記憶がある意味がわからないわけで。
「あ、あの……私ローザって名前なんですが……」
「あれ? ああ、そうなんだ~ごめんね? そうだよねぇ、一緒なはずないもんねぇ。
そっかぁ、記憶ないんだぁ…ラフィも大変だね? 種族だけじゃなくて記憶まで無いなんて」
「ちょちょっと待て!」
「んー? どうしたのラフィ?」
「何で記憶が!? いや…それよりも、なんで俺がラフィだって!」
「あはは~、ラフィは何時も面白いねぇ、簡単な事だよ。
ボクがそう願ったら”神”と名乗るお爺さんが「次の人生でも出会える様にしてくれる」って、言ったからね~。
それと~、君を見た瞬間に何故かわかっちゃったんだぁ、ラフィもそうでしょ?」
一体どういう事なんだ……意味がまったくわからない。
いや、冷静ならばまだわかったのかもしれない、けれどこんな状況で冷静で居られるはずがない。
しかし、嬉しい…ローズだけじゃなく、レギンに出会えたという事実がだ。
「久しぶりの再会に喜ぶのもいいけど、先にぃ、あの人達どうにかしよっか~」
レギンはそう言い、兵士たちの方を指差す。
「だが、あの数はさすがに無理では……」
少々唖然とした表情を浮かべた兵士たちが目に入る。
「いやいや、あの隊長倒せば終わりだよ~?
副官はボクだけだったしね~、それに……カリブス国の兵士ってさぁ、Cランクメンバーにも満たない腕だし?
ボクとラフィ達が居ればいけると思うよー。
それに、この集落ならば落とされる事もないだろうしねぇ?」
終始ニコニコと笑顔のまま簡単だよと言うレギンを見て、気を張っているのが馬鹿らしくなってきた。
自然と笑みが零れるのを自覚した。
「あ、あの…よろしいですか?」
ローズは話においていかれてる事に少々焦りながらも話を切り出す。
「え~っと…気になる事は多々ありますが、Sランクメンバーとして彼等に伝えたい事があるので……。
カリブス国兵士へ告げます、集落への干渉は今後ギルドへの敵対行為として見ます。
軍事行動を集落に行うのであれば、ギルドは今後カリブス国での活動を全て停止する事とします」
ギルドがカリブス国内での活動の停止。
つまりは、盗賊の討伐やジャイアントアント等の殲滅。
これらの依頼を全て受けないという事になる。
低ランクの依頼で言えば、鉄鉱石等の納品依頼も受けないし、商人の護衛任務も受けないという事だ。
国内に起こる事件や依頼は全て国が対処しなければならなくなる。
それ自体に問題は無いだろうが、商人はカリブス国に入りたくても護衛してくれる人が居ない為、別の地へ商売をしに行く事になるから、物流も停滞しがちになるだろう。
また、高ランクメンバーは戦争時に傭兵としても活躍する。
カリブス国にはその傭兵が雇えない。
そうなると、戦力は下がり、逆に関係の悪いだろう帝国は傭兵を自由に雇える。
そして、ギルドの恩恵をカリブス国だけが受けれないという事は、国の民は恐れ怯えるだろう。
別の地に逃げ出す者も居るはずだ。
ギルドが撤退すれば、その国は内外から崩れていくのは目に見えていた。
彼女の宣言を聞き、騎士団の団長を名乗った男以外は慌て始める。
しかし、男はそれでも頑なに断っている。
「いやぁ……やっぱりあの人はいろいろとダメだねぇ。
剣士としての実力はそれなりに認めるけど、頭が悪いし硬いし~。
お爺さんの指示とは言え、あの人の下に着くのは苦労したもんだよ~」
今だに笑顔のレギン、言っている事は酷いとは思うが、その表情はあの頃のままだ。
俺はその表情を見て、今まで自分には余裕がなかったのかもしれないと感じた。
「ギルドがなんと言おうと、これは勅命なのだ。
国王以外に、この命令を覆す事はできぬ!」
どうやら2人の交渉は決裂したようだ。
「そうですか、わかりました……できればやりたくありませんでしたが。
敵対行為を行ったと考え、こちらも相応の対応をとらせていただきます」
ローズは溜息を吐いてから、剣を抜き物見台から飛び降りる。
それも堀を飛び越えて……は?
