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空虚少年

作者: 夜神 蓮

短編で文脈もめちゃくちゃですが、読んでやってください。

私、夜神 蓮のデビュー作です。

窓から射してくるいつもの光、いつも同じの木々達、いつもと同じ風。

十月に入り、昼は太陽が暖かいが窓から入ってくる風はもう冬を感じさせる冷たさだった。窓という額縁から見える空は俺の心のよいに雲一つない秋空だった。

そう俺の心には何もない。喜び、怒り、悲しみ、楽しみ、つまり喜怒哀楽が無いのだ。だからと言って初めから無かったわけではない。幼少の頃はよく喜怒哀楽を表情に出す子と言われていたが、何時しかその感情も紅茶に溶ける砂糖もようになってしまった。砂糖が完全に溶ける前はあちらこちらに歩き回り色んな物を見て楽しんでいたが、今はベッドの上で静かに本を読んでいる時間の方が多くなった。


 病院の三階の一番奥の病室、ベッドは二つ。そのうちの一つは俺のベッドでもう一つは今は空っぽだ。つい二週間前までそこにはおじさんがいたがその灯が燃え続けることはなく消えてしまった。そのおじさんは最後に俺に“『生は難く死は易して』だから君はその苦しい道を生き延びなきゃだめだよ”と言って消えていった。

だからと言って俺がそんな意味のわからない言葉を心得る訳がない。

死ぬのは簡単だ、この窓から飛び下りれば俺もおじさんと同じルートで輪廻に戻れる。そんな苦しいことをわざわざ耐えて生きるより早く楽になりたい。死に関しては全く怖くない、逆に早く死にたい。生きている事が怖い、この世に存在していることが嫌、生きていても良いことなんて無いし、俺が死んで悲しむ奴なんかもうどこにもいない。

俺は八歳の時に親を亡くしている。

俺の誕生日プレゼントを買いに行く途中、信号待ちをしている俺たちに居眠り運転の車がつっこんできたのだ。二人は俺を守って車につぶされてしまった。俺は血だらけの両親を見て泣き叫びながら周りの人に助けを求めたが、誰も助けてくれずみんな見て見ぬふり。唯一やってくれたのは救急車を呼んでくれたことだけで、救急車が来た時にはもう二人とも冷たくなっていた。そんな二人の手をずっと握りながらこの世の冷たさを心から感じていた。

病院で白い布のかかった二人が台の上に寝ているのを見てもう誰も信じない、もうこの世に誰も見方はいない。全てに関して無関心でいようとその時思った。

しかし、俺が今病院にいるのはその事故のせいではない。俺の病名はあの死亡率の高いので有名な『肺癌』。見つかったのは一年前で、だいぶ進行が進んでいたため治る確率が手術を受けて50%、受けなければこのまま確実に死ぬ。


病室の扉に着けてある鈴の音が病室に響き渡りドアから看護婦さんが顔を出した。


「五常君おはよう。今日は調子良さそう?」


いつも笑顔の看護婦さんが入ってきた。

しかし、看護婦なんか所詮全て偽善だ。そうやって笑顔を振りまくのが仕事なのだから。


「はい、大丈夫です。」


本から目を離さずに感情のこもっていない声、いつもと同じ返事。毎日、同じクリカエシ。こっちは関わりたく無いから冷たい反応をしているのに、よく飽きずに毎日話しかけてくるものだ。そこには少し感心したが、やはりこれも全て立て前だけだ。今日は看護婦さんの手には体温計では無く大きな旅行バックを持っていた。


「今日から五常君の隣のベッドに新しく女の子が入るのよ、仲良くしてね!」


そういって扉の外に手招きをすると、白い肌に腰まで伸びた黒い髪の少女が入ってきた。胸元には銀色のペンダントが窓から入ってくる光で眩しかった。少女は俺より少し低い身長で手足がものすごく細かった。


