西の集落の者と話したわけで。
『でだ……白いのは普通のコボルトじゃないというのはさっきの会話でもわかった。結局は何者なんだ?』
集落に戻り、西の集落のコボルト達を空き家の家で休ませてから、族長の家で俺の事を聞いてきた。
何と言えば彼等は信じてくれるだろうか。
普通ならば頭がおかしくなったと思われてもおかしくない事だし。
『信じるか信じないかはこっちの勝手だからな、白いのが真実だと言う事を全て言えばいい、そう俺は思うぞ?』
心を読んだかのように族長に言われ、深呼吸を一つしてから俺の前世からの事を話した。
人間として生きていたが、人間として死んだ数瞬後、コボルトとして生まれていた事を。
そして、人間として生きていた時に多くのコボルトを手にかけた事も伝えた。
多少真実ではない事も混ぜたが、爺さんの事とか言っても理解してもらえるとは思っていないので、その辺は伏せさせてもらったが。
『……確かに、お前の前世というのか? その時に多くの仲間達を殺したかもしれない。
けどな、今のお前はコボルトのために尽力していて、コボルトが繁栄する事を願っている……それでいいじゃないか。
お前の話を聞いて恨む奴もいるかもしれない、それはそれでいいんじゃないか。
恨む奴は居るが関係なくお前を好む奴は居るだろう。
確かにお前を裏切り死ぬ原因となった人間は恨むべき対象かもしれない。
しかしだ、あのまま戦いになっていたら俺達は生き残っていたかわからないんだろう?
ならば白いのの判断は間違いではないと、俺は思うんだが?
今はお前を恨む者が居るだろう、それが10年先、20年先だったらどうだ?
俺はお前はコボルトの中のコボルトであると言われると思うがな』
族長はニッと顔を綻ばせ俺の肩に手を置くと、席一つしてから扉の方へ向いた。
『という事だ、お前らはどうするんだ?』
その言葉は俺への言葉じゃない事にギョッと驚き、扉の方へ向いた。
少しの間が空き、気まずげに扉がゆっくりと開いて行き、奥からアキタとシェパードとブルドック、それにコリーまでがこちらを覗いていた。
『白の族長、水臭いです……それぐらいの悩み、聞いて上げられます』
『お前が元人間だろうが恨むはずないだろう、人間だったといったって今のお前はコボルトだしな』
『貴方のおかげで今の集落の形があるのです、元人間なんて些細な事ですよ!』
『人間は好かないが、白いのは別だ』
いかん、コボルトになってからか涙腺が緩んでいる気がする。
視界が涙でボヤけてしまって視界が利かない、鼻水も溢れ出しかけ啜ると、周囲から笑い声が聞こえ、頭を手で揉みくちゃにされてしまった。
『俺の毛が乱れるだろう! ったく……けど、ありがとう』
『水臭いなぁ、白いのは普段から奇行や奇声ばっかの癖に、こんな時だけそんな態度とはな』
涙を拭いてから目の前に4人と視線を合わせると、族長が咳払いしてから話し始めた。
『じゃあ、本題に入ろう、あ……お前らも居ていいぞ、今後について大事な事だからな。
まず西の集落についてだが……あそこの族長達に聞いた話だとほとんどの者が散り散りに逃げてしまって、安否がわからないそうだ。
それで、今後どうするか聞いてみたんだが、静かに暮らせれば此方に任せると言っていた。
まぁ、なので西の者達の事は現状のままでという事でいいか?
自分達が全滅してでも復讐したいと言っているわけではないし、そのままこの集落の住民となるよう手配する。
異論はないな?』
俺は頷き、出来たら後で顔合わせをしたいと族長に告げると、族長もわかったと言って次の議題に移る事になった。
『で、次に人間との問題だ。
一応白いのの話では共生という話を言っていたな?』
『ええ、あの鉄の鎧をつけ、頭全体も隠していた人間が言うには、コボルトが人間に危害を加えないと言うのであれば、人間からも危害は与えないと言っていました。
それと、コボルトと共に生きたいと願う者が居るならばそれを受け入れてほしいという事も言っていましたね』
『それは嘘で中に入り込んだ隙に俺達を殺す事を考えているんじゃないのか?』
シェパードが言うとブルドックもその考えがあるんじゃないかと疑い頷いている。
『確かに無いとは言い切れない。
けれど、Sランクのメンバーが代表して誓うと言っていた。
それさえも嘘かもしれない、けど疑ってしまったらきりがないだろう?
