要塞都市ケファラスについたわけで。
朝早めに起きた、彼女がおきる前に旅支度を済ませておく。
そうすれば、彼女は起きて自分の準備をすればすぐに出れるから。
前世がメンバーと言っても今は王女だったわけだし。
酷い扱いを受けていたと言っても箱入り娘だ。
旅の疲れもあるし、出来れば彼女に楽をさせてあげたいと思っているからな。
準備も終わり……まぁ、準備と言っても、ほとんどないんだけど。
もう少しおきるまでに時間があるみたいなので外の店で色々と旅に必要な物を購入していく。
そうそう、貨幣の価値が色々と変わっていた。
鉄貨は未だに使われているが、全てカリブス鉄貨を統一にされていた。
そして今では一番安い貨幣だ。
鉄貨10枚で銅貨1枚。
銅貨10枚で銀貨1枚。
銀貨10枚で金貨1枚。
金貨10枚で宝石貨1枚。
宝石貨というのは金貨の到る所に色とりどりの宝石が埋め込まれた金貨の事だ。
元々貨幣はギルド用の通貨だったが今ではカリブス国やシャウトール国や帝国でも共通で使われている。
といっても、貨幣の模様は違うんだけどな。
その基準は基本的に同じだが、シャウトールではカリブス製>シャウトール製>帝国製の価値になるし。
帝国ならば帝国製が一番価値が高く、カリブス製の一番価値が低いと思われている。
まぁ、それはその国民達の勝手な考えだから、国関係の人達は同一視しているけどな。
一々取り締まりをしてもきりがないので、暗黙の了解となっている。
例を言うと、帝国でカリブス製の貨幣を出すと食糧が普通より少なくなったりする。
明白な値段がないためにそうされるんだけど。
まぁ、購入者からしたら大いに不満が残るとは思う。
けれど、実際帝国はカリブスの住民を軽視しているし。
逆もまた然りなのだ。
まぁ、こんなのは蛇足か、あちらで暮らすようになれば、報酬はカリブス製ではなくて帝国製を受け取るわけだし。
些細な問題だと思う。
干し肉等の軽食を一日分だけ購入し部屋に戻ると彼女が起きた所だった。
どうやら扉の開け閉めした時の音で目が覚めたようだ。
「おはようございます」
眠け眼でこちらを見てからたっぷり数秒間固まった後、顔を真っ赤に染め布団に蹲る。
なんとも可愛らしい。
「ローズ様、出発するための準備をお願いいたします、私は部屋の外でお待ちしておりますので」
購入した物を皮袋に詰めながら伝え、つめ終わると同時に部屋を出て行く。
俺が扉を閉めたど同時に布が勢いよく吹っ飛ぶ音が聞こえたので飛び起きたんだろう。
部屋の中ではドタバタと彼女が準備しているであろう音が聞こえる。
その音を背景曲にニヤケていると通路の奥からアルード達が寝癖がかかった頭を撫でながら此方に歩いてきていた。
俺達が泊まった部屋は2階の階段に一番近い部屋なので、同じフロアだったのだろう。
「おはようさん……」
「おはようございます」
二人が挨拶をしてきたのでこちらも挨拶を返す。
「……にしても、ラフィールはいいところの坊ちゃんだったのかい?」
どうやら、俺はそれなりにいい暮らしをしている所の息子に見えるらしい。
自分では結構粗暴な人柄だと思っていたんだけどな。
「確かに堅苦しくはないんだけどな、なんというんだ? 一つ一つの動作が様になってるんだよ。
まるで子供の頃から躾けられましたって感じにな」
確かに、子供時代は父親に兄たち程厳しくは無かったが躾けられた記憶はある。
けど、真面目になんて一度もやったことはないから、まったく考えもしなかった。
何故か、そのまま3人で雑談していると、ローズがゆっくりと扉を開けた。
彼女の姿を確認してから、「おはよう」と挨拶をした。
「おはようございます」
丁寧に頭を下げ、淑女と呼ぶべき挨拶をしてくる。
アルードはその彼女の動作を見て、嘆息した。
「おはようさん、ローズ嬢がフェティーダ王女と間違えられたというのも頷けるかもしれんな」
アルードがそう言うと、彼女は強張った顔をしている。
勘のいい奴なら感づくかもしれないと感じた。
「あはは、彼女は元々淑女たれと厳しく育てられましたから、自慢ではないですが気立てもいいですし……美人ですから」
心からそう言っているのだから嘘はまったくない。
それを聞いたローズは顔を真っ赤に染め。
アルードとガルドは嘆息してから「ごちそうさまです」と言った。
その後、「良ければ一緒に朝食を取りませんか?」とアルード達に聞き隣の酒場にて軽い朝食を済ませた。
その後、30分ぐらいでお互いの準備も済み出発する事となった。
アルードとガルドは徒歩で、俺はローズと馬に二人乗りだ。
ケファラスへ向けて歩いた時に景色の変わりように驚いた。
森が広がってたはずの場所には草原が広がっていたし。
道路は石畳が積まれていたからだ。
どうやら、まだ帝国とカリブス国の仲が今よりも悪かった時代に悪路だったこの通路を治し。
補給路を作るために、道を舗装したらしい。
また、奇襲を防ぐために伐採し、視界を広くしたのだとアルードは言っていた。
ちなみに、伐採した木材は要塞都市と言われるために、城壁の強化等に使われたらしい。
そうなるとケファラスの町並みもかなり変わっているのだろう。
どれぐらい変わったのか、それを見るのがとても楽しみだ。
楽しみなのが表情に出ていたようで、俺の顔を見たローズが自然な笑顔を向けて、「楽しみね」と言ってきた。
本当、偽装恋愛ではなくて本当の恋愛ならいいのにと思う。
まぁ、俺からの愛は本当だけどな!
