やっと出会えたわけで。
あのSランクのメンバーと別れてから半月程経過した。
あのメンバーは未だに連絡を取ったり此方に来る事もない。
もしかしたら、この集落を殲滅するために戦力を集めているのではないかと思い始めていた。
まぁ、そんなのは杞憂に終わった訳なのだが。
『白いの、南の方から例のメンバーが4人程引き連れて此方に向かっていると物見の奴から報告があったぞ』
族長が俺の家に入るなり、そう伝えてきた。
間もなく彼等はこの集落に到着するだろう、その前にシェパードやアキタ達を呼ばねばなと思い行動に移した。
西の集落の娘も呼んでおこう、俺は話し合いに集中したいから翻訳係として。
「ようこそ、我が集落に」
人間達が集落の入り口に到着したのを見計らい彼等を出迎えた。
以前より流暢に喋る事が出来るようになった人間の言葉で挨拶すると、先日居なかった顔の者達が驚いた表情を浮かべている。
Sランクのメンバーは騎士の様な動作で挨拶をして、一歩前に踏み出す。
「参上が遅くなりすいませんでした、やはり一筋縄には中々いかないようでして……」
彼がそう呟くがここで話し合うのも礼に失する事だろうと考えて、族長の家に招き入れる事にした。
「そうですね、ああ…ここで話し合うのも悪いのでどうぞ集落へお入りくださイ。
お互い信頼しあう為にもそれなりの場というのも必要でしょうかラ」
2人程は警戒心を露にしているが、Sランクのメンバーは礼を言ってから俺についてきてくれた。
警戒心を露にしていたメンバーも数歩遅れながらではあるが、着いてきてくれている。
まぁ、油断をしろとは言わないが…いつシェパード達も表情に出すかわからないため不安である。
族長の家に到着し普通の家よりも巨大な今にあるテーブルに各自向かい合う形で座る。
「さて、話し合う前にこちらを取らせていただいてもよろしいでしょうか?」
フルフェイスをとってもいいかと例のメンバーが言い、俺達も頷くと慣れた手つきで金具を解除していく。
そして、彼女がフルフェイスを取り、中に着ていたコイフを取った瞬間自分の鼓動が激しく高鳴った。
頭を下げているため顔は見えないが、髪は若干癖ッ毛なのだろう、所々外に広がり何処か花びらが開いたかのように見える。
そして髪の色は……俺が求め続けた彼女の髪とまったく同じ、真紅の薔薇を連想さえる綺麗な色だった。
同席しているメンバーも彼女の髪の色を見て驚いている様子だ。
そして、顔を上げれば俺の鼓動は一層早まった。
気が強いと思えるような釣り目気味の目
髪の色のためか白い肌は一層綺麗に映えている。
俺がラフィールだった頃のローズと瓜二つと言っていい程のそっくりな容姿だ。
ただ、俺の心が彼女こそがローズの生まれ変わりなのだと騒ぎ暴れていた。
それだけで彼女がローズなのだと確信する。
理由になるとは言えないかもしれないが、俺の心が叫んでいるのだ、信じるに十分価すると思っている。
「では、改めて自己紹介させていただきます。
ローザ=アッハバーナと申します、現在メンバーでは3名居るSランクの1人をしています」
アッハバーナの姓名を聞き、表情には出さなかったが内心驚く。
そういえば、先日彼女に俺がアラフィル=アッハバーナだった時の記憶があると言ってしまっていたなと、何処か冷静に考えている自分を思い、驚きも度が過ぎれば冷静になるものなのかなと苦笑した。
そんな事を考えていれば、メンバー側の自己紹介が終わっていたようだ。
コボルトとしても、どうにか自己紹介をしようと思ったが、コボルトには名前という文化がない事を思い出した。
「私達には名前の文化がありませン。
ただ、こちらが我が集落の族長をしているコボルトです、そして私は次期族長のコボルトでス」
彼等の自己紹介が終わった後にこちらも自己紹介をしたが、外側に座っていたメンバーは何処か見下した目で此方を見ていた。
なんだ、文化の違いを見て見下しているのだろうか。
「こちらの者が申し訳ありません……ただ、やはり此方側とすれば、少々呼び名がないというのは困る事かと思います」
確かにそうだろう、人間からすればコボルトの違いなんて早々わかるわけではない。
アキタやシェパード等の顔が違うのなら見分けがつくだろうか、親子が並ぶと人間には分らないと思う。
『名前な、あれか? お前を白いのとかのあれか』
『そうですね、確かに呼ぶ時は名前で呼べばわかりやすいでしょう。
この際ですから、私達も名前を取り入れてみれば如何でしょう?』
西の集落の娘が族長の横に座りながら、提案をすると族長と俺もそれに同意する。
ローズは「どうかしましたか?」と尋ねてきたので、「こちらも名前の文化を取り入れましょうと話し合っていました」と伝え、15分程待ってもらい急遽名前を取り入れる事にした。
「長らくお待たせしてすいません、略称ではありますが、名前を決めさせていただきましタ。
メンバーの皆様から見ていただき、右手から、ブル、コリー、アキタ、ラフィ、キャプテン、セリーア、ジェバと名乗らせていただきまス」
コリーとアキタは俺の案を喜んで取り入れてくれた、俺としても口に出して呼べばいいだけなので良かった。
ブルドックはドックという響きが気に入らないとブルという名前になった。
族長はまぁ、俺のイメージというかなんとなくで着けたら、何時もの通り俺の意見に賛成してなった。
セリーアは西の集落の娘で、彼女は元からそういう名前を名乗っていたらしい、しかし何処で使っていたのかは秘密と言っていた。
最後にシェパードだが、シェパードの名前がイマイチ気に入らないらしい、8人であーだこーだ言い合ってジェバという名前に決まった。
「わかりました、急遽決めさせてしまってすいません。
では、本題に入らせていただきます。
まず、先日ラフィさんの言っていた、赤髪の姫と騎士の話ですが、貴方の仰ったアラフィル=アッハバーナという人物はアッハバーナ家には存在しないと言われています」
まぁ、勘当されているのだから存在はしていないと記録されているのは当然だろう。
「しかし、先代アッハバーナ家当主に確認を取った所、弟にその人物は確かに存在していると仰っておりました。
アラフィル=アッハバーナという人物を知る者は、本来ならば先代アッハバーナ家当主とそのご兄弟のみのはずです。
けれど、貴方はその事を知っていた……つまり、貴方は確かにアラフィル=アッハバーナという人物の記憶を受け継いでいるという事になる。
他の者はわかりませんが、私は信じるに価すると考えました」
先代アッハバーナ家の当主が俺の兄という事に驚いた。
予想よりも遥かに時間が経っていなかったからだ。
あれから50年前後しか経ってないのかもしれない。
しかし、そんな短期間に俺とローズの旅が物語りとなるのだろうか?
