死闘を繰り広げたわけで。
今回少々グロ表現?が含まれますのでご注意を。
流血描写もあります!
森に到着して早3日が経過した。
森に到着した初日はキャンプ場を作り、次の日からメンバーを探していたのだが、そのメンバーも見つけられなかった。
もしかしたらこの1年でコボルトが見つけられなくなったため、狩るべきコボルトがいなくなったためメンバーの姿もなくなってしまったのだろうか?
ここに来る多くのメンバーはコボルトを狩りに来ていたはずなのに、そのコボルトの姿が見当たらなくなったのだから、コボルト目当てのメンバーが居なくなるのは当然の事か。
西の集落に居るコボルト達は、もしかしたらその被害を受けて逃げて来たのかも知れない。
そう思うと少々の罪悪感が沸いたが、徹底的に抵抗していれば今の集落も姿も無かったのだししょうがないと思って割り切るしかないだろうか。
『白の族長如何しますか?』
アキタが方針をどうするか聞いてきたので、少し思案してメンバーの探索は止めて、食用の獣を狙ったり森に群生している食用の植物を探すべきだろうと思い、方針変更する事にした。
『そうだな、この辺りなら狩りは問題ないだろう……』
『しかし、白いの……それだと人間達が狩れないぞ』
シェパードが言うと、ブルドックも不満気な表情で頷く。
こいつらは何故人間を倒したか忘れてるのだろうか?
確かに多くの仲間を殺した人間は憎むべき対象だし、俺もDランク以下のコボルトを狙おうと思っているが、コボルトが人間を狩れば人間もコボルトを恨むだろう。
『2人共、目的と手段を履き違えるなよ、森で食糧を獲るためにここに来てるんだぞ、人間は何もして来ないならそれに越した事はないだろ』
『それでは死んでいった仲間達の仇が取れないではないか!』
『仇を取るために人間と全滅するまで戦いあうつもりか? 俺達が負けるのが目に見えている、死んでいった仲間達を思うのなら、コボルトの繁栄を最優先にすべきだろ』
『ならば……何故、訓練等しているのだ!』
『襲いかかってくる外敵から身を守るためだろう、敵は人間だけじゃない、俺達が知らない所で敵が潜んでいるかもしれないんだぞ?』
例を挙げればジャイアントアントとかな、それとゴブリンもか。
未だにブルドックとシェパードの2人は納得いかなそうであったが、俺の命令は絶対だというのは覚えているようで、不満気ではあったが納得してもらえた。
周囲の探索を終えて、キャンプ地に戻ると、キャンプ地にどうやらメンバーの1人が居るのが見えた。
森の中でもコボルト集落に近い奥地だ、人間が居るとは思っていなかったが、なんとかバレずに3人を人間を中心に囲む形に配置し隠れる事が出来た。
メンバーは俺達のキャンプ地をキョロキョロを観察しているようだ。
コボルトの生体はほとんどわかっていないし、人間がするようなキャンプをするとも思っていなかったのだろう、メンバーの表情は驚きを見せていた。
メンバーは誰かの抜け毛だろうか……キャンプ地に転がっている毛を掴みながらブツブツと呟いている。
「……この毛は犬どもだよな、犬が人間の真似事するなんて考えられんが……
ん? これは……白い毛……? 新種か?」
どうやら俺の毛も発見されてしまったようだな、これがメンバーに報告されるのはまずいだろう。
自分がコボルトの中でもどれだけ異端かはわかっているつもりだ。
あいつのランクが如何ほどかわからないが、単身で居るというのだからAランク間近のBかAランク以上だろう。
3人に隙が出来たら襲いかかれと告げ、腰に釣るした剣を抜きキャンプ地へと躍り出る。
「ほう、毛が白いコボルトか……それに本当に人間の真似事をして鎧までつけてやがる。
新種の発見となれば、俺がSランクにあがるのも早くなるし儲け物だな!」
微笑を浮かべながら吐く言葉に、内心舌打ちを打つ。
Sランクに上がるという事は現時点でAランクという事だろう。
この時代のAランクの実力はわからない、予想以上より強ければ簡単に殺されてしまうだろう。
メンバーが腰につるしていた剣を抜き、俺に向け構えてきた。
メンバーの表情が真顔に変わった刹那、距離を詰めてくる。
剣を振り上げ上段から振り下ろしてきた、俺は剣を寝かせそれを受け止めようとするが、剣が触れた瞬間滑る様にメンバーの腰元へ剣が引かれる。
『まずい』と思った瞬間に、後ろへ飛ぶ。
飛ぶとメンバーの剣が俺が居た場所に突き放ったのが見えた。
危うく腹に穴が開く所だった……嘆息し、構え直すとメンバーは驚いた表情で此方を見ていた。
