に笑顔を貼り付けて、『ありがとう』と頭を下げ喜んでいるのを覚えている。
まぁ、そんな事は正直どうでもいい。
今後ギルドの人達や一部の人間はこの集落で暮らして行くのはほぼ確実だと思うから。
それよりもだ……問題は、レギンが何故前世の記憶があるのかという問題だ。
俺はレギンが前世の記憶をある事について聞いた日の事を思い出した。
それは戦後処理も簡単にではあるが、終わり一息ついて聞こうと、レギンに振り向いた時だ。
「うん、ラフィ説明するけどさ……さすがにここだと場所が悪いと思うな~?」
俺がレギンに振り向くと同時に用件を感じ取ったんだろう、そう言うと若干気まずげな表情を浮かべて周囲を眺める。
俺もそれに習い周囲を見れば、俺とレギンの何処か親しげな雰囲気を感じ取ったコボルトや、レギンと一緒にこの集落に入った、5人の女性兵士達が此方を興味深く見ているのが見えた。
「ああ、俺の家でいいだろうか?」
「あはは、ラフィ~僕とラフィの仲じゃないか、前みたいに接してよ~」
レギンはそう言うが、俺の中では未だに割り切れてないのだからしょうがないと思う。
けれど、何時までも他人行儀というのもいけないんだろう。
けど、それは話を聞いてからでもいいと思う。
「そ、そうか……とりあえずは、案内するよ」
「うん~、あ、皆は自由にしてて? 国の兵士は出来なくなったけどメンバーとしては活動できると思うから~、登録していくのもいいと思うよ~?」
そう言うと、手をひらひらと振ってから、俺を案内してと言わんばかりに急かした。
家に到着し、居間に俺と彼女は鎧を脱いで、置く。
その後、レギンとローズを俺の私室兼執務室へと案内して、レギンには俺の対面に案内し、ローズは俺の隣へと腰を降ろした。
「久しぶりの再会に喜びたいけど~、ローズさんは記憶が無いんだったよねぇ?」
「あの……だから私はローザですが……」
「あ、そうだったねぇ~ごめんね?」
彼女は終始困り顔を浮かべているが、俺もどうすればいいか困っていた、助け舟を出す事なんてできなかった。
「うん、えっとねぇ……まずローザさんの前世について説明した方がいい?」
それを聞いた彼女は慌てだす。
それもそうだろう、今日初めて会った男から、自分の前世なんてわけの分らない事を言った方がいいか? なんて聞かれたのだから。
「あ、あの……前世とか言われても私には、何のことだかわからないのですが……」
「ああ、うん、そうだったねぇ。
まぁ、その変の事は置いといて~、貴方の前世のそのまた前世はローズ=ブッチーニさんと言う人だったんだよ?
今では、始まりの村で、隣に居るラフィと一緒に暮らしていたんだ~。
当時は本当羨ましいぐらいの熱愛っぷりで羨ましかったなぁ~」
当時の事を思い出しているのか、浮かべている笑みは一層深く幸せな物を見るかのようこちらを見ている。
彼女は理解できないといった風に困惑な表情を浮かべているのだが。
「あっと、ごめんねぇ~つい懐かしい記憶に浸っちゃった~。
それで、前世はぁ、フェティーダ=カリブスというお姫様だったんだよ~、知っているかどうかはわからないけど~、有名な赤髪の姫と騎士の人物だねぇ。
ちなみに、その騎士さんが隣のラフィだから、運命ってすごいよねぇ~」
俺がその騎士だと言い、俺を指差したレギンを見て、ローズは驚きのあまり立ち上がり、こちらを見た。
その表情からは何を考えているのかはわからないが、困惑しているのは確かだろう。
「ローズさん、驚かれてるのはわかりますが、とりあえず座ってください。
レギン、あまり彼女を困らせないでくれ、それよりも俺はレギンが何故そんな記憶まであるかを知りたいんだが」
「うん~ごめんねぇ? 前世の話をすれば、彼女の記憶が戻るかも~とか思ったんだけどねぇ、残念残念」
笑顔のまま彼は謝るが、まったく悪いとは思ってないだろう。
「えっとねぇ、レギン=カリブスとして死んだ後ねぇ、何故かわからないけど黒い空間で目が覚めたんだぁ。
そしたらさぁ、変なお爺さんに声を掛けられてねぇ、君との関係を聞かされたよ~、本当ラフィって凄い人だったんだなぁって実感もしたよう~」
何処までもマイペースを貫くレギンを見て、若干イラつきを覚えたが、レギンはこんな奴なのだからしょうがないと思い、諦める。
「それでねぇ、君を今後支えてあげてほしいと頼まれてね?
