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第五章「恋と秘密と、お泊まりの夜」

六月――梅雨の気配が忍び寄る中、咲良と琴葉の距離はさらに深まっていた。

放課後の図書室、廊下の窓辺、静かな中庭。ふたりだけの“秘密の場所”が、日常の中に増えていくたび、鼓動の速度も比例するように早くなった。

そんなある日、咲良の家で「お泊まり会」をすることになったのは、ごく自然な流れだった。

「えっ、咲良先輩の家……!」

琴葉は、嬉しさと緊張が入り混じったような表情で、何度もカレンダーを見つめた。

「大丈夫? うち、そんなに広くないし……」

「ぜ、全然! わたし、咲良先輩のおうち、すごく興味ありますっ!」

琴葉は、リュックにお気に入りのパジャマと、ちょっとだけ背伸びした下着を買ってきた。


金曜の夕暮れ。雨の予報も外れた穏やかな空の下、咲良の家にやってきた琴葉は、緊張でドアベルを鳴らす手が震えた。

「いらっしゃい、琴葉ちゃん。よく来てくれたね」

私服姿の咲良は、制服とはまた違った大人っぽい雰囲気を醸していた。

「わ、わぁ……咲良先輩、私服だと、すごく綺麗で……なんか、ドキドキします」

「ふふ、ありがとう。琴葉ちゃんも、かわいいよ。リボン、似合ってる」

照れくさそうに目を伏せた琴葉は、すでに真っ赤な頬でいっぱいだった。


夕飯をふたりで作り、食後はお気に入りの映画を並んで見た。

同じクッションにもたれて、画面の向こうのラブストーリーよりも、近くにいる“先輩”の気配ばかりが気になる。

「ねぇ……琴葉ちゃん」

咲良がふと、囁くように言った。

「今夜、私の隣で寝てくれる?」

琴葉は、一瞬ぽかんとして、すぐに赤面した。

「え、えええっ!? そ、そんな、いいんですか!? わ、わたし、寝相悪いかもですし……」

「ふふ、大丈夫。私も寝相悪いって言われたことあるし……」

――そのときの咲良の声は、なぜか少し震えていた。


夜が深まり、同じベッドに並んで眠るふたり。

最初は少し距離があったのに、気づけばお互いの体温を求めるように、そっと近づいていた。

「咲良先輩……」

「なぁに?」

「手、つないでいいですか……?」

「うん。……嬉しい」

指先が触れ、絡まり、心音が重なっていく。

「……咲良先輩のこと、もっと知りたいです。学校では、なんだか遠くて、きれいで、みんなの憧れで……。でも、わたしのそばでは、もっと柔らかい表情を見せてくれるから……」

咲良は琴葉の言葉を聞きながら、そっとその額にキスを落とした。

「私もね……琴葉ちゃんと一緒にいると、安心するの。いつも誰かの“先輩”として頑張ってきたけど、琴葉ちゃんには、ただの“咲良”でいられる」

その夜、ふたりは眠るまで何度も手を握りしめ、濃密なキスを重ねた。

深夜の静寂に、ふたりの吐息と、微かな「好き」のささやきが混ざっていった――。



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