悪夢なんて見始めちゃったわけで。
南西の村へ引越ししてから10日程が経過した。
レキの村に比べたらやはり小さい村というのが第一印象だ。
まぁ、しょうがないんだろうけども……
レキの村はこの辺り一帯の中心だし。
人口の差も激しいから、ギルドもやはり小さかった。
というか……戦力が中央に集まりすぎてるのは明らかに危険ではないだろうか?
レキの村を中心に4つの村は簡単に言ってしまえば俺達が暮らす一帯の境目だ。
中央から離れるように進めばそこは未開の地で未発見の怪物とかが居るだろうし。
現状ではジャイアントアントが一番強いと言われているがそれ以上のが居てもおかしくはないからな。
まぁ、それは追々なんとかすればいい。
それと、自宅も依頼した。
この村出身のメンバー達も半分ぐらいはレキの村に腰を据えている為、中古物件もあったし。新築も可能だった。
はっきり言ってしまおう、レキの村より住みやすいかもしれない。
レキの村で新居を構えようと思えば村はずれしかないし。
新築するにしても職人に依頼する金額が高いんだ。
レキの村でそれなりの家を建てる金額でこっちの村なら豪邸が建てられるぐらいに。
一日で行ける距離でこの物価の違いは異常ではないだろうか?
という事でお金もある事だしかなり大きめの家を作ってもらう事にした。
レギンも新築を依頼しようとしていたが、とりあえずは俺が建てる家に居候する事にして今はギルドが管理している家を借りている。
依頼している家はこの村で初の3階建てでクランメンバーが集まれるように集会場を兼ねる様にだ。
ついでにクランメンバーも暮らせるのを視野に入れて。
「ま、クランが増えればの話だけどな」
「ん、ラフィなんか言った?」
「んにゃ、何でもないよ」
家が出来るのはまだまだ先だ。
とりあえずはクエストをこなしながらランクを上げて行こうか。
-=Ξ=-=Ξ=-=Ξ=-
こっちは依頼をこなしてもこなしても終わらないな……
あれから5日が経ったが、俺達3人が頑張っても依頼は増えていく一方だ……
「つか、なんで山賊の数減らないんだよ……」
主に俺達がこなしているクエストは山賊の討伐と野生動物の駆除だ。
だが、やってもやってもクエストは増えていく。
一体どうなってるんだこれ……
「あー……レギン、ちょっとロキさんに言伝頼んでもいいか?」
「そうだね……さすがに僕もこの依頼の数は異常だと思ってたし……いいよ、他の村への戦力提供のお願いだね?」
「ああ、この数は俺達3人じゃ無理だしな……それに他の村も心配だ」
この村は俺達3人が一日に数個のクエスト消化しているから多少はマシだが、他の村はどうだがわからないからな。
「じゃあ、すまないが頼むわなるべく急いでくれ」
「うん、任せて」
これで、少しはこっち側にもメンバーは戻ってくるかな?
ま、レギンが戻ってくるまではローズと二人でクエスト消化かな?
「ローズ、悪いけど当分は二人で頑張ろう」
「ええ、貴方の背中はちゃんと守るから安心して」
「ああ任せた、じゃあ早速行くかぁ」
あわよくば、一層親密な関係になりたいね!
12歳の癖にマセてるって? 気のせいです。
いいじゃないか! 禁欲生活12年ってすごいと思わない?
あ、思わない? そうですか。
-=Ξ=-=Ξ=-=Ξ=-
ローズと二人でDランクとCランククエストを受け続け、5日程が経過した。
レギンは一体何をしているんだ? さすがに時間がかかりすぎじゃないだろうか。
何かあったのか?
レギンに限って山賊に倒されたとは思えないんだけど……
ちなみに、この村に来てクエストをこなし続けたためか、俺のランクがBに上がった。
この村では俺が一番ランクが高くなったな。
これで一応Bランクのクエストも受けれるようになったが、さすがにB以上はレギンがいないと不安だから受ける気もないけどな。
Bランクのクエストとなると亜人族等の討伐になる。
コボルトやゴブリンの討伐か……
レキの時の記憶がフラッシュバックする。
「……っ」
左首筋に痛みが走ったような気がした。
「ラフィ? 左首がどうかしたのか?」
「いや、なんでもない……」
痛みはないが、少しチリチリする気がするな。
あー……嫌な気分になってきた。
「すまん……少し疲れが溜まってるみたいだ、このクエストが終わったら今日は解散しよう」
今日はまだ1回目のクエストだが、こうも集中力が乱れてると危ないしな。
「わかったわ、大丈夫なの?」
「ああ、すまん」
「不調は誰にでもあるし、気にする事じゃないわ」
ローズの優しさが身にしみます……優しくされると余計惚れるわ!
その日は1個のクエストをこなしてからすぐに寝る事にした。
-=Ξ=-=Ξ=-=Ξ=-
翌日も左の首筋が痛む錯覚に襲われる。
一体どうしたというんだ……あれか? トラウマかこれ。
こんな所でコボルトとかに襲われたらどうなるんだ俺は。
足が竦んで殺されましたなんて笑えない。
「ラフィ大丈夫なの!? 昨日ちゃんと寝た? 今の貴方酷い顔色よ」
「あー……大丈夫だ、心配かけてすまんな」
「何言ってるのよ! 何かあったの? 言ってくれないと私何も出来ないのよ……」
彼女に要らぬ心配をかけてるな……自己嫌悪だ。
言ってしまえば楽になるだろうか。
けれども、彼女に負担はなるべくかけたくはない。
今現状でも彼女の表情はとても苦しそうだ。
胸がチクッと痛む。
その日から一日に一回のクエストをこなすのが精一杯だった。
そんな生活が3日程過ぎた頃だろうか。
寝ていても左首筋が痛み続けてまともに寝れなくなってきたのは。
レギンは無事なのかさえ思考から外れる程の痛みだった。
「ったく……なんなんだよこれ……」
俺の顔色は日々血の気を失せていく。
彼女は心配そうに俺の顔を覗きこむが何も言わなくなっていた。
俺はそんな表情を見たいわけじゃないんだけどな。
彼女は普段あまり笑う人ではないが、目元が柔らかくなり微笑む事はあった。
もう、何日見てないだろうか。
自己嫌悪し、憂鬱になり、また自己嫌悪に陥る。
まったく……何年生きてるんだ俺は。
その日もなんとかCランクのクエストを完了して一人自室で寝る事にした。
-=Ξ=-=Ξ=-=Ξ=-
「ぐああああああ!! ッ……ハァ……ハァ……また、あの夢か……」
ここ最近何度も見る夢。
レキの時の獣人たちとの戦いの夢だ。
ブチの死ぬ姿や。
当時のクランメンバーの痛みに喘ぐ声
断末魔。
コボルトのリーダーのにやけた目が浮かび。
目が覚める時はいつも首元を噛まれた瞬間だ。
左首筋に手をやるとヌルッと塗れた感触にギョッとして手のひらを見る。
ただの汗で安堵するが、いまだに首筋は痛いままだ。
「夢って何?」
聞きなれた女の声に心臓が止まるかと思った。
すぐさま声のした方向を見ると、ベッドの脇に彼女が床に座りながらこちらを見ていた。