真偽はわからないけど和解できそうなわけで。
ようやく怪我も治り、跡は残っているが痛みはなくなったので問題はないだろう。
族長には既に話してあり、了承も得ている。
まぁ、さすがに西の集落族長の娘を嫁にするとは言ってないが。
万が一違ったら嫌だし。
それに、他のコボルトの生活も見てみたいのだ。
この集落とは違う文化が見られるかもしれないのだから。
しかし、そんな楽しみも出発前に潰えてしまった。
幼馴染3人を連れて出発しようと思った矢先、西の方から5人のコボルトが走ってくるのが見えたのだ。
それも、その後ろからは10人程の人間の姿も見えた。
西の集落が、人間の襲撃を受けたのだろうとすぐに理解できた。
西の方へ視線を向けた瞬間、俺の心臓がトクンと鼓動を早める音が聞こえる。
『戦闘できるコボルトはすぐに戦闘準備! あのコボルト達を助けるぞ!』
衝動的に足を動かしながら集落の中にまで聞こえるように叫ぶ。
アキタ達も数瞬遅れて俺に追従し始めると、集落の方からも多くのコボルト達が動き出す音が聞こえた。
心臓の音を聞きながら、あの中にローズが居るのを確信して駆ける。
逃げているコボルト達とすれ違い様に『集落へ逃げろ』と叫び、速度をそのままに戦闘の人間に襲い掛かる。
奥から駆けて来る俺達を発見していたのだろう、冷静に対処して手に持った剣で受けられた。
しかし、俺はそのまま左肩を前に突き出し人間へと全体重をぶつけた。
人間は勢いを受け、後方へ数メートル吹っ飛んで行った。
後ろを見れば、西の集落の生き残りは集落へと走っていくのが見えた、あの距離まで行けば問題はないだろう。
人間達は毛色が明らかに違う俺に警戒してか歩を止め構えている。
人間達は10人程いるようだ。
見た限りでは若い連中が多い事からCランクがほとんどだろう。
俺と人間で睨みあっていると後ろからシェパード達3人が追いつき、俺の左右へと広がっていく。
その数分後には集落のほぼ全戦闘向きのコボルトが追いついてくる事だろう。
数としてはこちらの方が有利だが、相手がSランクのメンバーが1人でも居れば運が良くて生き残るのは半分といった感じだろう。
出来ればここで戦い被害は増やしたくないが、逃がせば更に数を増やして襲いかかってくるかもしれない。
戦うしかないのだろうか、そう思っていると人間側の中央にフルフェイスを被った人間が話しかけてきた。
「双方剣を納めませんか、私達は殺し合いをしに来たわけではありません」
声がくぐもっていて性別はわからないが、中性的な声が周囲に響きわたる。
他の人間はコボルトに人間の言葉等わかりはしない等言っていて今にも襲いかかってきそうな雰囲気を出している。
「ならば、ナゼあの者タチに襲い掛カッタ?」
俺が疑問をぶつければ、周囲のメンバー達が驚愕の表情に変わる。
それは中央に居たフルフェイスのメンバーも同じなようで表情はわからないが雰囲気から驚いているというのはわかった。
「あなたは……人間の言葉がわかるのですか?」
「ア発声はイマいちだが……会話ハできてるハズだ、それよりも質問ニ答エロ」
『白の族長、人間と何を喋っているのですか?』
アキタが普段人間と相対している時とは違う雰囲気に途惑ったのか、俺に質問をしてきた。
『どうやら、あの真ん中に立っている人間は俺と話がしたいらしい』
そう言うと、周りに居たコボルト一同は騒然としはじめる。
『罠だ』と言う者も居れば、『聞く耳等持たない』と言い徹底抗戦を唱える者がほとんどのように見える。
「襲撃をしてきたのはあちらが先です、始まりの村に20匹程のコボルトが襲ってきたのでその撃退の後、追撃を行いました。
私としては話し合いが通じるのならば殺し合いをしたいとは思っていません」
「そウか……全てを信じろトイウのは無理だが、そちらの言い分をある程度は信ジよう
しかし、家族をコロされていル者もいるかラナ、徹底抗戦ヲ唱エルものガほとンどナノだ」
フルフェイスの人間は頭を俯かせた後、顔を上げた。
「そうですね、確かに恨みは深いと思います……しかし、貴方はどう思っているのですか?」
「出来ルならば共生ヲしたいと思う、しかし……人間は欲に目ガクラミ裏切ル者もイル、信用デキルかは怪シイ。
ソレに怨恨は深イ、なラバお互イに不可侵を結ブベキだと思う」
フルフェイスの人間は少し考え、「わかりました」と言った後自分の考えを語りだした。
「コボルトという種族から見たら、人間の多くを恨む人達は居るのでしょう。
私も出来れば共生していきたいと思いますが、それはまだ難しいようです。
それならば、人間とコボルトの国同士がお互いに干渉しないようにしましょう。
ただし、私としてはコボルトの生活というのも知っておきたい。
コボルトと共に暮らしたいと思う者がいれば、受け入れてもらいたいのですが」
何故この人間はコボルトの生活が知りたいと言うのだろうか。
集落の奥深くに入りこみ、コボルトの集落を潰すつもりなのだろうか?
