俺より3人の方が殺る気があるわけで。
今回グロ表現が含まれますのでご注意ください。
族長に頼まれてから3日目。
ようやく南東のコボルト達が襲われる森に到着した。
ここから南に数時間程歩けば人間の村があるだろう。
どれだけの時間が経っているかわからないため、街と呼べるぐらいに発展はしているかもしれないが。
『白いの、なんて武器がこれしかないんだろうな』
シェパードが手に持った武器を見ながら呟く。
確かに俺もそう思うけど……鉄の剣等を持ってるやつも少しは居るのだが。
大半は人間達に狩られたりしたせいで集落には石を埋めこんだ木製の棍棒しか無かった。
はっきり言って鉄の剣と打ち合う事は先ず無理だろう。
『俺達が狩る人間は村にいるやつらより強いから、正面から戦おうとするなよ?』
シェパード達はその言葉に理解したように頷いた。
コボルトの集落も戦闘要員と非戦闘要員が居るのだからなんとなくでもわかるんだろう。
人間の頃はコボルトに人間みたいな知恵があるとは思っていなかったから少々驚いている。
最初はローズが居ないと言う現実や人間ではなくコボルトに転生したという事に腐った時期もあったが、今思えば人間になったとしても人間を信用できるとは思えないしな。
調度よかったのかもしれない。
今でも人間を信用する事は出来ないと思うけれど。
『ん……白いの待て、前の道から人間達の臭いがする』
森の中にある人間が作った小道を歩いていると、シェパードが教えてくれた。
俺は木の陰に隠れるよう3人に指示してから自分も隠れる事にした。
人間達よりも嗅覚が鋭いコボルトの中でもかなり臭いに敏感だ。
なので、こいつが言う事には基本的に信頼できるんだ。
程なくして、南の方から鉄製の装備を纏った人間達が2人程来た。
どうやらメンバーで当たりのようだな……
1人は男でもう1人は女のようだ。
男は鉄の剣と鎖帷子の上に胸当てを着けている、左手には丸い盾もあるから前衛的な立ち居地で戦うんだろう。
もう1人の女の方は鎖帷子に柄が木製のシンプルな槍だ。
見るからに緊張しているのがわかる、たぶん男はBランクで女はCランクだろう。
『白いのどうするんだ?』
さてどうしようか。
この時代のBランクの強さはわからないが、大人のコボルトよりは遥かに強いだろう。
Cランクだって基本能力はコボルトより強い。
相手は2人でこちらは5人、数は有利だが実力ではこちらが劣るだろう。
『早く殺そう』
ブルドックは今にも飛び出さんばかりに人間達を睨んでいる。
普段は冷静だが、いざとなると頭に血が上ってしまうのかもしれない。
『いや、たぶんあいつらは俺達より強い……一度退いて策を練ろう。
ブルドック、戦いたいのはわかるが命を無駄にするな』
ブルドックは不満そうな表情を浮かべていたが、アキタが指示に従えと言うと不満気ながらも頷いてくれた。
人間達に気付かれないよう静かに後退していき、策を練る。
まぁ、策なんて練る程、コボルト達は基本的に知識がないので浮かばない。
頭が悪いわけではないだろう、俺が特別でないのならばだが。
ちゃんと俺の言う事はこいつらも理解できてるので種族として頭が悪いわけではないと思う。
話し合うというより俺の一方的な案だけど、罠を仕掛けそこに奴等を誘き寄せてから狩るという事にした。
しかし困った事に、こいつらは罠の存在も知らないらしい。
シェパードには人間に気付かれないように動いてもらいながら偵察をしてもらっている。
その間に、俺を含む3人が進行方向に罠を仕掛ける。
罠といっても単純なものだ、木の柵を作り、それをシーソーのように設置する、そして片方の先端を尖らせておく。
Bランクに見える男は剣だから間合いを詰めるために突っ込んでくるだろう、それもコボルトが罠なんて作るはずなんてないと思い込んで。
これで鎖帷子をつけた人間を殺せるとは思えないが怪我は与える事は出来ると思う。
先に男の方を倒せたならば女の方は数で押せばなんとかなると思う。
他の奴等は危ないと思うが正面に俺が立ち囮になれば問題ないだろう……たぶん。
この時代のメンバーの強さがわからないので少々の不安はある。
まぁ、ローズと出会えてないし、ローズが人間だったりしたらどうしようもないから、ぶっちゃけるとどうでもいいと思っている。