それに了承したらさぁ~、エルドマド帝国の王様なんかになっちゃってねぇ。
2人の存在についても、噂では聞いてたから、なんとなくわかってたんだ~。
それでねぇ、カリブス国ではローズさんを王妃に~って受けてたから、秘密裏に2人をくっ付けようとしたのに、当時の宰相さんが驚く程深読みしちゃってさぁ。
くっ付けようと思ったのに、逆に死なせてしまう事件にまでなっちゃうし、本当困った物だったよ~」
開いた口がふさがらないとはこういう時に表現する言葉だろう。
俺とローズは口をあんぐりと開き、レギンの言葉を聞いていた。
「それでねぇ、今度こそはぁって思ったら、神様からの指示であの隊長の下で働けば会えると聞いてねぇ。
頑張って働いてたら、君達と再会できたって訳ぇ」
はっきり言ってしまおう、サッパリ訳がわからない。
「うん、とりあえず爺さんが手を引いたのはわかったんだが……」
謎が多すぎて訳がわからない。
「あ、後ねぇ、お爺さんからの伝言があるんだぁ。
『コボルトと人間でもちゃんと子供はできるから安心だぞ』だって~
よかったねぇ、ラフィが未だに彼女とくっついてないのはその辺の事があると考えてたからでしょ~?」
レギンが笑顔でそう言い、俺の頭はショート寸前で頭の中はグチャグチャでとりとめのない思考が流れるばかりだ。
彼女を見れば何故か顔を真っ赤に染めあげ、こちらをチラチラと見ていた。
「わぁ、ローズさんもやっぱりラフィに惹かれてるようだし、後はラフィ次第だねぇ」
「お、おいレギン! さすがに彼女を困らせるのは……」
ラフィは彼女に笑顔を向けながらそんな事をほざいている。
少々慌てているせいか、声が上ずったが、彼女の声を聞いて、その後の言葉が出てこなかった。
「本当ならば嬉しいです……」
まさか、彼女の口からそんな言葉が出るとは思ってなくて、頭が真っ白になった。
レギンの表情を見れば、これ以上に無いぐらいの笑顔を浮かべ。
彼女を見れば、顔を真っ赤に染め上げ、何処か熱っぽい視線を俺に送っている。
ちょっと待て、なんだこの急展開は……なんでこんなことになってるんだ?
俺はレギンに前世の記憶が何故あるか聞いたはずだ。
それがなんで、俺とローズは見つめあって、くっつくかくっつかないかの話になってる?
「あ、あの……ラフィさん、私は貴方の事が……」
ちょ、ちょちょっと待てえええ。
俺すごい置いていかれてる気がする! というか、置いていかれてる。
「コボルト族って毛に体が覆われてるから、赤くなってもわからないのかなぁとか思ってたら、ちゃんと真っ赤に染まるのがわかるんだねぇ、新発見だなぁ~」
レギンは、まったく関係の無い事を話して、我関せずといった風な態度をとっている。
地雷を置いて爆破したのはお前だろうと思い、睨みつける。
しかし、レギンのマイペースな性格が功を成しているのか、まったく堪えた風には見えないし。
逆に俺が堪えているのが現状だった。
「あの、ラフィさんはどう思っているのですか?」
体からは変な汗がだらだらと垂れ、体毛が心無しかしっとりしている気がする。
「ラフィさん?」
彼女は震えた声が俺の名前を呼ぶがどうするべきか……
「ラフィ~、ちゃんと答えてあげないとダメだよ?
ローズさん泣きそうだけど~」
彼女が泣きそうと聞き、彼女に視線を向ければ、目には涙を浮かべ、普段の気丈さはどこへやら、震え怯えたような表情をこちらに向けていた。
頭の中では、警報が鳴り響いているイメージが浮かぶ。
しかし、是と答えるか否と答えるか、どちらの答えをイメージしても警報は鳴り止まない。
「あ…えっと……」
自分でも視線が泳いでいるのがわかる、けれど、視線を何処に動かしても彼女が見えてしまうのは、しょうがないのではないだろうか?
しかし、そんな事を続けていれば、彼女の不安感が絶頂に届くのも時間はかからなかった。
ツーっと彼女の瞳から一筋の涙が流れたのを見た瞬間、体が勝手に彼女に抱きついた。
「俺も貴女の事が好きです!」
……なんだこれ、何が悲しくてレギンが居る目の前で告白せねばならないのか。
彼女に抱きつき、彼女の頭を撫でた状態でレギンを睨む。
しかし、レギンはニコニコとした笑顔を浮かべたままこちらを見るばかり。
「さて、じゃあ僕はお暇させていただきますね~。
お2人ともお幸せに~」
言うがはやいか、レギンは俺とローズが何かを言う前に部屋を出て行った。
そして残るは俺とローズと気まずい雰囲気。
ローズがどんな表情を浮かべているのか気になり、そっと体を離して彼女を見た。
彼女は先ほどの涙はどこへいったのか、顔を真っ赤にしてプルプルと震えていた。
「えっと……あの、ローザさん……?」
「ふぁい……」
俺はどうすればいいんでしょうか?
彼女は目をとろん目尻を下げて、夢心地のような表情を浮かべている。
途方にくれていると、次は彼女が俺に抱きついてきて驚く。
「ああああのロロローザさん!?」
「とても嬉しいです……私も、種族が違うから無理なのだと思ってました……」
それは俺もそうだけど!
「でですが、あいつ…レギンの言葉を信じるのですか?」
「ラフィさんの慌てようと見れば、真実なんだと思いました。
それに、嘘でも貴方と一緒に居られるならば構いません……」
彼女の言葉に頭がクラりと眩暈を起こす。
そして、心の中で暗く淀んでいた欲が浮き上がってくるのがわかった。
ああ、これはもうどうしようもないな。
その押さえつけられそうにない欲求を前面に曝け出し、彼女に再度告白した。
彼女は嬉しそうに笑顔を浮かべ、了承してくれた。
その後は、まぁ彼女と結ばれた多幸感の中2人で眠りにつくことができた。