「留永 光です。中学一年生です、よろしくね。」


光という少女はニコッと一回笑ってお辞儀をした。俺はその姿を横目で少し見て、また本に視線を戻す。


「孔野 五常、君と同じ中一だ。よろしく。」


本から視線を移さずに自己紹介をする。正直めんどくさい。俺は咳を数回して本を読み進める。看護婦さんは部屋の説明をし終わると早々と部屋から出て行った。光は荷物を片付け、少ししたらベッドに入って何やらノートを広げ書き始めた。シャーペンをノートに走らせていたがその動きが数分止まった。


「ねぇ孔野君。」


そう呼ばれて、初めの三回は無視をする。しかし、彼女は少し頬を膨らませてからノートの端を小さく千切り俺の腕に当てた。普通無視されたら諦めて静かかになるのにこいつはその行為を何回も繰り返し、俺のベッドがゴミだらけになってしまった。俺は大きく溜め息をついてから本から視線を移さずに“何?”と返事をする。


「孔野君は――」


「あのさ、その孔野くんってやめてくれない? 五常でいい。」


光の話を遮り、本から視線を移さずにそう言う。俺は孔野って言われるのがあまり好きでない。

そういうと光は俺の方にノートを開き指さし、信じられないことを聞いてきた。


「五常君わり算分かる?」


驚いてゆっくり本から視線を光に移す。つい無関心でいるのも忘れて光を見つめてしまった。

こいつは俺をバカにしているのか?いや、しかしこいつの黒い綺麗な瞳は真剣に俺を見つめている。


「そりゃできるよ。それが何?」


本を足の上に置き光の方を見て言う。割り算なんて小学校で習うんだ、この一年学校に行ってないとはいえ、中学校にもなったらそりゃできて当たり前だ。


「あっ初めて目を見て話してくれた!」


「用がないなら話しかけるな。君と話していても時間の無駄だ。」


俺は足に置いた本を持ちまた本に戻る。あぁこいつのせいでどこまで読んだか分からなくなってしまった。何が目を見ただ、目を見て話すのがなんなのだ・・・

でも、今思えば、確かに誰かとちゃんと目を見て話すのは久しぶりだ。


「あ~ごめんごめん。用ならあるの。この問題が分からないんだけど、教えてくれない?」


俺はまた視線を光に移し一回溜め息をして本に栞を挟み閉じ、光の横に立つ。光の机の前には小学校三年生の教科書が広げてあり、光が指差す問題は単純なわり算。


「お前これ分かんないの・・・」


少し呆れたような声で言う。こいつ俺と同じ中学一年生だろ? わり算できない中学生がいるか? いや、いるとしても、82÷2ぐらい分かるだろ・・・


「五月蝿いな~だって私、学校行ってないんだもん。」


「法律違反だろ。」


っと突っ込んでみるが、言ってよかったのだろうかと言ってから思った。


「行けなかったんです~違う病院にいたから。それに私は君でもお前でも無くて留永 光ていう歴とした名前があるのよ。」


光はそういってベーと舌をだして俺を見る。そういえば誰かの名前を呼ぶなんてあの日以来あまり無かった。まず、看護婦以外で、同年代の人と話すのなんか本当に久しぶりだ。入院する前も女子となんかめったに話さなかったから、少し反応が冷たくなってしまう。


「どうでもいいだろ名前なんて。」


「五常君は孔野って言われたくないんでしょ? なら私も光って呼んでよ。」


光はそう言って俺の顔をのぞき込んでニコッと笑った。看護婦さんと同じ偽善の笑顔なのに、光の笑顔はなぜだかとても心地よかった。


「考えとくよ」


少し熱くなった顔を少し背け、簡単な割り算を光に教える。しかし、こいつ見た目以上に呑み込みが悪い。一問教えるのに十分近くかかった。


「あ~わかった。だからこうなるのね。」


「初めから言ってっ・・・ゴホッ・・・・」


急に噎せて咳が止まらなくなり、光から顔を背けて咳き込む。

これが肺癌の進んでいる印であり、忠告なのだ。咳をする度に忠告と分かっていながらも無視し続けている・・・やっと治まり胸を撫で下ろす。光の方を向きごめんと小さく呟きのように言う。


「五常君大丈夫?」


「いつもの事だから気にしないで。じゃ」


手を振って自分のベッドに戻りどこまで読んだか分からなくなってしまった本を読む。

そんなことを一週間も繰り返していくうちに勉強以外の事を話すようになった。一般に言う仲良くなったというものなのだろうな・・・?




