第1章 出会いと始まり
大阪の蒸し暑い夏の夜、陽介はいつもの居酒屋で仲間と仕事の愚痴をこぼしていた。27歳の彼は、中堅の飲食チェーンで働きながらも、給料は安く残業も多く、いつも疲れていた。だが、その日だけは少し違った。彼のスマホに東京の真理子からメッセージが届いたのだ。
「今日、無事にプレゼン終わったよ。陽介くんも頑張ってね!」
真理子は広告代理店で営業として働く26歳。東京の忙しい毎日に追われながらも、彼女は陽介とのやり取りを楽しみにしていた。ふたりは大学のサークルで知り合い、社会人になってからも遠距離で付き合い始めたばかりだった。
「遠く離れていても、こうして話せるだけで救われるな」
陽介は呟き、スマホの画面を見つめる。大阪と東京、約500キロの距離。会いたい気持ちは募るが、現実はなかなか厳しかった。
それでも、二人の心は繋がっていた。遠距離恋愛の始まりは、寂しさの中に小さな希望を灯すように、静かに、でも確かに動き出していた。
陽介は居酒屋の喧騒の中、スマホの画面を何度も見返した。真理子のメッセージには、いつも彼女の忙しさがにじんでいた。広告代理店の仕事は激務だと聞いていたし、夜遅くまで残業する日も多いらしい。だが、そんな中でも彼は、彼女が自分を気遣ってくれる言葉に救われていた。
「俺も、もっと頑張らなあかんな…」
そう思いながらも、現実は給料が低く、休日出勤が増える一方だった。大阪と東京の距離だけでなく、時間とお金の壁も二人の間に立ちはだかっていた。
「次に会えるのはいつになるやろう…」
陽介はため息をつき、グラスを傾けた。
一方、東京の真理子もまた、仕事帰りの地下鉄の車内でスマホを握りしめていた。陽介から届いた短い返信に心がほっと温かくなる。
「お互い忙しいけど、必ずまた会えるよね」
心の中で何度も繰り返した。
遠距離の寂しさはいつも二人を試すように襲った。けれど、たとえ今は会えなくても、支え合う気持ちだけは決して途切れなかった。