「一つ質問をしてもいいでしょうカ?」
俺が、彼女に質問の許可をもらおうと尋ねると、是と答えたので質問をする事にした。
「アラフィルとフェティーダの旅は何故そんなに有名になったのですカ?
考えるにアラフィル達が死んでからそんなに時間は経ってないと思いますガ」
「ええ、確かに赤髪の姫が無くなったのは数十年前です、しかし…彼の旅路を歌う吟遊詩人が居まして。
その吟遊詩人が旅をしながら、騎士と姫の軌跡を歌いだし、その物語は広がりました。
当時のカリブス国王の手により、吟遊詩人は既に居ませんが、彼が歌った物語は数多くの吟遊詩人を産み、赤髪の姫と騎士の物語はカリブス王国だけでなく、現在人間が住む全ての土地で歌われる程にまでなりました」
「その吟遊詩人の名前ハ?」
「ええ、とても有名な人物ですから。
名はマギィ、マギィ=レンバルトと言う人物です」
レンバルト……何処かで聞いた事がある。
思い出した、帝国に向かう時に依頼を受けた商人の名前だ。
確か……ジャックス=レンバルトだったな、という事はその血縁者という事だろうか。
もしかしたら、彼等が俺達の旅を正しい物としてくれたのだと思うと心が温かくなっていった。
「ラフィさんの言葉を私は信頼しました。
さて、話を戻しますが、全メンバーは本日の会議を持ってコボルトとの和解をする事になりました。
今後は全メンバーは全コボルトとの戦闘行為を極力行わず、またコボルトの集落に移住したい者は移住させるという方針になりましたが、コボルトの皆様はその辺の事は大丈夫ですか?」
「ああ、移住の件も構わない、当分はコボルトの警戒心も強いままだと思うが、暴力沙汰等は起こさせない、起きた場合は厳重な罪として扱おウ」
「ありがとうございます、ただ……国としては、異種との和解は認めないの一点張りで……」
「王国の方針に対して、ギルドの対応ハ?」
「ギルドの方針はコボルトとの和解です、コボルトの皆様がよろしければ、ギルドの支部を集落の中に置かせていただきたいのですが」
「俺は構いませン」
セーリアの翻訳の後に他の仲間達も頷いていく。
「では、ギルド支部の建築ですが、10日後ここから南の村より建築の職人と、Sランクメンバーが1人とBランクメンバーが4人来る予定です」
「わかりました、何か他に決める事等はありますカ?」
「そうですね……今日より10日間、私と残り2名が集落に泊まりたいのですが」
「わかりました、族長の家か私の家に3人泊まれますので、そちらでご相談ください」
その言葉で会議は終わり、集落に残る3人を残し、残りのメンバーは南の村へと歩いていった。
その後は残った3人に集落の案内をする、族長達の残り全員は歓迎の宴の準備を急がせてる。
「コボルトは人間の文化よりも遥かに遅れていますので、至らない点も多々あると思います。
ですが、できる限りの事はさせていただきますので、どうぞお気軽にお伝えくださイ」
「はい、ありがとうございます。
それにしても……人間と然して変わらない生活なんですね」
ローザはフルフェイスを被った状態で喋っているため、どのような表情で言ってるのかはわからない。
しかし、彼女の声は優しげでコボルト達に対して心から親密になろうと思っているのだろうと思えた。
「確かに、人間とコボルトの生活はそこまで変わらないのでしょウ。
私達は人間の生活を模倣して生きてきましたかラ」
「なるほど……しかし、この集落の形はすごいとしか言えませんね。
要塞都市ケファラスに告ぐ堅牢さではないでしょうか」
「ええ、人間が攻めてきた時に少しでも抵抗できるようにと、皆で考え作りましたかラ。
ただそれが無駄になったので、内心安心していまス」
「安…心……ですか?」
「コボルトは人間には勝てませんかラ。
結局は徹底抗戦をしても滅びるだけだったでしょウ」
「……そうですね、人間も多くの被害が出なくて良かったと思います。
それに、私達人間はコボルトとも生きていけるとわかりましたから」
彼女がどんな感情を込めて言ったのかはわからなかったが。
たぶん、俺と同じ気持ちで言ったんだろうと直感的に感じる事ができた。
コイフとは。
鎖帷子で出来た頭巾と思っていただければいいです。
重量は1~2kgで、13世紀~17世紀までと幅広く使われた防具です。
13世紀以前はホウバーグと一体となった全身を包む鎖帷子が使われていたそうです。