第十四章「ふたりの未来、選び取る勇気」
学園祭が終わり、季節は秋から冬へ。
枯れ葉の舞う通学路、吐く息が白くなり始めると、咲良の心にもある種の「締切」が近づいていた。
進路決定。
三年生にとっては、人生の岐路。
だけど咲良にとっては、それ以上に――琴葉との未来を選ぶ決意の時でもあった。
「先輩、東京の美大に行くって、ほんとですか?」
昼休み。琴葉は屋上で咲良を問い詰めるように見つめていた。
咲良は戸惑いを浮かべながらも、真っ直ぐ答えた。
「うん。……行こうと思ってる」
「じゃあ……遠距離になるんですか?」
「そうなるかもしれない。でも、わたし……将来、絵本作家になりたいの。
その夢、琴葉と出会って、やっと自分に素直になれたから……諦めたくない」
琴葉は、俯きかけた顔をあげて――
「だったら、わたしも追いかけます。……東京の大学、受験します」
「えっ……!」
「先輩がいる街に行きたい。だから、ちゃんと勉強します。合格して、そっちでまた隣にいられるように」
咲良の目に、涙が浮かんだ。
「……ありがとう。わたし、ずっと待ってるから」
「待たせません。先輩のそば、取り戻します」
手を重ねたふたりは、その手を強く握ったまま、しばらく何も言わずに空を見上げた。
冬の風が冷たいはずなのに、不思議とあたたかかった。
咲良の美大進学の話は、すぐに学年内に広まり、注目の的に。
さらには「ふたりは付き合ってる」ことも、もう隠すことなく自然と受け入れられていた。
一部の生徒たちは最初こそ戸惑ったが、琴葉の真面目な人柄と、咲良の変わらぬ魅力により、やがて「咲良&琴葉」は学校内でも公認のカップルになっていった。
そんな中、咲良は卒業制作として「ふたりで紡ぐ絵本」の執筆と挿絵に挑戦していた。
モデルはもちろん――琴葉。
離れる時間が近づいても
冬休み。ふたりで出かけた公園のベンチ。
「……あと、二ヶ月で卒業なんですね」
「早かったな、あっという間だった」
「でも、濃かったです。毎日が」
咲良は、琴葉の頬にそっと触れた。
「卒業しても、ちゃんと“恋人”でいようね」
「もちろんです。……むしろ、そこからが本番」
ふたりはそっと唇を重ねた。
寒空の下、まるで春のような温もりを、唇の端で確かめるように。