それに、人間と全面的な戦闘になったら俺達が全滅するのは明白だ。
人間に賭けてみるのもいいんじゃないかと俺は思う……
ただこればかりは、俺に賭けてくれとしか言えないな』
それに、あのフルフェイスの人間は何故か信用できると俺は思っているんだ。
理由も確証もないけれど、なんとなくそう感じた。
『まぁ、白の族長がそう思うのならば私はそれに賭けるまでです』
アキタがそう言うとコリーも頷き、族長も頷いた。
『わかった……族長達に従う、しかし……俺は人間を信用したわけじゃない』
『俺もだ、あいつらが少しでも怪しい行動を起こすと言うのなら、死んででもあいつらを殺す』
この場に居る俺以外の4人は俺の考えに賛同して、とりあえずの方針は決まった。
そして、集落の現状や次に行う作業等を一通りの話し合いが終わった頃に他の皆と別れた。
その後、単身西の集落の生き残り達との顔合わせをしにいく事にした。
西の集落の者達が休んでいる家屋に到着し、扉を叩く。
少しの間が開いてから扉が開かれると、何処かくたびれた様な雰囲気のコボルトが出迎えてくれた。
『あ、貴方は……先ほどは人間達から助けていただき、真にありがとうございます……
ここでは何ですから、どうぞお入りください』
出迎えてくれたコボルトは俺を家に招きいれてくれた。
家の様子を見ると、今では集落の基本的な家屋と同じような間取りであった。
まぁ、当然と言えば当然なのだが。
玄関の右手には台所があり、それに面して今がある、5人弱ぐらいならば楽に座る事ができるだろう巨大なテーブルが中央に配置してある。
基本的にここで飲食や家族の団欒を過ごすためのスペースだろう。
その奥には小部屋が2つほどあり、右手側にも小部屋が一つ設置されていたはずだ。
他の場所ではわからないが今の集落ではこれ常識の間取りだ。
茅葺き屋根の家としては小さいかもと思うのだが、空き家となってる場所は基本的に結婚したコボルトの新居として作られているため、若干小さめなのだ。
その今のテーブルの上座である奥の席に薦められ、腰を下ろすと西の集落のコボルトが腰を下ろした。
他の人が居ない所を見ると小部屋に居るか出かけているのだろうか。
『先ほどは危ない所を真にありがとうございます。
貴方様やこの集落の皆様方には感謝しても仕切れません……』
『ああ、いい……ただなこの集落の今後の方針について話して置きたいと思ってきたんだ
それと、自己紹介がまだだったな、一応次期族長をしている』
『こちらも失礼しました……遅くなりましたが、ここから西の集落の族長をしていました……』
まぁ伝えに来たわけじゃなくて人語を喋るコボルトと会いたかったというのもあるけどな。
今後の方針を簡潔にではあるが、伝える事にした。
『まず、俺達は今後人間達との互いに侵攻し合わない約束をした。
また、人間達の中に希望者がいるのならばだが、この集落で暮らせるようにする』
それを聞き驚愕な表情を浮かべて固まる西の族長達。
『人間達と生きろと……貴方達は言うのですか?』
『ああ、コボルトは長い間人間達に狩られ続けたのはわかっている。
けどな、今のままじゃあコボルトは滅びるだけだ、それならば過去を水に流して共に生きる事こそが最良じゃないのか?
この集落にも人間に殺されたコボルトが多く居た。
けどな、それは逆も言える事だよ、コボルトだって多くの人間を殺してきた。
共に手を取り合って生きるという事は難しい、人種は違うのだしな……けど不可能じゃないと俺は思っているよ』
『……』
『私と同じ事を考えていたコボルトも居るのですね……』
突然後ろから声が聞こえてきた。
後ろを振り向くと小部屋の扉を開けた状態で立つコボルトが1人。
よく引き締まった肉体をして、顔つきはどこか犬というより狼に近い顔つきをしているように見える。
そして、何よりも特徴的なのはその体毛だろう。
色は基本的な茶色の毛なのだが、鼻の辺りから後頭部に向けて綺麗な赤い体毛が線のように伸びていた。
一瞬ローズなのかと思ったが、直感的に違うと否定する心があった。
『はじめまして、貴方は噂の?』
『噂と言うと、人語を喋るコボルトという噂ですか?
それならば、私の事でしょう……一応人間の言葉を理解し喋る事は出来ますから』
ローズではないかもしれないと思っていたが、やはりローズじゃなかったようだ。
心のでは当たり前だと思いながらも、やはり落胆している自分に溜息が出る。
しかし、このコボルトは俺と同じ考えと言っていたな。
『私も人間には勝てないと思っていました。
種族的には勝っていると思いますが、人間は戦う術を多く持っている。
そして、戦う人間はコボルトよりも遥かに強いですからね。
一緒に生きられるならば、コボルトの繁栄は間違いないと私も思っています』
西の族長は俯き沈黙していたが、一つ溜息をしてから頭をあげて呟いた。
『わかりました、今のコボルトには絶望しかないと思っていました。
しかし、貴方や娘は違ったようですな、2人の考えに賭けてみるとします。
私が言うのもおかしいかもしれませんが、人間達との和解…よろしくお願いします』
深く此方に頭を下げ、俺に希望を託してくれたのだろう。
コボルト皆の命を背負うというのも悪くはないなと思っていた。