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転生ルーレット  作者: 秋葉 節子
転生三回目
32/74

先入観を持っていたのは俺の方だったわけで。

 エルドマド帝国、国境へ向けての旅路は、思いのほか順調だった。

ローズも、王城に居た頃とは違って自然な笑みが浮かぶ程にレンバルト夫妻に心を開いているようだ。

自然と俺の口元も緩む。


「何いきなり、ニヤついてんだよ、気持ち悪い」


「……殺すぞ」


俺の幸せタイムを妨害し腐りおって、どうしてくれようか。


「わああああ、すいませんすいません! うちのビロードがもう本当すいません!」


俺とビロードの仲は常に最悪だ、冷戦よろしく事ある毎に何かしらの言い合いをしている。

それを必死で止めるアネスは苦労性だなと思いながらも止めるつもりは全くない。

ビロードを見てるとなんか、無償に腹が立つんだよな。

何故だろう? やはりあの爺さんと被るからか?

けれど、翌々考えてみると、そんなに似ている訳ではない。

確かに、時折人を小馬鹿にした態度ではあるが、あの爺さんほどではないしな。


「ほら、ビロードも謝りなよ!」


「嫌だね、気持ち悪い顔してるコイツが悪いだろ、俺は素直に思った事を言ったまでだ」


むしろ、なんでコイツはそんな俺の表情を一々盗み見てるんだろうか。

俺じゃなくて周囲の状況を見ていろと言いたい。

今歩いてる道は、舗装こそされているとはいえ、周囲には木が生い茂っていて、何時盗賊や亜人が出てきてもおかしくないのだから。

俺? 俺はいいんだよ、ローズを見守るのが仕事だから。

それからも、俺とビロードは何かある度言い合いをしていた。

フッと思ったが、俺って100年近く生きてるよな?

