エルドマド帝国に向かうわけで。
日が昇り始めた頃にアルードに起こされた、すぐ出発するのかと聞かれた。
一応そのつもりだったので、そう伝えると、護衛依頼を受けないか? と言われた。
ローズとの4人での行動は少しきついかもしれないと思っていた所だ、帝国領に入った事がなかったからだ。
それと、アルードが帝国へ行く依頼を受けて向かったほうが彼女にとっても楽だろうと朝起こされてから言われた。
そんな事は昨日のうちに言っておけと言ったのだが、すっかり忘れていたと真顔で言われた。
じゃあ、しょうがない。なんてなるはずもなく、一発殴っておいた。
まぁ、自分の事を棚に上げてると言われたら否定はできないが、言われなかったのでいいと思う。
ギルドの依頼を見に行き、帝国へ向かう依頼はないかと探す。
朝早くだからか、到着した時は少なかったが時間が立つにつれ依頼書は増えていく。
まぁ、ほかのメンバー達の数も増えているんだけど。
やっぱりすぐには見つからないかと思っていた矢先に帝国へ向かう商人の護衛依頼が張られた。
依頼内容は帝国への護衛。
道中にゴブリンによる被害が多発している道を通るために護衛を雇いたいと書いてあった。
人数は10名程で依頼ランクはCだった。
報酬は一人当たり銀貨3枚とそれなりに高額だ。
本来ならDランクではあるが、ゴブリンの被害があるためCランクになったんだろう。
この時代ではゴブリンやコボルトの討伐依頼はCランクだからな。
早速依頼を受けるために、その依頼書を剥ぎ取り受付に持っていく。
「ようこそ、ギルド<断罪の槍>へ、御依頼の受注でよろしいでしょうか?」
ん? なんか聞きなれない単語があったんだけど。
断罪の槍? ま、まぁいいかどうせすぐ離れるし。
「はい、この依頼を受けたいのですが」
「はい、畏まりました。
それでは、ギルドカードの提示をお願いします……確認取れました。
こちらの依頼はお一人での受注となりますか?」
「いえ、Cランク二名が一緒です」
「かしこまりました、ご同行されますメンバーのお名前とランクをお願いいたします」
「Cランク、アルード=ネシェル、同じくCランク、ガルド=バークストです」
「かしこまりました、それでは本日13時頃、となりにあります酒場にて、依頼主が到着しますので、その時に詳しい説明をお受けください。
依頼主の名前は依頼書の方に記載されておりますが確認のため、口頭で説明させていただきます。
依頼主はジャックス=レンバルト、性別は男性、年齢は34歳で黒色の髪を後ろで一まとめにしています、髭は生やしておりません。
他何か質問等はございますでしょうか?」
「それならば一つだけ」
「はい、なんなりとどうぞ」
「付き添いでメンバーじゃない人が混ざっているのですが、それについては依頼主と交渉すればいいですか?」
「それは、今回受託した依頼とは別の依頼で、という意味ででしょうか?」
「いえ、私事です」
「それでしたら、依頼主と要相談となります」
「わかりました、ありがとうございます」
「皆様のご無事をお祈りいたしております」
ギルドを後にして、アルードの家に戻る。
アルードの家の前でノッカーを叩くと、ローズが出てきて絶句した。
なんとも可愛らしい格好なのだ、当社比3割増しぐらいで。
昨日までは地味な麻のワンピースだったが。
今着ているのは派手ではないが、可愛らしいシュミーズ・ドレスだ。
彼女のドレスに触れてみると、それは麻ではなく絹だと分った。
だからか、所々透けているのは。
ドレスの下にも布を重ねているようで、身体が透けているわけではないが、逆に……うん。
それと、胸元が大きく開かれているため、ついそこが強調されてしまって、理性を総動員しないと色々と危険な状況だ。
「えっと……やっぱり似合いませんよね?」
「逆です! あまりにも可愛らしかったので……本当の夫婦になれ…なんでもないです」
「夫婦?」
顔に血が上っていくのがわかる。
たぶん今の俺は顔が真っ赤だろうな……
「とてもお似合いですよ、ローズ様の可愛らしい姿が見れて私は幸せです」
理性を総動員させながら笑顔で言うと、彼女は顔を真っ赤に染め上げて俯いてしまった。
小さな声で「可愛い」とか「幸せ」とか呟いている。
どこか遠い場所へ旅立ってしまったようだ。
そして、彼女の姿をチラチラと見ている近隣住民の男たちに見せるのは勿体無いと、彼女を他の奴等の視界に入らないよう隠しながら家の中に入る事にした。
-=Ξ=-=Ξ=-=Ξ=-
その後、アルードの妹と母親にローズで遊ばないようにと注意したら、彼女にあげるから許せと言われた。
勿論即答で許しましたよ?