「五常君は学校に好きな子なんかいないの?」


唐突な質問。今どきの女子が好きな恋ばなというやつか。こいつ頭は小学校だがちゃんとした中学生の女子なのだなと少し思った。

最近頻繁にくる忠告が苦しいが光が俺の背中を擦ってくれると少し楽になるような気がした。治まり少し考える。


「う~ん・・・千円。消費税込みだ。」


そう言って俺は手を光に向けて差し出す。光はえ!? と驚いた顔をして俺の手をはらった。


「有料なの! 良いじゃない教えてよ。」


「冗談だよ。っていうかいないし。金だけ取って捏ち上げようと思ってたのに失敗したな。」


俺は手を挙げて首を横に振ると光は“なによ~”と言いながらケラケラ可愛らしく笑った。そんな光につられて俺も笑ってしまった。その時看護婦さんが部屋に入ってきた。


「五常君。ちょっと・・・」


看護婦さんは手招きをして俺を呼ぶ。なんだ? また点滴でも打つのかな・・・でも、点滴の時間にしてはまだ早いような気がするが・・・


「じゃ行ってきます。」


ベッドから立ち上がると共に光にそう言って扉まで歩く。光はいつものように“行ってらっしゃい”と笑顔で手を振って見送ってくれた。



精密検査を受けて先生と話す。右の肺にあったの癌が左の肺に転移したらしい。このままだと命が危ないと・・・。

精密検査で出た肺のレントゲンを見せてもらったが忠告通り、右の肺の腫瘍はだいぶ大きく、広い範囲で浸食していた。この様子だと左の肺もすぐにこうなるのだろう・・・


「だから、早めに手――」


「すみませんが、手術はしません。失礼します。」


そう言って診療室からさっさと出る。

手術を受けても無意味だ。手術なんか受けないで俺は速く死にたい。生きていてもつまらない。先生の話を聞いて少し驚いたが、覚悟はしていたことだから、受け止めることができた。

でも・・・何でか命が危ないと言われたときに少し、少しだけだが光の泣き顔が浮かんだ。光は・・・光は俺が死んだらどう思うだろうか、泣いてくれるだろうか・・・光がどう思うかは知らないが、俺は少し光を残して先に行くのが少し心残りだ。

 そんなことを思いながら速足で廊下を歩く。もうすぐナースステーションに着くという時に、ナースステーションから聞こえた名前は聞き覚えのある名前だった。



――えっ光ちゃん、もう危ないの!?

――えぇ『胃癌』の末期ですって。先生がいうにもう一週間が限界らしいわよ。

――五常君可哀想ね。



ヒカリガゲンカイ? 言葉の意味が分からなかった。

光は・・・光はあんなに元気だったじゃないか。さっきも俺の冗談を聞いて笑っていたし、つい最近入院してきたばっかりじゃないか・・・嘘だ。


そう思った時にはもう体は動いていた。いつもの廊下を必死に走るが、いつもと同じ廊下なのになぜかいつもより長く感じた。ずっとベッドの上にいたせいで足腰が弱くなっておりすぐに息が切れた。走って病室に戻り勢い良く扉を開けるとその音にびっくりした光がこちらを向いて、少し笑いながら首を傾げる。