あれ、こんなのでいいのか俺……


自己嫌悪に入っている最中、後ろで敵襲というメンバーの叫び声が聞こえた。後ろを向くと拳大の大きさの石が数個間隔で投げ込まれている。

コボルトならば、もう少しマシな攻撃をしてくるはずだ。


「敵はゴブリンだ! 石の数からして、10から15!」


「おっしゃ、アネスいくぞ! 遅れんなよ」


「あ、ビロード!」


2人は俺が声を出すのとほぼ同時に後方へと向かう。


「あ、あのラフィールさん達は後ろのゴブリンと戦わないのですか?」


ジャックスさんは多少怯えた様子だが、俺達3人にゴブリン達の相手をしなくていいのかと聞いてきた。

コボルトに色々な面で劣るとはいえ、狡猾だ。

奇襲等や波状攻撃等もしてくるのだから。


「ええ、後方のはたぶん囮です、ここで、待ってれば……ほら来た」


馬車の座席の横に座っている、ジャックスさんに言いながら前方に振り返る。

ちょうど30匹程だろうか、ゴブリン達が出てきた所だ。

ゴブリンは体長130cm程の子供ぐらいの身長で肌は赤黒い。

身体には前に殺して奪ったのだろう、血痕が附着している服の名残がある布切れを腰に巻いていた。

口からは4つの犬歯が発達していて、正直あれで噛まれれば腕が噛み千切られる程の鋭さを持っていた。

しかし、どうも頭が中途半端に悪いのか、攻撃方法が手に持った武器での殴打ぐらいなのが助かる。

もしかしたら、そのうち覚えてしまうかもしれないが、今は然したる問題ではないだろう。


「げ……こっちの方が数が多いじゃねーか」


アルードは此方側に出てきた本隊と思われるゴブリン達を見て、緊張した面持ちで武器を手に取ると構える。

ガルドも慣れない亜人種との戦いの為か、若干怯えているようだ。

普段通りならばそこまで苦戦する奴等ではないのだが、緊張等すると普段通りの動きが出来なくなり危険だ。

無意識ならばより一層危険だと思う。

内心動揺等していると動きは単調になるし注意力が散漫になるからだ。


「ガルドは馬に乗って、フレイルで近づいてくる敵から馬車の前方を、アルードは馬車の後ろから入ってこない用守れ」


「「りょ、了解」」


2人に指示を出すと同時に返事をして、指示した場所へと向かう。

彼らはたぶん亜人種との戦いは初なのだろう、指示を出した後も表情は硬い。


「ラフィールさんはどうするんですか?」


ガルドが馬にまたがるのと同時に聞いてくる。

俺1人働かないってのはありえないだろうと思うのだが。

やはり、その辺の判断が鈍っているのだろう。


「2人には防御、それなら残りの俺は攻撃するだろ?」


そう言うや否や、こちらに向かってきてる先頭のゴブリンに片手剣で喉元を突き刺す。

余裕だと思っていたゴブリン達は、思わぬ反撃に浮き足立つ。

ゴブリン達は基本的に正面から戦闘をしようとはしない。

一般人ならまだしも、多少戦闘経験がある者ならゴブリンは辛い相手ではないからだ。

逆に考えれば、ゴブリン達は正面からでは戦う事が出来ないという事。

だからこその奇襲であり、数に頼った襲撃なのだ。


ゴブリン達は俺の強さに驚いて浮き足だっていた。

右手の片手剣で右前方のゴブリンを切り伏せ。

左手で頭や目を潰していく。


「ガルド! ローズに戦闘を見せるなよ!」


「了解」


さすがに数が多いのか、数匹ではあるが俺をの死角をついて馬車に襲い掛かっていく。

その少数はガルドのフレイルに潰されているし。

ガルドを危険だと思った奴は後ろに回りアルードの剣に潰されていた。

多少は後ろに流れていたが、一番の危険因子だと俺を思ったのか、ゴブリンの半数以上は此方に注意を向けてくれている。

剣を突き刺し、倒れた陰から他のゴブリンが飛び掛ってくる。

武器は腕ほどある太い木の棒に尖った石を埋め込んだ、棍棒だ。

それを右に避け、ゴブリンの勢いをつけて左手で拳を作り殴りつける。

ボグンと殴った音が響くと、そのゴブリンは顔が潰れ息絶える。

その後も、ゴブリン達を順調に倒していき、10分程でゴブリン達の本隊を一掃できた。

残り5匹ぐらいになると、恐慌状態に陥って逃げ出そうとしたところを追撃して倒したので楽だった。




「おっし、お疲れ、そっちは無事か?」


「ああ、というか……こっちには3匹しか来なかったから……」


「ラフィお疲れさんってうおっ!? それ全部返り血か? 左手が酷いことになってるぞ……」


一部始終を見てたガルドは何も言わなかったが、今の俺の格好はひどいものだった。

俺の片手剣は全長70cm程の短い剣だ。

その剣で突いたり、関節を斬ったりするために返り血をよく浴びる。

そして、アルードに酷いといわれた左手。

一体握力がいくつあるのか知らないが、ゴブリンやコボルトの頭が拉げるぐらいには握力がある。

つまり、さっきの言葉通りに頭を潰していたのだ。

そのため、頭を潰されたゴブリン達の頭皮等が手のこびりついていて気持ち悪い。


「ラフィ!? 大丈……」


そんな格好をしている俺の前に彼女が飛び降りて、俺の格好に絶句する。

まずいか、怯えられたら俺泣きそう。


「っ……ラフィ血が……」


「あ、いやこれは返り血ですので、俺のじゃないです。

 すいません見苦しい所を見せてしまいました」


そう言うと、彼女は嘆息すると「良かった」と胸をなでおろしていた。

あれ? 怯えられると思っていたんだけど。


「は~戦った戦った、アンタらが来ないから俺達だけで戦っちまったぜ?

