忠誠は命よりも重いわけで。
「ならぬ」
俺がこの王子……いや、もう玉子でいいや。
玉子に殺気を発していると、シャウトール王が却下を出した。
よし! 偉いぞ王よ、このダメ息子とは雲泥の差だ。
とは思ったが、次の言葉で評価は間逆になったけどな。
「その娘はおぬしに相応しくない」
よろしい、ならば戦争だ。
シャウトール王が言うと、カリブス王と王妃が慌てて長女はいかがですかと進めていく。
よろしい、そちらとも戦争だ。
俺は1人でも戦い抜いてみせる。
ローズを見ると、玉子の言葉に唖然としていたが、他国の王と両親である王と王妃からも酷い言われように涙を弱冠浮かべ、歯を食いしばっていた。
こいつらが王とかじゃなければ有無を言わさず殺してるのになぁ……いっそやってしまうか?
「しかし、父上彼女はここに居る誰よりもお美しいではありませんか」
その言葉に今夜出席している貴婦人一同が怒りの感情故に顔を赤くしていく。
というか、お前ら失礼すぎるだろ。
「ならぬと言ったはずだ」
シャウトール王は無表情のまま玉子に却下の一点張り。
玉子もまけず劣らずくれだのもらうだの言い続けている。
「……アラフィル」
「……ハッ」
彼女は今にも崩れ落ちそうな声で俺に喋りかけてきた。
殺せと言うなら喜んでやりますよ?
「気ぶ…「申し訳御座いません、フェティーダ様のご気分が優れませんのでお先に失礼させていただきます、皆様にご迷惑おかけする事、深く謝罪いたします」
何が言いたいかを咄嗟に察知した俺は。
シャウトール国の王族(笑)に聞こえるように声を出し、彼女の手を取ると足早に部屋を出るように移動していく。
彼女の気持ちを汲んで、急いでいるのだが、玉子はやはり邪魔をしてくるわけで。
「それは大変だ、君は楽しんでていいから後は私に任せなさい」
「しゃしゃり出てくるな、玉子が!」
とは言えないので、「王女様自らのご命令ですので」と言い訳し、流していく。
しかし、色々と中身がダメすぎる玉子は食い下がらない。
いい加減我慢の限界を過ぎようとした頃に、ローズが俺と玉子に聞こえる程度に声を出した。
「私にはアラフィルが居ますのでご心配なく」
二人に聞こえるように言い。
それに俺にあやかる事にした。
「では、そういう事ですのでタ……王太子殿下はお楽しみください」
その後は有無を言わさず彼女を誘導して客室へと運んだ。
部屋に戻った後は彼女は部屋に篭り、泣いていた。
他国に着てまでこの仕打ち、自殺したっておかしくないと思う。
彼女はなんのためにここに来たのかさえわからなくなってるだろう。
俺はその日、交代に来た騎士と着替える為だけに交代し、戻った後夜通し彼女の部屋の前で護衛任務についていた。
それから時間は過ぎ、彼女が起きる時間になると、部屋の音から布の擦れる音が聞こえてきた。
起きたのだろう、10分程待ち、扉をノックする。
「フェティーダ様、起きていらっしゃいますか?」
少しの間待っていると
「……はい」
一言だけ返事が返ってきた。
声は泣いたせいか軽く枯れている。
「入ってもよろしいでしょうか?」
「えっと……今はちょっと……」
まぁ、泣いたせいで顔が酷いと思ったりするのだろう。
「お待ちしておりますので、準備が出来ましたらお呼びください」
返事が返って来なかったが、物音が頻繁に聞こえてきたので準備をしているんだろう。
20分ぐらいだろうか? 待っていると部屋から「どうぞ」と呼びかけがあった。
「失礼致します」
部屋に入ると、彼女は部屋に設置されている椅子に座って俺を待っていた。
目はまだ腫れ赤くなっている。
その表情を見るだけでも胸に苦味が湧き上がってくる。
「なんの御用でしょう?」
彼女の質問に答えず、彼女の前まで行き片膝を着き腰に掛けた剣を抜く。
彼女は何事かと目を見張っている。
剣を横に持ち、彼女の前へと出す。
「我アラフィル=アッハバーナはフェティーダ=カリブス様に絶対の忠誠を誓う者なり。
如何なる状況にも、主を最優先とし、我の死は主の判断に委ねる者なり。
この世の全てが敵となろうと、主を守護すると我が魂を掛けて守りぬく事を誓う」
忠誠の誓い。
騎士が自分の誓いを主となるものへと贈る言葉だ。
これについて作法はなく、騎士個人が最高の礼を主へと贈る誓い。
本当ならカリブス国に戻ってから贈るつもりであったが、昨日の事があったので、朝になったら彼女に誓いを贈ろうと思った。
「それは……国を裏切ってでもですか……?」
彼女の声は、信じられないと言った感じに震えていた。
「主こそが我が国、主こそが我が生きる地」
「私が死ねと言えば、貴方は死ねるのですか……?」
「主がそれを望むと言うのなら」
「致命傷を受けても、生きろと言えば生きますか?」
一瞬言葉に詰まる。
正直、これは約束できないからだ。
「……主が望むのであれば」
「………わかりました……その誓い、お受けいたします」
そう言い、彼女が俺の剣を取り、剣の腹を俺の右肩に落とす。
「ありがたき幸せ」
剣を返してもらい、鞘に戻す。
これで、俺は国忠誠を誓う前に彼女に忠誠を誓った事になる。
彼女が国を裏切れと言えば、瞬間裏切る。
他国と単身戦争しろと言われたら喜んでしよう。
それだけの思いを込めて、誓ったのだから。
剣を鞘に戻し、立ち上がり彼女に笑顔を向ける。
彼女は涙をこぼしながら嬉しそうに笑っていた。
これが前世ならば、抱き締めていたのだけどな。
と、思っていたら彼女から抱きついてきた。
なんというご褒美! もう死んでもいい!
いや、ダメだ。
まだ誓いを立てたばかりじゃないか
どれだけ彼女を傷つける輩が居ようと俺は彼女を守りぬこう。