「どうしたの、そんなに慌てて、なにかあったの?」


俺は光の横にある椅子に座り荒い息を整えて光の目をみる。いつもと同じのキラキラ輝いた綺麗な瞳だ。この綺麗の瞳が死にそうな人の瞳だろうか・・・聞かなきゃ、看護婦さんが言ったことが真実なのか、本当なのか・・・確かめなきゃ・・・


「なぁ、光って・・・」


確かめなきゃ、確かめなきゃいけないのに、言葉がつまった。なんて言えばいいのか分からなかった。“死ぬのか”そう聞けば済む話だが、うなずかれた時どう反応すれば、どうすれば良いかわからない・・・そう考えていると光は少し淋しそうな目をして口を開いた。


「そうか、知っちゃたんだ・・・ごめんね、隠していた訳じゃないの。でも、五常君といるのがあまりにも楽しくてなかなか言えなかったの。」


光はそう言って下を向いて黙ってしまった。やっぱりそうなんだ・・・光も両親みたいに俺の前から居なくなってしまうのだ・・・この世から永遠に・・・光の言葉を聞いて、頭の中が真っ白になった。

しかし、すぐに次の行動が頭の中に浮かび上がった、今までに何度も考えたがなかなか実行できなかったこの世に一回しかできないことが。


「お前も俺を置いていくのか・・・・・・」


「えっ?」


小さくそう呟くと静かに椅子から立ち上がり窓際までゆっくり歩き、病室の窓を開けて窓の外に飛び出ているコンクリートの上に立つ。このまま一歩踏み出せば三階から重力に沿って落ちていく。確実とは言えないが、まぁ死ねるだろう。下に歩く人たちを見下ろしながら震える足を静める。


「ちょっと、なにやってるの! 危ないじゃない!」


光はベッドから立ち上がり窓の近くまで来て俺を止める。しかし、俺はもう決めた。肺癌と診断されてからずっと考えていたが、ここに来るとこうやって足が震えてなかなか一歩を踏み出すことができなかったが今日はいける。


「もう嫌なんだ・・・父さんも母さんも俺を置いて先に逝っちまった、それから俺は皆の邪魔者扱い。お前が二人を殺した、お前さえいなければ・・・何度も言われた。色んな親戚の家をたらい回しにされて、もう俺に帰る場所なんてないんだ! だから手術を受けても帰る場所なんてもうどこにもないんだ、だからずっと断り続けた。それで。光まで消えてしまったら俺はどうすればいいんだ。」


今までたまっていたものを全て吐き出した。なんでこんなこと光に言っているのかわからない。でも、本当は怖かった、一人になるのが怖くてたまらなかった。でも、誰にも言えなかった、弱いところを見せたくなかった、本当は弱いのに一人で強がって自分の本当の気持ちから逃げていただけなのだ。


「五常君、大丈夫だよ。五常君は優しいから、すぐにまた新しい友達や家族が出来るよ。だからそんな死ぬとか言わないで・・・」


今にも泣き出しそうな声で光は小さく呟く。俺が優しい? 今まで自分と他人の間に分厚く高い壁を作って他人を無視してきた俺のどこが優しいというのだ。そんな気安めなんかいらない、気安めなんかより光、お前にずっと・・・ずっと一緒にいて欲しい。それだけでいい、そうすることができるのなら俺は死ぬなんか言わない。死なないでくれよ、光。


「無理だよ。俺なんかいなくても悲しむ奴なんかいないんだ。帰ったってまた一人になる。それが怖いんだ、お前もそうだろ。」


同意を求めるかのごとく少し強い口調で光に問いかける。みんな俺がいたら迷惑なんだ、俺を必要としてくれる人なんかいない、いなくなってしまう・・・光は下を向いて、


「そりゃ私だって一人は怖いし、死ぬのも怖いよ。私ね、親に小さい頃捨てられて施設で過ごしたの。それで、この病気が見つかったの。でも、もう進行がだいぶ進んでいて、手遅れだって・・・あとは死ぬのを待つだけなんて怖いけど、でもそれから逃げちゃ駄目なの。」