その日の夜に要塞都市ケファラスに到着した。
そして、まず一目見て、過去のケファラスの面影がない事に驚いた。
街の広さは昔のケファラスよりも遥かに広くなっていたし。
カリブス城には劣るが街の中央には街が立っていた。
そして、城壁が街中に何枚もあったのだから驚きだ。
「これは……随分物々しい街だな」
「まぁ、今は落ち着いているが昔の最前線だったからな」
アルードの案内で中央地区へと進む。
ケファラスは4区に分けられている。
城壁ごとに中央の中央地区。
その城壁を挟んだ外が第2区
2区の外側が3区となっていて、一番外側が第4区となっていた。
「で、何処に行くんだ?」
「あー、宿代も勿体無いだろう?」
質問を質問で返すなと言いそうになったが抑えて、頷いておく。
「この街は俺の生まれなんだ、だからお二人さんがいいならだが俺の実家に招待しようと思っている」
一瞬、罠かもしれないと思ったが、アルードはそんな器用な真似が出来ないだろうと判断して、ローズが良ければお邪魔すると言うと、ローズも「よろしくお願いします」と馬上ながら丁寧にお辞儀をした。
彼女もあまり器用には立ち回れないんだな。
今更ながら気付くのは盲目的に彼女を見ていたからかもしれない。
アルードの案内で彼の実家につき、アルードが扉のノッカーを叩く。
少しの間をおいて、5歳ぐらいだろうか? 小さな子供が爪先立ちをして扉をあけた。
「……アッ! アルおじちゃんだ!」
小さな子供が素っ頓狂な声をあげながらアルードを指差して叫ぶ。
おじちゃんという単語を聞いて、俺とローズが噴き出す。
強面気味な顔ではあるが、まだ年齢は20に達していない人におじちゃん呼ばわり。
ヤバイ……ツボった。
「おい……声を抑えて笑うな、余計傷つく」
「ブフッ……じゃあ、遠慮なく」
アルードにそう言うと、もう我慢の限界だった。
大口であけて、腹を押さえながら爆笑してしまった。
ローズは俺の変貌ぶりにドン引きして笑いは治まってしまったようだ。
逆に俺が傷ついたのは何故だろう。
「遠慮なさすぎて、余計腹が立つな……」
「おじちゃん、その人達だれ?」
子供が俺の方に注意を向けて、アルおじちゃん……吹くっ!
アルードに聞いている。
「この人はラフィールとその奥さんのローズさんだ」
そう言い、俺の紹介をする。
アルードがローズを俺の奥さんと言うものだから俺の顔は自然と笑みに変わる。
馬から下りてローズを下ろしてから子供の方へ向いて挨拶をする事にした。
「はじめまして、ラフィールです」
方向性は違うが、蔓延の笑顔で子供に挨拶した。
ローズも淑女然とした挨拶をする。
子供にまで丁寧に挨拶するのだから真面目だなと感じる。
むしろ、彼女はこういう生活の方が向いてるのかなとか思ってしまう。
カリブス王国の騎士や王族は選民思想に染まっているせいで民達を見下しているからな。
まだ、搾取されるだけの存在ではなく、守るべき存在とも思っている人達が居るのが救いか。
ちなみに、ローズの挨拶を見た子供は顔を真っ赤にして「はじめまして!」と子供らしからぬ動作で挨拶している。
何色目使ってやがる糞ガ○が。
殺気があふれていたようで、アルードとガルドが驚いていたが知ったことではない。
この子供は俺の中で危険と判断したのだからな!
「おいおい、子供に嫉妬するなよ……」
アルードがつい口から零した単語にローズが「え?」と聞いてしまった。
アルード後で訓練をつけてやろう。
勿論真剣に。
「嫉妬? 誰がですか……?」
「いや……その、ローズさんの……「アルード、ガルド」……は、はい」
最後まで言わしてたまるか!