「そレガ罠ではないトイウ証拠ハアルか?」
「赤髪の姫へ誓った騎士とSランクのメンバーとしての誇りに誓い」
人間のその言葉にただ驚くばかりだった。
赤髪の姫というのは間違いなくローズの事だろう。
騎士というのは俺の事だと思う。
「フェティーダ=カリブス……」
咄嗟に言葉が漏れてしまったんだろう、誓いを唱えた人間にも聞こえたようだった。
「コボルトも赤髪の姫と騎士の物語を知っているのか?」
「いや、私は人間の記憶ガアルからダ。
物語ヘトナッタのだな、ローズとの旅路ガ」
彼女は一体あの後どうなったのかと思うと胸が締め付けられる思いが走る。
そして自然に目から涙が零れ始めた。
赤髪の姫の存在を耳にして泣き始めた俺を見て周囲の”人”達が驚いてるのが雰囲気でわかった。
「貴方はあの物語を知っているだけではなさそうですね」
コクンと頷くと、人間達は慌てながらに騒ぎ出す。
「コボルトがあの物語を侮辱するな」と。
「少し貴方達は黙っていなさい、貴方は……騎士の名前を知っているのですか?」
「騎士の名はアラフィル、アラフィル=アッハバーナ。
アッハバーナ家の三男だッた、フェティーダ=カリブスと旅立つ数日前に家族の縁を切られている。
姫ノ名はフェティーダ=カリブス、偽名でローズ、と呼んでいタ」
前世の俺とローズの名前を答えると、ほぼ全員の人間が「証拠はあるのか」と騒ぐ。
証拠等あるはずもない。
それは既に過去と事なのだから。
当事者だったと言っても誰も信じない、俺だって傍から聞いても信じれるはずがない。
そんな事はわかっているが、彼女がどうなったのか、俺は知りたかった。
「騎士が死んだ後、姫はドウナッタ」
「騎士の後を追って自害したと言い伝えられています。
その後、騎士と同じ墓に埋葬されたと言われています。
現にエルドラド帝国の首都近郊に2人の墓は存在しておりますから」
爺さんが言った事はこの事だったんだろう。
確かに、彼女は俺以外の者と結ばれた訳ではないが、彼女には辛い思いをさせてしまった。
ラフィールの時もそうだった、ジャイアントアントの女王を倒した事に油断した。
そして彼女の目の前にアシッドアントの酸を受けて……
辛い思いを今回もさせるとわかっていてもこの思いは止められないだろう。
そんな自分に嫌悪感が湧き上がる。
「話が逸れましたね、コボルトは今後人間と敵対しないと言うのであれば、全メンバーを代表してコボルトとは友好な関係を築いていく事を誓います」
「ワカった……我が集落の全コボルトを代表して誓おう」
「ありがとうございます、人間とコボルトの友好関係を築く為の話し合いをしたいと思います。
少々調べたい事もありますので、今日の所は戻らせていただきます。
また後日そちらに赴かせていただきます」
「ああ、反対者モイル事だろウから気をつけろ」
フルフェイスの人間はコボルトに向け頭を下げ、人間達に村に戻るよう伝え南西の方へ歩いていった。
後ろを向くと、族長もこの場に来ていたようで、人間が下がって行った事に驚いているようだった。
『族長、勝手ながら人間と和解する事にしました』
『何、お前が決めた事に異論はない、コボルトが繁栄できるのなら人間とも手を取り合うさ』
この族長は本当に俺の言ったことはすべて認めてくれる。
しかし、他のコボルトが納得するかは怪しい。
『皆、聞いてほしい。
人間達と今後手を取り合い、生きていく事になった。
親を人間に殺された者もいるだろう、しかし……これが我等コボルトにとって最良な事なのだと信じてもらいたい。
後に後悔する事があるかもしれない、けれど……あの場で戦おう者なら俺達は全滅していたかもしれない。
撃退できたとしても、人間が本気になれば今の俺達ではすぐに殺されてしまうだろう。
俺も人間をすべて信じたわけではない……しかし、どうか今だけでもいい俺を信じてほしい」
願いが通じたのだろうか、コボルト達はお互いに目線を合わせて頷きあうと、こちらに向きなおし了承の意味を込めて頷いてくれた。
『よし、とりあえず集落に戻ろう。
それに……お前の話を聞きたいからな、今度は包み隠さず全て話せよ?』
族長が俺に向けそう言うと、俺も頷き集落へ戻る事にした。