刺さったまかないスープ
ところが。まかないを求め、厨房に忍び込む日々は続かなかった。
料理長、ルーヴァン・パフに見つかった私は、軟禁された。
線みたいな糸目なのに、見るべきところはちゃんと見ていたのね……!
と、感心してる場合じゃない、絶体絶命!お屋敷の外に放り出されたら……。
ん……?まあ、私のコミュ力と見た目(第一印象)なら、普通に生きてはいけそうな気はするんだけど。ハッ。の前に、お仕置き部屋!?ゴーモン?それだけはゴメンだ……。
数時間ほど経った頃。急に厨房へ来るようにと声がかかった。
追い出されちゃうのかな。それにしては、どうして厨房に?
最後にご飯だけは食べさせてくれるのかな。
ああ~、でもマズいんだよな、と思っていると。
「ナガメさん、貴方は今日から料理人でーす」
と、料理長ルーヴァン直々に、他の料理人も居並ぶ前で、言い渡された。
……う、うん、まあ、メイドとしては私、からっきしダメそうだし。と、秒で受け入れ態勢に入る。
「は、はい、頑張ります!頑張らせてください」
と、噛み気味に返事をしておいた。
とたんに、ニッコリと笑顔になるルーヴァンさん。
「話はもう通しておきましたからね!ああはい、君、渡してあげて。
これが、料理人の制服ですよー」
進み出てきた、ブスーッとした顔の料理人から、制服一式、めっちゃ雑に渡された。
……あら、なかなかいいデザイン。にしても、テンポが速い。
ルーヴァンさんは聞いてもいないのにペラペラとワケを説明した。
「フライパンにできていた、まかないのスープ。
飲みましたよぉ~。いやぁ、美味しかった。私はもう、いたく感動した!
……それで、あれは、ナガメさんが作ったもの、なんだよね?」
糸目をこれでもか?というくらいに見開き、圧強めに確認されて、コクコクとうなずく。
「早速だけどこのスープ、どうやって作りました?!普通は鍋で作らない?あっ、あえてのフライパン?フライパンでしか出せない味?」
次々に質問が飛んできて、思わず言葉に詰まった。
しかも、少しずつ距離を詰めてくる。ルーヴァンさんの、張り詰めた下っ腹がたゆん、と揺れた。
私が答えようとしたところで、しびれが切れたのか、
「はい、じゃあコレに書いて、私に見せに来るように。
……あ、次のスープを作り始める前までに、間に合わせて!」
テーブルに載っている、メモ用紙を示された。これにも、素直にうなづいておく。
正確に言えば、スープは……
「今日のまかない、ダッるーー!新入りだか知らないけど、大丈夫でしょ。アンタやって」
と押し付けてきた先輩の女性料理人に代わり、私が内心かなり喜んで、試作に……と作っていたもの。
あの『臭いだけ♡スープ』を、絶対に回避したい!一心で、ひたすら自分のために。
屋敷の庭や厨房じゅう探し回り、恐る恐る味見をして確認。
フトコロに忍ばせておいた『香辛料』を、深めの大きなフライパンに何種類か入れ、コトコトと煮込んだ……だけなんだけど。
まあまあの出来と思っていたら、これほど刺さるなんて。今日って、いい日かも。
現実世界では、ワンパン料理に慣れていたけど、これからは、お鍋も使ってみよう。効率よさげだし。
ただ、私が料理長から直々に料理人に抜擢されたことで、面白くない!と思ったのだろう。どよめきの声には並々ならない悪意を感じた。
料理人らの中には、眉間に5本くらいタテじわをたてている者。呪文かな?ってくらい、ブツブツ言っている者もいた。
料理長ルーヴァンにうながされて、すぐに持ち場へ戻っていったけれど。
私にスープを押し付け……いや、任せてくれた先輩の料理人、赤髪のアイリーという女性だけが、肩を叩いてきて
「アンタのスープ、……まあまあの味だった」
と小声で言ってくれ、嬉しかった。
彼女が料理長に報告してくれたみたい。いいところあるなあ。
ただ、そのあと少しの間、アイリーと雑談でき、食材のお肉について知ったことで衝撃が走った。
あの肉は、何と『魔物』のものだそうだ。
壁を指さすので、見ると小さな恐竜みたいな骨が飾ってある。
牙のある骨も、イノシシに似てはいるけどデカすぎる。
オブジェかと思っていたのに、ホンモノだった。
「魔物の討伐に成功すると、届けられるんだ。
ただ、普段はそうそうとれないから、乾燥させたものが多い。新鮮な肉は、貴重なんだ。
……何、今まで知らなかった?別の世界にいたとか?……まさかね」
とアイリーは笑うが、私の耳には届かなかった。
______________
その夜、ろうそくの明かりを頼りにスープのレシピを書き起こしながら、私はほんの少しワクワクしていた。
これで、このお屋敷にとどまれる。
何かの形で、主に恩返しできる日も遠くないかもしれない。
……まあ、カイ・パンデゥールという名前を知らされただけで、顔も見たことないんだけど。
カイさまって呼ぼっと。(パンデゥールって、すごく言いにくいし)それだけ、心に決めた。
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