今回の彼女はチートだチートだと思っていたが……
5メートルという幅を飛び越えてしまった。
物見台は5メートル近い高さだ。
ヘタしたら飛び降りるだけで怪我をする高さだと思う。
それを自分の体重ぐらいある鎧をつけ、助走もつけずに堀を楽々と越えて着地した彼女に言葉を失った。
「わ~、ローズさんすごいねぇ……」
すごいって言えるだけ、お前もすげーよ……俺なんて言葉を失ったぞ。
彼女を1人やらせるわけには行かないと、俺も跳躍する。
俺も鎧を着けているとはいえ、全身鎧に比べれば遥かに軽い。
それに俺はコボルト族なので、本来ならば人間より脚力は上なのだ。
その分足捌き等は人間の方が上なんだけど。
堀をぎりぎり飛び越え、足の痺れを無視して既に兵士に斬りかかろうとしている彼女へと駆ける。
後ろからは緊張感のないレギンの声が聞こえたが、とりあえずは無視することにして彼女を追いかける。
追いついた頃には、騎士団の団長の右腕は斬られ、後方へ下げられていた。
そして指揮官を守ろうと兵士たちが彼女へと襲いかかる。
「ローザ! 頼むから無茶はするな!」
若干地が出てしまった為に、言葉が乱暴になるがしょうがない。
彼女が斬られでもしたら俺は正気を保てないと思うから。
彼女は一言「すいません」と謝り前方の敵に集中していた。
俺も話をする余裕はないと瞬時に判断して向かってくる兵士へと斬り込んでいった。
兵士達の腕はレギンの言った通り対した事はなく。
鎧こそ硬く切れないが、体勢を崩した所に鎧のない部分や喉等の急所を攻めれば楽に殺せた。
いかし、数が多い。
こちらは2人で相手は約1000人だ、単純に計算すれば500倍の人数を相手にしなければならない。
ローズは大丈夫なのかと見たが、心配は無用なようだ。
彼女は本当にチートだと思う、あの重装備なのに動きは素早く。
右手で剣を振れば兵士が吹き飛び、左手で殴れば数メートル吹っ飛ぶ。
蹴れば鎧が体に減り込み、そして吹っ飛ぶ。
心なしか彼女に怯え、襲い掛かる人数が減っている気がする。
その分俺の方に向かってくる数が増えてきている訳だが。
というかだ、あれをチートと言わず何と言うのか……間違いなく前世の俺より強い。
数分もすれば、後方の門が開き、レギンとアキタ達を先頭に多くのコボルトとメンバーが走ってくる音が聞こえた。
数としてはほぼ同じぐらいだろう。
乱戦になるかと思っていたが、俺達の後ろから出てくる者達を見た兵士達の多くが武器を捨て逃げ始めたのだ。
兵士達の奥の方では、「止まれ」や「戦え」等と喚く声が聞こえるが、彼等は聞こえてないか無視して逃げていった。
残されたのは、100近い兵士達の死体と、最初から後方へ下がり無抵抗を続けた兵士。
最後に騎士団の団長を名乗っていた男だ。
「く、くそ……貴様ら、カリブス国を敵に回してただで済むと思っているのか!?」
もしかしたら攻めてくると思う。
けれど、それはほぼありえない事だ、というか予想では今後は何もしてこないと思う。
カリブス国がギルドとも敵対した場合受ける損害はかなりの物だからだ。
今回みたいに裏で汚い事をしてくる可能性はありえるが。
それに、彼等がつけていた装備をもらえば、此方の武器も強くなるしな。
全軍で着たら負けると思う、けど、それもないだろう。
全軍をこっちに寄越せば帝国が攻めてくるだろうから。
得することの方が明らかに多いし、危険だ。
それならば今後は黙認するだろうと思う。
「あらら~、団長痛そうですねぇ……可哀想なので今楽にしますね?」
「な!? ちょ、ちょっ……」
レギンは笑顔のまま言い、手に持った槍で顔を一突きして、絶命させてしまった。
笑顔のまま人を殺したレギンを見て、多くのメンバーやコボルト達が怯えた表情を浮かべた。
まぁ……前のレギンと対して変わらないと思ったのは俺だけだろう。
戦闘後の処理は、人数も多かった為、すぐに終わった。
死体は近くに穴を大きく掘り、その中に埋めたし、壊れていない装備は剥ぎ取り、コボルト達に配った。
ローズも、メンバーの数人に何かを頼み、そのメンバーは達はカリブス国の方面へと歩いていった。
たぶんだが、ギルドマスターに報告したんだろう。
今後どうなっていくのかはわからない、けれど、そんな事を考える前に…レギンから話しを聞かないとな。