魅了持ち転生ヒロインは全世界を魅了した
「おお! 私、リリアになってる!」
リリア・ガードナーが前世の記憶を思い出したのは、ガードナー男爵家に引き取られて翌日だった。
「まさか前世でハマった乙女ゲーム、『運命の乙女と共に』のヒロインに転生するなんて!」
鏡の前でリリアは舞い上がっていた。
ピンクブロンドの髪、宝石のような紫の目、可憐な容姿。
「うん、流石ヒロイン。見た目最高じゃん。転生ガチャ成功、みたいな」
リリアは鏡に映る自分の姿に満足していた。
「でも、攻略対象は王太子とこの国の中枢にいる人達。面倒そうだなぁ。目立つと人に見られて思うように行動出来ないよねぇ。ゲームをプレイするのと、実際にこの世界を生きるのは違うし。それに、悪役令嬢ヴィクトリア・ハルトストーンとも対立とかしたら面倒そうだし。私はぐうたらと平和に生きたいんだけどなぁ」
リリアは鏡に向かってポツリと呟く。
リリアは前世からただ楽しいことをして美味しいものを食べて暮らしたい、面倒なことはしたくないと思っていた。
「あ、そうだ。リリアって魅了魔法持ちじゃん。これ使えば楽に生きられるかも。この国のことも軽く知ってるけど、他国から少し舐められ気味だし。でもそれも魅了の力があれば解決するんじゃないかな? 嘘、私天才じゃない!?」
そう思ったリリアはニヤリと笑い、自分以外誰もいない男爵邸の自室の窓を開ける。
「前世で読んだ転生ものの小説は、ヒロインが調子に乗って破滅するけど私は自分だけじゃなくてこの国の為にも魅了魔法を使う。流石私じゃん」
リリアは外に向けて魅了魔法を解き放った。
◇◇◇◇
「やっぱ、私の行動は正解だったね」
男爵邸のベッドでゴロリと寝転がりながら高級なお菓子を食べているリリア。
前世の記憶が戻った日、リリアはこの世界全体に魅了魔法をかけたのだ。
「魅了魔法のお陰で私はぐうたら出来るし、この国は全世界から尊敬される。良いことだらけじゃん」
リリアが世界に向けて魅了魔法をかけた後、他国はリリアがいる国に無償で技術提供をしたり、金銭や貴重な品を貢ぐようになった。
そのお陰で、この国の人間はこの世の春を謳歌するようになった。
他国へ行けば、まるで王様のようにもてはやされ美味しい思いが出来る。
この国の人間は、働かなくても他国からの多大な支援で揺り籠から墓場まで一生安泰になったのだ。
リリアも、その恩恵を受けてぐうたら生活が出来ている。
他国の人間が、この国の人間の世話をしてくれるのだ。
「魅了魔法、最高。私も国全体も贅沢三昧」
リリアは相変わらずベッドに寝転がりながら高級なお菓子を食べている。
その後もリリアはぐうたらして楽しいことだけをする理想の生活を謳歌し、一生を終えるのであった。
◇◇◇◇
「とんでもないことをしてくれましたね、リリアは」
リリアが魅了魔法を全世界にかけ、数十年が経過した。
そして、リリアの死後その魅了魔法は解け、世界は混乱に陥っていた。
すっかり年老いたゲームの悪役令嬢ヴィクトリアが城の窓から外を覗き、ポツリと呟く。
「きっと彼女も転生者だったのでしょう。私を破滅させるかもしれないと警戒して関わらないようにしていましたが……別のことを警戒すべきでしたわ」
ヴィクトリアはため息をついた。
リリアの死後、全世界がかかっていた魅了魔法が解けた。
すると、無条件に金銭や貴重な品、技術をこの国に提供していた他国は今までの状況がおかしいということに気付き始めたのだ。
他国からは「今までの品を返せ」、「何もしない癖に我が国から金銭を不当に盗んだ」などと言われ、リリアが暮らしていた国は世界中から弾圧を受けることになったのだ。
この国の王族や貴族、そして平民は他国からの援助を受けることが当たり前になっておりすっかり怠惰になってしまっていた。
「リリアが私を破滅させる気がないことを知って安心し切っていましたわ。私も夫の国王も、怠惰になってしまった……。この先、この国をどうしていけば良いのかしら」
ヴィクトリアは大きなため息をつくのであった。
自分が、そして国が贅沢出来るように魅了魔法を使ったリリア。しかし、自分が死んだ後、この国や世界がどうなるのかは全然考えていなかったのである。
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