俺は最愛のローズに忠誠を誓った身、それは主従であり対等じゃないのだ。
偽装の為とは言え、主従関係から関係を動かすわけにはいかない。
「二人の腕を見ておきたいから訓練に行こうか?」
殺気と出しながら笑顔で二人に顔を向ける。
ローズには子供の相手をしてもらうため、一度アルードの実家に入り、10分程家の人達と雑談してから家の裏庭を借りることになった。
「何故俺まで……」
「悪い……やばいものを踏んだみたいだ」
「二人から来る? それとも俺から行こうか?」
ちなみに後者の場合は拷問コースである。
前者なら訓練のままで終わらせるつもりではあるが。
「いかせてもらいます!」
アルードが声をあげ、獲物の巨大な両手剣で切りかかってくる。
というか、家名が同じなら武器も同じなのな。
大柄の身体に隠れながらガルドがついてくるのを見るかぎり、アルードが矢面に立ち、敵の攻撃を防いでいる間にガルドが奇襲で相手を倒すのが基本なんだろう。
それをわかった上でアルードの剣戟を防御していく。
すると、ガルドが左から踊りでてくると同時に右側から、トゲの着いた球が襲い掛かってきた。
二重の囮かなのだと気付き、後ろに下がろうとするが、アルードが逃がさないと言った風に剣を振り下ろしてくる。
おいおい、これは軽く殺す気じゃねーか。
そう思いながらも、冷静に対処する。
両手剣を俺の剣で防ぎ、左手は鞘でフレイルの軌道をずらした。
必殺のパターンだったのだろう、これをふさがれた事に少なからず動揺した二人は距離を取る。
「鞘がつぶれちまったじゃねーか、殺す気かよ」
「いや、寸止めするつもりだったんだが……」
アルードはそう言うがフレイルはどうやって止める気だったんだろう?
「まぁ、いいやじゃあこっちから行くぞ?」
そう言い、二人が構えたのと同時に鞘を投げ捨てアルードに襲い掛かる。
両手剣と片手剣ではリーチがかなり違うため、それを利用して俺を懐に入れないつもりなんだろう。
アルードの上半身への突きを身体を右にずらしながら左手で剣の腹を押し込み軌道をずらす。
その勢いのまま体を回転して剣の柄で鳩尾を突く。
当然自分の勢いものった衝撃を受け、膝を着き悶絶する。間近にいたためにガルドは援護もできなかっただろう。
させないつもりで立ち回ったのだから当然だが。
アルードが崩れる影からガルドの間合いの内側へと入ろうと翔る。
ガルドはフレイルを小刻みにゆらし、フレイルの鎖を器用にまわして、待ち構えている。
警戒はしているが、防御手段は交わすか、打ち落とすしかない。
打ち落とす場合はこちらの剣がダメになるからだめだ。
それならば、別の防御法をとって倒すべきだろう。
間合いの外から距離を詰めると縦にフレイルを振り落としてきた。
横にずれて回避する。
ガルドはそれを読んだかのように、地面にたたきつけると同時にその反動を生かして横に勢いをずらそうとした。
しかし、片手剣を鎖の部分に差込み動けないようにされている事に気付いたんだろう。
軽く混乱状態になってるガルドに鳩尾に膝蹴りを入れて、気絶させた。
剣とフレイルを家の壁に追いて、二人を起こす。
「うぐぅ……いてて……」
「っ……」
「お疲れさん、にしてもガルドはフレイルなんて珍しい物使うんだな」
そう言うと、二人はお互いに顔をあわせて何のことだろうと考えているようだった。
「……あっ、鎖球のことか?」
この世界では鎖球というのか?
鎖の先端にトゲ着きの球がついているから鎖球?
「これは、子供の頃に考え付いた武器なんだ」
ガルドは恥ずかしそうに頬を書きながら説明しだした。
「村の中あるいてたらさ、じゃがいもが折れかけた棒に何故か刺さってたのを見てね。
メイスや戦槌の練習をしていたんだけど、メイスのほうがしっくりきたんだ。
だけど、射程が短かったからね、どうしたものかと思ったらその折れかけた棒を見つけたんだ。
距離が短いなら伸ばせばいい、それとメイスはどうしても直線的な軌道になってしまうから防がれやすい。
それならば紐のような物で距離を伸ばし、防がれてもその勢いをもったまま打撃を与えられるんじゃないかってね」
「その日のうちに、ガルドは鍛冶屋の親父に頼みに言ってな、親父と3日3晩作れ作らないの言い合いだったんだよ、あれは見てて面白かった」
「それでも、親父さんは結局、鎖球作りが楽しくなってちょくちょく試作品を僕に送ってくれるけどね」
なんだろう、あれだ武器が生まれた歴史的瞬間を見た感じ?
けど、フレイルの元が<じゃがいもが刺さってる折れかけた棒>ってなんだよ……
どういう状況なのかサッパリ想像できねぇ。
その後、色々俺が子供時代に受けた依頼の説明やゴブリンやコボルト達についてなど喋っているうちに夜が更けてきた。
アルードの両親やアルードの妹夫婦達と楽しく話しながらローズ達と同室にしてもらい寝る事にした。
明日からは帝国へ向けて出発するため色々準備しないとな。
ローズは不安な気持ちが出てきたんだろう、眠れないみたいだった。
何も心配しないでいいと言い、彼女の脇に座り、手を握りながら寝かしつけた。
前世では頼れる俺の嫁って感じだったのに、今回はお姫様って感じだよな。
普段は気丈でいようとしているのに中身を見ると弱々しい一人の少女って感じだ。
まぁ、そんなローズも俺は大好きだけどな。