光はまるで自分に言い聞かせる用にそう言った。逃げちゃ駄目、でも、逃げたい・・・もうこの世には用はない、死んで楽になりたい。その時、光の鈴のような声は俺の胸に響く。


「輝く未来に・・・」


「はぁ?」


光は下を向いたままそう小さく呟いた。そう言った顔を上げて俺を見るその瞳には小一粒の涙が頬を伝い、目には涙が溜まっていた。


「おまじない。これを言うと未来が光り輝くんだって。未来は誰にも分からない、暗いかもしれない、明るいかもしれない。でもそれでもいいの、それが本当の未来だから。ほんの少しでも、一秒でも長く誰かに覚えていて貰えたら、誰かの記憶の中に生きていられたらそれでいいの。蝋燭が燃えている限り未来はきっと光り輝くから・・・だから自分でその蝋燭を消すなんてしないで。五常君はたくさんたくさん、冗談を言って勉強して、遊んで・・・私も、まだ五常君とたくさんお話したいよ・・・」


光の瞳は涙で溺れている。すぐに折れてしまいそうな手で溢れ出す涙を必死に拭う。そして、光は俺に “頑張ろう”と小さく呟いて細い手を差し伸べて小さく笑った。

――――― 輝く未来に

その言葉を胸に刻み込み光の方へ向き直し、溢れる涙と笑顔を光に見せる。


「ごめん。俺頑張ってみるよ。輝く未来のために。」


そう言って俺は光の手を取り病室に戻って二人で声を殺して泣いた。怖くないんだ、誰かの記憶に残っていればそれでいいんだ。

光、お前は俺の記憶にずっと要るからな。俺はお前をずっと忘れない、俺を変えてくれた唯一の人、大切な友達・・・




次の日、俺は先生のいる診療室を訪れた。ノックをして入ると先生は一瞬驚いた表情をして直ぐにいつもの笑顔に戻って“どうぞ”と椅子を出した。

前までこの偽善の笑顔が嫌でたまらなかったのに、今はもう気にしなくなっていた。俺は椅子に座らずに先生に思いを告げる。


「先生・・・俺、手術受けます。」


昨日あの後、光と話し合って、手術を受けることを決めた。俺は手術を受ければまだ治る段階にいるんだ、だったら意地でも治してやる。そう言ったら先生は驚いた顔をしてから喜んだ顔をした。


「本当かい! 良かった、やっと了解してくれたんだね。でも、今手術を受けて治る確率は45%まで下がっている。それでもいいかい?」


笑顔から急に真剣な顔になって話し出した。俺は静かに頷いて少し笑う。俺はただ未来に行きたいだけだ、光との約束を守るんだ・・・


「いいです。受けます。」


生きたい。それだけが俺の頭に流れた。今まで死にたがっていた俺をこんなに変えてしまった奴、それが光だった。光はすごい力を持っている少女だ。光には敵わない…






「あと一時間」


そう小さく呟く。腕に繋がる管に落ちる液体を見つめ、静かに呼吸を繰り返す。あと一時間で長い手術が始まる。そんな俺の呟きを光はちゃんと聞いていた、光の声は酸素マスクごしで弱々しかったが俺に話しかけてきた。


「怖い・・・?」


「少しね・・・でも、頑張る。」


麻酔のせいかだんだん眠たくなってきた。でも、光と過ごす少しの時間を寝るわけにかいかないから頑張って目を開ける。天井がぼやけてきた・・・麻酔ってこんなに効果あるんだ・・・


「五常君、まだ動ける?」


「うん・・・なんで?」


ぼやける視界を無理矢理はっきりさせて、首を横にして光の方を向く。光は静かにこっちを見て苦しそうに息をしている。そんな光を見るのは少し辛い、でも・・・光は必死に生きている、息をしている、俺に何かを伝えようとしている。それに俺は答えなきゃいけない。


