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第二章「春、出会いと秘密の芽吹き」

──春の風が校舎の窓を撫でる。

舞い散る桜の花びらが、まるで世界に魔法をかけるように、柔らかな光の中で揺れていた。

名門・私立聖シュメール女学園。伝統と気品が薫るこの学園に、今年も新入生たちが胸を高鳴らせて門をくぐる。

その中に、一人の少女がいた。

神埼琴葉かんざき ことは──一年生。

黒髪を肩に揺らしながら、小柄な体で制服を着こなすその姿は、まるで迷い込んだ小動物のようだった。大人しくて控えめ、でも芯のある目。母親のすすめでこの学園に入学したが、不安ばかりが先立っていた。

──知り合いは誰もいない。話しかける勇気もない。大きな校舎の中で、彼女は自分の居場所を探していた。

そんなとき──彼女の運命を変える人物と出会う。

有栖川咲良ありすがわ さくら──二年生。

長い栗色の髪を後ろで緩く束ね、凛とした美貌に清楚な微笑みを浮かべる。スタイルもよく、学園内でも有名な生徒で、成績優秀・運動神経抜群・誰にでも優しい完璧な先輩──と噂されていた。

咲良は琴葉を見つけると、迷わず声をかけた。

「ねえ、大丈夫? 道に迷っちゃった?」

──それは、春の魔法がかけた奇跡の始まりだった。

咲良の柔らかな声に、琴葉は思わず頷いた。人見知りの琴葉にとって、初対面で声をかけてくれる存在はまぶしかった。

「一緒に行こっか。教室まで、案内してあげる」

それからの日々。

咲良は何かと琴葉に気を配った。登校時に廊下で手を振ってくれたり、偶然を装って食堂で隣に座ってくれたり──琴葉にとって、それはひとつひとつが胸を焦がす出来事だった。

──でも、咲良は優しいから。誰にでもそうしてるんだ。

自分にだけ向けられている感情ではないと、わかっていた。

でも、それでも──心が浮き立つのを止められなかった。



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