元々は遊びで作ったものだったのだけれど、予想以上にうまくできたらしい。
それをローズが興味津々のように見ていたため、試しにと着せてみたら予想以上の出来でしたと。
アルードのお母様め、いい仕事をしてらっしゃる。
アルード達と昼食をとりながら依頼の説明をした。
食事の後、4人で依頼主の居る酒場へと向かう。
酒場の中は昼間だと言うのに酒特有のアルコールの臭いが充満していて、酒に慣れていないローズには少々辛そうだった。
店内に入り、依頼主を探していると、依頼主の方も気付いたのかこちらに手を振ってきた。
見た目通り髪を全て後ろで纏めていた。
年齢は34歳と言っていたが、20代後半と言っても通じる若さだ。
それと、横には30代ぐらいだろうか、活発そうな体格のいい女性、それと8歳ぐらいの子供も一緒に座っていた。
どうやら家族で商売をしているようだな。
「貴方が依頼主のジャックスさんですか?」
「はい、確かにジャックス=レンバルトと申します、本日は依頼を受けていただきありがとうございます」
「あ~、依頼について一つご相談があるのですが……」
依頼主のジャックスさんは相談があると聞いて、何かあるのかと首をかしげている。
仕草がますます34歳とかに見えないので、つい笑ってしまいそうだ。
「えっと、実は私の恋人も一緒に同行させてもらいたいのですが、よろしいでしょうか?」
「はぁ、なるほど……私も家族と一緒に商売をしておりますので構いません」
「そうね、私も息子の世話だけするのも暇だし、貴女名前はなんていうの? 私はミーシャって言うの、それと息子のマギィよ」
「あ、私はロ、ローズと申します」
少々ぎこちなくもローズは丁寧な仕草で自己紹介をしている。
予想とは違い、即答で答えてもらえた。
渋るようだったら、報酬を天引きしてでもと思っていたのだが、よかった。
「ご同行させてもらい助かります、それと確か依頼は10人募集と聞いたのですが」
「いえ、こちらの身を守っていただけるだけでなく妻の相手までしてもらえるのですから。
お互い様ですよ」
裏のない笑顔で言ってもらえて、安堵の溜息が漏れた。
「個人でならそんなに断る方とかいらっしゃるのですか?
私は他の商人の護衛依頼の条件等わからないので……
それと、他のメンバーですが、ギルドの方では無事10人分の依頼を受託したと聞いておりますので。
一応出発予定時間まで時間はありますから、こちらで待つつもりです。
よろしければお茶でもご一緒しませんか? いえ、食事代はこちらが出しますので」
他のメンバーが集まるまですることもないのでご同席させてもらう事にした。
ジャックスさんと待ってる間、商人としての活動記録等を聞いたり、メンバーとしての活動等を話し合った。
息子のマギィは俺がBランクのメンバーだと言うと、目を輝かせて眺めていた。
Cランクまでは、それなりに経験をつめば誰でもなれるが、Bにあがるにはゴブリンやコボルトといった亜人種と戦わなければならない、それもコボルトは狡猾だ。
普通に人間と戦うより苦戦する状況も多々あるからだ。
現メンバーでBランク以上は50人に1人ぐらいの割合じゃないだろうか?
まぁ、つまりはBランク以上のメンバーというのは英雄のように見られる場合がある。
最近は国の兵士等も人気があるが、あちらは規律等小難しい事が多いからか未だにメンバーの方が人気はあるみたいだ。
それでも給料は兵士の方が安定するため、メンバーの方がいいが、生活のため兵士になるという者も少なからずいた。
親衛騎士団にはいなかったけどな。
むしろ、あの場所が不思議なんだと思う。
ジャックスさん達と話し始めて1時間ぐらいだろうか経っただろうか、その頃には同じ依頼を受託したほとんどのメンバーも集まっていた。
後2人はまだ来ていないのだが。
「後2人が来ませんね……」
「ふむ……ジャックスさん、どうしますか? 大丈夫だと思えばそのまま出発しても構わないと思いますが」
「そうですね……こちらにも予定がありますので、後二人は解約という事にしましょう。
他のメンバーの方々にはご迷惑をおかけしますが、どうぞよろしくお願いします」
ジャックスさんは申し訳なさそうに謝罪しているが、ここに居る一同はジャックスさんが悪い等とまったく思ってさえいないので、思い思いに大丈夫ですよといたわる。
じゃあ、行きますかとジャックスさんを先頭に店を出ようとした矢先に、店内に転がりこんでくる物体が二つ。
ジャックスさんに当たりそうだったために、思いっきり蹴ってしまった。
蹴った瞬間「げふぅ」と獣を踏み潰した時のような悲鳴が聞こえた。
「ジャックスさんお怪我はありませんか?」
「え、ええ……大丈夫ですが、そちらの方々の安否の方が大事では……」
ヘタしたら自分が怪我をしていたかもしれないというのに、良く出来た人というか、お人よしというか……