「あれを避けるコボルトなんて初めて見たな……やはり、新種は強さも違うってか?」
「アマり……コボるとをなめるな」
未だにぎこちない人間の言葉を喋れば、メンバーは更に驚いた表情になる。
まさかコボルトが人間の言葉を喋るとは思いもしなかったんだろう。
「ハ…ハハ、すげぇな、コボルトが言葉を喋りやがった……この情報を売れば俺のSランクは決まりじゃねーか!」
「喜ブノハ勝ってカラにスるのダな」
剣を構えなおし、メンバーへと斬りかかる。
腕力はこちらの方に分があるようで、剣を振り落ろしメンバーが受けると苦悶の表情を浮かべた。
メンバーは剣を受けた直後に右足を前に出し、俺を蹴ろうとしたが、足が前に出た時には、後ろへ飛び距離を空け俺は剣を構えなおしていた。
「ッチ……新種だけあって一筋縄ではいかないってか」
『お前ら、合図を出したら物陰から槍をこいつに突き刺せ』
『了解です』
『おう』
『任せろ』
この人間と俺の腕はほぼ拮抗していると思う。
腕力ならこちらが上だが、剣の扱い等は人間が上だ。
1対1で戦うと決着が着くまでにかなりの時間がかかると思う。
それならば、影からアキタや仲間の協力を得て決着をつけさせてもらう事にした。
しかし、安易にやらせてはたぶん避けられるだろう。
罠や何か仕掛けを作る程の時間はない。
それならば……
再度人間に特攻を仕掛けるため飛び込むと、人間は横に回り込み斬りかかろうとしたのだろう、右へ半歩ずらそうとするのが見えた。
咄嗟に右足で地面を蹴り方向を変える。
人間はまさか方向を変えてくるとは思っていなかったのか驚愕の表情を浮かべた。
俺の体当たりが直撃し、人間は後方へ吹っ飛んでいった。
吹っ飛んだ先には木があり、木の幹へ衝突し、苦しげな声をあげている。
「グハッ……普通のコボルトじゃないってのに、馬鹿か俺は。
もう油断なんてしない、お前を好敵手として認めてやるよ!」
人間が目をギラつかせ剣を構える。
こちらも油断をせず剣を構えた。
人間と俺がお互い牽制をしていると、人間が咆哮と同時に重心を低くしながら剣を切り上げてくる。
俺は後ろへ1歩下がり、剣を振り下ろす為に剣を振り上げた。
振り上げた瞬間それは間違いだと気付く、しかし気付くのが遅かった。
人間は剣を切り上げると同時に身体を捻り勢いをそのままに袈裟斬りへと軌道が変わっていた。
斬り上げから1歩間合いを詰めていて、1歩下がったとはいえそこは射程圏内だ。
内心で舌打ちを打ちながら我武者羅に後方へと倒れこむ。
左胸に衝撃を受け、吹っ飛んだ身体を咄嗟に身体を後転させ体勢を整え、追撃に備える。
正面を見ると、人間もどうやら仕切りなおすのか剣を構えなおしている所だった。
左胸に軽い痛みが走ったため、左胸を見てみると、綺麗に左胸の部分が削られ白い体毛が見えていた。
どうやら胸当てを斬られ、鎖帷子も貫通しているようだった。
あと少しでも後ろへ下がるのが遅れていれば死んでいたかもしれない。
「本当に強い新種だな……しかし、従来のとは違って人間相手にしてるのとほとんど変わらないのが助かるか」
俺が元人間だからなのだが、というかこいつは俺が人間の言葉を理解できてる事を忘れてるのだろうか。
そんな事はどうでもいいのだが。
『お前ら落ち着け、合図を出すまで抑えてろ』
俺が斬られたのを見て、物陰に隠れていた3人が飛び出そうとしたのを咄嗟に抑える。
アキタなんて殺気が駄々漏れだ、ヘタしたらバレてるかもしれない。
なんとか3人を落ち着かせようとしていると、人間が剣を構え再度間合いを詰めてくる。
こちらも一気に間合いを詰め剣を打ち合う。
腕力の違いか打ち合う事は不利だと思ったのだろう、人間は数合打ち合った後に間合いを開けるために下がろうとする。
しかし、それを見逃すほど俺は愚かじゃない。
下がるのとほぼ同時に俺も人間へと間合いを詰め何度も剣を振り下ろす。
人間は舌打ちしながらも、俺の剣を受けていく。
人間はただ後ろに下がっていると思っているかもしれない。
しかし、俺にアキタの下へと誘導されていて、すぐ後ろはアキタが隠れている場所なのだ。
俺の策にのった振りをしているのか、気付いていないのかはわからない。
しかし、槍が飛び込んでくる事まではわかっていないだろうと思い人間へと攻め続ける。
狙いの位置に到着すると同時に渾身の力を込めて剣を振り下ろした。
人間も対抗しようとし、剣を斬りあげる。
剣と剣が打ち合う音がした直後にとても不快な音が鳴り響く、そして剣を持っていた腕への付加が一気に半減したのを感じ、内心で悪態をついた。