ああ、ローズに会いたい……
罠を林道から逸れた東西側に配置してどちらに行っていいように西方面にブルドックとアキタを配置した。
それから数分程経ったらシェパードが帰ってきた。
『後どれぐらいで到着するんだ?』
『もう見えてくるはずだ』
言動は普段通りだが、若干緊張しているようだ。
まぁ、当然か大人コボルトでさえ簡単に殺される程強い人間が相手なのだから、彼らも多少は恐いのだろう。
『恐いのか?』
『恐い? 何言ってるんだ、楽しみでしょうがないんだよ。
もうすぐ親父や兄貴達の仇が取れるんだからな』
シェパードが普段は見せないような目でメンバー達が来るであろう道を眺めている。
すると、奥の方から2人程の足音が聞こえてきた。
人間達に気付かれる前にブルドックとアキタに指示をだし隠れさせる。
シェパードと俺も東側に身を隠した。
メンバー達が現れるとシェパードとブルドックは殺気に似た気配を出している。
勘のいい奴や上位のメンバーだったら気付かれてもおかしくないレベルの気配だ。
『お前ら少し落ち着け、ばれたら全員死ぬぞ』
シェパードはハッとしてすぐに落ち着かせたがブルドックは若干抑えようとしているが出来ないみたいだ。
しかし、このメンバー達はそんな実力も勘もないみたいだ、男は女にヘラヘラと笑顔を振りまいてるし、女は女で熱っぽい視線を向けているのが見える。
よし、ぶち殺そう。
お前ら俺を差し置いて何楽しそうに生きてるのかと。
ちょうどメンバー達が俺達の横に差し掛かった瞬間合図を出し立ち上がる。
突然挟み撃ちという形で現れたコボルトに驚いた2人だが、男はすぐに落ちついたのか剣を向き、俺のほうへ身体をむけた。
「ミーファ、こいつらただのコボルトじゃない、もしかしたら新種かもしれないから応援を呼んできてくれ!」
うん、無駄に冷静だな。
けれど、ここで新種のコボルトがいると報告されるわけにはいかない。
そうすると調査のためにAランクのメンバーが来る可能性だっておおいにあるのだから。
『3人共、女が逃げるつもりだから退路をふさげ』
3人はすぐにメンバー達が通った道の位置についた。
やはりコボルトはヘタなメンバーよりも素早いな。
簡単に狩られているため、コボルトという種族は弱く見られがちだが、実際そんな事はない。
確かに、人間よりも知力等は不足しているとは思うが、単純な身体能力ならばコボルトの方が上だろう。
ただ、コボルトの動きは単純なため、それが読まれやすいのだ。
だから慣れてしまえば簡単に殺されてしまうのだ。
コボルトとして生きた2年で感じた事は、コボルトは人間と差して変わらないという事。
人間並の生活はちゃんと過ごせるのだ、先導者が居れば。
けど、俺が族長とはぶっちゃけるとやりたくない。
族長やるぐらいならローズを探す旅に出ます。
コボルト3人が後ろに回ってきたために、女の方が軽いパニック状態に陥っているようだ。
やはり女の方は経験が少ないな、若干かわいそうではあるが、とりあえず今俺の機嫌も悪いし……コボルト3人も狩りがしたい気満々なので諦めてもらうしかない。
メンバー達は何時死ぬか分らない職業だししょうがないよね?
コボルトだって反映のために生きてるんだもの。
決して前世で裏切られたからとかそういう恨み言じゃないよ? ホントウですよ?
「っち……やはり新種か……ミーファ、とりあえずは耐えろ! 俺がその間にあの白いのをやる!」
人間も俺のこと『白いの』って呼ぶのな。
「ヨシ、コロソウ」
「な……!? しゃ、喋った……!?」
お、無意識のうちに人間の言葉を喋ったみたいだ。
シェパード達も目を飛び出さんばかりに目が見開かれてるし。
人間に言葉が通じるなら挑発もできるだろう。
「ナニをビビッてイル、ハヤく向かッテコイ」
しかし、これがいけなかったのかもしれない。
男は警戒心を露にして、二の足を踏んでいる。
どうするかなぁ……出来れば早めに倒してこの地域から逃げ出したい。
応援とか他のメンバーが現れたら簡単に形成は逆転するのだから。
「コなイノナ、ら、オンナをさキに殺スか」
我ながら人間の言葉の習得が早い事に驚く。
そしてあれだ、俺悪者っぽいね?