「いてて……なにすんだボケッ!」
「それはこちらのセリフだ」
蹴り飛ばし団子になっていた片割れがこちらに怒鳴りつけてきたので、こっちも応戦する事にした。
「ビロード! 元々僕達が勢いよく入ったからこうなったんでしょう!」
「うっさい! 進行方向に居たこいつらが悪いだろ!」
ビロードと言われた少年が喚き散らす、はっきり言って自分の嫌いなタイプだ、だってどっかのウザいのと被るから。
「ジャックスさん、時間も押してますし行きましょう」
「え、ええ……ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
どこまで礼儀ただのしいのですが貴方は……口には出さなかったが溜息が漏れる。
「え、あ……ジャックスさんですか? あ、えっと……すいません本日依頼を受けました僕、じゃない私はアネスと言います、それとこっちのが相方のビロードです」
「ああ! 貴方方がですか、来なかったので出発しようとしていた所だったのです、間に合って本当によかった」
ジャックスさんは嘆息して、自己紹介は馬車に向かいながらしましょうと言い、ビロードの手を取り少々足早に馬車のある厩舎へと進んだ。
「にしても、アンタ俺の事蹴ったんだから謝罪ぐらいしたらどうなんだ?」
「元々お前が遅れなければそうはならなかっただろう、授業料だと思って諦めろ」
ビロードは顔を赤くしながら、腕をわなわなと震わせている。
アネスはそれを必死に抑えようとしているが、気が弱いのか腰が引けている。
「おい、ラフィあんまり怒るなよ、これからの道中一緒に過ごすんだ仲良くしないと後々面倒だろう」
アルードが俺の肩に腕を回しながら言ってくる。
ハッキリ言ってしまえば、ビロードの性格は受け付けないのだからしょうがないとしか言いようがない。
「あ、自己紹介がまだでした、先ほども申し上げましたが、僕はアネスと言います、こっちのがビロードです。
ランクは共にCランクです」
アネスはぎこちない笑顔を浮かべながら自己紹介をしている。
ビロードは顔を背け、唾を吐いているが……どこまで態度が悪いのだ。
「ああ、丁寧にありがとな、俺はアルードだ、となりのこいつがガルドで、この機嫌悪いのがラフィールで、そこの女性がローズさんで、ラフィールのコレだ」
コレだといいながら小指を立てている。
別にいう事でもないだろうと思い無言のまま脇腹に拳を減り込ませておいた。
「ハッー随分と美人さんだな、そいつには勿体無いんじゃねーの?」
ビロードは俺に喧嘩でも売っているのだろうか?
売ると言うのなら買うが。
「あー、あまり喧嘩売らない方がいいぞ……ラフィはBランクだ、それもBランクを取ったのは14の時だそうだ」
それを聞いた、他のメンバー達が一斉に驚く。
若干14歳でBランクに上がったというのだから、皆驚いているのだろう。
「んな、バカな!? そうは思えんのだけど」
ビロードはありえないと言った様な表情を浮かべ、ただ驚いている。
まぁ、嘘だと思っても別に構わないんだけどな、こいつが認めなくても俺がBランクなのは変わらないのだし。
それからは、ずっと俺の話になってしまった。
俺以外は皆Cランクで、Bランクを狙うのならばゴブリンやコボルトの討伐は必須だ。
その為に対策等が知りたいのだろう。
俺から言わせたら、あいつらの動きは単純なのでアルードやガルドと戦った方が遥かに苦戦するのだが。
Bランクについての話題にうんざりし始めた頃ようやく厩舎に到着した。
今回馬車は2台あり、1台にはジャックス夫妻とその息子とローズ、それと高価な商品を載せる。
もう一台には織物や鉄等帝国よりも質がいいため、それなりの値段で売れる物を載せていく。
ジャックス夫妻達が乗る馬車には俺達3人とアネス達が護衛につき、残りの5人がもう一つの馬車の護衛となった。
ここまでは、予想より早いペースで来れているがこの先はどうなるか不安だ。
いつ後ろからカリブス国の兵士が来るかわかったもんじゃないからな。
「では、行きましょう、道中よろしくお願いします」
メンバーの皆が頷く、ここから先は始めての地だ、後ろからの追手は気になるが、この先に何があるのか……それにはとても興味が沸いた。
新キャラ紹介
アネス
17歳
身長160強 体重55kg
武器は刺突向きの片手剣
基本的に内向的な性格、感情的なビロードのブレーキ役
メンバーランクはC、ビロードの暴走癖のせいか討伐依頼等の経験はそれなりに豊富。
ビロード
17歳男性
武器は全長1m程の片手剣。
血気盛んで猪突猛進、自己中心的な性格。
戦う事が大好きで、若さゆえか無鉄砲さが目立つ。
よくアネスに小言を言われるが、聞く耳を持たない困った性格の持ち主。
ラフィ曰く爺さんと被る。