「こっちに来て。」


そう言って細い腕でいつも座る椅子を指差す。俺は麻酔でふらつきながらも立ち上がり椅子に座る。光は俺の顔を見て少し微笑み俺の手を握り、首から下げているネックレスを取り俺の手に握らせる。


「私の代わり。大事にしてね。」


そう言って弱々しい両手で俺の手を握りしめる。光がいつもしていたネックレス。プレートにはshine(シャイン)と書いてある。


「もう五常君は一人じゃないよ。だからもう死ぬなんて言わないでね・・・」


光は悲しい顔をしながらそう呟く。大丈夫、もう俺の心にはおまえがいるから・・・一人じゃない、今まで暗かった分これからの未来はきっと輝くはずだから。


「光は俺がずっと覚えておくから、光は俺の記憶の中にずっといるからな。だから・・・そんな悲しい顔しないでくれ・・・」


そう言いながら涙が止まらなくなった。

細い手にやせた顔、光を失っていく瞳。そんな光を見るのが辛い・・・

でも光は生きている。輝く未来を信じて生きているんだ。光の未来は輝いているのかな? それとも・・・真っ暗の闇なのかな? どうして神様は光の未来をキラキラに飾ってやれなかったんだろ。俺はこれからも光の未来を輝かせたいのに・・・なんで、なんで死んじゃうんだよ・・・


「五常君の・・・泣き虫、そんなん・・・じゃ・・・モテないよ。」


とぎれとぎれの光の言葉、精一杯の笑顔。これもすべて俺の記憶のフィルムに焼き付ける。光の生きていた証拠を俺の胸に。


「五条君・・・約束・・・して。私・・・のこと・・・忘れないで・・ね。」


光はそう言って力のない笑顔で俺に微笑みかけた。

その言葉は俺の心に響いた。溢れ出す涙を止めることができなかった・・・声を出すことでさえできない、光のその姿が初めてあったあの日の姿の光とは別人だった。でも、この瞳はあの日と同じで、希望に満ちて綺麗な瞳だった。

光の手を強く握り何度も頷き、頷くたび目から涙が溢れ出す。離したくない、もう離れたくない・・・部屋に鳴り響く無機質な音がだんだん速くなっていく、手がだんだん冷たくなっていく・・・もう、時間がないのは分かっているのに・・・麻酔で眠たいのに、手を離したくない。

看護婦さんに呼ばれ無理矢理ベッドに入る。光は力ない瞳で俺を見ている。麻酔の効果でだんだん目を開けるのがきつくなってきた・・・

手術が成功するのかわからない、成功しても光があの鈴の音の様な声で“おかえり”っと言ってくれるのかわからない。そう思うと目を閉じるのが怖かった。

最後に横目で見た光は初めて会った時のあのキラキラした綺麗な瞳で俺に手を振って小さく“いってらっしゃい”っと呟いた。


「いってきます」


次第に意識は薄くなり暗い闇に支配された。

暗くなる直前に光の心の声が聞こえた。


『The shining future is believed. Because the future that shines surely waits.』



***



「こんにちは。」


あの手術から約一年。すっかり元気になった俺は今一つの孤児院の前にいる。小さな花束と線香を持って孤児院の玄関で待っていると一人の老人が顔を出す。


「あぁ五常君。今日も光のところ?」


「うん。はい、これおすそ分け。じゃ、また戻ってくるよ。」


そういってまんじゅうを床に置き、玄関を出て裏の小さな墓の前に座る。

花を交え、線香を立てて静かに手を合わせ、墓を見渡す。墓の周りには綺麗なパンジーが咲いていてとても綺麗だ。胸に下げているペンダントを握りしめて光の笑顔を思い出す。

あの綺麗な黒髪、キラキラした綺麗な瞳、鈴のような声、無邪気な笑顔、それに死を間際にしたあの力ない笑顔・・・光は俺の記憶の中でずっと生きている。光はあのときのままずっと俺の心に生きているんだ。だから、安心していいよ。