 怪我人はゼロだ……ってなんじゃこりゃああああ!!」


ビロード達がこちらに戻ってきて、凄惨たる光景に叫び声をあげた。

なんというか、うるさい。


「なんじゃ、こりゃ! あっちのより数少ないのに、こっちで戦えばよかったわ!」


「ビロードお疲れ、ここのほとんどはラフィが片付けたぜ」


「は……、1人でか? んな馬鹿な!?」


「さすがBランクですね……その強さ凄いです! 尊敬します……」


ビロードの口が開いた口が塞がらないといった具合に呆けていると、アネスもこちらに来て尊敬の眼差しを俺に送っていた。

自分の出来る事をやったまでなので、そこまですごいと言われても困るんだけどな。

それに、ジャイアントアントの方が個体的な強さは上だし。

ちなみに、俺はローズに身体を拭かれてる最中だ。

自分でやると言ったのだが、「私がやります」と言って聞かないのだ。

それでも断ろうとしたら、「命令です」って言われた。

命令なんていわれたら断れませんよ。

アネスの視線に気付いたのか、ビロードは面白くないといった感情を表に出して、叫ぶ。


「ふん、Bランクならこれぐらい当たり前だろ!」


まぁ、その通り当然なんだがけど。

ビロードが珍しく不貞腐れた感じになっているので、俺は面白いと言った感じに顔が二ヤけた。

それを見たビロードが俺に食って掛かるのは、まぁ……当然か。




 俺の身体を拭き終わり、ローズに礼を言うと、ビロードも嫉妬からの難癖をつけていたことに気付いたのか、咳払いをして気持ちを落ち着かせた。


「ふ、ふん……まぁ、アンタらの実力は認めてやる! けどな、すぐに追い越してやるからな!

 いいか、それまで死んだり怪我して引退とかすんなよ!」


言葉を続けていくうちに、徐々に顔を赤く染めていくビロードを見てると思ったよりも悪い奴じゃないんだなと感じた。

ただの負けず嫌いだったのだと気付いた。

最初こそ爺さんと被って嫌悪感を前に出して接してたが、こいつが爺さんなわけではないのだから、嫌うのはお門違いだろう。


「ああ、ビロードも命は大事にしろよ」


そう言いながら頭を撫でた。


「子供扱いするな!」


そう叫びながら、馬車を置いて先に進んで行ってしまった。

数秒呆気に取られ、他の仲間達に視線を合わせて同時に噴出して笑いあった。

やはり、ギルドの空気は好きだ、数日前までは初対面だったのが今ではこんなに自然と話し合えるのだから。


 移動を再開すると、また亜人種について色々ときかれた。

今回のように波状攻撃をしてくることも良くあることだし。

他にも色々と作戦を考えて襲ってくるのだ。




 その後は、亜人種達の襲撃はなかった。

ケファラスを出発してから3日目、ようやく国境へと辿りついた。

ジャックスさんが言うには、国境に一番近い村まで後2日で到着するらしい。

国境を越えたとなれば、カリブス国の奴等も好き勝手できないだろうと思い安堵の溜息が漏れた。


その日の夜、アルードに呼び出された。


「アルード、話ってなんだ? 俺はローズを見守ってないといけないんだが」


「ああ、すまない……単刀直入に言おう」


何だろうか? もしかして、俺とローズの関係に気付いたのか?

それならば、消した方がいいかもしれないと物騒な考えが浮いてきたが、すぐに思いとどめる。


「ラフィとローズ、2人は恋人ではないだろう……そうだな、王女と騎士といった所か」


完璧に読まれ、咄嗟に剣を抜き、口を封じようとしたが読んでいたのか後ろに飛ばれ距離を置かれた。

追撃しようとしたが、アルードは手を前に突き出し、待てと言ってきた。


「俺も噂ぐらいは聞いている、王族なのにその家族から不遇の扱いを受け続けている美姫がいると、ラフィは、彼女を幸せにするために旅をしているんだろう」


何故、こいつは今更になってこんな事を言うのか。

アルードの思考が全く読めない。


「……何が望みだ」


「望みか、そうだな……俺も姫さんの騎士にしてもらいたい」


俺は耳を疑った、突然何を言い出すのかと思えば、騎士になりたいだと?

