この生活にも慣れてきたわけで。
大人コボルトを数名ずつ森に送りこみ、偵察している間に集落での作業を皆で行い続けて1年が経過した。
平野にただ掘っ立て小屋を密集させただけの集落の姿は無く、集落の周りに堀を作り集落の部分となる場所に土を持って高台にした。
堀もかなりの物だと思う、深さは3メートル以上はあるし、広さも5メートル近い大きさなっている。
水路はまだ完成していないため水がない、人間達が森を越えてきて襲ってくると危険だとは思うが、偵察にいったコボルトから人間が森を越えたという報告はないし問題ないだろう。
家も掘っ立て小屋から、皆で意見を出し合って茅葺きの家を作れるぐらいに建築技術は向上した。
水路もあと半年もすれば東にある川と繋がるため、ちゃんとできていればの話だが掘にも水が入り防備は固くなるだろう。
集落の周りには、堀をその内側には馬防柵を作り容易には侵入できないようにしてある。
入り口は南西と南東側に用意するつもりだが、南東は水路が完成してからとなると思う。
現在、この集落の規模はかなりの物ではないだろうか?
集落の西側から東に数分歩くと巨大な川があるのだが、そこまで拡大させ、柵は既に配置済みだ。
土も盛り込み済みなので、結構な高台とかしているので、南の森を抜ければ結構目立つ作りになってしまっている。
川で釣りができるように川に面した一部分は低く作られているけどな。
それに、腰蓑だって洗わなければ臭いのだから、洗濯も必要だ。
『随分、この集落も様変わりしたな』
俺が集落を眺めていると、いつの間にか後ろに来ていた族長が声をかけてきた。
ちなみに俺はコボルトとして成人したため、不本意ながらこの族長の補佐になっている。
『そうですね、完成するのは後何年経つかわかりませんが、コボルトの数も増えましたから、予定よりは早くなるんじゃないですか?
それに、今の人間の強さはわかりませんが、簡単にはここを潰せるとは思えないぐらいには出来てると思いますよ』
それに、俺が森に入ってから1年経ってるし、そろそろ俺が森で狩りをするのもいいかなと思い始めている、Aランク以上の奴等が居なければ狩り再開するべきだろう。
北や西にもコボルト達が狩り等で向かうが、最近は人口が増えたため食料の在庫が不安になってきているしな。
『族長、明日ぐらいから南の森に行こうかと思うのですが』
『そうか、その辺はお前に任せてるからな好きにやっていいぞ。
後、訓練してる奴等の所に行くなら、3日後の西の集落へ行く事伝えて数名選抜しといてくれ』
まぁ、この族長は俺を信頼してるのか、俺が提案した事に反対した事なんて一度もないんだが。
『わかりました、では明日の準備がありますので失礼します、後の事はお願いします』
頭を下げ、族長と別れるとシェパード達が居るであろうコボルト達が戦闘訓練をしている場所に向かった。
戦闘訓練も一年程前から行うようになった。
元々コボルトは人間よりも秀でた俊敏性を持った種族だ。
それでも人間に狩られるのは戦い方に問題があるからだと俺は随分前から思っていた。
レキだった時のコボルト達は人間よりも遥かに強い種族だったが、今では人間とはあまり変わらない身体能力だ。
しかし、コボルトは武器の扱いは素人に似たようなものだし、単純のせいか戦法も突進や棍棒を振り回すか振り下ろす程度なのだ。
実力の無い人間ならこれでも倒せるかもしれないが、Cランク以上の上を目指すメンバー相手ならば簡単に狩られてしまうのは明白だろう。
なので少しでも戦えるようにと訓練を行い始めた。
ちなみに、現在戦闘が出来る状態のコボルトは500人ほど、今年増えたコボルトは100人程だ。
来年には例年よりも成人するコボルトが増えていくと思う。
この調子ならば数年後には4桁を越えるのも容易いだろう。
この調子ならばだが……
『白の族長どうしました?』
アキタは何故か俺の事を<白の族長>と呼ぶ、何故そう呼ぶのかと聞いたが、『次期族長を族長と呼んでもおかしくはないでしょう』と言われた。
それならば族長になった時にそう呼べと言ったが、はぐらかされてしまった。
次期族長だというのに俺って発言力ないよな?