 今、俺は遠い親戚の家に居候している。親戚関係ではとても血は薄いがとても優しい夫妻のところにお世話になっている。あれから肺癌は完治し、奇跡的にどこにも転移しなかった、再発もしていない。光の言ったとおり今の俺の未来は輝いている。これからもその輝きが続くかは俺自身にも、この世の誰にも分からない。でも、これからのことはその時に考えればいいや、今は今を楽しむべきだよな、光。


「なぁ聞いてくれよ。俺、光のこと馬鹿にできないや・・・今日数学の小テストで割り算間違えちゃった。本当馬鹿だよな。」


そう言って、一人で笑う、その声にダブって光の声も聞こえる気がする。これは空耳なのだろう、きっとパンジーが風で揺れる音がそう聞こえるんだろう。なんだか今とっても楽しい。学校もクラブも家もすべてが光り輝いている。悲しいこともあるけど、悲しくない。なんか矛盾してるな・・・


「よし、孤児院のガキどもと遊んでくるわ。じゃぁな光。またくるよ。」


立ち上がり後ろを向いて歩き出すと少し強めの風が吹いた。



――――Thank you. You are not alone. It will be possible to go in the future that shines surely.



光の声がした。鈴の音の様な綺麗で優しい声が今、風とともに聞こえた。

驚いて風で散ったパンジーの花びらの舞う墓の方を振り返る。今度も空耳だったのだろうか、俯きながら目を閉じて光に問いかける。答えてくれる訳ないか・・・俺は少し微笑み、また一歩未来に踏み出す。

光はお節介だな、そんなこと分かってるよ。俺は信じている、お前の言ったその輝いている未来という存在を・・・

前を向き顔を上げて、子供の声が響くグラウンドへゆっくりと歩いていく。これからが俺の本当の人生、困難なこともたくさんある、でも光となら乗り越えられる気がする・・・




――――――輝く未来を信じてる。きっと輝く未来が待っているから。



――――――ありがとう。あなたは一人じゃない。きっと輝いている未来に行けるから



俺は生きたい。光との約束を果たすために。

一人でも多く、俺を覚えてくれる人が増えることを信じて、未来にいくんだ。あんなに死にたがっていた俺はどこへ行ってしまったのだろうと疑問に思うほどだ。

今は前しか見えない、前しか見たくない。それが結果的に不幸な方向に向かっていたとしてもきっと光は見えてくる。その光に向かって進むと、きっと光り輝く未来が俺たちを待ってくれているから・・・


―――――輝く未来へ・・・



                            Fin.


Thank you very much!

こんな駄作を読んでいただきありがとうございます。

五常君は塾のテスト中に落書きしていたらなんかかっこいいのができたので、「おぉこれなんかいいんじゃない!?」ってなったので書いてみました(^_^)vいや~五常君はなんか好きです!あの、死にたがりなところがv

では、またこんな駄作でよければ読んでください_(._.)_

ではHave a good time 

p.s. 孔野 五常の名前の由来は孔子からとりました!まぁ考えてみてください!

これからも、夜神 蓮をよろしくお願いします<(_ _)>

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― 新着の感想 ―
[良い点] 五常君視点で書かれていて 非常に感情移入のしやすい作品でした! 物語としてもしっかりまとまっていて、とてもいいと思います!所々、英語や言葉遊びが入るのも良かったです! [一言] どうも、大…
[良い点] 拝読しました。 主人公の心のひだを、上手く描けていると思いました。 重いテーマですが、重くなり過ぎないのも上手いなぁ。 切ないの、大好きです。 個人的には、光ちゃん好きですね。 [一言]…
[良い点] ストーリーの流れがいいです。主人公の心の動き、葛藤がストレートに出ています。テーマが生と死を扱ったものですが、暗くなく読むことが出来ました。 [一言] 上手い。主人公の揺れる気持ちを見事に…
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