確かに、国の騎士ならば給金も安定するし、暮らしも楽でメンバーなんかよりも安全だ。


「何故騎士なんかに、って顔だな……何単純な話だ、ラフィに惚れたそれだけだ」


は? 惚れた……?


「いや、俺そういう趣味は……」


「ちげーよ! ラフィの騎士としての心意気に惚れたって意味だ!

 誰が男色家だ、……ったく。

 この件に関してはガルドも希望している。

 この依頼が終わったら、いや今から俺は姫さんに忠誠を誓ってもいい」


アルードの目は本気そのものだった。


「俺達は、カリブス王家から追われてる身だぞ?

 もしかしたら、明日にでも騎士達が追って俺達を殺しにくるかもしれない。

 命を粗末にする事もないだろう」


「もしなんて事はどうでもいい、それにそれで死んだとしても後悔はしない。

 メンバーなんてやってれば何時死ぬかわからんのだから、対した差じゃないだろう

 それに、俺もガルドもそんなのは最初に考えたし、覚悟の上だ」


「金だって出せないぞ」


「なーに、俺達は腐ってもメンバーだ、稼ごうと思えば稼げるだろ」


今のアルードに何も言っても無駄だろう、自然と嘆息が漏れる。

嬉しい気持ちもあるが、馬鹿なんだなと呆れる気持ちもある。


「わかった、今からローズを呼んでくるから……ガルド呼んできてくれ」


アルードは了解と言って、ガルドを探しにいった。

俺もローズに言いに行かないとな。


ローズを探していると、どうやらマギィと遊んでいるようだった。

2人の楽しんでいて、彼女の自然な笑顔を見ると幸せを感じる。

それと、若干の嫉妬感も覚えた。

別に羨ましいとかじゃないぞ! 決して違うからな!

彼女に申し訳ないが、ローズに声を掛けてから、アルードと居た場所に戻る。

まだアルードが来ていなかったので彼女にアルードが忠誠を誓いたいと言っていた事を伝える。

彼女は信じられない表情を浮かべていたが、それを信じる信じないはローズ自身の問題だと言った。

少し冷たいかもと罪悪感が過ぎったが、何かを決心した彼女の表情を見て杞憂に終わったのだと安堵した。




 「アルード=ネシェルは、フェティーダ=カリブス様への絶対の忠誠を誓います」


「ガルド=バークストはフェティーダ=カリブス様への絶対を忠誠を誓う」


2人は、彼女に片膝を立て頭を下げている。

誓いの仕方なんて知らないと言われたので、想像でいいと言ったら二人ともまったく同じなのに吹いてしまった。

まぁ、騎士の誓いは自分への自戒のようなものだ。

彼女は途惑っていたが、自分を大事に思ってくれているという人が増えた事に形として見えたために、嬉しそうな表情を浮かべていた。


その後、ローズをマギィ達の所に戻し、3人で現在の状況について相談する事にした。


「で、姫さんはカリブス国の者達に殺されそうになったから逃げてきたと?」


俺は頷き、帝国へ行けば、旨く雲隠れできるのではと思い、向かっている事を伝えた。


シャウトール国では同盟国のため万が一ばれたらカリブス国の奴等が来るだろう。

北側には亜人族が多くいるため危険だ。

東には大きな川があり、今の技術では川を越える事は出来ない。

そして、残るのは敵対こそはしていないが、未だに仲の良くない帝国しかないと言うわけだ。

消去法でしか選べないというのは辛いと、2人に愚痴を零してしまった。

今の世界はあまりにも狭すぎる。

国が3つあるとは言え、人間が暮らす領域は狭いのだ。


なるべく、帝国についた後も目立つ事はしないようにしようと決めてから。

アルード達と別れて休む事にした。


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