手元を見てみれば、俺が持っていた剣は半ばで綺麗に折れて剣先は遥か遠くの地面に落ちていた。
やはり1年も前の剣では寿命が来ていたようだ。
「新種よ、これで形成逆転って奴だな、武器がちゃんとしてれば俺を殺せたかもしれないというのに。
いや、まったく残念だったな」
人間は既に勝ちは決まったとばかりに余裕の表情を浮かべてこちらを眺めている。
「じゃあ、お前との戦いも楽しかったよ、お前のおかげで俺はSランクに上がれる」
そう言うや否や剣を左胸目掛けて剣を突き刺してくる。
なんというか、詰めが甘いと言うのか、勝ったと思うのが早すぎる。
誰が勝ちを諦めたと言ったのだろうか。
剣の進行方向上に左手を構え手のひらに剣を埋め込んでいく。
左手から脳天へと激痛が走り、あまりの痛さ故に眩暈を起こすがなんとか我慢する。
そして柄まで進んだ左手で柄事人間の右手を握る。
人間が途惑って剣を引こうと体勢を崩したのと同時に、右手で人間の左肩を掴みながら体勢を前に倒し、人間と一緒に地面へと倒れ込んだ。
そのまま口を大きく開け、牙を人間の喉へ食らいつこうとしたが、人間は自分の足で俺の腹を蹴り近づかせないようにしている。
ここで離れてしまったら突かれ損だと必死に人間に捕まりアキタへと叫んだ。
『今だやれ!』
叫ぶと同時に物陰に隠れていたアキタが木の槍を人間の肩口へと突き刺す。
突然の激痛に悲鳴を上げた人間は困惑し俺を抑えていた力が弱まっていた。
好機を逃さずに一気に人間の頭へ食らいつく。
口の中に血の味が広がり吐き出しそうになったが我慢して、顎を上へと向け人間の頭を引っこ抜く。
バキメキという不快な音と共に全身に不快感が駆け巡る、もう少しの辛抱だと耐え頭を振り上げると、形容し難い音と共に人間の頭と胴体が別れた。
数瞬の後首から大量の血が溢れ、咄嗟に目を背ける。
銜えた頭を吐き出し、激しい痛みを訴えている左手から剣を抜き取り、その場に座り込むと他の3人も物陰から出てきた。
『白いの大丈夫か……?』
『白の族長……手が!?』
『……あんな強い人間も居るのか……』
ブルドックは人間の死体を眺めながら呟き、他の2人がこちらへ近づき俺の傷を心配してきた。
左手の傷は綺麗に掌の中心に穴が空いていて、死にはしないと思うが夥しい量の血が流れ続けていた。
今さらに気付いたが左胸からも少量の血が流れている。
鎖帷子を貫通し掠り傷程度ではあるが斬られていたようだ。
本当に危ない所だったと嘆息が漏れた。
『あー……お疲れ、すまんがそいつの着ている物を剥ぎ取ったら集落に戻ろう。
さすがに手元に傷をふさげる物もないしな』
さすがに誰も異論を唱える者は居なく、負傷している俺に休んでいてくれと伝えてから3人はキャンプ地を片付け始めた。
-=Ξ=-=Ξ=-=Ξ=-
集落へ戻り早10日が経過した。
傷は未だに完治しているとは言えないが日常生活には支障を来たさない程度には回復した。
利き腕ではないとは言え、左手が使えなかった数日は本当に面倒だった。
右手で先日殺した人間の剣を振っていたが重心等の違和感を感じていたし、早く治ってもらいたいものだ。
西の集落へ行った族長は俺が集落につく前日に戻ってきていた。
そこで、南の森の現状を伝え、何点か方針を変更する事にした。
南の森は奥地で行くことを禁じて入り口近くで狩りや採集を行う事が決められた、人間を発見した場合や万が一見つかった場合は生き延びる事を最優先に行動する事を絶対とする事に決まった。
また、西の集落についても、俺は全くといっていいほど情報を知らなかったので族長達から色々聞かせてもらえた。
彼等は西の森を越えた平野で暮らしていたらしいのだが、1年近く前から人間が頻繁に現れ多くのコボルト達が狩られていたらしい。
やはり、ウチの集落の者達の被害が減ったために帝国周辺のコボルト達が狙われるようになったのだろう。
そして、ある日集落に20名近くの人間が襲い掛かって来たらしい。
300人以上居たコボルト達は散り散りになり、その集落の長の家族が西の集落へと逃げ落ち集落を作ったらしい。
人語を喋るコボルトはその族長の娘だと言う。
もしかしてローズなんだろうか?
近いうちに西の集落へ行ってそのコボルトに会って見たいと思った。
もし、そのコボルトがローズならばやはり妻にしたいというか……誰がなんと言おうが絶対にする。
それに西の集落のコボルト達もこの集落へ住めば集落の完成も早まるのだから。
よし、族長に話して怪我が完治したら西の集落へ行く事にしよう。
その人語を喋るコボルトがローズならばいいんだけどな。