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最終章「そして、春がふたりを運ぶ」

三月。卒業式の日。


講堂の壇上から咲良が見下ろした光景には、琴葉の姿があった。

下級生代表として見送る立場ながら、琴葉の頬は真っ赤だった。


咲良の胸元には、卒業証書とともに、**琴葉に渡すための小さな封筒**が忍ばせてあった。


「……先輩、もう行っちゃうんですね」


教室の片隅で、琴葉は寂しげに言った。


「うん。でも、これはさよならじゃない」


咲良は封筒を差し出す。


「春になったら、また会える。これ……入学祝いと、もう一つ。わたしからの手紙」


琴葉はゆっくり受け取った。

ふたりだけの空間に、思い出が静かに降り積もっていく。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

次の四月、桜が咲き誇る東京の街。


咲良は大学のキャンパスで、誰かを待っていた。


「……先輩!」


息を切らして駆けてくるのは、春色のスカートをひるがえす琴葉。

彼女の瞳には、希望と、愛しさと――少しの涙。


「合格、おめでとう」


「ありがとうございます……やっと、会えました

先輩がくれた愛の言葉がいっぱいの手紙が私に勇気をくれました

「……これからも、ずっと一緒にいてくれますか?」


「もちろん。恋人として、パートナーとして、ずっと――」



小さな電気の明かりだけが、部屋の片隅で灯っていた。

ベッドのシーツの上で、ふたりは向かい合って座っている。


先輩の指が、琴葉の頬に触れた。

その指先はすこし震えていて、でも、とても優しかった。


「ねえ……ほんとに、いいの?」


小さく頷く琴葉。その瞳は真剣で、揺らいでいない。


「うん。先輩と、全部でつながりたいって……ずっと、思ってたから」


その言葉に、先輩はそっと目を伏せ、琴葉の唇に自分の唇を重ねた。


それは、はじめはやさしいキスだった。

触れるか触れないかの、確かめ合うようなキス。


でも、想いが重なるほどに、唇の熱が深まっていく。


琴葉の背中に、そっと手がまわされる。

お互いの鼓動が肌越しに伝わって、息を吸うたびに熱が募る。


指先が、肩をなぞる。

シャツの隙間から滑り込んだ手が、じんわりと熱を残していく。


(怖くない……先輩の手が、こんなにあたたかい)


先輩の呼吸が、琴葉の首筋にかかる。

そのたびに、くすぐったくて、少しだけ心が震える。


目が合う。言葉はいらない。


ふたりはそっと身体を寄せ合って、静かに、静かに、夜の中へ沈んでいった。


時折、誰かの名を囁くような声がこぼれる。

触れ合うたびに、心の距離が少しずつほどけていく。


指と指が絡まり、髪を撫でるたびに、

「好き」という想いが何度も繰り返されるように、唇と唇が重なる。


まるで、壊れ物にふれるみたいに。

まるで、夢をなぞるみたいに。

ふたりは、お互いのすべてを、優しく優しく受け入れていった。


夜が静かに更けていくなかで、

ふたりの間には、何の言葉もなくても、愛してるが確かに通じていた。


そして――静寂のなかで、

琴葉は心の中で、何度も何度も、こう呟いていた。


(先輩、大好き。先輩のすべてを、ずっと…感じていたい)


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