『ああ、明日なんだが南の森に行く事にした……それで数名着いてきてもらいたいのだが』
ちなみに、コボルトという種族は人間より遥かに聴力が良い。
つまり、何が言いたいかと言うとだ。
『私を連れていってください!』
『いや、私を!』
『お前らじゃ足手まといだ! 俺を是非!』
とまぁ、訓練していたコボルトが訓練を止めて俺に群がってきたわけだ。
『お前ら落ち着け、ちょっとあの2人を呼んできてくれ』
ちなみにあの2人というのはシェパードとブルドックのことである。
アキタは俺が現れると同時に訓練を止めて俺の所に来ていたためすぐに会えたが他の2人は未だに訓練中だった。
強くなることに貪欲になっていたこの2人は他のコボルトよりは強いと思う。
たぶんCランク程度のメンバーならば容易いとは言えないが、1対1でも戦えるぐらいには強くなっているだろう。
1人のコボルトが近づいて行き、2人に声をかけると2人も俺に気付いたのだろう、すぐにこちらに向かってきた。
『白いのどうした?』
『俺に何か?』
『明日、南の森に調査に行く。
3年前のメンバーで人間達の状況を調べに行くぞ』
アキタが聞くのは2度目だったが、アキタも含めて伝えると、3人は勢いよく頷き、他のコボルト達が大きく項垂れていた。
血気盛んなのはいいが、好戦的すぎるのもどうだろうか?
はっきり言ってしまうと、人間は好きではないが敵対したくはないのだ。
出来るならばお互い不可侵条約のような物は結びたいと思っている。
『あ、それと西の集落に族長と誰か一緒に行ってくれないか?』
しかし、南には皆が行きたがるのに西には誰も行きたがらない。
まぁ、南は人間との争いがあるため、戦いたいと言う奴が多い。
西の集落は争いがないため暇だと思っているのだろうか。
『なんだ、誰もいないのか?』
皆はお互いの顔を見つめあいながら誰も立候補しようとはしなかった。
西の集落とは数週間前に帝国領土から逃げてきたコボルトが西の平野に居を構えてできた集落だ。
人口はまだ100人に満たない程小さく、戦闘が出来るコボルトも10に満たない程小さな集落だ。
『お前らは同じコボルト同士でも他所から来たのは敵だと思ってるのか?』
『い、いえ……そういう意味では』
『同じコボルトではありますが……』
俺は集落作りや南の問題に忙しく西の事はよくわからない、こいつらは何を途惑っているのか。
『白の族長、南には毛色の違ったコボルトが1匹居るという噂があります。
たぶん、そのコボルトを恐れてるのではないですか?
噂では、そのコボルトは人語を喋るとの事です』
どういう事だ?
俺の他に人間の言葉が喋れる奴がいる?
それは興味深いな……もしかしたら、前世の記憶とかでも残ってたりする奴なのだろうか?
まぁ、興味深いが、今は族長の護衛に行く奴を決めないと。
『人語がなんだ、俺も人語を喋れるし、毛色は違うぞ?
そうか、お前らは俺の事を仲間だとは思っていないのだな……』
俺が少し悲しそうな表情を浮かべながらそう言うと他のコボルトは驚愕といった風に表情を変え、アキタは突然怒鳴りだした。
『貴様ら、それでもコボルトか!? ここには白の族長が居るのだぞ! 西の集落の者がなんだ、一緒に手を取り合う事さえ貴様らには出来んのか!』
アキタが怒鳴ると、数人の目の色が変わり生きますと立候補してくれた。
『じゃあ任せる、出発は5日後だからそれまでに準備を整えろ。
戦をしにいくわけじゃない、単なる挨拶だよ、一緒に仲良くしましょうってな。
何も難しく構える事はないが、道中何があるかわからないからこその護衛なのだ。
間違っても西の集落の者達と敵対行為だけはするなよ?』
何か決心したのだろう、立候補してくれたコボルト達が力強く頷いた。
3人以外のコボルトに訓練を続けるように言い、3人とは族長の家で話し合う事にした。
といっても、基本的に決定事項をこの3人伝えるだけなのだが。
まぁ、俺のいう事は絶対厳守程度の事しか決めてないんだがな。
ただ、戦う場合は基本的に3人は1組で行動する事を絶対というのも伝えた。
アキタは大丈夫だと思うが、ブルドックとシェパードが人間の前で冷静な判断が出来るかは不安であるが、俺が居ない場合の緊急時はアキタの命令に従う事と決めておいた。
余程の事が無ければ簡単には死ぬ事は無いだろうと思う。
コリーは今回も留守番だ。
というか、コリーは戦闘が大の苦手なのだ、訓練の時は悲惨としか言い様が無かった。
なので次期族長命令として集落作りの現場監督を命令して任せてある。
今の集落の形になってるのも、コリーが頑張ったおかげだと俺は思っている。
茅葺き屋根の家を作成しようとしたのもコリーだしな。
明日は南の森へ向かい、Aランク以上のメンバーが居なければ然したる問題はなくなるし、狩猟も行う事が出来るだろう。
3人と別れ自宅に帰り、今年生まれたばかりの弟の世話をしながら明日に備え、休む事にした。