まぁ、いいけど……善人じゃないし、というより人じゃないし!
女の方に視線を向け、歯を剥き出しにすると女メンバーの方は怯えた風に「ひっ」と悲鳴を上げている。
若干涙目にさえなっている。
混乱するにしても酷すぎやしないか?
仮にもCランクなんだろうに。
女の悲鳴を聞いて、男は決心したのか俺に突っ込んで来ようと重心を前にした瞬間に足元の柵を踏み込む。
ゾザザザザと土で隠した柵の先端が浮き上がり、男の腹部に面白い風に突き刺さった。
男は腹部に襲い掛かった激痛に呻くと膝をついて現状を認識できないのか身動き一つなかった。
予想外に旨く行き過ぎたことに驚きを隠せないのだが。
しかし、いつまでも驚いているわけにも行かないのですぐに男へと襲いかかり、項垂れている頭に渾身の力を混めて棍棒を振り下ろす。
グチャッという鈍い音と舞う男の血飛沫で男が絶命したのは明白だった。
女はまさか男が呆気なく死ぬはずがないと心のどこかで思っていたのだろう。
目の前の惨状を目を空ろにしながら見ているだけだった。
男の死体から剣を奪い取り女の方へ視線を向けた。
「ヒィッ……」
女はあまりの恐怖に腰が抜けたのだろう、尻餅を付き俺から少しでも距離をとろうと後ろへ後ろへと下がっていく。
後ろには他の3人が居るという記憶もないのだろう。
ドンっと衝撃を受け、後ろを向いた女は悲鳴をあげ、失禁さえしていた。
こうなると哀れとしか言えないのかもしれない。
手に持っていた槍の存在も忘れ、ただただ泣き、口々に助けてと呟くだけだった。
それで助かるはずもないというのに。
シェパード達は手に持った棍棒を振り上げ女を思い思いに痛めつけている。
俺としては一思いに殺してあげればいいのにと思うのだが、シェパードからしたらそんな事はないのだろう。
この女が殺したわけではないが、多くの家族が殺されているのだ。
人間という種族がシェパードからしたら仇なんだろう。
コボルトの人間に対する敵対心は相当な物なのかもしれない。
シェパードの目は今爛々と輝いていて、今までは表面に出てこなかっただけで恨みは相当なものだと思う。
俺が人間だった時もコボルトを多く殺したんだけどな……シェパードにそんな事言えば、なんと思うのだろうか?
まぁ……普通は信じないか、どう考えても頭がおかしい奴にしか思えないだろう。
しかし、もしかしたらその中にシェパードの血族が居たのかもしれないと思うと少しの罪悪感を感じてしまうのはしょうがないと思う。
今の俺は人間とコボルトの生活を知ってしまったのだから。
10分ぐらいだろうか、3人は女を殴り殺したが目は恨みで彩られていた。
『おい、そろそろ戻るぞ……人間達が身に着けてる物はすべて剥ぎ取れ、持ち帰って俺達で使うぞ』
アレだけの事をしといて、シェパードとブルドックは未だに足りないといった表情を浮かべていた。
男の方は俺が殺したため頭がつぶれ、腹部に木材が刺さっているだけだが、女の方は酷いとしか言い様がなかった。
頭は殴られ続け原型を留めておらず、身体の至る所から骨が折れ露出していた。
人間の頃ならばなんて惨いと思ったかもしれないが、因果応報という事場もある。
それだけコボルトから恨まれる事をしたのは人間だったという事だ。
まぁ、それを推奨してしまったのはギルドを作った俺にも原因がある訳だが……
しかし、あまりにも時間を掛けすぎたもしかしたら別のメンバー達がここを通るかもしれないため、早めに集落へ戻ろうと、3人を説得して、仕えそうな衣服と装備品の剥ぎ取りに掛かった。